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【連載】Dark × Marriage[ダーク×マリッジ]〜死せる花嫁と漆黒の護衛騎士〜  作者: シロヅキカスム
▼おまけSS

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アンケお題「雨の日+誕生日」/がんばれ!リリアちゃん①

Xでのお題アンケートにご協力いただき、ありがとうございました!

同票のため、お題は「雨の日」「誕生日」のミックスとなりました。初めての試みで至らないところもありましたが、今後ともダークマリッジほか、当作者の小説をよろしくお願い致します。

1 秘密の儀式


「ヤーレソラール・ハレハレ・ズガーンっ!」


 知られざる秘密の地下室にて、その儀式は行われていました。


「ヤーレソラール・ハレハレ・ズガーンっ!」


 くり返される怪しげな呪文。

 唱えるたびに、小部屋の狭い空気がかぼそく震える。充満する妙な香り──机の上では、コップほどの小さな鍋がくつくつ煮えていました。


 薬湯(やくとう)を煎じるための小鍋です。鉄の三脚台の上に乗せられ、鍋底をおなじく小型のランプに(あぶ)られていました。


 鍋のなかもまた不思議で、藍を煮出したような青紫色の汁で満ちています。

 こんこんと沸くあぶくに揺れて、水面から突き出ているのは干からびた黒いイモリの尻尾です。そこに星形に割れた植物の種子と、塩の粒を少々、色とりどりの花弁を投入して、匙でかきまわしていきます。


「ヤーレソラール・ハレハレ・ズガーン……えっと、呪文は三回まででよかったのよね? 残りの材料をすべて入れてしまったら、よーくかきまぜて、それで──」


 手にした匙を、いったん脇の布巾の上に置いておく。


 先程から奇妙な呪文を唱え、鍋の火加減を慎重に見守っていたその人物……わたしは、近くの丸椅子の上に開いておいた本のページを改めて確認しました。


 火を扱っているせいか、部屋の温度も心なしか上がったようです。

 頭にかぶったフードが暑苦しい。冬用のローブなので仕方がないのです。ほかに、自室にはそれっぽいものはなかったので……ええ、魔法の儀式に不可欠な『魔女の黒いローブ』に似たものは。


 それでも結局は暑さに耐えられなくて、わたしは頭のフードを脱いでしまいました。


 やわらかなブロンドの巻き毛がこぼれる。丸っこい琥珀(こはく)色の瞳で、わたしは引きつづき、ページの手順を注意深く見つめるのでした。


「ふんふん……あとはお鍋が熱いうちに、白いハンカチを魔法のエキスに浸すのね。よく染み渡らせてから、今度は冷まして──冷めたら水で洗って、絞って、乾かすっと」


 手順のとおりに、用意したハンカチを小鍋のなかに入れようとしました。


 そのとき、わたしは一瞬だけ眉を寄せました。

 なんの刺繍もない、ただの白い木綿のハンカチです。けれど、これはさる人が、わたしにくれた物でもありました。


 いまさらになって、儀式に使ってしまうのは少々申し訳ない気がしました。でも、きっとあの人もわかってくれるでしょう。それほどまでに、こちらにはのっぴきならない事情があるのですから。


 意を決して、わたしは思い出のハンカチをエキスのなかに沈めました。白かった繊維は、たちまち青に染まってしまいます。


「これもすべて……フィオナお姉さまのため」


 一点のまだらも残さず、青紫色に染まりきったハンカチを前に、わたし──リリア・ベルベットは深くうなずくのでした。



 * * *



 わたしの名前はリリア。


 年は八才。一年前に、交易都市ドレシアを中心とした領地を治める侯爵家の養子に入り、いまはベルベットの姓を名乗っています。


 生まれ育ってきた環境とはまるで勝手のちがう、貴族の大きな館での生活。一年経っても慣れないものですね。とりわけ作法の厳しさやしきたりの多さには、いつも目がまわってしまいます……。


 けれど、つらいことばかりでもありません。


 使用人の方たちはみんな優しく接してくれますし、厳格な義母のアマンダ・ベルベットさまも、なんだかんだいろんな場面で手助けをしてくれます。


 そしてなによりも……。

 年の一つ離れた姉ができたことが、わたしにはとてもうれしかったのです!


 生まれたときから、貴族の令嬢として館に暮らしているフィオナ・ベルベットお姉さま。

 すでに子どもとは思えないほど態度が大人びていて、銀髪と青い瞳のきれいな容姿も相まって常に気品にあふれていました。


 そのせいか、彼女の目にはわたしのことがずいぶん幼く映るのでしょう。一緒に暮らしていても表面的な挨拶を交わすだけで、いまもあまり親身には相手にしてくれません……。


 わたし、リリアはお姉さまに憧れていました。


 いつか対等の貴族のお嬢さまとして、仲良くおしゃべりができたらいいなと思っています。そのためにも、毎日がんばって作法を勉強するのでした。


 そんな姉の誕生日が、近々迫っていました。

 

 館に住むようになって、これははじめて知ったのですが……貴族のご令息やお嬢さまは、お誕生日に多くのお客さまを招待して盛大なパーティを開くのが定番なのだそうです。


 憧れのお姉さまの誕生日パーティ!

 もちろん、リリアも心待ちにしていました。


 ところが悲しいことに、大事な誕生日を目の前にして、とある問題がぶつかってきたのでした……。

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