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エッセー拾遺 ― 文芸誌のコラムから  作者: 坂本梧朗
2000年代

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第65説 音楽と私

 私は音楽が好きな部類に入ると思う。小学生の終わり頃(あるいは中学生になっていたか)、姉と歌を二曲作った。私が詞を作り、姉が曲を作った。その頃ビートルズ旋風が日本に上陸。音楽について何も知らない私の耳にも彼らのサウンドは新鮮に響いた。加山雄三にも当時かなり入れ込んだ。クラシックではドボルザークの「新世界」。父が買った最新型のステレオの前に座り、日が暮れて室内が暗くなるまで聴き入った記憶がある。グループサウンズ、フォークソングの波を浴び、大学に入った私を迎えたのは尾崎紀世彦「また会う日まで」の大ヒットだった。その頃、通り道に面した質屋のショーウインドに置いてある白いギターが欲しくなって買った。コードのいくつかを練習したが、ものにならぬまま途絶した。

 帰郷してからはドラムを始めた。私はリズム感には自信がある。どんな曲でもリズムのある曲なら、聴いていて自然にリズムが取れる。ヤマハのドラム教室にも通った。十六ビートまで叩き方を教わった。これも気まぐれに通っただけで、これという成果もなく、短期間で終わった。

 それ以後の音楽との関わりは酒場でカラオケを楽しむくらいになった。これは私なりに前進してきているように思う。私の歌をほめてくれる人も増えたし、私自身、歌い方のコツをいくつか覚えた。この時期は長く、ギターは押入れに入れられ、ドラムセットは実家の屋根裏に放置されたままとなった。手の指と拳でリズムを取るやり方も、左手は退化して動きが不自由になってしまった。カラオケ酒場で、箸をスティック代りにして他人の歌のリズムを刻むという形で私のドラムは息をつないでいた。

 数年前、ずっと使わなかったステレオセットを中二階の部屋に移し、CDも聴けるようにプレイヤーを接続し、月に一回か二月に一回、レコード、テープ、CDを交互に聴いている。購入してから二十年になるステレオセットだが愛着があり、どの機能も使ってやることが寿命を延ばすことになるという思いで、そんな少し忙しない使い方をしている。ギターも昨年出してきた。弦が一本切れかけていたので替えるつもりが、近くに楽器店がなく、そのままになっている。とんとご無沙汰のクラシックだが、百円ショップで「名曲シリーズ」のCD十枚を買い揃え、一年近くかけて聴き終えた。ドラムを実家から持ってきたい思いは久しいが、なかなか実行とならない。

 音楽は私にとって寛ぎ、或いはゆとりの象徴だ。しかし、隣家の庭のように、すぐそばにあっても入り込むことは難しい。


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