EPISODE 0 後編「夜明けの慟哭」
財団HANDを抜け出し、その技術を盗用して特異課を作った若き日の鴉丸司令官と妖狩:『零』こと神牙はミッションに明け暮れていた。
この日のミッションは妖の過激派グループが港で怪しげな集会を開いているらしく、神牙はそのグループを一掃するべく目的地へと向かう。
ー港ー
港では10人ほどの妖たちが円陣を組み、一人が酒の入ったお猪口を掲げ宣言する。
「今こそ、汚れた人間たちをこの世から滅ぼし、我々妖が天下を取るのだーーーっ!!」
『おおおおおおおっ!!!!』
「悪いが、お前たちの野望はそこまでだ…。」
神牙は集会のリーダーの足元の影から現れ、一瞬で首を切り飛ばした。
「何者だ…!」
「全員殺す前に教えておいてやろう…俺は妖狩:『零』…。」
【おい神牙、一人生かせよ?目的がわからんからな。】
「了解…。」
刀身に赤黒い闇のオーラを纏い、一瞬の内に過激派の妖たちを斬り伏せた。
最後に残った一人をコンテナまで追い詰め首元に刃を向ける。
「答えろ…何を決行しようとした。」
「誰が答えるものか…!妖のくせに人間の味方をしやがって…お前こそ狂っているっ!」
「そうか…最期に言い残すことは?」
「この地球の頂点はいずれ妖となる…俺たちこそが真の人間d…」
遺言を最後まで聞かず躊躇なく斬首し、血振りをして納刀した。
「鴉丸、全員片付けた…。」
【話は聞けたか…?】
「集会の時にすでに潜伏して聞いておいたぞ。」
【それを早く言えよ…とりあえず戻ってこい。】
「御意。」
神牙は大量の返り血をつけながら特異課本部に帰還した。
そして過激派の狙いは全ての人間だと鴉丸に報告した。
妖の中にも良い人はいるが、過激派の連中はそれらの妖を甘い思考だと罵り断罪する。
自分たちこそがこの地球の頂点だと言い張る。
「こりゃ早くに手を打たなければヤバいことになるな。」
鴉丸は顎髭を触って対策を練っているが、神牙の方はずっと浮かれない顔をしていた。
「何だよ、ずっと沈んだような顔して…。」
「いや、俺は…自分が分からなくなっているんだ。お前の行動理念は人間の笑顔と自由を守ることだ。
しかし俺が助けた人間は皆俺を恐れ、時には非難する…奴らの言う事にも一理あるのかという邪な思考を持ち始めてしまった。」
刀を置いて、その場にまるで錘のように座り込んでしまった。
鴉丸は慰めようと肩に手を伸ばすが振り返った神牙の顔は怒りなのか悲しみなのか分からない顔をしていた。
「人間とは、そこまでして守らなくてはならないのか…?放っておいてもいずれ自滅する連中を…笑顔も忘れた連中を…立派な綺麗事並べて守るほどの存在なのか。」
その言葉に鴉丸の胸は締め付けられた。自分の掲げた理想に友を巻き込んだ結果、非情な現実が純粋だった彼の心を蝕んだ。
「神牙…俺のせいで、お前をそこまで追い詰めていたのか…。」
「人間にもいい奴がいるのは分かっている…お前だ鴉丸…俺はお前なしでは何もできない。責任など感じるな。」
「だがそのせいでお前のメンタルが、」
「吐き出したかっただけだ。サラリーマンとやらも辛い事を一人で吐き出して気持ちを整理するのだろ?それを実行したまでだ。」
どうやらストレス解消だったらしいが、それにホッとした鴉丸は締め付けられた痛みを返せと神牙の頭に拳骨を食らわせた。
「ったく俺の罪悪感返しやがれ。」
神牙はそのタンコブを何事も無かったかのようにスルーして再び立ち上がる。
「俺に笑顔という感情はない…だが他人(人)の笑顔を守ることはできる。お前と共に歩む道だ。最後まで共に歩こう…。」
その瞳には光があった。
ー2000年 8月25日(金)AM10:43ー
地獄の始まり
東京の都心部で大きな爆発音がした。
神牙は不穏な気配を感じて一目散に走り出した。
【どうした神牙!】
「奴らの残党が動いた…!」
腰に差した刀が全速力で動いても落ちないように手で支えながら港から街へと向かう。
向かった先では妖の過激派グループが街を燃やし、罪なき人々に襲い掛かっていた。
全員が超常的な超能力を持つ妖に人間は為す術がなくただ狩られるだけだ。
指先から炎を吹き出して人間を焼く妖や、相手を浮かして勢いよく地面に叩きつけて殺す妖など様々な術式を駆使して人間たちを淡々と狩っていく。
神牙が駆け出した刹那、抜刀して妖の一人を撃破した。
【大変だ神牙、同じような被害が名古屋、京都などの大都市で発生中だ!京都は俺が抑えるお前は東京を頼む!】
「御意…!」
目の前には焼け落ちるビル、積まれた屍、ゆうに10体以上は超えている超能力者たちが不適に笑う。
この数を相手取るのは初めてだ。
神牙は刀を水平に構え、妖力を高める。
「『黒鬼』、“武装”…!」
刀は光りだし、鬼の顔を持つ大鎌へと変形した。
あまりの大きさで肩の上に担ぎ、バランスを取る。刃は妖しく光り、禍々しいオーラが高まっていく。
その力の高まりにすら気づかない妖たちは神牙の射程範囲内に集まる。
「“盈月”っ!!」
弧を描きながら大鎌を振り回し、近づいた妖を全て一刀両断にした。
妖の数は東京23区全域に広がり、大鎌を装備した東京全土を駆け巡り、人々を蹂躙する妖を断罪していく。
その姿はまさしく『死神』。
気づけば時刻は午後23時になっていた。
ほとんどの妖を大鎌で仕留め、疲労困憊になっている所に七人の妖が現れた。
「デイブレイクを引き起こした犯人たち…過激派のなかでもさらに上位に位置する存在たち…
それは七つの原罪を司りし囚人たち、“七つの大罪”。凱は奴らの一人と一度対峙し、負けている。」
「その名前聞いただけでも恐ろしいやつらだぜあいつらは…」
「えー凱くんだけいいなぁオレもそいつらと戦いたかったなぁ!」
「やめとけ、無惨に殺されるのがオチだ。」
戦いを“祭り”と呼ぶ凱ですらも龍我に忠告するほどの実力者たち。
一体誰のセンスで名付けたのか“七つの大罪”は『傲慢』『憤怒』『嫉妬』『怠惰』『色欲』『強欲』『暴食』の七人の妖で構成されており、全員残忍で狡猾。己の術式を使った殺害方法を取る。
神牙はたった一人で“七つの大罪”に立ち向かったが一人の戦闘力でも彼の戦闘力を上回っており、返り討ちにあってしまう。
その間にも多くの人々が犠牲になり、その中には風雅たちもいた。
建物の巨大な瓦礫が幼い少女に落下する。
それに気づいた神牙は大罪たちとの勝負を放って少女を瓦礫から守った。
「早く…逃げろ…!」
「う、うん…!」
少女は小さな力を振り絞って走り出すが『憤怒』の大罪が拳から炎を放ち、神牙と少女ごと周囲を爆破した。
それは核爆発にも匹敵するほどの威力だった。
神牙は全身に火傷を負いながら立ち上がる。
周囲を見渡し、自身が助けた少女を探すが辺りは全て焼け野原、マグマのように煮え立っていた。
この時、助けられなかった後悔と『怒り』という感情が彼の中で生まれた。
「くっ…うあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
大鎌を力強く握り、『憤怒』に攻撃を繰り出すが、なんと指先で大鎌の刃を受け止め、そのまま折ってしまう。
『強欲』が蹴りを腹にくらわせて、瓦礫の下に転げ落ちる。
刃を折られた大鎌は黒刀へと戻ってしまった。
それでも立ち上り、神牙は怒りの咆哮をあげた。
禍々しいオーラが一瞬白いオーラに変わった。
その後東京は神牙の発した白い光に包まれ、暴動を起こした妖たちは戦意が消えたのか突如動きを止めてしまった。
神牙を追い詰めた大罪でさえも戦意をそがれ、全員が思考と動きを停止した。
まるで電池の抜けた玩具のようだ。
日本は夜明けを迎えた。
東京以外のテロは警察組織と自衛隊の強力で鎮圧に成功した。
夜が明けると共にこのテロは幕を閉じた。
それ故この事件は「デイブレイク」と言われるようになったのだ。
あのまま神牙が謎の力に目覚めなければ一夜で終わることはなかっであろう。
そして「悲壮」という感情を覚えた神牙はその場で泣き崩れた。
誰一人として助けられなかった。その後悔と自分への怒りが彼を襲った。
全国合わせて死者、重軽傷者 300万人
行方不明者 6239人
特異課死亡者 45人
行方不明者 1人
「あれ依頼神牙は行方不明になった…そしてお前たちの前に『死神』という名を借りて現れた。もう、元のアイツではない…。」
鴉丸は0番の席から立ち上がり、本部へと戻ってしまった。
「まさか『死神』がアタシたちの大先輩でお兄ちゃんだっただなんて…。」
「世界ってのは狭いな。」
一同は複雑な気持ちのまま解散した。一人はいつも通りの日常に、一人はミッションへと…現代への時間は再び動き出す。
ー財団HAND 本部ー
『死神』は左腕の痛みに耐えながらも檻の中で過ごしていた。
そして脳裏には鴉丸の顔が浮かんでいた。
「何故だ…何故俺はあの男を知っているんだ…!」
かつての友の顔さえ忘れ、何も分からぬまま頭を抱えて眠りについた。
今でも彼が夢に見るのは風雅と同じ、崩れた街の光景である。
EPISODE 0後編「夜明けの慟哭」完
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