因果
誠二の意識が戻らないまま三日が過ぎた。
レオや大我が入れ代わり、立ち代わり部屋に来ては彼の身を案じていた。
難しそうな顔をしている大我にレオが声をかける。
「医者に診てもらって問題はない。なら、原因は無くした記憶の方か……」
「うん。体は平気でも心が追いついてないんじゃないかな。誠二さんにとって辛い過去だから」
彼は頭を乱雑に掻くと立ち上がった。
「俺はこの後少し外に出る。何かあったらアルマに連絡してくれ」
大我は頷くとまた誠二に視線を戻す。
レオはそんな姿を見て部屋をでた。
足を進めながら、スマホを操作して耳に当てる。
「レオ君。もう日本に着いたよ。いつなら都合がいいかな?」
「連絡が遅れてすみません。今からお会いできますか?」
彼が申し訳なさそうに声を落とすと、穏やかな声が返ってくる。
「構わないよ。では、二十時に私の滞在先に来てくれるかい?住所と部屋の番号は後から送ろう」
「わかりました。では、後ほど伺います」
レオは通話を切るとスマホの画面を見た。
画面には十九時と表示されている。
「少し余裕があるな。手土産でも持っていくか……」
そう呟くと彼は駅に向かった。
二十分後レオは駅の近くにある商店街に訪れていた。
列に並ぶと壁にかけてある時計を見る。
突然、ポケットに入っているスマホが震えた。
取り出して画面を見ると住所と階数、部屋番号が書かれている。
(案外近くにいたんだな。土産を買って向かえば、ちょうどいい時間に着きそうだ)
列が進む。彼はふっと笑うと最中が入った箱と、饅頭をふたつ手に取った。
そのまま会計を済ませると送られてきた住所に向かった。
電車を乗り継ぎ目的の場所に着くと周囲を見回す。
誰の気配も感じないのを確認すると、足早にホテルの中に入る。
ロビーにはフロントマンが二人立っていた。
「すみません。このホテルに滞在しているエリックさんと会う約束をしているんですが……」
「あなたはレオ様ですか?」
落ち着いた声で女性が確認をする。
「はい。そうです」
「エリック様より伺っております。どうぞ」
彼女は微笑むとエレベーターの方を指し示す。
「ありがとうございます」
レオはそう言うとエレベーターに乗った。
五十と表示されているボタンを押すとゆっくりと上昇し始める。
外に映る夜景を眺めながら、到着した音が鳴るのを待つ。
少しして音が鳴ると扉が開いた。
レオはスマホを取り出して部屋の番号を確認する。
「6714」
扉の前に刻まれている数字を見ながら歩く。
「ここか」
目的の部屋に着くと扉を軽く叩いた。
「エリックさん。俺です。レオです」
鍵が開く音がすると中年の男性が顔を覗かせる。
「レオ君。久しぶりだね。さぁ、どうぞ」
男性の後に続きレオも部屋の中に足を踏み入れた。
室内に入るとテーブルの前に置かれたソファに座るように促される。
彼がソファに腰を下ろすとエリックも目の前のソファに座った。
「これ。よかったらどうぞ」
レオは紙袋を手渡す。
「ありがとう。開けてみてもいいかな?」
頷くとエリックは紙袋から箱を取り出し、蓋を開ける。
「最中じゃないか。好物だよ。ありがとう」
「いえ。気に入って頂けたならよかったです」
彼は箱を紙袋にしまうと、隣に置いた。
ふと、小さい袋をレオが持っているのが目に入る。
「それは別の誰かへのお土産かな?」
「あ、これは。息子とその恩人に」
エリックは目を瞬かせる。
「君に妻がいたとは……」
レオは首を左右に振った。
「いませんよ。血の繋がりはないんです。昔、日本に来た時に拾った子で。けど、俺にとっては息子みたいなものなんです」
「なるほど。君の父親が知ったら喜ぶだろうね。孫ができたと」
彼は父親の嬉しそうな顔を想像して笑う。
「そうですね。いつか会わせてやりたいです」
切なそうに目を伏せると、エリックが話題を変えた。
「それで、前に話してたフロッピーの件について詳しく話してくれるか?」
レオは今までに起きたことを包み隠さず話した。
エリックは話を聞き終えると難しい顔をする。
「つまりイアンは警察にも国家にも通用するハッキングシステムを作らせそのフロッピーを探し回っていた。そこで、そのシステムを作らせた人物の子である青年を見つけ彼を利用してフロッピーを入手し使えるようにしようと画策しているんだね」
「はい。信じていただけますか?」
様子を伺うようにそう聞くと彼は頷いた。
「イアンがここまで動いているんだ。信じるさ。だが、万が一そのフロッピーが奴の手に渡れば日本だけでなく世界中が悪意に苛まられるだろう……」
長い沈黙の後、エリックは口を開いた。
「レオ君。君の父親に協力してもらおう」
「え?」
思いもよらない言葉にレオは面食らう。
「君の父親はイアンを追っていたんだよ。二十年も前からね」
「どういうことですか?」
エリックは真剣な顔をした。
「なぜ、リオンと息子の君をおいてまで姿を消したのか。その原因はイアンなんだ。だが、私の口からはここまでしか言えない。後は本人。君の父親に聞いてくれ」
レオはすぐに返答することができなかった。
二十年前のコルボノワールとの抗争以来、父親からの音沙汰はない。
何をしているのか想像もつかなかった。
「……親父に会えるんですか?」
混乱する頭で何とか絞り出した返事だ。
「会える。私が連絡しよう」




