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妖狩:特異超常現象捜査課  作者: 定春
『濃霧の屋敷を探索せよ。』
45/56

EPISODE 43「卑劣な宿借」

濃霧の中突然目の前に現れた謎の屋敷。


その調査に向かった風雅と琥珀は不思議と懐かしさを覚えるその屋敷に入っていく。


しかし二人は分断され、虱潰しに襖を開けてお互いを探し合うが、開けた先には今は亡き二人の母親が温かく迎え入れた。


幻想と分かっていながらも二人はその世界観に引き込まれてしまい、意識は完全に奥底へと沈んでしまったのだ。



風雅は亡き母親と幼き兄に囲まれ、食卓を囲んでいた。


本来の意識は奥底へと沈み、なんとか泳いで取り戻そうとしていた。

しかし何かに足を掴まれているかのように上へ上がることは出来ない。


『無駄だ無駄。お前は元に戻ることはできねぇ。』


浮上を阻止していたのは彼の式神『神狼』だった。

『神狼』は狼の亜人で、もう一人の風雅だ。


「またお前か!」


『お前今…“幸せ”だろ。』

「は!?」


『不幸の反対は幸せ…この家はお前の持つ記憶を反転させて映し出す。

母さんを失った不幸を、そのまま生きていた幸福のIF世界線を見せている…お前はその甘い汁をすすりながらこの家の養分になるんだよ!』


「ふざけんな…こんな幻、吹き飛ばす!」


『この虚構はいずれ現実になる…身を委ねろぉ人間は幸せが何より好きだからなぁ…。』


「たしかにお前の言う通り誰でも幸せな方がいいさ…だけど、この“幸せ”は違うっ!!」


風雅は『神狼』を振り切って上へ浮上し始めた。『神狼』はつまらなそうに舌打ちをして意識の奥底へと潜っていく。


琥珀も同様で意識が完全に沈みそうなところをなんとか踏みとどまって、本来とは違う母親を見て膝を抱えていた。


『なんで落ち込んでるの。』


「だってあれはお母さんじゃない…本当のお母さんは優しくて、かっこよくて…あんなネグレクトじゃないもん!」


琥珀の式神『猫又』は二又の尻尾を持つ紫色の猫型亜人。

意識を失った琥珀に興味を持ち、わざわざ深層心理に現れたのだ。


『随分と難しい言葉を知っているのね。でも安心してこれは拗じられた幻想…あなたの幸せとは真反対の“不幸”な幻を見せているの…

でもママがあのまま死んでいなければ会社は破産し、借金まみれ、あなたは気分転換の虐待にあう…そういうIFの“未来”でもあるのよ。』


「うそ…うそよ。」


『あり得た現実よ。あなたは不幸のどん底に落ちるところだったんだから…“死んでよかったわね”。』


「…!、お母さんの悪口を言うな化猫っ!!」


『あーらごめんなさぁいw』


式神とは自らの無意識の悪意が生み出した亜人たち。優しい者もいるが、本来は非協力的で宿主を絶望に落とそうとしてくる者もいる。


犯罪を犯す妖というのは完全に式神と同調し、意識を完全に委ねた者を言うのだ。


琥珀は必死で浮上しようと深海の深層心理の中を泳ぐ。

『猫又』はくすくすと嘲笑するように姿を消した。


かたや有り得た親子の団欒を楽しみ、かたや有り得た地獄の家庭環境を味わうことになった。

二人はこの幻から抜け出せるのであろうか。



          ー八雲邸 訓練室ー


花は龍我に力の使い方を教わっていた。


「いいかい、妖力ってのはオレら妖の力の源だ。それを利用して使うのが術式。まず手始めに自分の手に妖力を流してオレの手に当ててみて。」


「おっけー!おりゃー!」


花は拳に妖力を纏わせながら龍我の掌にぶつけた。

掌に当たった瞬間に水色のオーラは弾け飛んでしまったが、龍我は褒めてくれた。


「初めてにしては上出来だね!ちゃんと重みが伝わってきたよ。今は微弱だけど、キミは元から妖力の保持数が違うみたいだ。その調子で術式の訓練もしてみよう。」


「ありがと、龍我先生!」


「先生なんてそんなぁ…」


と龍我は「先生」と呼ばれたことに頬を赤らめた。



しかし尊敬する先輩と妹分は今大変な状況に陥っているのだった。


風雅は完全に意識が戻り、子供の姿になった自分の頬を思い切り平手打ちした。


「どうしたの風雅。」


「気安く俺の名を呼ぶんじゃねぇよ偽母さん…。俺は妖狩エージェント:『神狼』だ…!」


いくら偽物と言えども顔と声は完全に母親だ。半分涙を浮かべながらも母を拒絶し、妖狩エージェントを名乗った。


床に置いた赤いマフラーを手に取って再度首に巻いた。


「この赤いマフラー…母さんがくれたんだ。母さんだったらこのマフラーの意味、わかるよね。」


「え、えぇ…わかるわ。なんだったかしらねぇ、あぁかっこいいから!」


幻の母は冷や汗を流しながらも作った笑顔で曖昧な答えを出した。


「やっぱり嘘だな…このマフラーはな、母さんが弱い人を守るためのおまじないとしてくれたんだ!」


今から12年前、母・伊吹は当時8歳の風雅に赤いマフラーを首に巻いた。


「お母さんコレ何?」


「これはね、おまじないよ。いつか泣いている人たちを笑顔にできる人になってほしいの…。赤は、ヒーローの色だもの。」



琥珀も変わってしまった母親と対峙した。


「お母さんはどんなことがあってもくじけなかった…会社が潰れても、きっと新しい道を笑って見つけ出すって信じてる…。」


当時4歳だった琥珀は一人でいることが多く、母は夜遅くに帰宅する。


「ちょっと琥珀、まだ起きてたの!?もう深夜の0時よ…?」


「だっておかあさんにおやすみって言わないと寝れないの!」

「ごめんねぇ…はは…。」


とため息を付きながらも椅子に腰掛け伸びをする。

娘に疲れていることを悟らせないための母なりの気遣いだったのかもしれない。


琥珀は小さな体で脚立を抱えて母の座っている椅子の後ろに起き、そして上に立って母の肩を叩いた。


「おかあさん、お疲れなさい!」

「あらぁありがとう〜癒される〜お疲れさまとおかえりなさい合わせたのねぇあなた芸能事務所入れるわよぉ…。」


「おかあさん、なんでおつかれなのにニコニコなの?こわいよ?」


「え、怖い?…でもね、毎日辛い顔してたら、それこそあなたが怖がっちゃう…毎日考えるだけで辛いからさ、笑うんだよ!笑って吹き飛ばしゃきっと良いことが起こるって!」


「ふーん…綺麗事、だね!」

「あなたほんとに大人ね…」



「今でもあの言葉は覚えてる…アタシもミッションでヘトヘトの時もみんなと話して笑ってる…

あなたは本物のお母さんじゃないけど、これだけは言わせて…4年間しか一緒にいられなかったけど、ありがとう…!」


琥珀は元の14歳の体に戻り、掌に紫色の球体を作り出し、部屋の中で飛ばし始めた。球体は「引力アトラクション」の力を有し、偽の母ごと部屋を引き寄せ、粉々にする。


風雅もまた拳に風を纏って部屋を穿つ。そして自身の妖力を竜巻にして、部屋をグチャグチャにしていく。


そのとき、家全体は揺れ始めた。


二人の幻は消滅し、合流することができた。


「琥珀!」

「風雅!」


どうやら二人は同じ部屋にいたようだ。本当の部屋は八雲家が暮らしていた和室でも、廃れたアパートの部屋でもない、掃除も何も手を付けられていないボロボロの和室だ。


そしてさらに揺れが激しくなり、二人は外へと放り出された。


外に出された後は濃霧は晴れており、屋敷全体がハッキリと確認できた。


屋敷の正体とは、木造の家を背負った巨大なヤドカリであった。

その正体を知った二人は言葉が出ず、琥珀は顎が外れるほど驚いた。


「これ…なに…!」


「おそらく妖だ、“武装”でヤドカリになって、術式であの幻を作ってたんだろ…!」


風雅は冷静に分析したが、ヤドカリはその巨躯を使って二人を追いかけ始てた。


「ちょっと!アンタの風で追っ払いなさいよ!」


「俺の術式は事前に風を受けないと使えないんだよ、幻払う時に全部使っちまった!」


「…あーもうあれ使うしかないわね!」


琥珀は立ち止まり、風雅に先に逃げるように指示を出す。

すると両手を合わせて何かを練るように手を動かす。


そして黒紫色の球体を作り出し、それをヤドカリ型の妖に打ち出す。


      「喰らえ新技“超重力砲グラビテーション・キャノン”っ!!!!」


打ち出された球体がヤドカリの外殻に当たった瞬間、巨大な黒い球体と化し、全てを飲み込むブラックホールとなった。


屋敷は超重力の玉の前に崩れ、妖は外殻がボロボロになり、泡を吐いてうめき声を上げながらブラックホールに吸い込まれていった。


さらには周りの木々さえも飲み込むが、林全体が飲み込まれる前にブラックホールは閉じた。


巨大なクレーターが完成し、琥珀は疲労で尻もちをついた。


「危なすぎるだろお前の新技。」


「だから逃げなさいって言ったのよ…ま、何はともあれミッションコンプリートねっ!」


琥珀は笑顔でサムズアップをし、風雅も応えるようにサムズアップをした。


             EPISODE 42「卑劣な宿借」完

           次回 第44話

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