起点
「軽蔑されるって、誠二はそんなことしねぇだろ?」
大我は目を伏せる。
「今の誠二さんならね。でも、記憶が戻って俺達がしたことを思い出したらきっと俺を恨む」
レオはその言葉に首を傾げた。
「俺達……?」
彼ははっとして口を噤む。
「大我」
震える大我の肩を見て、レオは頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ。ほら、あんまり一人で抱え込むな」
「……うん」
彼は俯くと目から大粒の涙を流す。
レオは静かにその背中を軽く叩いていた。
しばらくして大我は顔を上げる。
「ごめん。レオ」
「気にするな。お前は俺の息子だろ。もっと、俺やリオンの連中を頼れ」
大我は少し赤くなった目で微笑んだ。
「ありがとう」
ふと、不安そうな顔で彼は聞いた。
「ねぇ、レオ。もし自分の大切な人のために、その人に恨まれるようなことをしなきゃいけない時がきたらどうする?」
その言葉にレオはしばらく考える素振りを見せると口を開く。
「俺ならたとえ恨まれたとしても、それが大切な人のためになるなら迷わず行動する」
「え?」
大我は目を瞬かせる。
「そういやお前にはまだ言ってなかったな。昔、俺の親父は突然姿を消した。居場所を知ってからそこに向かったがもぬけの殻。正直、ひどく落ち込んだよ」
「そんなことが……」
レオは真剣な顔をすると言った。
「だがな。今は親父がそんなことをしたのは、何か理由があるんじゃねぇかって思ってる。もしかしたらそれはリオンや俺のためなんじゃないかって」
「恨んではないの?何もかもレオに背負わせて消えた人を」
彼はふっと笑う。
「当時は確かに恨んだ。何か事情があるのはわかってたが俺もまだ十代のガキだったからな。けど、大我。お前に出会って気づいたんだよ」
大我は首を傾げる。
「たとえ恨まれたとしても絶対に守りたいものがこの世にはあるんだってな。親父もきっとそうだったんじゃねぇかって。今は思ってる」
「守りたいもの」
まるで自分に問いかけるようにその言葉を反芻した。
「少しは気が晴れたか?」
しばらくして顎に手を当てる大我にレオが口を開く。
「うん。ありがとう」
「もう大丈夫だな。ほら、誠二の側に戻ってやれ」
「わかった。また、目が覚めたら教えるよ」
大我は先程と違い顔色が明るくなっていた。
去っていくその背中を見て彼は頭を搔く。
「誠二は取り返せたが、これからあいつはどうでてくるか……」
レオは大きくため息をつくとスマホを取り出す。
連絡先から英語で表記されている名前を押すと耳にスマホを当てた。
数回、呼出音が鳴った後に相手が電話に出る。
「そちらから連絡してくるなんて珍しいな。一体、どうしたんだ?」
「エリックさん。すみません。お忙しいところ連絡をして」
スマホから穏やかな声が聞こえた。
「構わないよ。ちょうど仕事が片付いたところだ」
「ありがとうございます。では、直球にお聞きします。日本でコルボノワールが力をつけていることはご存知ですか?」
突然、相手の声色が低くなる。
「ああ。知っているよ。日本で起きた何件かの未解決事件にコルボノワールが関わっている」
「ご存知なら話が早い。イアンの目的はフロッピーです。警察や国の情報をハッキングするための」
レオは淡々とした口調で話す。
「何?そんなものが本当に存在しているのか?」
「はい。証拠もあります。フランスから出た後の
コルボノワールはアメリカ、イギリス、そして日本と様々な国に渡っているんです。まるで何かを探し求めるように」
二人の間に少しの沈黙が流れる。
「この件は電話で話すよりも直接聞いた方がよさそうだね。近いうちに君のいる日本へ行こう。そちらの都合のいい日を教えてくれ」
「では、三日後の夜はどうでしょう?」
レオは壁にかけてあるカレンダーを見た。
「OK。じゃあ、三日後の夜に」
そこで電話は切れる。
彼は大きくため息をつくと、窓から暗闇に浮かぶ月を見上げる。
「イアン。待ってろよ」
そう言うと拳を強く握りしめた。




