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第九十四話

長いです

前話と合わせて、何時もの三倍あります

上手く分けられなかったので、凸凹な字数での投稿となりました

ここは王都を取り囲む外壁に設けられた、数ある門の一つ

そこを潜る、王都でも最大級に大きな道路である


「ええと……ここを出るにはどうしたらいいんだ?」


俺はこんな初歩でいきなり躓いていた

当たり前だが、こんな長大な壁で取り囲んだ街への出入りは、厳しく管理されている

門の辺りを見ただけで、あっどうもご苦労様です、と軽い気持ちで出られない事が判った


「………行って良し!!次!」「………ここ、申請に不備があるな。不許可!」「………荷を検める!」


大きな門の中を通る道は、どうやら幾つかの車線に分割されて運用されているらしい

同時に何台もの車両が門に近づき、何やら兵隊の審査を受けている

書類申請が必要なのか、道路の脇にはズラッと備え付けの長机が並び、そこで筆記具で何かを記入している様が見て取れた


行き交う車両も、荷車や人を運ぶ客車など、その大小まで含めて種々様々だ


そして、何より重要なのが


「歩いて通れないのか……」


明らかに歩道らしきものが無い

これはあれだ

大きな橋を渡ろうと近づいてみたら、歩行者通行禁止だった時の気分だ

原付バイク通行禁止でもいい


「ちょっと不便過ぎないか?」


とはいえ、確かに人や物の出入りを厳格にするのは、保安の面では非常に有効な手段だ


「仕方ない。外に出る客車を「あれ?サトルかい?」……ん?」


愚痴を言っても何も始まらないので、正規の手段で街を出るべく、客車を探そうとしたところで、唐突に俺の名前を呼ぶ声が聞こえた


振り返った先に居たのは


「リチャード?」


何やら物々しい取り巻きを従えた、見慣れたモヤシの姿だった

改めて実感するが、この世界の奴らは線が細い

お前らちゃんと飯食ってんのか?とか、ちゃんと鍛えてんのか?とか思ってみていたが、今なら理解出来る

こいつら鍛えるとかした事無いんだな、と


「どうしたの?城外に出るなんて珍しいね」


何時ものおどおどした感じが微塵も見られない、凛とした立ち居振る舞いだ

言葉もたどたどしくなく、自信に満ちている


「……お前、本当にリチャードか?」


今は就業時間外なので、普通に話す

それを差し置いても、俺の物言いはひたすらに無礼極まるものだろう


「貴様!こちらに居られる方が、この国の財務を一手に取り仕切る財務大臣であると知ってのその言葉か!!?」


何だかご老公様か八代将軍でも居るみたいなその言葉に、思わず笑いそうになる

そんな面白い事を怒りに染まる仁王の形相でがなり立てるのは、リチャードを取り巻く何やら甲冑でゴテゴテした、硬そうな連中の一人だった

因みに、その他も怒りに燃え、そして皆一様に線が細い


「ああ、彼は良いんだよ」


そんな怒り心頭に発する面々を、冷静に宥めるリチャード

その姿は、成程大臣と言い表しても何ら違和感を覚えないだろう

普段の姿を知っている身としては、別人の変装説を提唱したくなる有り様だったが


「それで、こんなところで何をしているんだい?今日は休みの筈だけど……」


「ああ、別に仕事で来た訳じゃない。ちょっとの間城を空ける事にしてな」


「へぇ……そうなのか」


「ああ、そうだ。それで、外に出たいんだが、何分初めてだからな。少し戸惑っていたところだ」


ここに居る理由を訊ねられたので、その理由とここでの経緯を話す

別に、多少の恥を晒したところで気にならない相手である事も、正直に話す上で幸いした

もしかしたら、口利きでもしてくれるかもしれない、という下心があった


「そうか……そう言えば、サトルが外に出たのは一回きりだったね」


「そうだよ。だから、右も左も分からない状況に右往左往してるわけさ」


肩を竦めて、冗談交じりに話す

それに応える様に、リチャードも肩を竦めて応酬する


「君らしくも無い失態だね。しっかりと下調べをしないからだよ。この程度、直ぐに判る事なのに」


「………まあ、そうなんだけど」


痛いところを突かれてしまった

俺は、じっと見詰めてくるリチャードの視線に耐え切れず、視線を逸らす


「ふぅ……まあ、それだけサトルが逸る用件と言うのも、大体想像がつくけどね」


呆れた様に一息吐くと、リチャードはその視線を外す

そして、呆れ半分といった声色で、そう言った


「サトル。僕はこれから大事な仕事でね。残念だけど、君に色々と教授する時間は無いんだ」


わざわざそう言うという事は、俺の下心は見抜かれているのだろう

少し気まずい心地になる


「陛下なら手続きなしで素通り出来るんだけどなー。まあ、客車は城で審査して免状を与えているから、どれを選んでも不安は無いよ。じゃあ、戻ってきたらお茶しようね~」


こちらの様子など知った事かと、一方的に捲くし立てて

リチャードは、取り巻き達を促して去っていった

その先には、門の脇に在る兵士の詰所


「………いや、そこ行くなら、口利きくらいしてくれてもいいんじゃないだろうか」


とは思うが、それはただの子供の我儘に過ぎない

俺も一応は仕事を得た社会人だ

社会の歯車の一つとして、折り目正しく回るとしよう


「そういえば、妙な事を言ってたな。陛下ならって……」


わざわざ言う必要があるか?

そもそも、権威で言えばその下の大臣達も、下っ端からすれば変わらないだろう

僕なら手続きなしで、と言うなら理解出来るが、おっさんの名を持ち出したのは何故か


「そういえば」


貰ってからずっと手放さずにいたソレを、懐から取り出す


「こいつは国王の勅命を受けている証拠だって話だったよな」


剣が交差した形の印が刻まれた、円形の金属板を見る

これを渡された時、こう言われた筈だ


「これを持っていて、入れない場所はこの国には無い」


俺は門を、その前で勤勉に職務に精励恪勤する兵隊たちを見る

その姿は、成程この国を文字通り腕力で支える、縁の下の力持ちだ

実に頼もしく、それでいて嫌われ役なのだろう


そんな彼らを、俺はこれから嘲笑い蹂躙する

真面目にお勤めご苦労様ですと言いながら、葵の御紋の入った印籠ならぬ、国王の勅命の証の印章を掲げて押し通る訳だ


実に悪辣である

が、妙に楽しい心持ちになるから、人間の心とは不思議なものだと思う


「いや、普通に並んで、通してくださいとこれを見せるだけだけどさ」


そんな悪質な事、する訳無いじゃないですか


「並ぶのはあっちで良いのかな?」


審査時点で書類の不備云々って言ってたから、あの列に並ぶ為に書類提出を求められるって事も無いだろう


「………一応、文句を付けられたら大人しく従うとしよう」


順序を乱してまで、早く出たいとは思っていない

割り込み、ダメ絶対


列の最後尾に並ぶ

何も言われなかったので、そのまま順番を待つことにした


(最近、列に並んでばかりの気がする)


元々、行列のできる店とか遊園地のアトラクションとかは好きではない

米原の定食屋は客が多いが、言っちゃあ悪いが所詮は街の定食屋だ

行列が出来るなんて事は全く無い

その代わり、相席は普通にあるが、そんな事は全く気にしない俺は、これまで米原の定食屋で待たされた経験は無い


流石に購買は並ばなければならないが、鷹の目おばさんが目を光らせているので、実に円滑に列が消化されるため、これも待たされているという感覚は無い


そう思い返せば、明確に行列で待たされたのは今朝が初めてのことかもしれない

そして、今日だけで二度目の待ち惚け


「…………」


こういう時に、何をすればいいのかが解らない

ただ突っ立って待っていればいいのだろうが、実に手持ち無沙汰だった


(もう一度、これからすべき事を再確認してみるか)


それが今最も有意義な時間の潰し方だろう


先ず最初にすべき事は、自らの再強化

いや、既に全盛期の身体能力は一部超えていると感じているので、今の己の限界値を探る事だろう

そこまで辿り着く間に、どうやれば強化されるのかを模索する


恐らく単純な筋力トレーニングで強化可能だろうが、それだけでは強化出来ないであろう項目が幾つも存在した

その最たるものが、魔力である

魔法力、抗魔力、運勢力と併せて、オカルト四天王と呼称してやろうか


本物のサイコキネシスを見た事がある俺は、そういったスピリチュアルな力を否定しない

そもそも、俺自身が魔法に痛い目を見せられたクチだ

だから、それらを侮りはしない


しかし、侮らないという事とそれを鍛えられるかという事は、全く別の問題だろう

そして、更にその問題に拍車をかけるのが、魔力の値は大きく上昇しているという事実だ

抗魔力も僅かながら上昇していたが、それ以上に大きく上昇していた

魔法力は全く上がっていないのにも関わらずだ


その三者に相関性があるのか、という事すら不明なのだが、全く理由不明の数値上昇に、俺は自説の正当性すら疑ってしまいそうになる


こんな具合に、そもそも鍛えられるのか?という疑問を抱く身体能力値も存在している事が、俺のやる気を、削ぐやら燃えさせるやら


「おい」


そう言えば、下準備が足りないって言われたばかりだったが、どこで鍛錬しようかとか全く考えていなかった

ただ、城でするのは拙いだろうとしか考えていなかったので、具体的な場所の選定すら行っていない事に、今更ながらに気付いてしまった


とはいえ、その辺は何とかなると思ってもいる

この世界は、現代国家の様な精緻な領域化が成されていない

今の町を出たら既に隣町、などという事が無い


王都を出たら、そこに広がるのは野生の世界

手付かずの魔物の世界があるだけだ

ならば、人の居ない広大な場所など、幾らでも見付ける事が出来るだろう


「おい!聞こえないのか!!?」


「……何だよ、誰だよ……考え事もさせてくれないのか」


どこぞの誰かが、この怒鳴り声の主の呼びかけを無視しているらしい

先程から五月蠅くて敵わない


「お前の事だ!そこの徒歩で並んでいるお前だ!」


それは何とも奇遇な事だ

さっきまで眺めていた限りでは、みんな車を牽いて並んでいた筈だ

審査を済ませれば、そのまま門を潜るのだから当たり前だろう

つまり、この列には奇特な事に、徒歩で街を出ようとしている人が俺以外にも居るという事になる


「案外普通なのかな?徒歩で街を出入りするって」


これは一本取られた

現代日本にも、車通りが異常に多くなる時間帯というのが在るが、この門では今が正にその時間帯だったのかもしれない


「それで?何で、こんな近くで呼び掛けるんですか?」


きっとその呼ばれている人は、何か大事な手続きをすっ飛ばしてここに並んでしまったのではないか

それで、それを見咎められてしまっているのだろう

哀れなあわてんぼうの御仁は、きっと列を出されてその手続きをやり直させられる事になる

そして、またこの長大な列に並んで待ち惚けを食らうのだ


だから、俺には関係ないその人に呼び掛ける為にこんな間近まで迫って来ないでほしい

俺には関係ない筈なのだから


「いや、お前の事だよ」


「………勘違いでは?」


今、明らかに目を合わせて「お前だ」と言われたが、きっと俺の背後の人に言ったに違いない

或いは、俺には見えないスピリチュアルなビーイングに焦点を合わせていたのだろう

流石に俺も、幽霊の類は見たことが無いな

一度お目に掛かりたいものだ


「勘違いでは無い。お前、なぜ徒歩で並んで居るのだ?車は?」


どうやら、勘違いをしていたのは俺の方だったらしい


「徒歩では街は出られませんか?」


とにかく、今は状況の主導権を握る事に注力する

現況は、相手が圧倒的に優勢だ


「出られんぞ。そもそも、無意味な事だからな」


………どうやら、俺は詰んでいる様だ

ここから逆転勝利するルート構築が欠片も思い浮かばない


「無意味、ですか?」


なので、せめて情報の収集に努める事にする


「うん?お前、何を言っているんだ?そんな事は常識だろう?」


常識であるらしい

ここで食い下がって、不審者扱いを強めてしまうのは避けたい


「潮時か……」


「おい、お前……まさか昨晩の「これを見ろ」あ?…………そ、それは」


諦めて、もうさっさと通り抜けてしまう事にしたと同時に、この目の前の兵士がちょっとよろしくない勘違いをした

俺はともかく、おっさん達はそれを大っぴらには知られたくない様子だったので、早々に伝家の宝刀を抜く


「俺はこういう素性の者だ。街を出たい、その様に計らってくれ」


この列、車が並ぶその性質上、車間距離は大きく開いている

なので、これを余人に見られる心配は無いし、今の言葉も聞こえない程度の大きさでか話していない


「……も、申し訳「あまり人目に付きたくない。騒ぎにしてくれるな」っ……こ、こっちだ」


俺の、というより、国王の使者への妨害行為を犯してしまった事への謝罪が、出る前に押さえつける

それをしっかり汲み取って、丁寧にならない様にという慎重さが窺える、平静な態度で先導する兵士


(人目に付きたくないとか、どの口が言うんだか)


自分の迂闊さに失笑してしまう

これを使うと決めた時点で、適当な兵士を捉まえて取り次がせればよかった

そう、今更ながらに思い付き、反省する


「ああ」


なので、彼を責める気は全く無い

その言動も、状況からすれば全く問題にならないものだ

個人の感情は不快だと訴えているが、それは元を辿れば原因は俺にある

彼は、俺の失態のあおりを受けてしまっただけ


素直に従い、彼の背に続く

失態を恥じているのか、叱責を恐れているのか

その背中は、見ていて痛々しいほど沈んだ気鬱な感情が滲み出ていた


「貴方は、ここの兵隊さんですか?」


流石にこれは申し訳無さ過ぎる

少し慰めておこうと、その落ち込んだ背中に声を掛けた


「え!?え、は、はい……」


緊張しているのが判る

無理も無かろう

組織的にどの程度の立ち位置かは知らないが、俺は最上位の意を受けている

彼にとっては遥か高みに見上げる相手なのは変わらないのだ


「私は城を殆ど出た事が無いのですが、ここは何時もこんなに賑わっているのですか?」


いきなり「大丈夫ですよ」などと言っても、おためごかしとしか思われないだろう

少し、こちらの話を受け入れやすい関係性を築く必要がある

その為に、先ずは雑談から始める

その際、自分の常識知らずにも理由を付ける事を忘れない


「はい。ここは三つある門の内のひとつで、北西方向への道に直通していますから」


「そうなのですか……そうなると、お仕事も大変でしょうね」


ひとつ、地勢的な情報を入手した

この国は北と西方向に拡がっているが、どうやらこの王都から北西方面には重要な街が多い様だ

そうで無ければ、大きな道を造る意味は無い

広ければそれだけ人が住める領域が増える

狭くとも重要な街が複数存在すれば、やはり人は多いだろう

それだけ、輸送路は太く大きくなるのは、物の道理である


「そうですね……ちょっとの書類の不備くらいは見逃せとか、いつも通っているから審査を短く済ませろとか。滅多にない事ですが、強引に押し通ろうとする者も居ますから……楽では無いですね」


「それでも、しっかりとお勤めなさっている。素晴らしい事ですね。貴方の様な頼もしい方に居てもらえれば、この王都の玄関は安泰ですよ」


決まった

仕事の上の事であり、そしてその仕事を褒めちぎる

これで、さっきの事は気にしないでもいいと伝わる筈だ

最低限、俺が気分を害していない事だけでも伝わればそれでいい


「い、いえいえ!そんな!お、畏れ多い!」


沈んだ声色も、今は力強く、自信に満ちている様に聞こえる

どうやら、慰めるのは成功したらしい

立場が上だと、実に楽な仕事だ


「あ、こちらです。自分には、お通しする権限が無いので……ここに居る隊長にご指示を頂戴したく」


「承知しました。お忙しいところを申し訳ありませんが、取り次ぎをお願いします」


「了解しました。先ずは中へどうぞ」


連れて来られた小屋

その扉を開き、中へと誘導される

中は意外と広く、どうやら外壁の中に通じているらしかった


「こちらへお掛けになってお待ちください。すぐに呼んで参ります」


粗末な机と椅子を指し、その椅子を引くと、兵士は外壁の中へと走っていった

俺は、勧められた通りにその粗末な椅子に腰掛ける

椅子の軋む音が耳に心地よい


「……しかし、大仰な事になったな」


俺としては、印籠を取り出した黄門様の様に皆が平伏して「うむ、苦しゅうない」と優雅に通り抜ける想像をしていたのだが

そんな絵空事を考えていると、奥からガシャガシャと煩い金属音と足音が響いてきた


「お、お待たせしました!へ、陛下の印章をお持ちの使者殿は貴方様ですか!?」


息を切らしながらも、それを感じさせないはきはきとした口調で訊ねてくるのは、甲冑姿のおじさんだ

兵隊が極めて軽装だったのに対して、恐らく隊長だろうこの人は重厚な甲冑姿でのご登場だ

今着たのではあるまい、そんな時間は無かった筈だ


「はい。こちらを」


そう言って、俺は改めて印章を取り出し見せる

この場には余人は居ない

なので、さっきの様にコソコソとした見せ方では無く、せっかくなので少し目立つ様に目線の高さまで掲げてみる

黄門様の想像をしたから、ついやってみたくなってしまった

流石に、あんなに堂々と突き出して見せたりはしないが


「は、ははー!!」


しかし、それだけでも隊長さんには効果覿面だった様だ

完全に平伏してしまった

甲冑が実に邪魔そうだ

因みに、俺をここまで案内してくれた兵士は、その隊長の姿に戸惑っている

自分も追従するべきなのだろうか、とでも思っているのだろうか

しなくていいよ~


「顔を上げてください。私としては、ただ陛下の御意を受けているというだけの若輩の身ですので、その様に恐縮されてしまうと、非常に居た堪れなくなってしまいます」


「で、ですが。陛下の御意を受けられるほどの地位ある御方なのでは」


「私はただの陛下の臣。貴方と何も変わる事の無い者ですよ。さあ、顔をお上げになって。その有り様では、仕事の話が出来ませんよ」


口調は優しく、今の俺はどこぞの物語の中の好青年だ

自分で演じていて、実に気持ち悪い

こんな出来た人間が、実際に居て堪るかっての


「……そ、そうですか?」


平伏した状態から、チラッと顔を覗かせてこちらを窺う隊長さん

その言動が、何より物語っている

「いいの?」と


「隊長。使者殿もこの様に仰っておられるのですし、何より我らがここで足止めさせてしまう訳にもいかないでしょう。早々にお役目を果たして、使者殿を送り出してさしあげるべきだと思いますが」


「そうか?副長がそういうなら、そうしようか」


どうやら、俺をここに連れてきてくれたのは副長

この隊長の副官さんだった様だ

交渉が円滑だと思ったら、成程立場ある人だったんだな

これはツイていたと言えるだろう

もしかして、今見たら運勢力が上がっているかもしれないな


「徒歩で街の外へ出られると報告を受けましたが、相違ございませんか?」


「はい、その通りです」


「………目的がまるで解りませんが、承りました。ですが、人目に付くのは控えたいとのお話。でしたら、徒歩での外出は再考為されるのがよろしいかと存じます」


………どうも、俺が思う以上にこの国に於いては、街の外を徒歩で出歩くというのは異質に映る様だ

そういえば、最初に魔物を狩りに出た時も、送迎は車でだった

結構な近場であったのにも関わらずだ

理由は不明だが、そういう事なら郷に従うべきだろう


「解りました。申し訳ないのですが、私は城から殆ど出たことが無く、正直常識に疎いところがありまして」


「成程、道理で……あ、いえ、失礼しました」


「お気になさらないでください。自分で自分の非常識さは理解しています。ご迷惑でしょうが、外を自由に歩き回れる様にしていただきたいのです。何か良い方法は無いでしょうか?」


そもそも、おっさんに常識の乖離を熱弁してきたところだ

その時は俺の常識が優位だったが、今回は逆にこちらの常識が優位に立っている

要らざる差し出口をするよりも、こうして知恵を借りるのが一番早いだろう


「……前例が無い事なので、なかなかに難しい事ですが……帰還を考えないという条件で、一つ方法を思いつきました」


物騒な条件だが、とりあえず聞いてみよう


「帰還とは……街に入る際の問題ですか?」


「はい。その時に私かこの副長が門の外に居れば直ぐに判りますが……ご帰還の時期は何時頃になるかは決まっていらっしゃるのでしょうか?」


「不定です。相応の長期間になる事が想定されます」


別に機密という訳では無い

そもそも、この外出は俺個人の考えと都合であって、国家的な企画では無い

なので、いたって正直に返答する


「そうですか……でしたら、やはり帰還は相当に難儀する事になると思いますが……一旦城に戻られて、詳細に協議為さってから、という訳にはいかないのでしょうか?」


「恐らく、帰ってもそう変わる事は無いと思われます。それに、事はあまり猶予が無い事でもありますので」


嘘です

本当は、あれだけ颯爽と出て来たのに、初手で躓きましたとか恥ずかしいだけです

何か、今部屋に帰ったら凄い居た堪れない事になりそうでもある


「でしたら、この方法で今は外に出て、然る後こちらで対応を協議するという事になるでしょうか……行き先は決まっておられるのですか?」


「それも不定です。それを探す為の探索行でもありますので」


この辺は一帯平野部だが、遠くに霞む様に山野部も見る事が出来る

山は修行の聖地だ

生い茂る植物は、飲食住居に燃料、時には薬も提供してくれる

初めから、ある程度の目的地は絞っていたのだ


「それでしたら、定期的にそちらへ迎えの車を寄こす事も難しいですね……ふむ、どうしたら」


この隊長さんはとても良い人だ

こんな面倒事にも、しっかりと都合や起こり得る問題を考慮した上で、真剣に向き合ってくれている

だが、それらはこの場で協議しようのない問題でもある

何せ、事が非常識らしいのだから、恐らく彼の責任能力を超えてしまう事だろう

出る事に関しては、この印章がある以上は彼の責任問題にはならないだろうが、入る際にはこれが事前に示されることは無い

であれば、彼の責任問題に波及してしまう可能性は、十分に考えられる

勿論、俺もおっさん達に掛け合うが、少なくともそれまで彼は周囲に責められる事になる

それは、あまりにもしのびない


「あの、申し訳ないのですが、先程も申しました通り、あまり時間の余裕は無いのです。何せ、どれだけの期間で結果が出るかが不明なので」


彼にこれ以上の心労を与えるのは申し訳ない

こちらの都合で切り上げるという態で、早々に街を出てしまおう


「なーに、この件は三大臣の方々もご承知でして、そちらに話を通していただければ、何とかして下さるでしょう」


なら、おっさん連中に心労を与えるのはいいのか?

勿論いいですよ

おっさんには日頃から鬱積した恨みつらみが……へへへ、丁度いい機会だ

どうせ、おっさんに任せたら他の面々にも塁が及ぶだろう

ならば、もう彼らは一蓮托生のものとして、おっさんの業は皆にも背負ってもらおうじゃないか


「オルブライト元帥閣下もっ、でありますか……」


「勿論です。ここに来る前に両陛下と元帥閣下とも対談しましたし、さっき直ぐそこで財務卿閣下にもお会いしましたので」


「……そう、ですか。いえ、そうですね……陛下の勅命ですからね……ハハハ」


「?まあ、そういう次第ですので。今は早急に外に出していただければ」


「承知しました」


そう言って立ち上がると、副長を残して壁の中、その奥に行ってしまった

俺達は、どうしたものかと待ち惚けを食らうが、直ぐに隊長さんは戻ってきてくれた


「お待たせしました。付いて来てください」


本来の彼は、こうした端的な仕事人間なのかもしれない

非常にテキパキと動き、いかにも有能そうな人物に見えた


「おい!こっちだ!」


隊長さんがあさっての方向へ向かって、指示する様に大声で叫ぶ

その顔の向く方を見ると、且つて見た物がこちらへやって来ていた


「隊長!連絡用魔動車、準備完了です!」


そこから降りてきた若者が、隊長さんに敬礼する

そこは確か運転席だったはずなので、彼がこの魔動車を運転するのだろう

まだ若いのに高給取りなんて羨ましい事だ


「ご苦労!これより定時連絡の為に、南西門へ向けて出発する!」


これに乗って、出るのだろう

なら、俺はこれに乗って南西門とやらへ向かう事になる

しかし、どうやって外に出るのだろう

別の門へ向かうなら、外へは出ないのではないか


「はい!通用門開けー!」


運転手の若者が、若々しい声で命じる

仕事の上の符丁だろう

彼の声を受けた先で、小さな門扉が開かれる

そこは、成程この魔動車がギリギリ通行可能な程度の大きさしかない

多分、これ専用の出入り口なのだろう

つまり、別門への連絡には、一旦外を出て壁沿いに回っていくという事か

確かに、その方が近道に違いない


「では、貴方もご一緒に」


「解りました」


数人しか乗れない小さな車だが、俺と隊長さんが乗るには十分すぎる

先の乗った隊長さんに続く形で乗車する


「待て」


……ところで、運転手が俺を呼び止めた

声色はかなり険悪だ


「……なんでしょうか?」


だからといって、俺まで喧嘩腰では話も出来ないだろう

努めて平静に応対する


「お前は何だ?これは軍の特別車両だ。一般人が乗る車はあっちだぞ」


どうやら、彼は俺が間違えて乗車しようとしていると勘違いしている様だ

ならば、話は簡単だ


「私は隊長の用件のついでに、同乗するのです「嘘を吐くな!」……」


この世界の人間は、人の話に割り込むのが普通なのだろうか

頭から嘘と決めつけられるのも、それは業腹なもので


「嘘ではない。そちらの御仁は密命を受けて街を出られる。その手段を提供しているのだ、問題は無い」


とはいえ、ここには彼の上位者が、俺の味方として居るのだ

何も心配することは無いと分かっているので、苛立ちもすぐに消え去った


「なっ!?そ、そんな!それは確かなのですか!!?」


「お前がその様な事を気にする必要は無い。問題が在れば、その責任は私が取る。いいから出せ」


「ははは、まだ乗っていないので、出発されては困ってしまいますよ」


これ以上、運転手くんに言葉を発されるとよろしくないかもしれない

俺が目立ちたくないと思っている事もだが、彼自身の言動には多分に独善的な性情が見て取れる

彼の今後にも悪影響を及ぼしかねない

ここは、その言動を封殺してさっさと先へ進むべきだろう


「ああ、これは申し訳ない。飾り気のない武骨な車ですが、運転手の腕前は保証しますよ。さあ、どうぞ」


視界の隅で、不機嫌さを隠さなかった運転手が、一転その言葉で機嫌を良くしたのが見えた

やはり、この隊長さんは有能だ


「はい、では失礼して……実は、私今まで一度しか車に乗ったことが無くて……運転手が優秀な方で安心しました」


俺も、ダメ押しの一言を放っておく


「ふ、ふん!しっかり座っていろ!振り落とされても知らないからな!」


どうやら、素直になれないながらも機嫌を直す事には成功した様だ

不機嫌なままだと、運転も雑になるかもしれないから良かった

因みに、この車は運転席を含む座席の全方向を覆う箱型の、俺が知る一般的な形式の車両なので、扉が開いたりでもしない限りは、振り落とされることは無い


「しゅっぱーつ!しゅっぱーつ!!」


運転手が叫ぶ

これも符丁だろう

周囲と通用門の間から人が居なくなった


詳しい構造は知らないが、きっと車輪を繫ぐシャフトが回転しているのだろう

その擦過音が響く

路面は直ぐに砂利混じりの未舗装路に変わり、砂利が擦れる音が混じり始めた

近くの窓から外を見てみれば、どうやらそちらは壁側らしく、移り変わる石模様しか見えない

俺と隊長さんは、特に親しい訳では無いので、雑談に花が咲くなどいう事も無かった


無言の中、砂利道を進む音だけが響く


「止まれ!」


そんな中、突然隊長さんが大声で命じた

それに従って、少しずつ速度を落とす車

ブレーキ等の制動装置は無い様だ


「どうしたのですか?」


前方の運転席から、こちらを覗く運転手

その口からは、急に止められた事への疑問が発せられた


「使者殿。この辺りでよろしいでしょう」


その言葉で、俺は理由を理解する

確かに、ここは外だ

そして、この車には隊長と、その意を受ける運転手しか居ない


「解りました。ありがとうございます。」


特に美辞麗句で飾る事は無い

話すべき事は話したし、彼がそういう事を好みそうには見えなかった


「使徒殿。道中、お気を付けて」


「っ……はい、お気遣いありがとうございます」


どうやら、気付かれていたらしい

だが、それでも別に問題は無い

特に隠す必要がある事でも無いからだ

一瞬だけ驚きに言葉を詰まらせたが、その部分には肯定も否定もせず、ただ気遣いだけを有難く受け取るに留め、諸々への感謝も含めて礼を述べ、荷物を肩越しに背負って歩き出す


「え?」


ただ一人、事情も何も知らない運転手だけが、その流れから取り残されて混乱していた

その声を合図に、手付かずの野へ駆け出した


この回で登場した隊長さんは、もう少しだけ出番があります

結構重要な役割を果たす予定

あくまで予定


いつかは、王道な黄門様展開を書いてみたい

印章を考えた時から、ずっとこんな事を考えています

小学生の頃は

「この紋所が目に入らぬかぁ!」

「そんなもんが目に入る訳無いじゃん」

という遣り取りがあった事を思い出します

メガドライブを目がドライブと勘違いしたり

汚職事件が解らず、お食事券と思っていたり


今回、二話一気に投稿しましたが、次回投稿が延びるという事はありません

なので、次回投稿は一週間後の水曜日

7月31日となります

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