表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/130

第七十一話

続きです

今回から四、五回に渡って国王視点が続きます


「何?手が足りない?」


そろそろ昼も近いと思ったその時だ

今日の食事は何だろうか、と思い、丁度用向きを済ませ、部屋へ戻って来た侍従のフェルディナンドに訊ねた

そして、返って来た答えがそれだ


「はい、例の件で各街へかなりの人材を一時的に出向させました。それに加えて、そろそろ通貨協議会が近く、その準備に多くの人手を取られています」


例の件とは、異世界人達を各街へ送り出し、更なる成長を促す為の施策だ

単に王都周辺の迷宮では適さなくなったというのもあるし、やはり現状を強要されているという意識があるのだろうか

精神的に疲弊、または暴力的な振る舞いが散見されるとの報告もあって、ならばと自分達で選択した環境で管理の手を緩めて生活させてみようとの考えで決定した方策だ


とはいえ、完全に任せきりにする訳にもいかないので、一定の希望を聞き取った上でこちらから幾つかの案を提示し、そこから選択させるという事にした

更に、そのまま放り出す事も良くないと考え、決定した街へ人を向かわせ、案内を徹底させる為の調査を行うことにした

相当の人員を送り込み、多方面からその街を精査し、情報を纏め近衛、正確には特務隊へと集積させた

現在は、対象となった街に関しては、通り一遍の情報だけでなく、街路から現地民しか知らないような裏道、人気のメニューどころか裏メニューも、この家はどこそこの家と仲が良い、だがその実は……あそこの奥さんはそこの家の旦那さんと浮気しているけど、それはそれぞれの家でバレていて、逆の不倫も成立している……等と極めて私的な情報に至るまで、微に入り細を穿つ情報を収集し終わっている

そう考えれば、今後の執政にも有用な施策であったと言えるだろう


だが、その弊害もあった

それだけの情報を収集するには、相当の人員を要するのは当然だ

更に急を要するとあっては、かなりの数を向かわせる必要があった

幸いにして、殆ど希望が分散せず、三か所に絞り込めた為に何とか人手が足りたが、今度は王城が人手不足になってしまった

尤も、流石に回らなくなる程、外には出していないので十分に回っているが、その代わり余剰分が無くなってしまった

その余剰不足分が、サトルの飯を用意する人手の不足に繋がった


「……そうか、そうだな。いや、それは失念していた」


元々、サトルに対する城の人間の感情はあまりよろしくない

いや、俺が厳命としてサトルへの危害行動を禁じてからは、更に悪化の一途を辿っている

そこへ、サトルの迷宮攻略失敗と、実質俺達の側近として雇用した事が切っ掛けとなり、その感情は更に悪化している

俺の下にも、既に何度も陳情が舞い込んで来ているくらいだ

そういう下の者の声が聞ける体制は大事だが、こうまで似た様な陳情が立て続けに来ると、やや気も滅入るというものだ


そもそも、彼らの扱いは極めて繊細で、下手に逆心を抱かれたら、最悪国が滅ぶ

今はまだ大した脅威ではないが、確実に俺達の常識を超越した強者になる事が約束された者達だ


状況の不透明性も、その扱いを支持する

東の大陸の状況は未だ以て全く不明だし、こちらに対する一切の侵略行動も見られない

精々が、近づく船を撃沈させる程度だ

だが、東のラルオウム帝国も、ウチと同等程度の戦力は有った筈

それが、為す術も無く敗北した

飽くまで状況からそう推測出来るというだけだが、東の大陸へ近づく事も出来ない現状では、その推測が確信へと変化するのもそう遠い話ではないだろう


レイリア皇女は、今各国を巡り遊説の旅の真っ只中だ

唯一の生き残りという事で、彼女への感情もまた複雑なものがある

同情する者、憐憫する者、憤慨する者、義憤に燃える者

大きく分ければこんなところだが、それぞれでも人の対応は多岐に亘る


そして、そんな状況は彼女の精神的にも良くは無いだろう

アイギナの親友を、そんな苦境に置いておくのも偲びない


また、各国に東の窮状を報せるには、やはり当事者の口が一番効果的だとも考える

故に、彼女には東に所縁のある者達を傍に付けて、特務も護衛に付け、各国遊説の旅に出てもらった

幸いなことに、彼女もその必要性と有用性を理解してくれ、進んで引き受けてくれた

どこまでが本心かは不明だが、今はそれに乗っておく事にした


「ああ、なら仕方ないか。サトルには、食堂を利用する様に指示しておこう」


どうせ、この場にもやって来る予定だ

その時に言えばいいだろう

なので、この話は終わりと、机と向き合う俺に、長年連れ添ったフェルディナンドは不満の声を上げる


「……陛下、些か彼の者を贔屓し過ぎではありませんか?城の者達の不満の声も、多く耳にしております。中には、私へ談判し、陛下へ奏上してほしいと言う者も出る始末」


……それは知っている

特務の目や耳は、この城の至る所に存在する

さっきも言ったが、直接俺の下へ来れる者は既に直談判に来ているし、陳情の書類は俺だけでなく三大臣の下へもやって来ている


だが、この男からそんな文句を聞かされるとは思わなかった

少なくない失望を抱く


「……お前までその様な馬鹿げた事を考えているのか?」


実に馬鹿げている

確かにサトルのステータスは良くない

とは言っても、我々の常識の範疇では十分優秀なのだが、幾つかの要因がそれら事実を覆い隠してしまっている様だ

だが、だからといって粗略に扱える人物ではない

サトルを傷付ければ、最低でも二人が敵に回る

サトルのいとこであるマイシマ ユリとその友人キノ ミキ

特にマイシマ ユリは相当にサトルに傾倒しているとの報告を受けているし、当人のステータスは異世界人の中でも二番目に高くなる

また、キノ ミキもサトルへ好感情を抱いているらしい

……なんだよ、アイツ、モテモテじゃないか

畜生が、俺はリアしか知らないのに……いや、リアは最高の女だけど

でもさ、やっぱり複数の女から好かれてる男を見ると、イラっとするよな

アイギナも絶対サトルの事好きだし、レイリア皇女も怪しいって聞いたし

クソが、今度会ったら揶揄って遊んでやる


……話が逸れた


そんなサトルを敵に回す様な愚行は、様々な観点から認める訳にはいかない

寧ろ、正当に遇する事で、異世界人達の歓心を買う事も出来るかもしれない

少なくとも、マイシマ ユリとキノ ミキの二人は心証を良くするだろう


俺の傍に付くという事は、多くの物事を共有する機会があるという事だ

当然だが、ただ唯々諾々と従うだけでは勤まる仕事ではないし、そんな甘えを抱く様な人物は必要としない

つまり、この件に関する俺の判断を理解するだけの能力はあるし、理解していなければならない筈なのだ

なのに、こんな文句が口を突いて出る


「陛下が何を思い、何を考えて彼を重用するのかは理解しております。ですが「ならば、何故この話を持ち出した?」……それは……!」


何かを告げようとするその言葉を遮る

こいつも、本当は理解しているのだ

サトルを責めても何も益は無い

寧ろその行為は害悪ですらあるのだと


話の流れを修正しよう

この流れが続くのは、互いにとって良くない


「派遣人員の帰還状況はどうなっている?このままの状況がどれだけ続くかの見通しは立っているのか?」


「……派遣していた者達は既に帰還しています。急な仕事でしたので、今はそれぞれの部署の判断で休息を取らせています。また、協議会の準備も一通りは完了した為、今後は最低限の人員で進める事が可能との報告を受けています。その為、業務に支障が出るのは本日限りとなると思われます」


少し間が空いたが、俺の意図は汲み取ってもらえた様だ

あまりに僭越が過ぎる様なら、腹心のこいつでも切らねばならないと考えていただけに、ほっと安堵した思いだ


「そうか。ならば、問題無いな。……しかし、協議会か……無事開催できると良いのだがな」


「それは……」


「皆まで言うな。確かに不安は大きいが……その為もあって、レイリア皇女に出張ってもらったのだからな」


「……はい」


「後は、その成果を待つしかない……」


異世界人達の支援も一段落ついた

後はそれなりに監督しながら、無理のない範囲でレベル上げに勤しんでもらうしかないだろう

幸いなことに、何故か彼らはレベル上げそのものには意欲的だと聞いている

レベル100までは我らでも未知数だが、可能な限りの支援を続けるしかないだろう


「失礼します」


「ん?」


あれこれそうこうと考えを巡らせていると、執務室の扉が唐突に開かれた

本来なら無礼極まりないし、その前に扉の傍に立つ近衛兵に止められるのだが、明らかに仕事の用件と判る場合に限り、ドアノック無しでの開扉を許している

その程度には近衛隊を信頼しているし、何よりこの城内で俺を害せる実力を持つ者は、旧友の三大臣だけだ


だから、今扉を開けた者も、仕事の用件でやって来たと、驚きも無く迎え入れる心構えが出来る

直後に開かれた扉から覗いた書類の山に、相手が誰であるかも直ぐに解った


「サトルか。今日もお勤めご苦労だな」


以前はもっと間隔を空けて、小分けにして持って来ていた書類は、今はサトルが一手に引き受け各部署、正確には各大臣や俺とアイギナの元へ運んでいる

これが中々に便利で、機密やら気にする必要が無い為、とても重宝している


「恐縮です。では、こちらの書類は確かにお届けしました」


そう言って、抱えた紙山の上から器用に崩さず書類を取り、俺の前へ置く

明らかに重量があり、少し机が揺れた


「おい、もう少し穏やかに置けよ。崩れて生き埋めになったらどうするんだ?」


揶揄い混じりに注意する

心得たとばかりに、小気味よく遠慮のない答えが返ってくる


「それなら、もう少し書類の量を減らしてください。毎度毎度、これほどの量を運ばされる身にもなってほしいですよ」


普通なら、一国の王に、自分の上司にこんな物言いはしない

俺が気遣いの無い関係を望んでいるから、こうしてくれているのだ

サトルは、付き合ってきた限りでは礼儀を弁えた男だ

言葉遣いも丁寧だし、相当の教養を修めているだろうと見ている

胆も据わっている

統治者としても、友人としても、実に得難い男だと思う


「それは申し訳ないが、これも仕事だ。しっかり励んでくれ」


「言われるまでもないですがね。愚痴の一つも言いたくなるんですよ」


「それはいかんな。お前のいとこ……マイシマ ユリ嬢に慰めてもらったらどうだ?」


「何故そこで百合が出てくるか解りませんが、百合は既に王都には居ないでしょう」


「そこはそれ。お前の上司にして、この国の最高権力者である俺の一声でな?お前をユリ嬢の居る街へ派遣するなんて、簡単なんだぞ」


「大人の汚さを実感しますね。その内、臣下に反逆でもされそうだ」


「くっふふふ……ああ、そうならない様に、しっかり見といてくれ」


「俺がその筆頭になるかもしれないですよ?まあ、しょうがないですね。エドガーさん辺りにその事お願いしときますよ」


「え?いや、ちょっと待って」


「では俺はこれで。書類、後で足りないとか言わないでくださいね。確認する時間は在ったんだから」


「いや、ちょっと待て。今日はお前の昼が用意できないから!食堂行け!小さな森のある中庭だ!森の中に……ああ、行きやがった」


エドガーに告げ口するとか言われ焦ってしまって、肝心の話が十分に出来なかった

ちゃんと伝わっただろうか


「というか、最後まで話を聞かないサトルも悪いよな、うん。俺はちゃんと話した。聞かなかったサトルが悪い」


「………」


そして、サトルが居る時から険悪な空気を放つフェルディナンド


「どうした?」


と、訊ねる風を装っているが、こいつが何を思っているかは解る


「……流石に、無礼ではありませんか?陛下は尊きお方。如何に女神の神託があったからと言って、あのような無礼を許していい道理が無い」


「道理ならある。俺が許した、この国でこれ以上の道理はあるまい?」


こいつが憤るのも無理からぬ事と思う

確かに、サトルの態度は無礼だろう

だが、それは俺がそうと求めて、アイツが応えてくれているに過ぎない

責められるべきは俺だ


そして、俺を尊きと評するなら、俺が決めた事に文句をつける事こそが無礼であろう

その思想を否定するつもりはない

フェルディナンドがそういう思想なら、その方向で納得させるだけだ


「……僭越な事を申しました、お許しください」


「構わん。その程度の諌言は許される関係だと思っている」


ここらでこいつを持ち上げておかないと、どんな暴走を招くか知れん

俺の振る舞いで俺が不利益や不快感を被るのは仕方ないが、他の者に塁を及ぼす訳にはいかないからな


「有り難いお言葉。胆に銘じます」


そう言って、部屋を後にする

扉の向こうへ消えるその背に、いくらかの不安を覚えながらも、今はどうする事も出来ないと考え、記憶の隅に置いておくに留めた


大失態です

予約投稿の日付を間違えました


お待ち頂いていた方々には、大変申し訳ない

更に、今回から長々とおっさんの視点が、大体一月あまり続きます


割と話の伏線なんかも張らないといけないので、その辺どうかご了承願います

暫くは理くんの視点はお届けできません

なにせ、次はアイギナの視点が、これ以上の長さで続くからです


一応、ただ同じ場面を繰り返しているだけ、とはならない様にしています


次回投稿は……2月27日です、はい

今度は間違えない様にします


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ