39「House(家)」
巷ではとある都市伝説が流行っていた。
事の発端は2008年の8月の神奈川県。とある不良集団が肝試しに廃墟と言われる洋風の民家に訪れた時だった。
ガヤガヤとうるさく話しながら、自分たちの勇気を誇示するためにその民家に落書きをしたり、小物を破壊したりして家の中を全員で探索していた時のことだった。
全員で話していたにも拘らず、突如不良集団のリーダーの耳元から「殺してやる…。」という低い男の声が聞こえた。
創作会談とかでたまにいる殺意剥き出しの霊みたいな言葉を囁かれたリーダーはメンバーの誰かがふざけたんだろうと怒ったが、誰も言っていないと首を横に振った。
その時だった、再びリーダーの耳元で「ここから出ていけ…。」という声が聞こえ、振り返ると、見知らぬ男性が彼らの横に立っていたという。
全身から黒い霧を放出しながら不良たちの横にいつの間にか立っており、不良たちは幽霊が出たとパニックになって逃げ出した。
それかれ彼らを見た者は誰もいないという…
ーーー
それは一年の時を跨いでも何も変わらなかった。彼らの両親は今も帰らぬ息子たちの顔写真を町中に張り付けて探している。
そんな中特異課に捜索依頼のメールが届いた。風牙たちはガレージでその内容を確認していた。
「兄貴、これって二年近く前の事件だよな。警察も何も証拠つかめずに都市伝説化しちまってる奴だろ。」
「それが前回に限った話ではないんだ。五年前も同じ場所で神隠しが起きている。前みたいに服だけ消えるのとは違うぞ。」
その後、依頼主と話す機会を設けて風牙と花が出向いた。
母親は目に涙を溜めながら必死で探してくれと懇願し、ついには泣き崩れた。
警察は捜索を打ち切りに、メディアには取り上げられ、もう頼るところはオカルト集団しかない。
風牙は依頼料はとらないが、最悪の事態を覚悟していた方がいい、俺たちに頼むというのはそういうことだと母親に釘を刺した。
「風牙くん…。」
「俺も冷たいこと言いたくて言ってるんじゃないんだ…でも、これが現実ってやつなんだよ…!」
風牙の拳は力強く握られていた。これまで特異課は様々な不可解で奇々怪々な事案を捜査してきたがほとんど良い結果は無かった。
助けられないことに悔しさを感じていた―
風牙は花を家に送り届け、調査のためにガレージからバイクを走らせ、例の都市伝説が起きた民家へと向かう。
ーーー
八雲邸から約60キロメートル離れた神奈川に移動。ツタの生えた洋風の民家に到着。
人が住んでいる痕跡も無さそうだし、手入れがまったくされていない。築43年のような出で立ちである。
でも不思議な感覚だ、どこか安心感を覚えるような…
風牙は念の為指輪を着けて特殊防護服を装着。民家の門を開いて家の中に入った。
当然靴などは無かった。しかし失礼になるから一度頭を下げてから家に上がり、廊下を歩いていると、大きな落書きを見つけた。
「こりゃひでぇな…。でも彼らはどこに…。」
落書きは外壁にも描かれていたが、赤や緑などのスプレーを使って家の中にまで描かれていた。
小学生が喜びそうな下ネタに、思春期が喜びそうな下ネタ。
さらにリーダーと思われる男性と学校のマドンナの相合傘まで書かれていた。
空き家だろうがこんな行為は許されない。ここで発見されれば両親には酷だと思うが警察のお世話になってもらう必要がある。
その時だった。ダイニングの方から物音が聞こえた。まるで陶器を動かしているかのような音だった。
風牙は気づかれないように静かに忍び寄り、曲がり角から覗いてみると…
「は…?誰もいない…!」
驚愕した風牙は隠密を止め、そのままダイニングに入った。
たしかに陶器を動かすような、食器を片付けるような音が聞こえたはずだが…
机の下に顔を覗き込ませてもネズミ一匹、虫の一匹すらいなかった。
風牙が机から顔を上げて次の場所を探そうとした時だった。
「ママー今日のご飯なにー?」
「?!」
突如知らない子供の声が風牙の耳に入ってきた。完全に立ち上がると、ダイニングにある机には三人の人間が座っていた。
子供は男女一人ずつで隣に座り、二人の前に父親らしき男が座っていた。
風牙の隣のキッチンでは、母親らしき女が夕飯の下ごしらえをしていた。
風牙には何がなんだがわからなかった。一応声を掛けてみたが、誰も反応しなかった。
いないはずの彼らに、自分が消されているような変な感覚を覚えた。
すると、母親は移動して夕飯を机に置いて、家族全員で手を合わせて食べ始めた。
「最初下ごしらえだけだったのに…えーっと…。」
やはり風牙が話しかけても誰も応えず、自分たちで会話を進めている。
風牙は実物か確認するために子供の後ろに回り、頭に触れようとした…
その刹那、子供たちは何の前触れもなく首を180度回転させて、彼の顔を見上げた。
子供たちの目はくり抜かれたのか漆黒で、底なしの穴のようになっていた。
「お、お前らどうした!目ないぞ!!」
「帰れ…帰れ…帰れ…。」
風牙が顔をあげると両親と思わしき人物たちも目がくり抜かれ、「帰れ。」と連呼する。
風牙はすぐにダイニングから立ち去り、廊下に戻った。
衝撃の連続で息は荒くなったがすぐに呼吸を整え、前を向いた。
すると、廊下の先に黒いモヤの塊が見えた。
「もーなんだよ、何なんだよこの家は!」
黒いモヤはやがて屈強な人型を形成し、風牙目掛けて一直線に突っ込んでいく。
「妻を殺したのはお前かぁぁぁ!!」
と怒号を飛ばしながら遅い掛かるが、風牙は怯むことなく、風を纏ったパンチでモヤを殴り飛ばした。
廊下の端まで飛ばされた人型のモヤは逃げるように階段を駆け上がっていった。
「アイツが元凶か…!」
風牙はそう思いモヤの後を追って階段をあがり、二階へと上がっていく。
ーーー
二階に行くと、モヤがとある部屋のドアの中に入っていくのが見えた。
追いかけてドアを開けると、そこは書斎になっていた。
その部屋にはモヤが背中らしきものを向けて何かを見ており、気づいたモヤは再び風牙に攻撃を仕掛けるが一瞬で返り討ちにあった。
モヤをどかしてそいつが見ていた物を拾い上げた。薄汚れた日記帳だった。
試しに適当にページを開いてみると、風牙の顔は青ざめ、日記帳を床に落としてしまった。
「これは…!」
日記帳に書かれていたのは血で綴られた怨嗟の文字だった。
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殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
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