表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エッセー拾遺 ― 文芸誌のコラムから  作者: 坂本梧朗
2010年代

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/110

第85説 山崎豊子に注目している。……

 山崎豊子に注目している。きっかけは昨秋始まったテレビドラマ「不毛地帯」、そして同時期に公開された映画「沈まぬ太陽」だ。前者はシベリア抑留、後者は御巣鷹山航空機墜落事故を扱っている。後者の主人公は、日航労組の委員長として当局と渡り合ったために、十年近く海外の僻地に飛ばされていた人物がモデルだ。女性作家にしては珍しく、社会性のある骨太い題材を手がける作家だと改めて思ったのだ。嘗て『白い巨塔』を書き、『大地の子』を書いた作家だとは知っていた。テレビドラマになった「大地の子」を見た時も、「戦争孤児」(山崎豊子は残留を望んだわけではないという理由で「残留孤児」という表現は用いない)の置かれた現実、文革時の中国の実情などに深く切り込んでいて、すごいなと思っていた。今回二作品の映像化に接して、改めて社会派作家としての彼女の存在の大きさを感じ、注目した。

 タイミングよく、「山崎豊子自作を語る」シリーズ全三巻(新潮社)が刊行された。とりあえずそれを読んでみることにした。三冊全てを読んで、この作家の小説にかける思い、小説作法、取材の仕方などがよくわかった。

 彼女の最大のモチーフは戦争だ。戦時中、彼女たち女子学生は学業を中断して兵器工場に動員され、弾磨きをさせられた。同世代の男たちは特攻隊士として空の彼方に消えていった。青春を奪われたという思いが彼女には強くある。どんな題材を取り上げても、その旺盛な取材によって、戦争の原因や結果につながるものを彼女は見出すようだ。そしてそこから目を逸らさない。

 彼女はバルザックを尊敬しているという。日本の作家では石川達三が目標だったという。「私の十作」というエッセイで彼女が取り上げている作品は全て外国作家の作品だ。やはり日本文学の主流とは隔たりのある作家だ。その中にソルジェニーツィンの『収容所群島』があげられ、「永遠によみつがれるべき作品」と述べている。さすがだな、と思った。

 彼女は「人間」が描きたいのだと言う。題材が社会的なものになるのはその結果だという。様々な欲望を抱きながら必死に生きる人間同士が、現実的な土俵においてぶつかり合う現場ほど「人間」が表われる場面はないのだろう。エッセイを読むと彼女には一本筋の通った倫理感があるようだ。それが作品世界の筋立てを形成し、読者の共感を誘うのではあるまいか。

 私は山崎豊子を考えると五味川純平を思い浮かべる。この二人の作家は私の中では対になっているところがある。どちらも戦争に関連する日本人の重要問題をテーマとして追求した作家だ。文壇批評からは常に無視されたが、作品の力で多くの読者を獲得し、不抜の地位を確立した点も共通している。

 実は私はまだ山崎の実作を読んでいない。だから作家としての評価はまだできない。第一作の『暖簾』から読んでいこうと思っている。山崎の真価を知るのはこれからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ