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第九十五話

続きです

「結構来たな」


もう王都の外壁は、遥か遠くに霞んで見えなくなっていた

俺は全く乱れる事無く、整った息でひとつ深呼吸をする


「やっぱり、大自然の中は空気も澄んでるなぁ」


人だかりの中で温もり澱んだ都会の空気とは違い、自然の中は風の通りが違うのか、鼻腔から喉を通り気管へと通り抜ける空気を、温度感覚で感じる事が出来た


「隊長さんも、良いところで降ろしてくれたし」


王都とは真逆の方向を見る

視力には自信がある俺の眼には、さっきまでよりもその輪郭を確かにした山々が映っている


「まだまだ体力には余裕があるし、腹が減ってこない内に山に入れる様に動かないとな」


山野に入れば、最悪毒の無い植物を探して食べればいい

動物も居るだろう


「こっちだと魔物になるのかな?」


とにかく、先ずは山に入ろう

どうせ帰る道は無いのだから

ここでグダグダしているよりは建設的だろう


「じゃあ、用意……」


俺は自分の言葉を合図に、全身の力を抜く

然る後に必要な位置、向きに必要な量の力を入れる


ドンッ!!


心の中でそう叫ぶ

ほぼ同時に、目に映る景色が崩れ去る

コーヒーにミルクを注ぎ、混ぜ始めた状態の様に

或いは数色の飴を溶かし伸ばしている時の様に


世界は完全に色とりどりの線を重ね合わせた前衛画と化し、きっと前から後ろへと流れてはその姿を取り戻しているに違いない

それを俺が認識するのは、まだまだ先の話になる


可能な限り無挙動に近い縮地

その連続使用による、超が付く高速移動

かつては、これよりまだ幾らか未熟な縮地で、百キロ程は無休息で移動可能だった

ただし、直線で

時間も20分くらい掛かったが、今回はどうだろうか


速度は、体感では大分遅くなっている様に思う

凡そ三分の二程度か

恐らく、連続使用も回数が大幅に減少しているだろう

一回ごとの跳躍距離はもちろん短くなっているのだから、最終的な移動距離も短くなる


だが、これでいい

近距離戦技術としての縮地なら、無挙動であるという点は何よりの強みになる

また、副次効果の着後攻撃転換の速さは、更にその強みを補強してくれる


また、今だけの話だが、普通に長距離走しても俺の身体には十分な負荷を与えるには至らない可能性もある

同じ10キロの重りでも、重量挙げの選手が持つのと赤子が持つのでは、身体に掛かる負荷は桁違いだろう

その辺りの違いを計る為に、比較手段は幾つか必要になる


無限に計測し続けられるとも限らないのだ

そういう意味では、この連続縮地移動も無駄なのだが、目的地に早く着くにはこれが最適というジレンマもある

細かく計測して、その辺りは概ねの理解に留めてもいいかもしれない


「ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……」


少し息が乱れて来た

思考にもエネルギーを費やしているからか、それとも単にこの辺りが体力的な峠の一つなのかは判らない

だが、まだまだ行けるのは間違いない

尤も


「多分、もうすぐ山の麓に付くはず」


横の景色は流れて消える川の様で捉え様が無い

だが、真正面の一点は違う

流れの起点のその一点は、未だ俺の認識の中でその形を保っていた

その形が俺に教えている

目指す場所はすぐそこだと


体感時間で10分程だろうか

かつての移動速度が大体時速300㎞程度である事と、その三分の二程度の速度であるとの体感に従って、今回の移動速度は約時速200㎞とすれば、大体17㎞から16㎞を移動したと考えられる


長距離移動手段としては、無挙動縮地は落第と言わざるを得ない

必要に迫られた時は、以前の縮地による移動が好ましいだろう


さて、感覚に従って止まったところは、大体望んだ場所の範疇内だった

目指した山の麓は、大体がそうなのかもしれないが、木々が生い茂り、侵入者の行く手を阻んでいる

もう数秒止まるのが遅ければ、木々を避けきれず正面衝突していたかもしれない


「これだけ森が広がっていれば、山に登らなくても生活出来るかもな」


米原の爺さんが居れば、狩猟生活を一緒に楽しんでもいいかもしれない

年の功の成果を授けてもらえるかも、と妄想したところで邪魔者が闖入してくる


「ゴブリンか……」


非常に懐かしく、それでいて因縁のある相手

且つては油断から脇腹に傷を負わされ、怠惰から焼き殺されかけた

あくまで野生種である為、恐らく魔法は使ってはこないだろう

だが、最初に相手をした幼生体よりもいくらか成長した様子のそいつは、且つて持っていた武器を棄て、指先の爪と口腔の牙を主張する様な出で立ちで、俺の側面に躍り出て来た


「森の中まで追って来られても面倒だしな」


最悪、モンスタートレインの様な状態になっては面倒だ

この中にも魔物が蔓延っているのは間違いないだろう

ならば、ここでの後顧の憂いくらいは断っておくべきだ


「そうと決めれば……」


俺は、爪を動かし牙を光らせるゴブリンに向き合い、腰を落として両手を腰溜めに引き込む姿勢を取る

完全な待ちの戦術だ


今の俺なら、先制して即座にその細首を圧し折れる

その絶対的優位性を放棄して、この戦術を取る理由は一つ

ここで且つての雪辱を果たし、精神面でも後顧の憂いを断ち切る為だ


「――――――――ッ」


何と言っているのか不明な、言語化出来ない叫び声を上げるゴブリン

俺の構えを腰が引けたと取ったか

それとも、単に襲い掛かろうとしたタイミングが偶然重なっただけか


俺が腰を落とすと同時に、その細い手足をバタつかせて走り寄って来た

あまりにも無秩序的なその動作に、細かな予測が不可能になる


(……)


しかし、俺の思考は乱れることは無い

整然として、徹頭徹尾意図の通った動作というのは、寧ろ極めて珍しい

大抵が、その時その場合に即応して、大小の変化を連続的に行っているものだからだ


だが、その変化も近づくにつれて、その振れ幅が小さくなっていく

まさか、手の届く位置でいきなり反転などしないし、大きく横に逸れる事もない

そんな事をすれば、ただの的になるだけだからだ


よって今、目前に迫るゴブリンの取る戦法は大きく一つだけ


「―――――――――ッ」


言語化出来ない雄叫びと共に、大きくその手の爪が振り下ろされる

狙いは無防備に晒された俺の胴体前面

向きから推測して、袈裟に搔き裂くつもりだろう


「ふっ!」


俺はそれを思考より先に直感すると、その袈裟懸けに振り下ろされる手の側面を押して、その勢いを殺さずその向きを大きく横へ逸らす

結果、ゴブリンの爪は俺の眼の前を空しく通り過ぎ、そのまま虚空を切り裂く音だけを響かせるに終わった


俺は次の攻撃を待つ


本能とは戦闘技術の宝庫である

生きる事は戦う事である以上、その根源には戦う方法が当然の様に刻み付けられているのだ

知性の低い野生生物ならば、その表出する戦闘技術と意欲は知性ある生物の比では無い

彼らにとって、戦いを止めるという事は死を意味するからのだから


一度明らかに攻撃を無効化されたにも拘らず、ゴブリンの攻撃の手は緩む事は無い

攻撃を止めれば、そのまま死へ向かうしかないのだから


空しく振り抜かれた手を翻し、今度は俺の首筋にその爪を突き立て引き裂こうとする

鮮やかな連続攻撃だ

戦いに適した身体は、そんな動作も滑らかに行う事が可能となる


速度は大したことは無いものの、大きな遅滞無く放たれる二撃目

これを逸らす事は、軌道的に難しい

俺はそれを考えて理解する前に、その返された手を、動き出す前にその動きを潰すべく手を伸ばす

硬い爪だが、その根元には柔らかい指と手のひらが広がっている

そこを狙って、俺は優しく手のひらを重ねた

結果、返された手は動き出す事が出来ずに、不自然な形でその込められた威力を空転させられた


俺は、飛び上がった状態で振るった二連撃を無効化され、次の行動を取れなくなったゴブリンの腹を押して突き飛ばした

純粋に突き放す為の行動である為、恐らくダメージは無い筈

今の俺の攻撃力では、ちょっとした攻撃で敵は即死してしまう

それは、ちょっとよろしくない


「もう少しだけ付き合ってくれよなぁ」


雪辱もそうだが、今の俺がどれだけ動けるのかも確かめておきたい

ここでこいつが現れてくれたのは、そういう意味では幸運であった


「―――――――」


低く唸るゴブリン

その声は、やはり人間が定義する形式の音声としては認識できない

だが、その野性は確実に自らの不利と、何より侮られた怒りを感じていた


対する俺は、その怒りを当たり前と受け止めながら、なお侮りを止めるつもりは無い

こいつは戦士では無い、獣だ

誇りも無く信条も無く、ただ生きる為に襲い奪い喰らうだけの生き物


それを悪とも恥とも思わないが、ならばこそ

侮られる様な弱者であるお前が悪いのだと、そう思う


襲い掛かって来るゴブリンを、都度いなして突き放し続ける

何度か、勝てない事を痛感したのか逃げ出そうとするも、その度に直接間接の牽制を行い妨害する


「――――――――……………」


傷一つ負わされずに、しかしその心身に見えない傷を無数に負わされ、戦意を喪失しながらも戦いを止め逃散する事を許されない

今目の前に居るのは、そんな実に哀れな姿を晒した小さなゴブリンだった


その無残な有り様に、胸の透く様な想いは……

全く湧いてこない

在るのは、妙に痒いのに掻いても掻いている感じがしない、そんな気分

くしゃみを出そうになって、途中で止まってしまった気分と言い換えてもいいかもしれない

ただひたすらに苛立っていた

当然、相手はこの哀れな小鬼ではない


「………何してんだろうな」


雪辱などと仰々しい言葉を使っても

自分の能力確認などと大義名分を掲げても

している事はただの弱い者苛めに過ぎない


俺は強い自責の念と、自己の行いに対する羞恥心から目を背ける様に、ゴブリンに背を向けて森の中へ踏み入った

置いた荷を拾い上げる時も、歩きながら身体を解している間も

ゴブリンがその背に襲い掛かって来る事は無かった


この回では何も言う事はありません

例えば縮地による移動法ですが、その内それを上回る移動法が出来るので、まあ直ぐに使われなくなりますね

そもそも、団体さんの場合は使い様が無いですし


ゴブリン幼生体との遭遇戦ですが

弱い者苛め、ダメ絶対

それだけ


次回投稿は8月7日です

本格的に暑くなってきました

デオドラントに気を遣って、他人に不快な思いをさせない様にしよう(自戒)

愛用のメンズビオレのボディシャンプーが切れそう……買ってこなきゃ

なお、シャンプーはサクセスの模様 エクストラクールで爽快

そして洗顔料はオキシー

見事にバラバラやね

共通点は安い事

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