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エッセー拾遺 ― 文芸誌のコラムから  作者: 坂本梧朗
2000年代

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第68説 昨年後半よりルソー、中江兆民の著作、……


 昨年後半よりルソー、中江兆民の著作、及び関係する研究、評論などを読んでいる。

 ルソーは『社会契約論』の著者として近代民主主義の原点的思想家であり、また近代を生きるに相応しい人間の形成を論じ、描いた作家でもあった。近代はルソーとともに始まるという意味で「近代の父」とも呼ばれている。私は『学問芸術論』『人間不平等起源論』『社会契約論』『エミール』と読み進み、また桑原武夫編『ルソー研究』なども図書館から取り寄せて読んだ。もちろん翻訳で読んだのだが、ルソーの問題把握、そして表現のシャープさは印象に残った。

 『社会契約論』の核心的な思想は、「自然状態」において人間が保持していた自由と平等を「社会状態」においても維持することにあると思われる。そのために「われわれ各々は身体とすべての力を共同のものとして一般意志の最高の指導の下におく。そしてわれわれは各構成員を全体の不可分の一部として、ひとまとめとして受け取る」のだ。人民の最高の意志である「一般意志」を媒介とすることで主権者たる人民が国家の構成員でもある人民自身を統治する。この場合、統治される人民は自分自身の最高の意志に服従しているので、ここに「治者と被治者の同一」(高村是 氏の表現による)が実現する。こういう人民主権国家こそルソーの理想だった。「一般意志」は「法」として表れるので、立法者には神的な知性が要請される。

 絶対主義の時代にこういう思想を説くことは弾圧・迫害を招くことになり、ルソーは晩年を各地を転々とする境遇のうちに過ごすことになる。

 さて、中江兆民はルソーの『社会契約論』を『民約訳解』として漢文訳し、日本と中国に普及させた。「民権是れ至理也、自由平等是れ大儀也」を唱え、日本に民主主義を根付かせるために生涯を捧げた。「東洋のルソー」と呼ばれる。彼は「国権」を第一として「富国強兵」路線を推進する明治政府と対立し、日本の近代化のもう一つの道を示し続けた。ルソーの思想はフランス革命を導いたが、兆民は自由民権運動の理論的支柱であった。

 「自由民権の貧乏籤を引き、我国邦にて利益の泉源たる政府の敵に廻は」った兆民の晩年はルソー同様不遇であった。しかし、兆民の思想や人柄は魅力的であり、また彼を生み出した土佐という風土も関心をそそる。当分の間彼と彼の周辺の研究を続けることになろう。

                                 





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