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エッセー拾遺 ― 文芸誌のコラムから  作者: 坂本梧朗
1990年代

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第28説 オウム真理教の事件には……

 オウム真理教の事件には現代社会の病相がよく映し出されている。その意味で、オウムはまさに現代社会の歪みを映す鏡と言える。 

 先ず第一にその非合理主義があげられる。宗教にはどれも非合理的な面があるが、オウムは空中浮揚などの超能力を目玉にしたところにそれが強く出ている。現代社会はマスメディアが発達し、大量の情報が飛び交っている割には物事の真実の姿がみえてこない社会である。それはマスメディアが真実を伝えるというより、一つの情報操作の役割をしているからだ。マスメディアの流す情報は偏った傾向性を持つ上に、常に断片的で、一過性であり、それによってはある事象をその全体的な姿でとらえることができない。むしろ個々に分断された事象を脈絡なく羅列することで事象相互の連関を隠蔽する作用をする。人々はこうした情報の氾濫のなかで、一つの事象を合理的に考察し、事象と事象との間にある合理的連関を見出だそうとする志向を減殺される。対象の合理的整合性を吟味するよりも、その時々の自分の主観に合うものを是として受け入れてしまう傾向が強まる。こうした状況を土壌として、オウムは勢力を広げたのだ。 

 第二は短絡的な効率主義である。オウムは自ら予言した「ハルマゲドン」をサリンなどを使って自分で引き起こそうとしていた。オウムの千年王国を手っ取り早く実現してしまおうという発想である。また麻酔剤やLSDを製造し、それを信者に飲ませたり、注射したりしていた。信者を手っ取り早く支配下に置くためである。ここに見られるのは回路が二つも三つもぬけた短絡思考であり、即効性を求める効率主義である。そこにはプロセスより結果だけを重視し、できるだけ手間隙かけずに、しかも最大限の利益実現を図る貪欲な現代の企業社会が顔を出している。

 第三には良心の麻痺であり、エゴイズムの全面展開である。自分の立場を正当化するためには、彼等はあらゆる虚言、詐術を用いて恬として恥じるところがない。彼等の教義は殺人も正当化していた。オウムのこの側面には、有権者への公約などはゴミのように投げ捨て、政権欲のために二枚舌、三枚舌を使いながら、醜い離合集散を繰り返す政治屋たちの姿が重なってくる。

 最後にオウム関係者に高学歴者が多いという問題である。優秀な頭脳の持ち主がなぜこのような非合理集団に加入し、荒唐無稽な殺人計画に没入していったのか。ここには偏差値教育の弊害が端的に出ている。彼等の頭脳は偏差値支配下の受験教育によって「鍛えられた」頭脳である。与えられた知識を順序よく覚え込むのは上手だが、物事を真に考え抜くのは不得手だ。自分の頭で自主的に思考する訓練を経ていない頭脳は、他人が与える幻想に容易に呑み込まれてしまう。オウムの事件は偏差値型頭脳の脆弱さを露呈するものとなった。


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