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妖狩:特異超常現象捜査課  作者: 定春
シーズン1幕間

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EPISODE 69「現実」

財団HAND壊滅と、鴉丸司令官の死から約一ヶ月後。

皆はそれぞれ動き、人々を守っていた。


今までは鴉丸の未来視によって次に起こる超常犯罪を突き止めていたが、今は個人で聞き耳を立てながら暮らしていないと突き止めることが出来ないのだ。


花もすっかり元気を取り戻し、生活に支障は無かった。

捕虜となったヒカリとシンであるが、ヒカリは特に罪は無いので椿の診察を定期的に受けながら生活し、特異課の女性陣とも仲を深めていた。


一方のシンは鴉丸の死によって廃人状態は治ったが、今までの『死神』としての罪を償うため、檻に入れられている。

心配になったヒカリは毎日決まった時間に檻の中のシンに会いに行っているらしい。



        2010年 8月 とある熱い日



妖狩エージェント:『神狼』、妖狩エージェント:『玄武』こと風雅と凱はとある妖を屋上に追い込んでいた。


全身が黒くて刺々しく、まるでウニのようだった。

名付けられたコードネームは『アーチン』。


脇に一人の少年を抱え、二人から逃げている。

『アーチン』の術式は体に生えた棘を変形させて手裏剣爆弾を作り出し風雅たちに投げつける。


「くっ、凱、裏手に回れ!」「了解!」


凱は裏手に回ってから『アーチン』の前に立って大剣を引き抜いた。


「その子を離しやがれウニ野郎!」


「誰が離すかこのスカタン!」


『アーチン』は踵を返して武器を持っていない風雅に向けて手裏剣爆弾を投げつけた。

しかし瞬時に“武装”して爆弾を手の甲で弾いた。


そして一瞬で懐に入り込み、強烈なストレートパンチを食らわせ、少年を確保。

『アーチン』は反撃しようとするが、凱が前に出て大剣で抑える。


「ここは俺に任せてガキ連れて逃げろ!」


風雅は何故か暴れる少年を抱えて屋上から飛び降り、バイクに飛び乗ってそのまま走り去った。


そして凱と対峙していた『アーチン』は手裏剣爆弾を煙幕にしてその場から姿を消してしまった。


「くそ!どこ行きやがった…!」


             渚


風雅は保護した少年を後ろに乗せてバイクで海岸沿いの道を走っていた。

しかし少年は「降ろせ、降ろせ」の一点張りで暴れる。


すぐに危険を感じた風雅は道端でバイクを停めて少年を叱りつけた。


「おい危ねぇだろ!死にてぇのか!?」


「死にたいよ!だって僕の体が変になってから僕のお父さんとお母さんは…あいつに殺されたんだ!!」


この少年は先日妖に覚醒し、何故か『アーチン』に狙われ、両親を目の前で爆殺された。


見た所術式はまだ覚醒してないが、身体能力の強化はすでに始まっているようだ。


「もういっそのこと殺してくれれば良かったんだ…!」


「それでも、生きていくしか無いんだ。現実を受け止めて…。」


「何が現実だよ!僕現実なんて嫌だよ!」


「辛いよな、辛いさ…でもこれが現実なんだ。お前はこれから先も現実って奴を受け止めなきゃダメな時があるんだ…!」


風雅は拳を握りしめ、鴉丸の最期の顔を思い出していた。

現実とは非情なものだ。夢とは違って思い通りにならない。

本当は死ぬはずの無い人達もいとも容易くその命が散っていく。僅か10歳の少年が受け止めるには重すぎる現実だ。


少年と同じ年で妖に覚醒した風雅は彼のこれから背負う辛い現実が手に取るように分かってしまう。

本来なら友達と和気あいあいと遊ぶ期間のはずなのに、一夜にして人間としてのフェーズを超えた。

術式が刻まれるのも時間の問題だろう。


少年はバイクを下りて、海岸沿いの道路まで下りて座り込んでしまった。


「お前はこのままそうしてるのと、あのウニに殺されるの、どっちが良いんだ?」


「……。」


黙ったままだった。荒れた挙句弾みで飛び出してしまったんだろう。

風雅は特に何もするわけでもなく、ヘルメットを被って

エンジンを吹かし始めた。

その音に気づいた少年は風雅の方を振り返った。


「そのまま野垂れ死にたきゃ死ねばいい。お前がそれを望むならなぁ!」


「ぼく…ぼく!」


すると海の中から黒い棘を全身に生やした男が少年の背後に現れた。

同時に風雅のケータイに凱からの着信があった。


【すまねぇ兄弟、ウニに逃げられた!】


「大丈夫、今目の前にいるわ…。」


バイクから下りて少年に近づこうとするが、『アーチン』は手裏剣爆弾を構えて二人に脅しをかける。


「一歩でも近づけばこのガキを殺す…!」


「そんなことしないくせに…お前らその子捕まえて海外で売りさばくつもりなんだろ?させるかよ!」


このまま進めば少年は『アーチン』に攫われるか殺されてしまう。

ならばどうするか、風雅は右の拳を構えて一瞬だけ繰り出した。


すると、『アーチン』の胸に拳の跡がくっきりと刻まれ、勢いよく後ろへと吹っ飛んだ。


風雅は一瞬の内に空気の拳を繰り出してその場から一歩も動くことなく、『アーチン』を吹き飛ばした。

この一ヶ月で身につけた風雅の新技である。


「逃げろ!」


風雅は少年を遠くに逃がし、『アーチン』と一対一の戦いに持ち込んだ。

右腕に『神狼』のガントレットを装備し、『アーチン』に強烈な攻撃を仕掛けていく。


手裏剣爆弾が飛んで来てもガントレットで弾いて回避するが、煙幕の代わりになってしまい、死角から『アーチン』に攻撃される。


その一撃は重く、一ヶ月で鍛えた風雅の肉体も耐えかね、血を吐いてしまう。


少年はその場から逃走することなく、海岸にある岩陰から二人の戦いを覗き見ていた。


そして風雅が傷つけられる様を見て、自分のために、誰かがこれ以上涙を流さないように戦う男の姿と少年は受け止めた。


そして「現実を受け止めるしかない。」の意味が少しずつ分かってきた。

風雅はどれだけ辛くても、他人の笑顔のために戦う。それがどんなに拒絶されようが、どんなに悪く言われようが戦うしかないのだ。


「なんだよお前の“武装”、ヒビ割れてんじゃあないか!」


「悪いかよ、新しいファッションだぜ?」


シンの式神『鬼神オーガ・零式』の「“激情態”」、さらには花に宿っていた厄災・赫夜かぐやとの激しい連戦を経て、ガントレットにはヒビが入り、そこからエネルギーである妖力が漏れ出てしまっている。


「そんなボロクソ装備で何ができる!」

「お前をぶっ飛ばすことだ!!」


風を纏ったガントレットが『アーチン』の腹に直撃。

さらに蹴りなどの体術を駆使して海岸で激闘を繰り広げる。


「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


装甲から妖力が漏れようとも、風を一点に集めて最大最速の一撃を繰り出した。


「“疾風弾”・V2!!」


右手から翠緑色の狼のオーラが飛び出し、子供を攫って悪質な商売をしようとしていた腐ったウニの腹をぶち抜いた。


この一ヶ月で「“疾風弾”」はさらにギアを上げ、「Version 2」こと「V2」へと進化し、たった一撃で対象を穿ち、『アーチン』は爆散した。


「ミッション、コンプリート…。」


激闘が終わり、炎の前に佇む風雅に向かって少年は涙を流しながら駆け寄って抱きついた。


「おじさん!おじさん大丈夫!?」


「なっ、俺はまだ20歳だぞ?!それこそ怪我ねぇか?」


「うん、無い…お兄ちゃんが言ってたこと分かったよ…僕はこれからもお父さん、お母さんの分まで生きてく!」


「そうか…もうじきお前には術式っていう超能力が使えるようになっちまう。お前のことは俺たち特異課に任せろ!それでも、生きていけるな?」


「うん、お兄ちゃんみたいに強くなる!」

「えらいぞぉ。」


後に少年は特異課に引き取られ、同じく超能力に目覚めた人達で集まって暮らしている施設へと預けられた。


それでも絶え間なく人は死ぬ。

死なせないために、これ以上誰かに悲しい涙を流させないために風雅は戦っていくのだ。


「さてと、帰るか…花ちゃんにお土産を買っていこう。」


                EPISODE 69「現実」完

          次回 第70話

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