表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/130

第九十三話

短いです

なので、直ぐに次話を投稿します

おっさんの真意が、結局欠片も理解出来なかった

何故急に手合わせを望んだのか


「何にせよ、今は目の前の問題を解決する事が最優先だよな」


おっさんが何を思っていたのか

それは確かに気掛かりではあるが、それよりも優先すべき問題が目の前には立ちはだかっている

その解決に動く


「それでいい筈だ」


それが、おっさんと俺の共通した目標を達成する事に繋がる筈である

恩義にも報いる事になるだろう

更に同志も救う事が出来る


良いこと尽くめだ


「……だが、さっきはやり過ぎたかもしれんな」


その事だけが心残りだ

下手をしたら、おっさんは戦士として再起不能になるかもしれない


「……」


今は何も考えない方が良いだろう

結局、俺はこれから出なければならないのだ

そこに、余計な事を考える余地を差し挿むべきではない


「この部屋とも、少しの間お別れだな」


俺は、中庭からまっすぐ部屋に向かう

部屋の中に入ると、何時もは気にしていない、部屋の匂いが嗅覚をくすぐった


「……感傷に浸ってる場合じゃないな。荷物は……」


俺は、何時もは意図して意識から外している部屋の隅へと向かう

そこに在るのは、最初の狩りで持って行った装備一式

諸々の道具が入った布袋の口は、通した紐できつく絞られ閉じている

武器は鞘に入れられ立て掛けられている

特異な防具も丁寧に置かれていた


「埃も積もっていない。綺麗に掃除してくれていたんだな」


今更に実感する、自分がいかに他者の世話になっていたのかを

尤も、この部屋に来る使用人は残らず、俺への敵意を大なり小なり抱いている人ばかりなのだが


「それでも、世話になったのは事実だからな」


礼を言う事も出来ないほど、その相手は記憶に留まっていない

だから、せめて心の中では誠心を以て謝意を抱く


「一応、色々と確認しておくか」


そもそも、この布袋の中で使った道具は、水が出る魔法道具の水筒と傷の手当てに使った手拭いと包帯、膏薬だけだ

それら消耗品は補充されているが、それ以外にも色々と入っていたのを思い出す


「……これは液体の傷薬?あの時使わなかったけど、洗浄しながら傷の手当てが出来るのは有り難いな」


というか、この世界の薬ってどういう原理で効能が現れるのだろうか

そもそも、治療行為を魔法に依存している様に思えるのだが、これもそうなのかな


七番肉のトラウマが蘇りそうになる

少なくとも効果はあるし、身体に害も無い筈

なら、何も問題は無い


「中世欧州じゃあ、水銀が薬として使われてたって話もあるしな」


それに比べれば、効果がしっかりしているだけ遥かにマシだと、己に言い聞かせる


「これは……殆ど治療道具ばっかりだな」


保存食糧とか、火打石だとか

そういう、サバイバルの鉄板道具が一切ない


「考えてみれば当たり前か」


火は魔法で熾せる

そもそも、日を跨ぐことが無いなら、保存食糧も必要ない


「いつ使うか解らない様な装備に、まさか保存食とはいえ食べ物を入れておくわけにもいかないし」


そういうこの世界の事情に即した考えが、まだまだ足りていなかったと実感する


「まあ、食料は現地で適当に木の実や野生生物の肉でも採ればいいか」


蛇や蛙の肉とか意外と美味いのだが、魔物の肉はどうなんだろう

最悪、植物があれば何とかなると高を括る


「水は無限にある訳だしな」


水さえあれば、直ぐにどうこうなる事も無い

この水筒の水は飲めると聞いている、問題は無い


「武器も防具も問題無し」


二か月余り放置してしまったが、埃が払われていた為、湿気が溜まって錆び付いたりもしていない

留め具も問題ない、十分実用に耐えると判断出来る


「よし」


三度目の装着だが、滞りなく身に着ける事が出来た

そのまま、身体を軽く動かす


「特に問題は無いな」


我ながら異常な装備だと思うが、やはりこれは俺の戦い方にしっくりくる

今の身体能力なら、籠手と具足の重量も全く気にせず動くことが出来る

鉢金は意外にも、前髪の鬱陶しさから解放されて気分が良いという副次効果も得られた

正中線と胸部を守る軽鎧は、何と脇腹が痒い時に掻きやすいという素晴らしい利点がある事に気付いた


「……あとはこいつか」


左の腰にぶら下げた曲刀に手を触れる

日本刀的な緩い反りではなく、東南アジア系の、半円の様な強い曲線を描くその刀身は、しかし俺にとっては特に気にする事ではない

気になるのは剣自体

これは俺にとっては最終手段であり、出来る事なら使いたくない物である


「さっきも、本当ならこんなもの使わなくても勝てたんだよな」


他人の心なんて知っても、何も良い事は無い

今回の件で、それを改めて実感した


「…………行ってきます」


扉を開き、一歩外へ出る

まだ身体は部屋の中に殆ど残っている時、ふと後ろを振り返った

何かが俺を呼び止めた気がした

強いて言えば、部屋そのものだろうか

俺はその何かへと、出立の礼をした

何故か、自然とそうするべきと思えたのだ


「……もしかしたら、この部屋には思い入れがある……のかもしれないな」


ここに来て、本当に苦しい時

俺は直接誰かに頼り、取り縋りはしなかった

そんな弱さを曝け出す事は出来なかった

決して弱みを見せなかった俺を、誰にも縋らなかった俺を

ただ受け入れ、ただ見送ってくれたのは、この部屋だった


「なんて、らしくもなく感傷的になったな」


助けてくれた人はいる

支えになってくれた人はいる

この部屋も、その中の一つなのだ


(帰ってきたら、ちょっと掃除でもしてみるかな……)


雑巾片手に水を張ったバケツを持った俺が、袖を捲って意気込んでいる

廊下を歩きながら、そんな未来を思い描いた

次話を直ぐに投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ