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エッセー拾遺 ― 文芸誌のコラムから  作者: 坂本梧朗
1990年代

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第26説 名詩鑑賞

 抒情詩にはむかない時代

          ベルトルト・ブレヒト

むろん知っている、幸福な者だけが

好かれるのだ。かれの声は

耳ざわりがいい。かれの顔は上品だ。


庭の畸形の木は

土壌のわるさを暗に語る、しかし

通りすがりのひとは木をそしる、不具と。

しかたがない。


みどりの小舟とか海峡ののどかな帆とかを

ぼくは見ぬ。ぼくが見るのは

漁師たちのぼろぼろの漁網だけだ。


なぜ、ぼくの語るのはただ

四十で腰がまがる、土地をもたぬ農婦のこと なのか? 

少女たちの乳房は

むかしのようにあたたかいのに。


ぼくの歌に韻が添えば、ぼくは

許せぬうわっ調子とさえ感ずるしまつだ。


ぼくの内部であらそうものは

はなざかりのリンゴの花への陶酔と

うそつきやろうの演説と。

だが、第二のものだけが

すぐさまぼくにペンをとらせる。


 野村修訳「ブレヒト詩集」飯塚書店刊より

《解説》

 オイゲン・ベルトルト・ブレヒト(一八九七ー一九五六)。ドイツの劇作家・詩人。

 「名詩鑑賞」が分担ということで、さて、誰の、どんな詩を、と考えたが、浮かんでくるものがないまま年が明けて、プールで初泳ぎの後、シャワーを浴びている時、ブレヒトが浮かんだ。この時間に何かが閃くというのは私にはよくあることだ。ああ、そうだ、ブレヒトだ、と思った。それは懐かしい名前だった。学生時代、一冊のブレヒト詩集を読んだ。そしてその詩の世界に共感と親しみを覚えた。早速、昔の本のストックの中からその詩集を捜し出し、読み返した。久しぶりのブレヒトとの再会だった。やはりよかった。学生時代と同じように、あるいはそれ以上に共感し、頷いた。そして漠然とは感じていたけれど、ブレヒトの詩に自分が影響を受けていたことを確認した。

 ブレヒトは批判的なリアリズムの思考態度からマルクス主義の立場に進み、ナチスの政権奪取後は国外に亡命した。以後十五年間、フランス、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、アメリカと各地を転々とする生活を送りながら、民衆の立場に立った劇作・詩作を続けた。晩年は故国に帰り、旧東ドイツの地で没した。代表作に戯曲「三文オペラ」「肝っ玉おっかあとその子供たち」などがある。

 掲げた作品には彼の創作の立場がよく出ている。












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