EPISODE 80「Мelt into one, and disappear.(一つとなりて、露と消える。)」
真白の付き人である少女・小雪は謎の男二人に連れ去られてしまった。
真白は琥珀と共に廃工場まで追いかけ、そこで脇腹に「18」と刻まれた男に小雪は捕まった。
男は指先をナイフに変えて、真白の忠告を無視して彼女の顔に傷をつけた。
そして真白は突如別人に豹変して、口調も顔も荒々しく変化した。
琥珀は危険な方法で小雪を救おうとする真白に琥珀は注意するが、乱暴な言葉でかき消されてしまう。
さらには自分のことを式神『白虎』と名乗り、「“激情態”」へと変化してしまった。
『全部凍りやがれ…小雪だけが無事ならそれでいいんだ…全部死ねよ、全部!!』
黒いモヤが全身を包んで白銀の猛虎を模した亜人が現れた。
両手の爪は鋭く、常に冷気を纏っている。
そして身体からも強烈な冷気を放って周囲を凍てつかせる。
「やっとやる気になってくれたみたいで嬉しいぜ!!行けお前ら!!」
男は背中から二本の刀を生やして飛ばし、小雪を誘拐した男二人の手に渡った。
そして二人同時に琥珀に襲いかかる。
琥珀は瞬時に腰からクナイを抜いて刀を受け止め、空いた片手の拳で男が被っていた帽子を弾いた。
素顔が見えると、彼女は驚愕した。
目は生気がなくて丸く、口元には二本の線が引かれており、肌は木製の人形のようにつやつやとしていた。
「こいつ、人形よ!だから動く時に関節から音がなっていたのね!」
ただの傀儡ならば容赦はなし。
琥珀はクナイで刀を弾いてから刀を持っていた木製の腕を切り落とした。
「やった!壊れた!」
しかし喜んだのも束の間、すぐに琥珀の表情は恐怖と驚きに覆われた。
人形の腕の切り口から血がダラダラと溢れていたのだ。
オイルのような液体ではなく、しっかりと人間の体液から出る赤い血液だった。
痛みを感じているのか、口はガタガタと音を立てて倒れて痙攣し始めた。
「ちょっとアンタ…これ、人形じゃないわね!!」
「人形だよ、れっきとした…人間を改造したらしいけどな。俺はそいつらの作成者じゃあねぇ。」
「じゃあもう一人も!」
『俺の邪魔すんな人形野郎!』
「“激情態”」と化した『白虎』が冷気を宿した爪で残りの人形の胸を切りつけた。
案の定胸からも出血をしたが、「“絶対零度”」の極低温の冷気によって傷口さえも凍結し、飛び散った血液が凝固して身体から飛び出しているように見える。
『そして次は武器野郎、今度はてめぇを殺す!!』
「やってみろよ、人形はこいつらだけじゃあねぇぞ!?」
独自に決めたコードネームは『弁慶』。
この男の合図によって廃工場に隠れていた数十体の改造された元人間の人形たちが飛び出してきた。
「ほらお前ら、武器を取って戦え!」
またもや全身から刀を生み出して人形たちに分け与える。
その時、小雪が目を覚ました。
「!?誰ですかあなた!離して!」
「暴れんなガキ、殺すぞ!」
再び指先をコンバットナイフに変えて小雪を脅す。それを見た『白虎』は怒り心頭。飛び掛かろうとした。
「おっと、それ以上動くなよ…お前の可愛い可愛いガキがナイフでザクリ!だぜ?」
『関係ねぇよ…そいつを離せぇぇぇ!!』
(だめだ!雪ちゃんをこれ以上傷つけさせてたまるか、僕から消えろ!!)
『ふざけんな、お前が望んだ“俺”だ!だからあいつらからも離れた、全ての情報を絶った、お前は人間を殺した…もう妖狩ではいられない!』
真白の自らに架した罪…それは小雪の両親を殺したことだった。
3年前、ミッションのために北海道を訪れた真白は両親から虐待を受けていた当時14歳の小雪を発見した。
外であるにもかかわらず己の鬱憤を晴らすために一方的に殴り、蹴っていた。
周りの大人たちは見て見ぬふり。
小雪の先祖がアイヌと繋がりがあるからというくだらない理由でその血を引くはずの母親も虐待に加担していた。
何故か真白には放っておけなかった。父親の肩を掴んだ瞬間に嫌な気配を感じた。
そこからははっきりと覚えていない、ただ肌で感じていたのは、嫌な気に当てられたこと。
自分の手が血濡れていることに気づいた。
辺りには自分でも指先が痛くなるほどの冷気が漂っていた。
小雪には一部始終を見られたが、怖がることはなく、ただ彼の服の袖を掴んで感謝の言葉を呟いて泣くばかり。
真白は彼女を抱きしめた。
椿医師との診断を終えてから、彼は一度も特異課に戻らなかった。
全ての情報を絶って、小雪と共に今に至るまで北海道で暮らしている。
『お前は弱虫だ、妖の誰にでも宿る俺たちにビクついて逃げ隠れていただけなんだよ!現実から目を背けて小雪という理想に逃げていただけだ。』
(僕は…!)
そして爪を研いだ猛虎は数十体の人形たちを冷気だけで吹き飛ばして小雪を掴んでいる『弁慶』の元へと走る。
だが、途中で『白虎』の体が止まった。
下を見ると、胴体に紫色の茨が巻き付いていた。
「待ちなさいよ、アンタ好き勝手に暴れすぎ…!真白出てきなさい、『白虎』に負けてどうすんのよ。
勝手に一人で抱え込んで、何も言わずにどっか行って…なんでアタシたちを頼らなかったの、家族でしょ!?
勝手に逃げんな馬鹿ぁ!!」
(!?)
琥珀の言葉は体に巻き付いた茨を通して直接流れ込んできた。
『邪魔すんなよ、メスガキがぁぁ!!』
『白虎』は重力を付与する茨さえも凍結させて破壊。再び小雪の元へと爪を伸ばす。
(やめろ『白虎』!僕が助けるんだ、だから引っ込めぇぇ!)
『うるせぇ、一人のお前に何ができる…家族からも逃げたお前に何がぁぁぁ!』
「いいぞ、刺せ、殺せぇ!」
「真白さん…。」
小雪の声はもう届かない。暴れ狂う『白虎』は人形たちを蹴散らしながら爪を彼女の顔に突き立てる。
もう諦めた時、小雪は自身の身に何も起きていないことに気づき、ゆっくりと目を開けた。
すると、視界に飛び込んできたのは、冷気を纏った爪の先。
『白虎』の爪は眼前で止まっていた。しかし茨は巻き付いていない。
「させない!絶対!雪ちゃんは…僕が守る、引っ込んでろぉぉ!」
『馬鹿な、一人で何も出来ないお前なんかに…お前じゃこいつは守れない!俺が守るんだぁぁぁ!!』
「僕はもう、一人じゃない!!うおぉぉぉぉ!!!」
『白虎』の装甲にヒビが入り、一気に砕けた。
そして、爪型の痣を両頬に刻み、両手に白銀の爪を武装した真白が現れた。
「琥珀ちゃんに言われて初めて気づいた僕はどれだけバカなのだろう…僕は一人じゃない…!!」
「ちっ、式神が人間に押し負けるとは…!」
「その鉄臭い指を離しやがれ、クソ野郎…!」
温厚ではあるが、どこか『白虎』の荒々しいセリフも混じっているような感じがあった。
冷気を帯びた爪を立てて、『弁慶』の顔面に突きの一撃を浴びせる。
『弁慶』がうまく吹っ飛んだ所で小雪をキャッチ。見事救出に成功した。
「真白さん、式神は…?」
「まだ僕の中さ。でも武装中は完全に僕と一つになった!」
「ざけんじゃねぇぞ!俺は式神のお前が欲しかったのにぃぃ!!」
『弁慶』の術式「“武器人間”」は文字通り全身を武器に変形できる能力であり、指先などの細かい変形も可能。
そして右手を斧、左手を刀に変えた『弁慶』は覚醒した真白に襲いかかる。
だが冷気を帯びた爪の前では生身で創った武器など無力。
刀の刃を爪で受け止め、左手の爪で胴体に超高速の斬撃を刻む。
鮮血が吹き出したと同時に瞬く間に凍結してしまった。まるで凍った噴水のようだ。
「なんだ…と!」
「さっきの僕の術式を見てなかったのかい?僕の斬撃は傷を入れたと同時に凍結させるんだ…名を「“雪寅”」という。」
「クソが!」
次は腹からヤマアラシの如く無数の刀剣を生やして一斉発射。
それも難なく爪で弾いてしまうが、弾かれた刀は一人でに動いて、真白の背中に数本突き刺さり、残りは全て『弁慶』の血肉へと戻った。
「真白さん!」
「この武器ぜーんぶ俺の体から作ったんだ…戻ってくるんだよ!そんなに出血したら汗もダラダラで極低温の空間を作るのは難しいだろうなぁ…。(刀は脇腹、肩甲骨、心臓は避けたらしいが胸にぐっさりだ…これでは満足に動けまい…)」
そして左手を刀からライフルに変えて真白ではなく、小雪に照準を合わせた。
「これでガキ殺せばまた奴の精神は沈む…!」
しかし、当の真白は何も焦っていなかった、むしろ覚悟を決めた戦士の顔つきだった。
「バーン!」
ためらいもなく、小雪に発砲。
しかし、弾丸の様子が変だった。
何もないはずの小雪の周囲で弾丸が跳弾し続けるのだ。
「何だってぇぇ!!」
よく見ると、小雪の周囲には小さな氷の塊が彼女を守るように複数浮かんでいた。
「彼女を守る氷の衛星…“凍星”…僕はそう呼ぶ。そしてその跳弾する弾丸は…全部お前に帰る!」
パパパパン!と音を立てながら跳弾する弾丸は『弁慶』の元へと帰り、右腕を吹っ飛ばした。
しかしヤケクソになった『弁慶』は左手のライフルから無数の弾丸を発射する。
それも「“凍星”」にて反射し、全て自分に命中。
脳も撃たれてよろけた所で真白の必殺「“雪寅”」が発動し、凍結した彼の体を一刀両断に切り裂いた。
泣き別れた『弁慶』の胴体は氷塊の中で灰となって消えた。
刺さった刀も消滅して体が軽くなった。
「琥珀ちゃん、僕戻るよ…僕は戦う、この子のためだけでなく、悲しんでいる人たちのために!」
新たな決意を胸に灯した頼もしい男が特異課に舞い戻る。
そして北海道チームは「“セカンド”」を探すのだった。
EPISODE 80「Мelt into one, and disappear.(一つとなりて、露と消える。)」完
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