EPISODE 35「不死(アンデッド)」
逃げ出した囚人、『クラーケン』と対峙した妖狩:『玄武』こと凱は応戦するが、『クラーケン』の爆発する墨の術式を食らい、瀕死の重傷を負う。
風雅が鴉丸司令官から送られた信号を頼りに凱の元まで向かうが、彼がみた凱の姿には傷や出血などは無く、縫った跡すら無かった。
凱は意識を取り戻し、ひとまず八雲邸の作戦室に帰還した。
「あぶねぇところだった、助かったぜ兄弟!」
と凱は風雅から習ったサムズアップをして笑顔で応えるが
「いやそうじゃねーだろぉぉぉ!!」
風雅は大声を出して凱を驚かせる。
「何だよ兄弟、急にデカい声出して。」
「お前俺が来る前血まみれだったよな多分!瀕死だったよな多分!?なんで無傷なん怖っ!」
作戦室には琥珀や雷牙など他の妖狩もおり、皆も凱がなぜ無傷なのか不思議に思っていた。
そのとき、鴉丸司令官が一息ついた後、一言発した。
「目覚めていたのか、凱。」
「んだよ、知ってたのかボス。」
この会話は今のところ二人にしか伝わっていない、
何もわからない琥珀は凱の頬をツンツンと突いて早く話すように催促した。
「わっーたよ話すからツンツンすんな!俺は“二つ”の術式を持っている…。」
『え…?!』
風雅たちは顎が外れるほど大きく口を開け、普段冷静な
基本妖は一人に一つ術式を身につける。しかし極稀に凱のように二つ目の術式に覚醒する者がいる。
凱が覚醒したもう一つの術式は、
ー「“不死”」ー
石動 凱の二つ目の術式。文字通り使用者を不死身にする能力。
「お前、いつ覚醒した…。」
と鴉丸は机に肘をついて凱に問う。
「一年前だ…俺が囚人たちを取り逃したあの日。囚人の親玉と一戦交えた時だった。」
凱が対峙した囚人の親玉とは、小柄で赤髪の少年のような風貌だった。
周りの囚人たちを倒した凱は親玉と一騎打ちに持ち込んだ。
しかし凱は敗北した。何も見えなかった、一瞬だった。
大剣を構えて斬りつけようと走り出したところで記憶は途切れた。
その一瞬で凱の脇腹、右腕が抉り取られていたのだ。
目を覚ますと、体の傷は全て治っていた。その頃から ー「“不死”」ー に覚醒していたと凱は証言する。
その後責任を問われ記憶を消された凱は全てを忘れていたが怪我をした際にすぐに完治することを不思議に思っていた。
「とにかく、全部話した。俺はあのイカ野郎を追う!」
凱は再び特殊防護服に身を包み、大剣を背負って作戦室を出ていこうとすると琥珀が凱の腕を掴んだ。
「あんだけこてんぱんにやられてどう対処するつもり?アンタ不死の術式が無かったら死んでたのよ!?」
「そりゃお前…えぇ…んん…」
「カシラは子供の頃からアホだからこういうの考えれないのよ。」
「誰がアホだって…!」
「じゃあどうやって倒せるか皆で考えましょ!」
と花からの提案があり、一同は考えることになった。
琥珀は興味本位でクナイで凱の腕を切断してみた。すぐに腕は再生された。しかし痛みで悶絶し、声も出せずにその場に膝を付いた。
「へぇやっぱすぐに生えるのね!」
「サイコ!、サイコ!」
5時間後
河川敷で座り込み、談笑をしていた二人の女子高生がいた。
「駅前に新しいカフェできたんだー!」
「え、マジで?今度二人で飲みに行こうぜー。」
二人はしばらく雑談をして笑い合っていたが、一人が何かに気が付き、黙り込んだ。友人は不思議に思って次第に口数が減り、「どうしたん?」と聞いた。
「ねぇ…あの人、何?」
指を差した。その先にいるのは、モノトーンの道化師の衣装を着た男だった。暗い橋の下から二人を見つめていた。口元が裂けるような笑顔で…
二人の顔から笑顔が徐々に消えていき、汗をかき始めた。
男は橋の下から女子高生二人を見つめながらぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
「ねぇあれ絶対変だよ…帰ろ?」
「そうだね…何かキモイし。」
二人はすぐに通学カバンを持って立ち上がろうとした時、道化師は二人の目の前にまで接近していた。
「誰がキモイって?」
「ひっ…!」
怯えながらも二人は慌てて駆け出し、河川敷から逃げ出そうとした。
しかし、道化師は笑いながら形が変わり、全身にイカの触手を生やした不気味な姿になった。
そして口から墨を吐いて二人の背中に付着。指をパチンと鳴らした瞬間に大爆発を起こした。
「奴のせいで数を忘れかけたが、二人更新…さてとお次は…。」
その後もモノトーンの道化師は様々な場所に現れた。
一人、また一人と爆殺されていく。その音は近隣住民も聞いており、誰一人として外へ出ることはなかった。なんなら家ごと爆破させる方が早いかと思ったがそれは止めた。
何故なら『死神』との約束を破ることになるからだ。
『死神』は「人間を愛した者」、「目標と関係のない人間を殺した者」、「同族殺しを犯した者」を処刑対象とする。
家の中に籠もっている人間は自分が定める目標と条件が違う人間のため、破れば処刑対象になってしまう。
『クラーケン』の対象は「少人数で外を出歩く人間」。
彼は港に移り、コンテナで作業をしていた人間を一人爆殺。
案の定爆発音が響き、作業をしていた他の人間たちは逃げ出した。
「やっぱりバレるか…俺の術式は派手だからなぁ。ん?」
遠くからバイクが走ってくるのが聞こえる。バイクは『クラーケン』に近づき、バイクには二人乗っていた。
風雅と凱だった。
妖狩だと気づいた『クラーケン』は口から墨を連射してバイクを爆破しようとするが、全て回避し、後ろに乗っていた凱が大剣を引き抜いて『クラーケン』の体を切りつけた。
バイクは止まり、凱が降りる。それと同時に『玄武の巨盾』を“武装”した。
大剣をズルズルと引きずりながら凱はゆっくりと近づく。刃は火花を散らし、決意を固めた顔をしていた。
本能的に恐れを感じたのか『クラーケン』は凱に向けて墨を連射。
しかし恐れているのか、墨は凱を避けるかのように当たらないのだ。
(なんだコイツ、なんで守らない!狂ったのか?死ねよ、死ねっ!!)
先程作戦室で皆と話していた『クラーケン』に対処する方法。その方法とは
「簡単だ、防御なんて捨てりゃいい。」
だから凱は盾で自分を守らず、攻撃を仕掛けず相手を追い込む。
その目は怒りに満ち、睨まれるだけでも漏らしてしまうほど怖かった。
その時、墨が肩に当たって爆発した。肩は焦げ、抉れてしまったが、不死の術式で肩は回復。
その後も『クラーケン』は焦りながら墨を吐き続け、何発か体に直撃するが術式で回復。
直撃してノックバックするが、それでも直進し続ける。
特殊防護服の上半身は焼け、見事な体が露わになる。
(死ね、死ねよ…死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)
その念を込めて特大の墨爆弾を発射した。
凱は片手でバリアを張って、その墨を完全に防いだ。
今の一発で全ての墨を使い果たして何も出なくなった刹那、
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その掛け声と共に凱は大剣を構えて『クラーケン』の体を貫いた。
「俺は不死身だ…だから何も恐れることはねぇんだ…!」
「くぅそぉぉぉがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
と言い放った瞬間に『クラーケン』は爆発四散した。
強烈な爆風が吹き荒れ、遠くで見ていた風雅のマフラーをたなびかせる。
「凱!」
煙が晴れると、大剣を構えた凱が現れ、刀身に付いた黒い灰を振り払い、再び背中に納刀する。
「おい、大丈夫か?」
「…ふんっ!」
と凱はサムズアップと笑顔で応えた。そして風雅もサムズアップと笑顔で応え、ミッションを完遂した。
EPISODE 35「不死」完
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