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妖狩:特異超常現象捜査課  作者: 定春
『女王の器を奪還せよ。』

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EPISODE 68「生きろ」

花に宿っていた厄災と呼ばれる謎の妖の一人である赫夜を切り離し、さらに「魂を断つ斬撃」にて赫夜を撃破することに成功したのだが…。


財団HANDの博士風の男は財団解散を言い渡したと同時に研究所本部全体に爆破アナウンスを掛けた。

残された時間はあと三分弱。


風雅は右手に月闇ツクヨミを持ち、気を失った花を背負って鴉丸と共に脱出を図る。

鴉丸の方も右手にシンを抱えてヒカリはその後ろについて走る。


風雅は厄災という最強クラスの敵と戦い、すでに満身創痍。

花を背負うのがやっとであり、鴉丸にも追いつけていない。


「風雅、刀は捨てろ。今は逃げることだけに集中するんだ!」


風雅は月闇を床に落として、背負った花を腕で支えて走る。

刀の重みが無くなったせいかすぐに鴉丸に追いつくことが出来た。


「おやっさんシャッター閉じるぞ!」


「下がってろ…。」


鴉丸は空いている左手に力を込めて渾身の「“真空弾”」を放ってシャッターを粉砕し、道を切り開いた。


しかしこの先にいくつものシャッターが待ち構えていた。

鴉丸は全てのシャッターを拳で砕き、ついにエレベーター前のコンテナルームまで戻ってくることが出来た。


この時、ヒカリが転倒してしまい足に怪我を負ってしまった。

鴉丸はすぐに彼女を左腕に抱えて走る。


「エレベーターが生きていればまだ脱出できる希望がある…!」


やっとエレベーターに手が届く、そして全員脱出できる、そう確信したその時だった。


鴉丸の胸を女王の間に置いてきた月闇が貫いた。


「…!」


「おやっさぁぁぁぁん!!!」


「(何故だ…刀はあの部屋に置いてきたはず…だ!)誰だ…てめぇは!」


「ケッヒッヒッヒッやっと油断してくれたなぁ特異課の司令官様よぉ。」


声の主は鴉丸の背後から聞こえた。刀の柄の先がゆらゆらと揺らめいており、足元から徐々に姿が明らかになった。


「特異課の皆様お久しぶりでございます。『カメレオン』と申すものですケッヒッヒッ!」


「お前、総理暗殺しようとしてたやつか…!よくもおやっさんを!」


風雅は駆け出して鴉丸を助けようとするが、彼は全力でそれを拒否した。


「来るな!お前の優先事項は「逃げること」だと言っただろ…早く乗るんだ!」


鴉丸は「“真空弾”」で風雅たちをエレベーター内まで吹き飛ばした。

その衝撃で彼の服はビリビリになる。


「なんだこのオッサン…人間のくせに何故死なん!」


「死ぬさ、ただやせ我慢してるだけだ…!」


エレベーターに無理矢理押し込まれたことで風雅は身動きが取れなくなり、手を伸ばしても届かない。

さらに彼はヒカリとシンを投げて風雅に託す。


「厄災を倒せば…世界は変わる!風雅、よくやったな…。」


「やめろよ、なんでこんな時に褒めるんだよ…そんなこと言う性格じゃないだろやめろって!」

衝撃が加わったことでシンはわずかに意識を取り戻した。

ぼやけた視界がかすかに晴れ、目の前に飛び込んで来たのは、胸を貫かれたかつての戦友の姿だった。


「か…からす…ま!」


「やっと起きたか…寝坊助野郎…。」


鴉丸は刺さった刀を引き抜き、シンに投げつける。そして服を脱いだ。

鴉丸の極限まで鍛え上げられた身体の中央には輝く赤い宝玉が埋め込まれていた。

それを月闇で貫かれ、点滅を繰り返している。


「お前たちに与えていたミッションも、厄災が蘇ることも全てこの宝玉が視ていた…!この宝玉に映った未来は…四人の厄災によって滅ぼされた世界…だが、風雅が未来を変えた…。」


その宝玉は未来を見通し、装着者にその出来事のイメージされた未来を投影する怪異。

しかし外れることはない、一度埋め込めば心臓の変わりとなり、一生を掛けて未来を見続けていく。


鴉丸はデイブレイク後にそれを埋め込み、風雅たちが活躍する未来を見たが結末は最悪だった。

その未来を回避するために風雅たちを財団の研究所から救い出し、妖狩エージェントとして鍛えたのだ。


「おい爬虫類野郎…二度と俺の息子たちに手出し出来ないように…一発で殺してやるよ!」


すると女王の間から大きな爆発音が聞こえた。


「鴉丸…だめだ…!」


風雅はシンのまだ喋り慣れていない言葉を遮るようにエレベーターの「閉」ボタンに手を伸ばした。

そして鴉丸は風雅たちや外にいる凱たちにメッセージを送る。


「風雅、シン…そして全妖狩エージェントに告ぐ…最後のミッションを出す…「生きろ!」。」


エレベーターの扉は閉じ、風雅は涙を堪えて上へと上がっていく。

シンは拳を握る。

ヒカリは慰めるようにシンの握った拳を握り返す。


「死にかけのお前に何が出来る…!」


「俺が死ぬ前に、お前を殺す!」


爆発音は次第に近づいてくる。ついにコンテナルームにまで炎の魔の手が迫る。

『カメレオン』は自分だけは必ず生きてみせると豪語し、透明化を発動しようとした時だった。


超人並みの反射神経で鴉丸の巨大な拳がマッハで繰り出した。

見事『カメレオン』の顔面に直撃し、透明化発動前に彼の顔をぐちゃぐちゃに潰した。


「良かった…最期にあいつらに「愛してる。」とか言わなくて…最期の声にそれこびりつくの気持ち悪いもんな…。あばよ…俺の可愛い息子たち…。」


その声と共にコンテナルームも爆発に巻き込まれ、全てが炎に包まれた。

エレベーターも爆発の影響で震え、止まるかと不安になった。



しかしなんとかロビーに到着し、扉が開いた。


「風雅、花姉ぇ!!」


目に涙を浮かべていた琥珀は風雅を見つけるとすぐに「“引力アトラクション”」で全員を外まで引き寄せ、雷牙たちで確保した。


「凱、バリアを張ってくれ!」


「任せろ兄弟っ!!『玄武』っ!!」


凱は『玄武』を武装し、盾を地面に突き立てて巨大な結界を作り出し、研究所の大規模爆発から全員を守り抜いた。

半円型の結界の上を爆炎がなぞるように通り過ぎ、衝撃波が結界を襲う。


数分で爆発は収まり、辺りは黒煙と瓦礫で満たされた。

凱は結界と“武装”を解除して、地面にヘタレ込む。

そして満身創痍の風雅に尋ねた。


「なぁ…あのボスの音声…何だよ兄弟。なんでボスはここにいねぇんだよ!」


「おやっさんは…俺たちを守って死んだ…!!」


涙を堪えながらも、しっかりと真実を話した。

本当の父親のように接していた琥珀は先程のメッセージからでも察していたが、風雅の言葉で膝から崩れ落ちて大きな声を上げて泣いた。


龍我でさえもこの現実を受け止めきれず、座り込んでしまった。

誰も責めることなど出来ない。


ただ泣くのみだ、脳を改造され『死神』としてずっと非情にミッションをこなしていたシンも涙を浮かべ静かに泣いた。



         死者重軽傷者 約193名


    特異課司令官 鴉丸 総次郎 死亡 享年46歳


           捕虜  2名


     2010年 7月10日 財団HAND 壊滅



               EPISODE 68「生きろ」完

        次回 第69話 シーズン1幕間

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