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第七十二話

続きです

今回は、よくある展開を盛り込みました


「そう言えば、食堂にもう一人、王都に残った異世界人が居たな」


食堂の事を思い出して、連鎖的に一人の少年の事が思い浮かんだ

名は確か、マイバラ ヒトヨシだったか

サトルも変わった語感の名前だが、この名前も中々に言い難い


彼もまた、サトルとは違った意味で興味深い人物だ

俺は異世界人達に強要はしないと決めている

それは、俺がそうと決めた以上は国是であるし、城中の者にも納得させている

尤も、俺達が何やら強要しなくとも、彼らは彼らで何やら考えたのだろう

先も言った通り、レベル上げ事態には非常に意欲的だ


だが、どんな集団にもはみ出し者は居る

彼をそう評して良いかは不明だが、マイバラ ヒトヨシは、他の者達とは異なる道を選択した


「食堂で働きたい、か……」


サトルはそんな余裕は無かった為知らない様だが、彼の少年は例の説明会が終わった直ぐ後に、ヘクターを通してその様な希望を告げてきた

その事をヘクターに報告した者は、苦言を呈してきたらしいが、ヘクターが窘めた様だ


俺は、一応の適性を食堂の責任者に判断させた上で認められたなら、という条件で即座に許可を出した

結果は言うまでも無く、即合格即採用となったわけだ


食堂長が喜んでいたな

別世界の料理法が知れて、日々が充実していると

聞いた限りでは、今まで休息に使っていた時間を費やして、マイバラ少年と料理談義で盛り上がっているとか


コンコン


「誰だ?」


そんな事を考えていると、扉がノックされる音で現実へ引き戻される

反射的に、誰何の声を近衛兵に掛けた


「(フェルディナンド様です。お食事の用意が出来たとの事です)」


扉の向こうから、聞き慣れた、少しくぐもった声で答えが返って来た


「そう言えばそんな時間だな……入れ!」


そう言うと、扉が静かに開き、いい匂いが漂うと同時に食事を載せたと思しきカートを押して、フェルディナンドが姿を見せた


「陛下。お食事の用意が整いましたので、持参致しました」


そう言って、何時も食事を摂る為に使う小さな折り畳める机を引っ張り出してきて、せっせと支度をする

自分でも出来るが、だからと言って下の者の仕事を奪うのも道理に合わない

こうやって、国王の周囲の世話をするのがフェルディナンドの仕事だ

それを信じ、任せるのが俺の務めだ


(サトルが言ってたな……御側御用取次か、って)


カノーなんとかとか、マゴベーとかなんとか

独り言みたいだったから、深くは訊ねなかったが、今更気になりだした


今度訊いてみようか


「陛下、本日のメニューは二等一番肉のから揚げと食パン、根菜のシチューでございます」


「から揚げか!」


これが、マイバラ少年を特に覚えていた理由だ

マイバラ少年が言うには、材料が微妙に違ったり、そもそも高度な加工が必要なものだったりで調達出来ないから、完全には再現できなかったり、そもそも再現不可能な物も多いが、幾つかは近いものが作れた、との事だ

そんな再現された料理の中で、特に俺のお気に入りがこのから揚げだ

これを、これまたマイバラ少年が再現した食パンなるパンに挟んで食べるのが、最近の俺の流行である


因みに、城の日常の食事に二等品以上の食材が使われることは無い

一等品は俺や三大臣クラスの探索者でなければ安定入手は出来ないし、そもそもからして贅沢な嗜好品という印象が拭えない

他国の王族は、日常的に一等品を食べるらしいが、俺はどうにもそういうのは好かない

国の金で贅沢するのは好みでは無いのだ

故に、俺が一等品を食べる時は、完全な俺の私財で購入する事にしている


「で、酒は?」


「ありません。まだ職務中です」


「ちぇー」


このやりとりはただの通過儀礼の様なものだ

俺は大して気にしていない風情で、食卓に着き、早速と食事に取り掛かる


「これを、こうして、そしてこれをこうしてこうして、そいやっ!と」


するとどうだろう

瞬く間に茶色く輝く宝石の様なから揚げが、薄茶色く縁取られた白いパンの衣に包まれて、とんでもない御馳走に変化したではないか

俺は、こうした簡単に手軽に美味しく食べれる料理が大好きだ


父が存命だった頃に食べていた、大きな食卓に所狭しと並べられた豪勢な、面倒くさい食事なんて大嫌いだった


嫌な事を思い出した……

振り払うように、思い切りから揚げサンドに齧り付く

途端に、熱々の肉汁が溢れ出し、舌がその高熱に悲鳴を上げる

だが、俺はそんな舌の叫び声には耳を貸す気は無い

何故なら、その直ぐ後に奴は、決まって歓喜の雄叫びを上げるからだ


「……~~~~っ!美味いな~!」


舌が上げた歓喜の雄叫びは、そのまま俺自身の声となって、空になった口から放たれる

このから揚げを考えた異世界人の料理人は天才に違いない

そして、それを我が城にて再現してくれたマイバラ少年には、感謝の思いが絶えることは無いだろう


「陛下はから揚げが本当にお好きですね」


フェルディナンドが言うその言葉に、俺は一も二も無く飛びついた


「当ったり前よぉ!お前、俺はこの為に、料理人たちにマイバラ少年の作った料理を覚えさせたんだからな!」


「彼は凄いですね。今、城の食堂には町中から料理人たちが押し掛けて教えを乞おうと必死の様ですよ?」


「それも仕方ないな。ああ、その辺は食堂長に一任すると伝えておいてくれ。マイバラ少年とよく話し合って、その上でなら自由にしてくれて構わんとな」


「畏まりました。確かに伝えておきます」


俺はその返事を聞き届け、すぐさまから揚げサンドに食い付く

長方形に折り畳まれた食パンが、瞬く間にその姿を歪め減っていく


「げふっ……ふぅ……シチューシチュー」


から揚げサンドを全て食い切り、乾いた口を潤そうとシチューの器を手に取る

備え付けられたスプーンを突っ込んで、その中身を掬い上げた

幾つかの切り分けられた根菜が姿を現し、やがて完全に器から飛び出る


白く濁った液体を滴らせたスプーンを、徐に咥え込む

突如、予想を裏切る風味が口の中に広がった


「……なあ」


「はい、何でしょうか?陛下」


俺の、用件も言わない呼び掛けに、嫌な顔一つせず応えてくれるフェルディナンド


「何か……シチューの味付け変わったか?」


それだ

どうにも、何時もと味が違う

毒でも盛られたか、と心配する事も無く、味付けの変化の理由を問う


「出汁、というらしいです。これも、彼の少年の為した功績ですね」


今気付いたが、フェルディナンドはサトルに対するものより、マイバラ少年に対する評価の方が高い様だ

それも無理からぬ事かと、流す事にする

実際問題、サトルは実務面では何一つ特別な働きをしていない

翻って、マイバラ少年の働きは目覚ましいものがある

俺とて、サトルへは評価では無く期待を寄せているに過ぎないのだから、普通ならフェルディナンドの対応が普通だろう


「出汁ねぇ……どうやって作るかは、既に周知しているのか?」


どんな技巧も、技術として普遍化出来ないのなら、為政者としてはその価値を認める事は難しい

個人としてならから揚げの虜だが、だからといって出汁の有用性を、はいそうですかと認める事は出来ないのだが


「それについては問題ありません。そのシチューは食堂長が試作を重ねて完成させた物です。また、マニュアル化も既に済んでいるとの報告を受けております」


「そうか。……しかし、これも美味いな」


カチャ……スッ……カチャ……スッ……カチャ……スッ……カチャ……スッ……カチャ……スッ……カチャ……スッ……


次から次へと口に運ばれ、消えていく美味な液体

別に今まで食べてきた料理が不味かった訳では無いが、それ以上に美味い物もあったのだと、この歳になって改めて発見出来た事に、些か以上の喜びを抱く


「ふぅ……これもまた良い物だった」


満足と共に、手にしたスプーンを置く

……何やら足りない気がした


「?…………おっと、知らぬ間に器を手に取っていたとは……」


行儀作法は一通り身に着けていても、別段会食などで無い場合は気にしていない

だが、それでもある程度は癖の様に表れてしまうものだ

器を手に取って、スープやシチューを食べる事など、先ずしない

だが、あまりにも物珍しく美味しいのが原因だろう

もっと、次を、早く

美味を求め急く心が、知らぬ間に器を手に取らせた様だ


「それほどお喜び頂けたなら、食堂長もきっと喜ぶでしょう」


別に多少の粗相を見られたところで、気にする様な相手では無いが、それが意図しないものであったなら、少し気恥ずかしい思いをするものだ

俺は恥ずかしい思いを隠すために、少しぶっきらぼうに


「うむ。俺は少し食休みを取る。下がっていろ」


そう言って、何やら微笑まし気にしているフェルディナンドを追い出した


「はい。畏まりました」


最後までその表情を変える事無く、フェルディナンドは食器を下げて部屋を出た

俺はその背が扉の向こうへ消えてから、少し待って


「……行ったな」


遠ざかるカートの車輪の音を聞きながら、確認する様に呟く

そして、徐に執務机に戻ると


「よっと……」


椅子の背凭れに体を預け、机に脚を載せる

そして、椅子の四つ足の前半分を浮かせて、椅子をゆらゆらと揺らす

これが俺のくつろぎ姿勢

その為に、椅子は以前の豪勢な物から質素な軽いものに変えさせたのだ


「はぁ……しかし、女神さまも余計な事をしてくれると思ったが……」


確かに侵略者の存在は脅威だ

東の帝国が……正確には帝都が滅んだと聞かされた時は驚いたし、正直かなり絶望的な気分にさせられた

そして、その為に別の世界から少年少女が連れて来られると神託があった時は、望みが繋がったとも思った


だが、やはり子供たちを矢面に立たせるのは、個人としても一人の父親としても強く憚られたのも事実だ

親御さん達は間違いなく心配しているだろう

更には、全く見知らぬ地で戦いに駆り出されていると知れば、俺は本当に殺されかねないだろうし、立場が無ければそれも受け入れるしかないとも思っている


加えて、難しい年頃の少年少女が数十人

その面倒を見なければならないというのは、間接的とはいえ非常に神経を磨り減らす厄介事に他ならない


それでも、善き友人を得られたし、美味しい食事も食べられる様になった

それを思えば、多少の騒動は対価として、仕方ないと受け入れられる


「……それに、長年の懸念も解消されるかもしれないしな」


この歳になると、幾つも過去にやり残した事を抱えているが、それでもなお、これを出来なかった事が心残りだ、と言える事柄は幾つかある


「それに、アイギナの嫁ぎ先も出来るかもしれん」


何れはサトル達は元居た世界へ帰っていくだろう

寂しくもあるが、苦患に満ちたこの世界に居るよりは、良き人の傍で暮らすのは決して悪くないだろう


「………尤も、アイギナが付いて行けるかは分からんのだが」


為政者として、事態の解決を安直に考える訳にはいかない

だが、やはりサトルなら何とかしてくれるのではないか

そう思わずには居れないのだ

だから、サトル達の帰還は疑っていない

事態の推移は解らないが、サトル達は必ず帰還出来るだろう


そこにアイギナが付いて行けるか……


「ふふ……流石に気が早いか……」


アイギナが越えなければならない問題は多い

それに……


「サトルも、少し落ち込んでる様だしな」


サトルが俺達の小間使いの様な事をし始めて、もうそれなりに経つ

故に、一日に何度もサトルと話すし、サトルがこの部屋へ立ち入り、そして立ち去るのも何度も見てきた

そして、だからこそ気付く……とまでは言わないが、引っ掛かる事があった


「このままで終わるか?サトル」


ここに居ないサトルへ、その背を思い浮かべながら問い掛ける

それは疑いの言葉

だが、その実は微塵も疑ってはいない


「……奴らと賭けてみるか」


サトルは間違いなく立ち上がる

確信を持って断言しよう

しかし、それをそのまま指を咥えて待つのか?

いや、それはダメだろう


これは、是非とも遊ばないと


「よし、今度の休日にでも提案してみるか」


そうと決めて、暫しの食休みをゆったりと堪能する

自分で揺らす椅子が鳴らす音が、独りの休息の中に静かに鳴り響いていた


所謂知識チートですね

とはいえ、一般的にはかなり優秀な設定とは言え、一介の高校生が齎せる知識など大したものではありません

仮に、こんな凄いものが在る、とその存在を知らしめられたとしても、その具体的な製造方法にまでその知識が及ぶ訳も無く

ならばこそ、料理と言う分野でなら、その知識も活かせる余地があるのでは?と考えるのです

料理は発想の世界でもありますから

尤も、料理には数多の食材を用いますが、更にその食材の製法まで知識が及ぶか?という疑問もあります

知りたい人は知っている、けれどそれを再現できるか判らない

醤油は大豆を醸して造る訳ですが、麹菌は存在しているのか?だとして、その麹菌をどうやって集めるのか?

古くは、穀物に付く病気であった麹菌

つまり、穀物から採取が可能な訳です

次は大豆です

そもそも、世界そのものが違うのだから、植生も違って当然……と言ってしまうと、じゃあ同じ様な姿形の人間が居る理由はなんだよ、と話も出てきます

とにかく、環境が異なれば進化も異なり、大豆なんか無いよ、ともなりかねません

ならば、近似種を捜す事になる訳ですが、古くから新しい食物の発見は容易ではありません


と、醤油一つ造るのにも、これだけの障害がある訳ですね


同じく大豆を原料とする食材である豆腐にはにがりが必要ですが、これは海水を煮詰めて造る事になります

ですが、やはり別世界ですから、そもそも海水の成分が地球と同じとは限らないのです

余分な混ざり物があれば、それだけで全てがご破算になりかねません

そもそも、塩化マグネシウムが含まれているとも限りませんからね


ともあれ、そんなものは作者のさじ加減一つでどうとでもなるのですが

最低限、塩があるなら塩唐揚げでお茶を濁す事は可能ですから

また、出汁にも言及していますが、これは所謂魚介の出汁に限らず、獣、植物の出汁も含みますので、試しで幾らでも可能性は膨らみます


こんな製品があると知っていても、金属の精錬方法なんか知りもしない

こんな製品があると知っていても、どんな原材料か知りもしない

現代工業は、特に専門性が極めて高いです

その全てを網羅する知識なんて、普通の生活をしていたら、先ず得る事は無いでしょう


と、つらつらと自分なりの知識チートに関しての持論を述べつつ

次回投稿は3月6日です

時間が過ぎるのは早いですねぇ

もう1年の6分の1が過ぎました

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