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【連載】Dark × Marriage[ダーク×マリッジ]〜死せる花嫁と漆黒の護衛騎士〜  作者: シロヅキカスム
▼おまけSS

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がんばれ!リリアちゃん④

4 天気を変える魔法


 誰にも言えない秘密の魔法の本。


 それはわたしがいまよりもずっと幼いころに、下町のバザールで年老いたおばあさんから、飴の瓶と交換して手に入れた古い本です。


 曰く、古今東西の魔女たちが各々選りすぐった魔法の手順をつづった本で、大変貴重な物なんだそうです。

 譲ってくれたおばあさんもきっと、その魔女の一人だったのでしょう。以来、わたしはなにか困ったことがあると、この本に頼りました。


 魔法の種類はじつに豊富で、仲直りの魔法だったり、しゃっくりを止める魔法だったり、はたまた早口言葉が言えるようになる魔法だったりと、なんでもございです。


 この個性豊かな魔法たちは、これまでもわたしのことをたくさん助けてくれました。

 時には手順を間違えたか、失敗することもあったけれど……ベルベット家に養子に入るときも、こっそり荷物のなかに忍ばせておくほどに、わたしの心の拠り所にもなっているのでした。


 なお、持ち主以外に魔法の本の存在が知られてはいけません。二度と魔法が使えなくなってしまうと、本の一ページ目に大文字で書かれているので要注意です。


 踊り場から二人が立ち去ったあと、わたしはさっそく準備に取りかかりました。


 自分の部屋に戻ると、棚の奥に隠していた魔法の本を引っつかみ、お天気を変える魔法のページを開きます。

 手順を確認したら、今度は材料集めです。小鍋といった道具は前の家から持ってきた物を──また、いくつかの薬草ならこっそり持っていますが、ほかに必要な材料は厨房でそろえるしかありません。


 厨房に入り、人目を忍んでガサゴソ……。

 といった感じに、材料と道具をひとしきり集めたのなら、広げた黒いローブを袋代わりにして全部を包みます。


 黒い包みを手に、誰にも見つからないようわたしは館の表へ出ます。庭で残りの材料である花びらを摘み摘み……静かに裏手へとまわりました。


 以前、わたしが館の敷地内を散歩していたときに、その秘密の場所を発見しました。

 館の裏、納屋の地下にある貯蔵室の隣に、誰も使っていなさそうな小部屋があったのです。薄暗い雰囲気が、いかにも魔法の儀式を行うのにぴったりでした。


 納屋に入り、階段をつたって件の小部屋に入ると、いそいそ儀式をはじめます。今日は午前中に楽器のお稽古があるため、それに間に合わせなければいけないのです。


 ちょうどいい壁際の机の上に、さっとチョークで魔方陣を(えが)きます。左右対称の花模様の中心に、小ぶりのランプ、三脚台、小鍋を乗せて──。


 あとは、冒頭に至るといったわけです。



 * * *



「やったわ! これで完成ね!」


 あれから、かなりの時間が経ちました。

 

 現在、時刻は夕方に入りかけています。もっとも今日は一日中雨だったため、外の変化はさほど見られませんが。


 ──呪文を唱え、煮汁もとい魔法のエキスを完成させて……そのなかにハンカチを沈めたところで、わたしはいったん館へ引き下がりました。


 楽器のお稽古を済ませてから、昼食前にもう一度地下に戻って、今度は冷めたエキスからハンカチを取り出すと、手で一生懸命絞って乾かしていきました。


 そして再び館に引っこむのですが、このとき少し青く染まった手を隠すのに苦労しました。

 午後はお勉強が長引くなど、なかなか小部屋に戻る機会が巡ってこなかったので……結局、三度目になる現在、夕方になってから小部屋に入ることができました。


 ただ時間がかかったかいもあって、ハンカチはおおよそ乾いていました。これはチャンスと、わたしは残りの手順を一気に仕上げてしまいました。


 いま、机の上には奇妙な物が置いてあります。


 青紫色に染めたハンカチではありますが、その中心のおがくずを入れて、球状に丸めて首を絞っています。余ったハンカチの裾の部分はそのままに、スカートのようにひらひらとドレープをつくります。


 本の絵のとおりに完成して、わたしは満足でした。

 これこそ、雨雲を払う魔法──お天気人形なのです!


「変な形だけど、よく見ると可愛いかも。あとはこのお人形を玄関の軒下に吊しておけばいいのね」


 使用人たちが夕食の支度に追われているのをいいことに、わたしは素早く小椅子を持ち出して、玄関の外灯の金具に紐をかけます。できるだけ、見つからないように陰に寄せて……丸い頭の人形を吊しました。


 一日かけた大がかりの魔法でしたが、無事に誰にも見つからずに完成することができました。


 夕食の席も、朝と同様にぴりぴりした空気が漂いましたが、わたしはひとり達成感にニコニコしていました。嫌いなニンジンの添え物もなんなく平らげてしまうほどに。


 明日が来るのが楽しみです。

 ベッドから目覚めれば空は晴れ上がり、滞りなく誕生日会の準備が進められることでしょう。


 その夜、わたしはベッドのなかで幸せな夢に浸りながら、明日の天気を人形に託すのでした。


 ──が、しかし。

 事態は思わぬ方向へと進むのでした……。

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