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エッセー拾遺 ― 文芸誌のコラムから  作者: 坂本梧朗
2000年代

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第51説 生命の生産と再生産は……


 生命の生産と再生産は人間のみならずあらゆる生物の活動の基本を形作る営みだ。生命の生産とは生殖活動であって、人間の場合は男女の恋愛、結婚という形で行われる。(愛なき結婚、あるいは婚姻外の出産などの例外はもちろんあるのだが。)生命の再生産とは生命の維持・継続のための活動であって、人間の場合は衣食住のための経済活動がそれに当たる。私は現在の社会の性的状況について述べようと思うのだが、性の問題は生命の生産と直結する問題なのだ。

 現在の社会の性的状況を考えるとき、性産業の隆盛に注目しないわけにはいかない。ソープランド、イメクラ、テレクラなどのいわゆる風俗営業、映像、音響、写真、漫画、活字など様々な媒体を使った性的情報の販売、これらの性産業は現在空前と言える規模で隆盛を極めている。そしてその影響は広く深く日本社会をとらえ始めた。その現れが地位も分別もある大人が起こす性的犯罪の多発だ。裁判所の現役の判事が淫行罪や痴漢行為で捕まっている。教師や警察官の性的な不祥事はもはや珍しくもなくなってきた。これらの事件から窺われることは、これらの大人たちが日常的に性的な刺激に晒され、その欲求の充足に駆り立てられていること、そして性産業によるバーチャルな充足を繰り返すなかで、現実と非現実とを分かつ意識が低下してきているということだ。

 大人の分別をさえ眩まし、一身の破滅に追い込む現在の性状況の猛威は、未成年者に対しては、彼等が成長途上にあるという点で、その心身に甚大な影響を与えていると考えられる。「援助交際」という本質隠蔽の名辞は批判を浴びたが、少女売春はその後も広がりこそすれ、少しも下火になってはいない。全国どこにでも存在するようになったレンタルビデオ店ではAVアダルトビデオが売上げの大きなシェアを占め、そこに出入りする未成年者も数多い。AVによって始めて男女の性の関わりを知るような子供たちも増えてきているのではないか。商品化された性は多かれ少なかれ性が本来持っている健康な逞しさを失っている。それを本物のように知性や感性に刻印した子供たちが大人になったとき、どんな社会が現出するのか。

 最初に述べたように、性は人間の活動の原動力をなす重大事だ。そこに利潤の一大源泉を性産業は見出だした。性の商品化の広く深い浸透は、それが人間存在の根底に関わる問題だけに、思いのほかに深刻な影響を日本社会に及ぼすかも知れない。


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