第七十四話
続きです
まだ続くおっさん視点
今回は読み飛ばしてもいいかもしれない
そんなグダグダな内容
「………来たか」
急遽治療院の一室に集まった俺と三大臣たち
この部屋の前を通って行く道のずっと先には、俺達の友人が眠っている
「陛下、アイギナ王女が襲われたと報告を受けましたが……その顛末は?」
そう訊ねるのは、財務を取り仕切る財務大臣のリチャード
普段は気弱な様子だが、仕事の上では極めて冷徹で、甘さの欠片も無い男だ
「リチャード、その件については俺から説明する。とりあえず、席に着け」
リチャードの質問へ答えを返すのは、軍務の一切を支配する国軍元帥のヘクター
極めて実直な男で、己の職責に厳しく他人に情け深い、とても真面目な男だ
「……焦る気持ちは理解出来るが、とにかく座れ。話が始められん」
何やら抗弁しようとする気配を見せるリチャードに、重く響く声で着席を促したのは、政務を司る政務大臣のエドガー
寡黙な男だが、その手と足は止まる事無く仕事を続ける、職人気質の男だ
それぞれが、俺が心底から信頼する親友達にして腹心
フェルディナンド以上に永く濃い時間を過ごした、兄弟以上の存在だ
「リチャード、ヘクターから説明する前に言っておく。アイギナに怪我は無い」
俺がここにこうしている以上は、そうに違いないのだが、それが理解出来るほどの落ち着きが今のこいつらには無い
それだけ、発生した事態は異常であった
「そうですか……それは良かった」
リチャードは心底から安堵してくれている
出来損ないと蔑まれていた娘には、しかしこれだけ親身に気遣ってくれる者が居るのだと思うと、喜びに咽び泣きたくなった
「それで?」
素っ気無く続きを促すエドガー
だが、こいつもまたアイギナを大事に思ってくれている事を知っている
恐らく、この三人の中で最もアイギナを評価しているのは、このエドガーだろうから
「おい、説明は俺に一任されている……そもそも、今回の件はアイギナ王女直属の近衛兵が現場に居合わせているのだ。その総支配を任命された元帥として、報告責任というものがある」
そのエドガーの言葉を遮って、前に出るのはヘクター
アイギナに最も関わらない役職のこいつは、しかしアイギナの不断の努力を最も買っている男でもある
軍ではステータスが全てだ
極めて厳格に身体能力値は、その軍内部の役割を決定づける
それだけに、その身体能力値を、ある意味超越しているアイギナは、驚嘆すべき存在なのだろう
「では、ヘクター。改めて報告を」
俺は既に知っているが、知った上で改めて聞けば、新しく思い当たる事もあるかもしれない
故に、その報告へ真摯に耳を傾ける
同時に、やはりその異常事態には、驚愕せざるを得ない
そもそも、他者を殺害せしめる事は、我が国のみならず全ての国に於いて最大の禁忌だ
それを画策しただけで厳罰の対象であるし、最悪が死罪も在り得る
因みに、殺人を犯したなら即座に死罪だ
王族に付く護衛も、その実務内容は、危害せしめる者への警戒と排除、ではあるが、その中に殺人への対処は基本的に含まれていない
そもそも殺しになど来ないのだから、警戒するだけ無駄というものだ
また、その様な状態であるから、人同士が争う事も無い
もし殺してしまえば、自分は死罪となるのだから当然だろう
さて、話を戻そう
「しかし、サトルがそれほどの活躍を見せるとはな」
やはり、何度聞いても驚きを隠せない
いや、サトルが強かったという事は知っている
それが嘘だとも思っていない
だが、それは過去の話
今は違うはずだ
「ですが、事実です。アイギナ王女からの聞き取りでも同様の話が聞けました」
「別に疑っていないさ。純粋に驚いているんだよ」
「……そうだね。僕も、正直信じられないよ……ヘクター」
「何だ?」
「襲撃者達のレベルは20代後半、最高で30だったね?」
「そうだ」
「余程の低成長率だとか……そんなところかな?」
その推測は俺もした
だが
「いや、とりわけ優れた者は居なかったが、落伍者と呼べる程度の者は一人も居なかった。どれもそれなりの実力者だ」
答えはこうだった
更に事態への信憑性が薄れていく
しかして、それを疑う事は出来ない
「やはり信じ難いな……アイギナ王女の自演という説は無いかな?」
リチャードはやはり甘さが無い
油断も隙も無い男だ
だからこそ、この仮説も躊躇なく導き出せる
「無い」
ヘクターは、しかしその説を一刀両断に否定する
確かに認め難いが、一概にあり得ないと切り捨てる事も出来ない
最近のアイギナは、それを信じさせるくらいにはサトルへ傾倒していた
(惚れた男の為に……活躍の場を作ろうと考えてもおかしくはない)
アイギナがそんな馬鹿な真似をするとは思っていないが、可能性は否定しきれない
「そう言い切れる根拠は?」
そこをリチャードは突く
俺達では情が邪魔をして突っ込めない事も、こいつは突っ込んでいける
それは、別に穿った事を考えているからではない
万が一という事態に陥り、混乱する事を避ける為にしているのだ
それを理解している俺達は、別にその事を怒りはしない
「サトルが襲撃場所へ訪れたのは、全くの偶然と考えられるからだ」
その為、ヘクターの証明も淡々としたものだ
「……その証明は出来る?」
「確たる証明は不可能だ。だが、本日の昼からのサトルの足取りを辿ったところ、何やら思索に耽りながらあちらこちらと歩き回っていたとの証言が幾つも得ることが出来た」
「それは、襲撃が発生するまで時間つぶしをしていたとも考えられるよね?」
「その可能性もある。だが、それなら当の現場に潜めばいい。あそこは誰も通らない、人目にも付き難い場所だ。そこに隠れていれば、襲撃にも確実に居合わせられる」
「……偶然を装う為の工作かもしれない」
財務を扱うリチャードは、そうした可能性を見付ける事が得意だ
中にはそうやって、少しでも予算を増やそうとしたり、支出をごまかそうとする輩も居るからな、俺とか
「そこは否定しきれない。だが、確実性に欠ける。だが、居合わせた近衛兵のアシュレイ・アルベルトは、サトルとの仲が良くない。アイギナ王女を危険に晒す可能性を考えれば、あの場所へあの時間に向かう事も反対する」
「断言するんだね」
「その程度の事が判断できないなら、近衛にはなれんし、ならせん」
「……報告によれば、アルベルト近衛兵は事件発生時にその場に駆け付けたそうじゃないか?ならば、やはりアイギナ王女の自演説は否定できないよね」
「……それはそうだが……」
意見も煮詰まってきた様だ
ここらへんで
「もういいだろう」
エドガーの一声が入る
「もういい、とは?」
リチャードがその声に食い付いた
「貴様も、別に本気でアイギナ王女の自演を疑っている訳ではあるまい。もとより、貴様が口論でヘクターに負けたことがあるか?」
「無いね」
「……勝てた記憶は無いな」
「ヘクター……そんな事をわざわざ言わんでいい」
流石に少し呆れる
それがこのヘクターという男の長所であっても、実直にも程度があるだろうに
「ならば、議論そのものが無意味だ。お前は完全に納得出来なければいつまでも食い下がるだろう?」
「それは当然さ」
「だが、お前自身が自説を信じていない。そんな口論に意味は無い」
「……そうだね……その通りだ」
「お前のその悪癖は、役には立つが厄介だ。自覚して少しは控えろ」
「耳が痛いね……いつも君が止めてくれるから、僕もつい調子に乗ってしまうみたいだ」
「自覚があるなら退き時を考えろ。そう何度も目の前で身の無い口論をされては、こちらも堪らん」
「ああ、すまない。君にはいつも世話になってばかりだね」
「それを気に留める必要は無い。ただ、無駄を省けばそれでいい」
「承知したよ……陛下、申し訳ございません。ヘクターも。続きをお願いできるかな?」
リチャードが退いたことで、議論そのものが立ち消えとなった
ヘクターも、怒ってこそいないが、やはりこういうのは苦手なのだろう
僅かに一息安堵の息を漏らして
「了解だ。とは言っても、概ねは報告を終えたのでな。陛下、この後の対処について協議したく思いますが、よろしいでしょうか?」
この様に、一気にまくし立てた
気持ちは大いに理解出来るが、どうにも歯がゆくも感じてしまう
一度でいいから、俺達でリチャードとエドガーをやり込めてみたいものだ
「……エドガーは、何か疑問は無いのか?」
無駄と知りながらも、一応訊ねておく
別に拗ねはしないが、それでも後が怖い
全く放置で話を進める事も憚られるが、しかし当人は積極的に絡んでも来ないのだから、こういう形で話に参加してもらうしかないのだ
「無い」
やはり無かった
有れば必ず、どれほど言い難い事でも口にする男だ
「そうか。ならば、ヘクターの意見を採用して、今後の対応を話し合う事にしようか」
それから、幾つかの議論を交わして、とりあえず一旦休息を入れる事となった
俺達も、もう長い付き合いだ
それこそ、俺達が年齢一桁の時からの付き合いなのだから、彼此30年以上の腐れ縁という事になる
そんな俺達は、最早雑談でそう簡単に盛り上がる事も出来ないし、適当に場を繋ぐ事も難しい
正直、お互いに黙って一緒に居ても何の気遣いも無い様な間柄になっているのだ
その為、いざ休憩と言っても、自由に話をして時間を潰すなどという事にもならず、有り体に言って完全に手持ち無沙汰の時間になってしまう
だが、今は違った
明確に他にやっておくべき事がある
「少しサトルの様子を見てくる」
この場に居たくないとは思っていないが、しかしてこの場に居ても何もしないので、他に用向きがあるならそちらへ行きたくなるのが人情というものだ
「そうか」
「後で様子を伝えてくれよ」
「あ……えと……よ、よろしくね」
リチャードが気弱になってるのが特徴的な三者の反応
ヘクターは、完全に俺達だけで仕事の場でない場合に限り、こうして言葉が崩れて気安い風になる
個人的にはこっちの方が好みだ
エドガーは変わらない
声が少し柔らかくなる程度の変化しかない
「ああ、じゃあ行ってくる」
この三人は、変わらずここで待機しているのだろう
休憩と銘打ってはいるが、実際には多くの指示を飛ばしてその結果待ち、というだけの時間だ
通常業務は疾うに終わっている時間だけに、真にやる事の無い空白の時間なのだ
「……一緒に行くかと誘うべきだったかな?」
とはいえ、恐らく全員が断る事だろう
俺が居なくとも判断は各々出来るが、アイツらまで居なくなれば動きが止まってしまうからな
……ならば、こんな所に居ずにそれぞれの持ち場に戻るべきでは?と一瞬考えたが、それも直ぐに導き出された解答に押し流され消え去った
「……そういえば、エドガーの奴、こっちをチラチラと見てたな……」
普段のあの男は、そんな解りにくい所作はしない
人が常にない行動をとる時
それは、自らの心に制御しきれない大きな感情が生まれた時だ
「心配ならそう言えば良いのにな」
思い返せば、サトルの容態については触れていなかった
ただ、現在意識不明の状態で、この奥にて眠っている
それだけだ
三人が三人とも、それを言い出せずに居た
俺はその辺は特に心配していなかったが
アイツらが残ったのは、つまりサトルを心配して、その報告がいち早く入る場所に居たかったという事だろう
「これは責任重大だな」
そうと判れば、のんびり歩いても居られない
自慢の脚で、全速力で駆け出す
国一番の俊足の呼び名はお飾りでは無い
それなりに知った施設の中を、止まる事無く駆け抜ける
目的地以外に人が居ないからこそ出来る改めて荒業だ
「ふぅ……ふぅ……ふぅーっ……」
距離にすればそれほどでは無いが、やはり全力で駆けると息が荒れる
目的の部屋には辿り着いた、中から聞き慣れた妻と娘の話し声も聞こえてくる
だが、このまま入ると妻はきっと怒るだろう
そんなに息を乱してるって事は、治療院の中を走ったと見抜かれるのは間違いない
絶対怒る
娘に、息を乱した姿が気持ち悪いとか思われたら、正直かなり精神的に厳しい
俺の体面と精神の安定の為に、暫し息を整える
「……よし」
「何がよしなんだい?」
息が整って、いざ入室、と思い扉に手を掛けたところで、中から愛しの我が妻が扉を開いた
その唐突さに、大いに混乱を来していると
「アンタ、ここまで走って来たね?」
「!!!……!!!!????え?いや、え?何で……」
何故か俺の失態を即座に見抜かれ、混乱は更にその程度を増した
幸いだったのは、この時咄嗟に否定の言葉を発しなかった事だろう
していたら、多分蹴飛ばされていた
ウチの嫁さん、ちょっと性格キツい
「汗かいてる」
「あっ!」
そうだ、それがあった
実に判りやすい盲点の指摘に、己の迂闊さを呪う
その時、我が女神の救いの御手が差し伸べられた
「お母様?来客はどちら様でしたか?……と、お父様でしたか」
その姿に、今まで押し隠していた不安が安堵となって噴き出してきた
諸々考えねばならない事が在った
指示も出さねばならなかったし、三大臣との協議もしなければならなかった
無事の報は受けていた
とはいえ、一目その壮健な姿を確認する暇が無かったか
それは、今だからこそ答えが出せる
そんな暇は無かった
だが、ずっと
指示を出し協議し思考を繰る間も絶える事無く
ただひたすらにその無事をこの目で確認したかった
気付けばその細い体を、この胸に抱きしめていた
もしかしたら、二度と感じる事が出来なかったかもしれないその温もりを、少しでも感じられる様に
「きゃっ!……お父様?」
驚いている娘に、しかし俺は構う事は出来ない
今はただ、この言葉のみを掛けるだけで精いっぱいだった
「よく、よく無事だった……本当によかった……」
言葉にした途端に、涙が溢れてくる
悲しいのではない、ただ喜ばしかった
我が至宝、我らの宝
お前は愛されているのだ
それをしっかりと伝える様に、きつく抱きしめた
「お父さん……」
伝わってくれただろうか
自信は無いが、それでも父と呼ばれて抱き返される感触は、総身を歓喜で満たしたのだ
今はこの喜びだけで満足するとしよう
ここで、おっさん四人のお仕事場面を出しました
当然、私的な場面での顔とはまた異なる表情を見せます
ライオンハートと同じ名前を付けただけあって、リチャードさんもお仕事では八面六臂の活躍を見せる辣腕の御方です
それだけが書きたかった、それだけ
次回投稿は3月20日です
本当にこんな内容で一週間も稼いで大丈夫か?
一応、次回でおっさん視点を終えます
終えるとどうなる?
アイギナ視点が始まる
そんなグダグダ展開が続きます
いや、アイギナは正ヒロインですから、結構物語を動かしますが
ですが、アイギナ視点はおっさん視点よりも長いです
多分、二話くらい?長いです




