第六十一話
続きです
はじめてのたいじんせん おわり
敵手の武器を奪い無力化する
言葉にすれば、実に容易い
だが、それはある流派の奥義でもある程に、難儀極まる技法だ
まず、武器を使う訓練をしている者は、その武器を奪われる事を警戒している
当然だ
武器の有無の優劣を、最も知悉するのは武器を使う者
それを覆され得る手段を警戒しない武器使いはただの馬鹿だ
ならば、目の前で実際に武器を失っている敵は、馬鹿なのか?
その是非は、今はどうでもいい
(な……何が?)(は?)(何がどうなった?)
三者の心の内である
実に滑稽なれど、またそれも無理からぬ事と、場違いな同情を抱く
だが、それで手を緩めはしない
そして、今の俺は明確に敵を殺害せしめる凶器を手にしている
尤も、それを使って殺す事は、恐らく今の俺には不可能だろう
故に、その凶器はこう使う
「っ!?」(なっ!?)
一人は俺に武器を奪われた
その事実の、当然の帰結として、敵手の連携は完全に瓦解した
更に、俺の起こした在り得ざる現象
それに驚愕し、心身共に完全に硬直した連中など、振り切るのは実に容易い
最初に、振るわれた剣を受け止める
今まではその手段が無かった為、始終回避に徹していたがその問題は解決した
そして相手はと言えば、突然の事態の大きな変化に着いて行けず
結果として、振るわれた俺の蹴りを回避出来ず、無様に地に転がる
ダメージは無いだろう
だが、少し蹴り方に工夫をした
中てるのではなく、押す
勢いをつけず、逆に軽く押し当てた後に強く蹴り出す
攻撃が通じないなら、単に移動させる
この方法は、見事に功を奏して、三者共に地に転がす事が出来た
他の連中の様に投げ飛ばした訳では無いから、ダメージは無いだろう
しかし、今はそれで十分だった
(縮地っ!間に合うか!?)
俺は、剣を手にして縮地を使う
先の状況は確認しない、とにかく到着する事が最優先だ
こういう時、人間の認識は極限まで引き伸ばされる
いわゆる走馬燈的な現象だが、今まさにその状態に陥った
(遅いっ!まだか!?)
今の今まで、全く気にしていなかったそれに、今俺は強く苛まれていた
こんなに自らの無力を、無力感を歯がゆく悔しく思ったのは何時以来か
だが、それは実時間に直せばほんの一瞬
瞬きする間に、ふらつく敵とアイギナの間に回り込んだ
「お前……お前ぇーーっ!!」
もう相手に、言葉を繕うような余裕は無いらしい
隠す事無く敵意と殺意を載せて怒気をぶつけてくる
(何だよお前何なんだよお前は俺は痛いのは嫌いなんだよ痛いのは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ殺すのがいい殺す殺す殺す何で邪魔する殺す殺す死ね死ね死ね)
聴こえてくるのは、独善に満ちた狂気の叫び
だが、そんなものに頓着しないし斟酌しない
ただ冷静に敵手を討つのみ
「うるさいよ……」
だが
「あぁ!?」
それでも
「うるさいってんだよ!!そんなに痛いのが嫌なら、もう二度と痛い思いの無い様にしてやるよっ!!」
叫ばずには居られなかった
その、あまりにも手前勝手な願望も然ることながら、何より俺の神経を逆撫でしたのは
「どいつもこいつも、自分の都合で他人を傷つけて……傷つく奴の心情なんか一顧だにしない」
今も俺を苛み続けるあの声を思い起こさせた事
―誰も俺を自由にしない―
脳裏を過ぎる声
未だに現実感を伴って思い出せる、あの声
「誰も彼も不自由なんだよ……お前だけじゃない……なのに、お前だけがその鬱憤を撒き散らすなんて認めない……認められるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
もう俺の意識はこの場には無い
そして、心身の主導権もまた、俺の下には無かった
それは今を遥かに仰ぎ見る遠い過去の最中に
「あがぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっぁっぁぁぁぁ!!??!?!!?!?!??!!??!?」
しかし、現実はそんな逃避の一切を認める事無く
今ここでした事は、今この場で結果を生み出す
遠い過去からの帰還を果たした俺の眼前には、一本剣に脚を貫かれて地に倒れ悶え苦しむ敵の姿だった
ハァーッ……ハァーッ……ハァーッ
息が荒い
さっきまでは、一筋も乱れていなかった呼吸が、今は麻の様に乱れ切っていた
「……な、何が起こった……?」
乱れた息で痛む喉を酷使し、ただそれだけを口にする
俺の視界に居るのは黒尽くめの三人
余程の激しい運動をしたのか、汗みずくになって地に膝を突いた姿でこちらを見ていた
全身が小刻みに震えている様子を見るに、もうまともに動く事も叶わないだろう
(ああ、そうか……さっきまであれの相手をしていたんだな)
その時点で疲労困憊不可避の状態だった
結果として、連中は無力化された訳だ
そんな朗報も、今はどこか別世界の出来事の様に感じる
心と体が乖離している
思考に、記憶に
確実な空白が存在していた
「……マイシマさん……貴方はどれほど」
背後からの声に、一瞬で思考が現実に回帰する
俺は、どうやら守れた様だ
「ハァハァ……良かった……」
この瞬間に、全ての緊張が解けて無くなる
直後に全身を襲う疲労感
今の今まで誤魔化していた分が、一気に訪れただけだが、やはり堪えた
「……マイシマ サトル……貴様は……」
また別の声が聞こえた
総身から緊張が失せた俺は、その声に全ての憂いが無くなった事を確信して、意識を手放した
縮地という技法は、多くの漫画やアニメ等の創作物で取り扱われてきました
俺の最も古い記憶では、「るろうに剣心」で瀬田宗次郎が使っていたのを覚えています
彼はその健脚を以てその縮地を成していました
彼の縮地は高速移動
目にも留まらぬとされる高速移動は、床の畳や壁を蹴り壊して進むという大胆にしてしかし基礎的な体術でした
さて、それ以外で知るのは「ネギま!」辺りでしょうか
どちらにしろ、ややファンタジーな代物です
その名の由来となったのも、「神仙伝」という物語に於ける仙人が用いる仙術です
実際に土地を縮めて長い距離を移動するという術らしいですね
実にファンタジーです
しかし、多くの武術には実際にこの縮地が技術として存在します
皆さんご存知の剣道柔道空手にも、多くの流派でこの縮地の様な技術が伝えられています
縮地とは何か
高速移動というのは飽くまで一面に過ぎません
その真意は、敵の間合いの外から攻撃を届かせる技術です
その為に、素速く接近するという理屈に至る訳ですね
勿論それだけではありません
敵の虚を突き接近する技術、実際に腕や脚を伸ばして(無駄な縮こまりを解消する等して)一時的に間合いを伸ばす技術なども、縮地に該当する技法です
作中では、極めて連続的な全身運動による全力の移動として表しています
八極拳に見られる縮地と同様の技術ですね
理くんはそれを、更に推し進めた技術で縮地を行っている、という設定です
箭疾歩は明らかに前動作で丸わかりですから
ですが、それらを実戦的に推し進める技術的理論というのは、やはり現実の拳法には存在します
素晴らしいですね
先人の知恵というのは、本当に素晴らしいです
次回投稿は12月19日です
歳末の忙しい時期ですね
良き年越しを迎えられる様、皆様ご自愛下さい
とはいえ、これを投稿している時はまだ11月ですが
これから寒くなるんでしょうねぇ
ヤダなぁ




