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妖狩:特異超常現象捜査課  作者: 定春
『女王を死守せよ。』
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EPISODE 46「ジジイの悲痛、響く腰痛」

       特異課に悪い知らせが届いた。


先日、自疑おのごろ島にある孤島監獄から七つの大罪セブン・シンズ、数名の妖が脱獄した。


凱は鴉丸の元に行き、一体何があったのか直接聞いた。


「おいどういうことだよボス!あいつらが脱獄したって…あの監獄は部外者は誰も入れない仕組みだったんだろ!?」


「神牙が…『死神』が侵入した…!」


鴉丸は悔しさを隠しきれないほどに拳を握る。

神牙とは本名を忘れた『死神』に鴉丸が付けた仮の名前である。


「あいつなら、影を移動して何処へでも行ける…だが何が目的で奴らを脱獄させたのか…。」


一方、風雅は散歩をしていた時に、不審な男に出会った。そして声を掛けられた。


「止まりなされ青年。」

「あ?」


占い師のような風貌で高架下に鎮座していた。

全身を黒い布で覆い、顔は見えないが口元はしわくちゃ、歯はボロボロで如何にも老人という出で立ちだった。


「お主に死相が見えますぞ…。」


老人は新聞紙の上であぐらをかきながら水晶を触って風雅に何の根拠もない事を言い始めた。


「はいはいおじいちゃん、お家帰ろーねー。」


風雅はそもそも占いなんて信じないタイプで今まで何度も死相が出てるとエセ占い師に言われてきたが全て無視してきた。


「じゃが占って見ませんか…例えば…恋愛とか。」


「…。」


そのまま立ち去ろうとしていた風雅は、後ろ歩きで戻ってきた。

そして無言で占い師に近づいた。


「この20年間好きな子なんて出来なかった僕でもイケるでしょうか!」


青年は実に単純だった。

そして老人はニヤけ始め体から黄土色のオーラが立ち昇ったのだ。


「引っ掛かったのぉ妖狩エージェントよ!!」


「何…!」


風雅の体は黄土色のドロドロとした粘着質のオーラに包まれてしまった。


その直後、凱と雷牙が駆けつけた。

そして二人は騒然としたのだ。


目の前にいるのは確かに風雅だが、肌はしわしわで髪が一面白く変色し、足腰も弱々しくなっていた。まるで老人だ。


「ヒーヒッヒッヒッ!上手くいったわいこれで一人、ましてや最強格の妖狩エージェントの無力化に成功したぞい!」


「てめぇ、俺の弟に何しやがった!」


雷牙は電撃を纏った蹴りを妖の老人に浴びせるが、軽々と回避されてしまう。


そして先程までボロボロの肌だったにも関わらず、今の老人の肌は40代くらいまで若返っていた。

凱は何かに気付き、雷牙に戻るように声を掛けた。


「雷牙、コイツは脱獄した一人だぜ。奇術師『ベビィ』…相手の年齢を操作し老化させる術式の持ち主だ!」


鴉丸からもらった脱獄囚リストにてこの奇術師の顔写真が貼られていた。

若干若返ってはいるが確かに特徴は一致していた。


「貴様ら特異課のせいで術式を封じられ忌まわしき老いぼれの姿に戻ってしまった…ワシに歳を吸われて責任を取るがよい!」


『ベビィ』は再び粘着質の妖力を放出した。雷牙は光速で老人になった風雅と凱を抱き抱えてその場から逃走した。


「ふっ、尻尾巻いて逃げよって…まぁよい、このまま全員ジジイにしてやるわい…。」


その時『ベビィ』の脳内に『怠惰スロウス』の声が聞こえた。

『怠惰』は『ベビィ』たち脱獄囚を子分にして自分は何もせずに独房に居座っていたのだ。


【あー無力化だけで満足しちゃだめだよ『ベビィ』。僕らには『女王の器』を生け捕りにするミッションがあるんだから。】


「おぉそうじゃったな、最近物覚えが悪くてのぉその小娘を捕まえれば自由になれるのじゃったな。ところでお前さん以外の大罪は何をしておる。」


【みーんな勝手に何かやってるよぉ…まったく、みんな『傲慢』なんだから…。】


            ー八雲邸ー


雷牙は老人になった風雅を連れ帰った。


「風雅くん!…なの?」


「ぶっははは!!じじいの風雅wジジイ!!w」


花は別人のように変わってしまった風雅に驚き、琥珀は腹を抱えて立てなくなるほど爆笑した。


「敵の術式にやられた。俺は鴉丸のおやっさんに知らせてくる。たぶん涙流して笑うと思うが。」


「先輩、お労しや…。これじゃ一緒に組手もできないね…。」


龍我はいつも通り戦いのことしか考えていなかった。

花は近づいて老人になった風雅にコミュニケーションをとろうと近づいた。


「風雅くーん、わかるー?私よ花だよー。」


「…んえ…誰じゃったっけ…。」


「だめかぁ…じゃあ私よりも付き合いながい二人なら分かるんじゃない!?」


風雅は開いてるのか分からない目でプルプルと震えながら琥珀と龍我を見上げる。


「おぉ幸子、龍の字久しぶりじゃなぁ50年ぶりかのぉ。」


「いや、誰だよ。」

「龍ちゃんはまだ原型あるじゃない、幸子って誰よ!」


「あーなんだって?」


琥珀は拳に紫色の妖力を纏って怒り心頭だ。龍我と花が必死になって取り押さえる。


そして雷牙が京都の本部から戻ってきた。鴉丸に事の経緯を説明したらしい。

やはり少し顔がニヤけていたという。


「しかし…妖は歳を取らんはずなのだが、」


「え、どゆこと?」


花の疑問に雷牙が答えた。


妖は20歳未満で妖なった者は成人するまでは年を取ることができるが、20歳以上で妖となった者はその時の見た目で固定されるのだ。


身近な例でいえば10年前子供だった風雅たち、逆を言えば椿先生が該当する。


「俺の弟が俺よりも歳上に…なんてことだ…!」


「まぁそう落ち込むな兄者…いずれ元にもどる…。」


悩みの種にそう言われても励まされた気は全然しない。

とりあえず風雅はほおっておいて監獄から妖の囚人が脱獄したことを他の妖狩エージェントに知らせた。


「雷牙先輩…大罪あいつらが脱獄したってことはまたデイブレイクみたいなテロを起こそうとしてるんじゃ…!」

「それは絶対阻止したい…。」


一方、裏では風雅が“武装”の練習していた。


「ぶ、“武装”…。おぉ出来たわい。」



『ベビィ』は全身黒ずくめの怪しい格好のまま平然と街を歩き、一般人は彼を避けながら歩く。


『ベビィ』は突如立ち止まり、フヒヒと不気味な笑い声を上げた後、風雅にも見せた黄土色の妖力を解き放ち、周りの一般人全員をその汚らしいドロドロで包んだ。


すると若い人たちはみるみる年老いて行き、老人たちはまるでミイラのように枯れ果て絶命してしまった。


「殺さない程度に若さを吸えば捕まえやすいじゃろ…そしてワシもどんどん若替えって一石二鳥じゃ!」


「させっかよ。」


老害の背後に大剣の切っ先が向けられた。


「これ以上好き勝手してんじゃねぇよジジイ…。何が目的だよ…。」


「おぉ、『怠惰』とかいうやつの子分やっとってな。そいつの命令で『女王の器』を探して来いと言われて外に出てきただけじゃ。」


凱は『怠惰』の名前を聞いた瞬間、一気に悪寒がした。一度自分を瞬殺し、ミッション失敗した原因の一人。

さらにはデイブレイクで家族や友人を皆殺しにした大罪の一人である。


「『死神』の野郎が言ってたな…女王の器って何だよ…!」


「お主らが匿っておるあのめんこい小娘じゃよぉ…生け捕りにして財団のやつらに献上すればワシは晴れて自由の身じゃヒーヒッヒッヒッ!」


「てめぇらなんかに花子渡すかよ!今ここでぶっ殺す!」


「年寄りは丁寧に扱え小僧!(ついでにこいつの若さも吸い取ってやるわ!)」


『ベビィ』は凱に向けて術式を放った。凱は脊髄反射で右腕を盾にして黄土色のスライムを受け止めた。


右腕だけがしわしわに干からびていくが、「“不死アンデッド”」の術式で老化した腕はみるみる元通りになった。


「あっそうか、俺戻るんだった。」


「こやつ不死身か!」



凱と『ベビィ』が戦闘を始めた時、八雲邸では老人になった風雅が突然立ち上がった。

それに気づいた琥珀は声を掛けた。


「どした、おじいちゃん。」


「凱の字が…なにやら嫌な匂いを感じてのぉ…。」


歳をとっても持ち前の嗅覚は衰えていないらしい。

杖を付きながらゆっくりと作戦室のワープドアに向かって歩きだした。


「ちょ、今の先輩じゃ戦力になりませんって!」

「そうよじいさん座ってなさい!」


「いやじゃ〜。」


と柔らかい声色で言ったあと、ドアノブを捻って凱の元へと行ってしまった。


「雷牙、龍ちゃん追いかけて!」


琥珀の命令ですぐに二人は風雅を連れ戻すために同じ場所に向かったのだ。


お互い有効打が与えられず、硬直状態になっていた凱の後ろから杖をついた白髪の老人が現れた。


「ん?兄弟!?」


「おやおや誰かと思えばワシに若さを吸われた哀れな妖狩エージェントじゃないか…。」


「さっきはよくもやってくれたのぉクソジジイ。」


「ふっ、お主は今のワシよりも老いているならば残りの年齢を吸収して屍になるがよいジジイ!」


また汚い黄土色の妖力が年老いた風雅に襲い掛かる。

凱は「兄弟!」と叫んだ。

が、風雅は微動だにしていなかった。

そして先程までは人の話がまったく聞き取れていなくボソボソ話していたが、今の風雅には若かった頃の目の輝きを取り戻していた。


「ジジイ…ジジイじゃと?一言こう言ってほしいものだ…“熟年”と!」



風雅は手刀1回で強力な風を巻き起こし、『ベビィ』の術式を跳ね返した。


そのシーンを目の当たりにした琥珀と花は驚いた。龍我と雷牙はいつも通りの風雅が戻ってきたと歓喜した。



「お主…なぜじゃ!歳を奪われた者は心も記憶も完全に老いるというのに!」


「ここに来た時に見たんじゃよ…お前に若さを奪われた人たちをな。みんな悲しそうじゃった…そして思い出したんじゃよ、ワシは人間の笑顔と自由を守るために戦っていたとなぁ!」


ついには杖を投げ捨て、老人のまま走り出して蹴りを繰り出す。

その蹴りは決して弱くなかった。長年で鍛え上げた筋肉も蘇ったのか、重々しく、地面に手をつきブレイクダンスの要領で回し蹴りまで披露した。


得意のパンチも復活し、『ベビィ』を一方的にボコボコにする。


「老人は丁重に扱えだぁ!てめぇみたいな老害はこのジジイ直々に処してやるわい!!ほらいくど、“疾風弾”!」


全員が撃破してくれるという希望をもったその直後だった。

「“疾風弾”」を放とうと拳を突きだした瞬間だった。

腰のあたりから「バキッ」という音が響き、風雅は力尽きた。


「え…もしかして…」


「あかん、腰をやってしもうた…」


希望を抱いた仲間たちは全員額に手をついて落胆した。歯も折れ血だらけになった『ベビィ』は気を取り直して、地面に倒れた風雅に術式を放とうとした。


しかし風雅は痛みに耐えながらも大声を張り上げた。


「凱頼む!今じゃためらうな、はようぶっ倒せ!」


「任せろっ!“砕”っ!!」


“武装”した腕から放たれた全てを砕く拳が『ベビィ』の顔面に直撃し、全身を砕かれ吹き飛んだ。


「な、ナイスじゃあ凱よ…。」


ギックリ腰で倒れた風雅は凱に向けてサムズアップをした。


『ベビィ』は全身から血を噴き出しながら立ち上がった。

永遠の若さを渇望したこの老人は体が灰化していることにも関わらず術式を放とうとする。


「女王の…器さえ手に入れれば…ワシは自由になれる…自由に!」


「もうてめぇにはムリだぜ、せめてあの世で自由になれや。」


「じ、自由じゃぁぁぁぉ!」


と言いながら完全に灰化し、崩れ去った。残ったのは怪しいローブだけ。

そして彼の死と共に「“老化”」の術式が解け、風雅は元の20歳の肉体を取り戻し、ギックリ腰も完治した。


他の人間たちは元の姿を取り戻した。

しかし残りの若さを吸われた老人たちは元に戻ることは無かった。


「先輩元に戻ってよかったっすね!」


「一時はどうなるかと思ったぜぇ、若いっていいな。」


しかし逃げ出した囚人は彼以外にも複数おり、全員が『女王の器』こと花を狙っている。


その事を鴉丸含め全員に話した凱。そこで鴉丸は全員にとあるミッションを課した。

 

          『女王を死守せよ。』


       

       EPISODE 46「ジジイの悲痛、響く腰痛」完 

            次回 第48話

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