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ゴースト・ウィンド:特異超常現象捜査課  作者: さだはる
シーズン2(旧)

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EPISODE 81「Asmodeus(色欲の悪魔)」

人間の持つ、三大欲求「食欲」「睡眠欲」「性欲」。

そのどれもが掛け替えのないものであり、人それぞれで優先順位が違う。


そして優先しすぎた結果がこの世界では化物となる。


町中で事件は起きた。

とある喫茶店の前まで龍我が吹き飛んできて壁を貫通した。


脚だけを乗り出した状態で倒れ、飛ばしたと思われる犯人は山羊のような角を生やした妖艶な女だった。



          ー遡ること15分前ー



龍我は番号付きの妖の所在を求めて町を探索していた。


「まったく、情報が少なすぎて何も分からない…どんな人だったかなぁ…うーん…。」


財団HANDにいた頃の微かな記憶からNo.19の容姿を思い出そうと目をつぶって頭に力を入れる。


最初に黒い影がシルエットを作り、やがて像が結ばれる。

形が定まった、身長180センチ後半の大男だ。


「思い出した!ってなんで今まで忘れてたんだオレたち…!」


店を開業したという情報は、真白から聞いたものであり、本人がここにいない以上、捜索するのは難しい。



路地裏を素通りした時、彼は不審な気配を感じた。

思わず二度見をしたが、不審な気配は消えていたが、同時に町の人たちも消えていた。


「誰だ、ずっとそこにいるんだろ?」


龍我の呼びかけに応えるように、路地裏からガシャガシャと音を立てて大量の人形が溢れ出た。


「なんなんだこいつらは!」


しかも一瞬しか見ていなかったが、目の前の人形が着ている服は、先程No.19の手がかりを聞いた一般人と同じだった。


「あーら、こんなにたくさん…すごいわねぇ♡」


「!?」


人形で溢れかえる中、建物の屋上に全身から色気が溢れ出ている女が龍我を見下ろしていた。

その刺激的な格好に思わず龍我も顔を赤くするが、すぐに頬を叩いて正気を取り戻した。


「集中力切れる格好しやがって…で、あんた誰だ!」


「私?私は『色欲ラスト』…。」


「お前もか…なんで一日で大罪二人に会わなくちゃならねぇんだよ!」


「あなたの噂は私たちのボスから聞いてるわ。戦うのが大好きだって…だからお土産持ってきて上げたわ♡、殺せ、人形たち!」


『色欲』の指示で口をカタカタと鳴らしていた人形たちが一斉に龍我の方を向いてゾンビのように襲いかかる。


「来いよ人形ども!」


龍我は自分にスイッチを入れて戦闘モードへと入った。得意の中国拳法を用いて人形たちを倒していくが、琥珀同様、龍我も気づいた。


殴った箇所から人形は人間のような血液をまき散らして、痙攣しながら倒れていた。


「こいつらまさか、人間か…!」


「酷いわねぇ、守るはずの人間を傷つけるなんて…イケナイ子♡」


『色欲』はすでに龍我の側まで近づいており、耳元で煽るように囁く。


「ねぇー、あなた男の子だけどとっても可愛いから私の所に来ない?良いことしてあげるわよぉ♡」


彼女はこれまでその美貌を使って数多の男を誘惑し、欲しいものは全て手に入れてきた。そして龍我もそれに引っ掛かるはずだろうと思っていた。


「一緒に行きましょ…ぶっ!ぐはっ!」


龍我は『色欲』の鼻を裏拳で殴ってさらに顔面を蹴って彼女を吹っ飛ばした。


「ごめんねお姉さん。生憎、オレはエロい女なんぞに一ミリも惹かれないんだ…オレが惹かれるのは強い奴だけだ…!」


「よくもやってくれたわねこのガキぃ!!」


『色欲』の身体から紫色のオーラが立ち昇り、一気に場の空気が重苦しくなった。

『怠惰』も『暴食』も強力な妖力を持つ妖。龍我一人の身で受け止めるには過酷だった。


「これだよこれ…やっぱ強い奴の方が断然燃える!!」


強力な妖力を身に染みて動けなくなろうが、龍我は脚に力を入れてアスファルトにヒビが入るほどの力で立ち続ける。

脚が震えないように全身に青色の妖力を纏って、唇を歯で噛み締めて血を流しながら圧に耐える。


『色欲』は怒りの妖力を吐き捨てて、再び人形たちを差し向ける。


先程よりも人形は俊敏で正確な動きで龍我に襲いかかる。


「あなたに人間が殺せるかしら!殺したら私と同じね、オーホッホッホ!」


龍我は暴れる人形の腕を掴んで、人形の眉間に拳を合わせる。


「ごめんなさい…オレを許さないでくれ…!」


そして寸拳と言われる、わずか数センチの至近距離から拳を撃ち込む技術で、元人間だった人形の眉間を撃ち抜いた。


人形が倒れ、『色欲』が見た龍我の顔は涙を流し、怒りと悲しみが混じった鬼の形相だった。


「きゃー、この子人を殺したわー!人殺しよー♡」


「命はお前の玩具おもちゃじゃねぇぞ…!!(ごめんなさい…せめてあの世で安らかに!)」


龍我は「“龍飛翔”」を発動させて巨大な水龍の頭となり、人形を巻き込みながら一直線に突き進んだ。

そして『色欲』にたどり着くと思った矢先、彼女は右手に海賊が持つようなサーベルを握って、龍我へと投げつける。


それを軽々と平手で弾いて、『色欲』に殴りかかろうとするも、腕を掴まれてしまった。


「あなた如きの雑魚が私に一撃当てられると思ったの?!バカバカしい…。」


「じゃあさっき入った二発は何だよ。穿て!」


龍我はすでに『青龍』を“武装”し、右腕に潜んでいたミニ龍が『色欲』の顔面を殴った。

そして殴ったミニ龍は大喜びしていたのであった。


「…!なんでいつも顔狙うのよ!?」


「無理矢理エロい声出してんのがムカつくんだよ、集中力切れるんだって!」


すると再び『色欲』の身体から紫色のオーラが出現、龍我もまた警戒して身構えるが、今度は違った。


「『魔山羊アスモデウス』…“武装”!!」


背後には山羊型の亜人の幻影が出現し、『色欲』を包みこんだ。

巨大な手のカーテンから現れたのは、より輝く桃色の長髪、頭部に生えた山羊の角、そして黒く染まった瞳に赤く光る瞳孔を持ち合わせていた。


「どう?綺麗でしょこの姿…家で定期的に変身してるのよ♡そして、この姿になれば私の術式が使えるの…。」



          「“色欲ルクスリア誘惑・テンプテーション”」



そう呟くと、右腕のミニ龍の額に矢印が刻まれた。


『ミ?!』

「何だよこれ…。」


「さぁ、おいで…小さな命♡」


すると、ミニ龍の体は『色欲』の方へと引っ張られていく。

それに釣られて龍我の体も同時に引っ張られてしまう。


『ミィィィーー!!(泣)』


「お前たち支えろ!!」


『ミー!!』


龍我は右腕を掴んで残りのミニ龍たちも右腕を噛んで食い止めようとする。


しかし、その努力も虚しく、龍我の体は『色欲』の元へと吸い寄せられ、サーベルで胸を切られてしまった。

そして、そのまま首を捕まれ、宙づり状態にされてしまう。


「これが私の超能力…触れることでその対象に矢印を貼り付けることができるの。矢印の向きは私が決めるわ。」


「オレが近づいた時に触れたのか…!」


「で、今のあなたにも触れたから矢印が出来るわよ。」


龍我の腹についた矢印は「下」を示していた。

首から手を離すと龍我の体は地面に勢い良くめり込み、立ち上がることは困難だ。

ミニ龍たちもその重さに苦痛の鳴き声を上げ、水で出来た体が徐々に水玉となって散っていく。


「矢印で定めた方向に強制的に重力を付与するのよ…上にも右にも斜めにもね。」


「なるほど…『猫又』と似たような能力なわけだ…!」


「じゃあ次は起き上がって、チョキチョキしましょう♡」


龍我の背中に「上」向きの矢印を貼って無理矢理起き上がらせて、軽く突き飛ばしただけで吹き飛んでしまった。


まるで人形遊びだ。矢印を貼られれば抵抗することは出来ない。

なんとかミニ龍たちがクッションになって重傷は避けたが、矢印の猛攻は止まらない。

『色欲』は自分の靴の裏に矢印を貼って、龍我の方へと一直線に進んでいく。


「そう来たか…来るならば迎え撃つのみ!!」


サーベルを構えて龍我に切りつけようとするが、龍我は『色欲』の脇腹に蹴りを入れようとした。

しかし、脚が脇腹に入ろうとした瞬間に脚が弾かれた。


「何っ!?」


「はいっ!」


サーベルを切り上げて龍我の肩を切り裂いた。さらに蹴り飛ばして地面に倒れる。


「どういうことだ…なっ!」


『色欲』の脇腹を見ると、脇腹にも矢印が貼られていた。

どの角度も持ち合わせている八方向型の矢印だ。

龍我は一つの仮説に至った。


「そうか、こいつは重力と言っていたが…実際は“磁力”に近い力か!同じ矢印同士は反発する…八方向の矢印を張ることで全ての方角を弾いたのか!」


「飛んできなさい!!」


腹と背中に上向きの矢印が貼られたことで、空高く飛び上がり、空中で上向きの矢印が下向きに変わって、地面に落下することとなる。


そして冒頭へと繫がる。

喫茶店のレンガの壁を破壊してしまい、意識を取り戻した龍我は矢印の刻まれた特殊防護服を脱ぎ捨て、上半身裸の状態になった。


背中には大きく「6」という数字が刻まれており、反撃のためにより一層妖力を放出する。


すると、この二人の激闘に割って入る者が一人。

紙の買い物袋を両手に抱えた大男が現れた。


「あら~今日は朝から何かと騒がしいわねぇ…ん!私のお店がぁぁ!!」


龍我と『色欲』は女性口調の大男の声でその存在に気づいた。

龍我は頭から血を流し、虚ろな目で大男の顔を見た。

その瞬間に安堵したのか、前に倒れ込んでしまう。


しかし、大男は一瞬で移動し倒れ込む龍我を地面に激突する寸前で助けた。


「あなた…その背中の数字、龍我くん!」


「壁に頭ぶつけてやっと思い出した…あんたは“金剛寺”さん!」


「…もぉ〜“金剛寺さん”じゃなくて、今は“ローズちゃん”でしょ〜!!…で、私のお店をあなたを使って壊したのは…あの子でいいのよね。」


「だったら何?あなたも妖のようねぇ、そいつが無理だったんだからあなたにも私を止めるのは無理y…!」


情熱の薔薇のような赤いオーラがマグマのように吹き出していた。


「ぶっ飛ばされる覚悟は出来てるわよね?お嬢さん…。」



       EPISODE 81「Asmodeus(色欲の悪魔)」完

           次回 第82話

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