EPISODE 63「魂の咆哮」
ー財団 地下牢ー
『死神』と交流のある謎の少女・ヒカリは貧弱な体を引きずりながらも部屋を飛び出し、彼の元に走り出した。
その頃『死神』は式神『鬼神・零式』に身体を乗っ取られ、「“激情態”」へと変化してしまった。
オーラを刃に変え、影を巧みに使用して風雅を追い詰めていき、ついに彼は瀕死の重傷を負ってしまう。
「…まだ死んでいないか…トドメを刺しておくとしよう。」
『鬼神』は月闇を握って刃を突き立てる。
トドメが刺される瞬間、風雅は深層心理で『神狼』と再び相対する。
『なぁ、俺の力使えよ?そうすりゃ逆転できるぜ!?』
「そうやって言いくるめて俺の身体を奪おうって魂胆なんだろ…?」
『だけどよぉ『死神』の奴はそれを分かってて身体を明け渡したと思うぜ?全てはお前を、俺を倒すために!
さぁどうする?ここでお前が倒れたらあの娘は助からん、俺の力を使え…』
『神狼』が提示した要求を風雅は聞き終わる前に切り捨て、立ち上がろうとする。
「俺は、俺の力であいつに勝つ…そして花ちゃんと一緒に帰るんだ!」
モニター越しに花は風雅の処刑を見届けるハメになってしまう。
すると男は途中で映像を切り、花の耳元で囁くように精神に追い打ちをかけていく。
「あーあ君のせいで死んじゃったねぇ、君なんてどうでもいい容器を助けに来たせいで…。」
「私のせいで…風雅くんが…!」
「そうそう君のせいだよー!じゃあもっと良いこと教えてあげるよー。なんで君なんかのために血相変えて彼が必死になってるのか…。」
「え…?」
この直後に放たれた男の声により、花の精神は完全に砕かれることになる。
「君が彼をおかしくしてるんだよ、『女王』の特性は“支配”…君は彼と目が合った瞬間に彼を虜にしてしまった。全ては君のせいなんだよ。
君が生きている限り大事な人が目の前から消えていく、容器如きが命なんて持っちゃダメなの。だから早く『女王』に身体渡しちゃいなー。」
次第に花は過呼吸になっていく。
自分がいるせいで皆に迷惑を掛けている、そのせいで傷ついていく。
今まで関係ない出来事でさえも男の言葉によって勝手な加害妄想に塗り替えられていく。
『鬼神』が妖刀を風雅目掛けて振り下ろす、風雅は唸り声を上げ、血を流しながらも立ち上がろうとした。
しかし刀は途中で止まった。何者かが刀を素手で抑え、風雅を守った。
その先を辿ると、受け止めたのは鴉丸司令官だった。
「おやっさん…!」
「やっぱり死にかけてんじゃねぇかバカ息子が…!おい、自分の弟に手出してんじゃねぇぞ『死神』!」
鴉丸は重く鋭い蹴りを『鬼神』の腹部に食らわせ後退させることに成功した。
「何故だ…貴様は見た所ただの人間のはず!」
「人間だって鍛えれば化け物にだってこの拳は届くんだよ…!」
「真の闇を思い知るがいい…!!」
『鬼神』影を駆使して鴉丸を拘束しようとするが、人間とは思えないほどのスピードで間合いに入り込み、音速に等しいラッシュを叩き込む。
一撃ごとに威力は上がり、亜人の装甲に傷がつくほどである。
さらに、腰から鎖を取り出して『鬼神』を囲い、一瞬にして拘束してしまった。
さらに重傷の風雅を抱えてコンテナの後ろに隠れた。
「おやっさん…なんでここに…。」
「…お前が死ぬのが視えた。だから来た、あいつらと一緒に。」
どうやら凱たちと共に財団の本部へ殴り込んできたようだ。
皆「花を助けたい。」という気持ちは同じなのだ。そして鴉丸は風雅にとあることを依頼する。
「風雅…『死神』を…あいつを救ってやってくれ。」
「は!?何言ってんだよアイツは敵だ、財団に堕ちたんだ!」
「違う…あいつが行方不明になったのは、財団に連れ去られて脳を改造されたんだ…!
その結果、過去のことは全て忘れ俺たちの敵となった…頼む、奴を元の姿に戻してやってくれ。」
「だけど、俺の専門じゃねぇだろ…俺の術式は風だ。」
「いや、できる…お前には、凱と同じく“二つ目の術式”がその身に刻まれた。その効果は…」
鴉丸が術式の解説をしようとした時だ、『鬼神』は鎖を引きちぎって自由の身となって「“斬月”」を放って二人が隠れていたコンテナを一刀両断で切り裂いた。
二人はすぐに飛び出して『鬼神』に向かっていく。
「闇に呑まれろ!!」
『鬼神』が地面に手を付くと影が床全体に広がり無数の腕が現れた。
鴉丸は影の腕に足を掴まれ、身動きが取れなくなってしまうが、風雅は軽々と駆け抜け、拳を胴体に直撃させることが出来た。
そして再び身体の内側に衝撃が走る。さらに二撃目、三撃目と食らわせ、反撃など出来ない。
「それがお前の二つ目の術式…“魂に干渉する術式”だ…!」
名付けて「“魂の咆哮”」。
術式を自動で切り替え、拳に妖力を乗せて殴ることによって相手の魂に衝撃を与える術式。
さらに『神狼』のガントレットを“武装”。右腕に付いた鎖は輝き、ひとりでに飛び出して『鬼神』の胸の中へと入っていくのだった。
「“魂の鎖”…!これであんたの魂をロックオンだ!」
鎖を引っ張ることで相手の深層心理の奥深くに眠った魂を釣り上げる。
そして近づいてきた所を殴る。
しかし『鬼神』もただではやられない。殴られる直前に左腕を出して風雅の顔にクリーンヒットさせ、『鬼神』の顔にもクリーンヒットして互いに弾け飛んだ。
「くっ…!」
パワーは『鬼神』の方が上だ。このままでは風雅が押し負けてしまうと感じた鴉丸はとある切り札を叩き込むことにした。
「いい加減戻ってこい…“シン”っ!!」
『!?』
鴉丸が叫んだのは、今まで謎にされていた『死神』の本当の名前であった。
鴉丸と椿が協力して5年もの歳月を賭してようやく復元出来た彼の本名だ。
「“魂の鎖”」で縛られた『死神』ことシンの魂が揺れた。
『鬼神』の身体が一秒だけ制止したことで拳が再びヒットし、魂がまた大きく揺れた。
「っ…!消え失せろぉぉぉぉ!!!!」
顔を抑えながら『鬼神』は咆哮を上げて風雅に向けて走り出す。
「お前が消えろっ!!」
風雅は右腕に全ての妖力を溜めて「“魂の咆哮”」を乗せた「“疾風弾”」を『鬼神』の胸に直撃させた。
しかし、ガントレットに入った亀裂はより深くなってしまった。
それと同時に「“魂の鎖”」が千切れ、『鬼神』の身体はヒビが入った。
そして背後からシンの身体が飛び出して、『鬼神』の身体は黒いモヤとなって消滅した。
「これで良いんだよな、おやっさん…。」
「ありがとう、風雅。」
鴉丸の目の端に涙が浮かんでいることに風雅は気づいた。
涙を流すなんてこの男にはないと思ってたが、初めて見た。
「鬼の目にも涙ってやつか。」
「殺すぞ。」
EPISODE 63「魂の咆哮」完
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