↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/130

第六十話

続きです

はじめてのたいじんせん おかわり

「「「「「…………」」」」」


無言の敵手5人追加


地に倒れる同輩の安否を気遣う事も、それを為した俺への怒りを叫ぶでも無く

ただ、無言で剣を抜く

もうこれで確定だ


(こいつら、職業暗殺者だな……だが、何故間接的に攻撃してこなかった?)


それらを見て、しかし考えるのは不可解な敵手の行動

手持ちに投擲武器が無いのだとして、魔法は使える筈


(使えない理由がある?)


だとしたら、それは俺にとっては朗報だ

だが、魔法を侮って痛い目を見た身としては、警戒を解くのは憚られた


(十一人中五人はアルベルトが相手している。拮抗している様だし、あちらを気にする必要は無いだろう)


アイギナも、結局俺の指示に従ってくれたのか、その場を動いていない

残る六人中四人は無力化し二人に減らした

そこへ追加の五人

残る相手は七人


「来いよ。相手してやる」


そう言って手招きする

ただの挑発だ

冷静な奴なら、相手してもらうのは俺の方だと気付くだろう

相手は俺を無視出来るが、俺は出来ないのだから


故に、本来なら意味の無い挑発行為だが、引っ掛かった馬鹿が二人

元から居た残り物二人が、俺の手招きを隙在りと見たのか、突撃を敢行してきた


「「……」」


相変わらず無言だ

だが、目は口程に物を言う、の格言通り、その覆面から覗く目は猛る怒りに眼光輝かせ、視線は明らかに俺のみを捉えていた

標的の事など、すっかり意識の中には無い様だ


「実に好都合」


猪突猛進大いに結構なれど、それはこの状況では意味を成さない蛮行である

相手は二人、こちらは一人

どんなに頑張っても、彼らの動線は交わる運命に在る


俺は、先に到達する一人へ向き直る

実に愚かしい事に、腰に構えた剣を突き立てるしか出来ない体勢で突撃してきた相手を、前に軽く出る事で相手の思う衝突点をずらし、同時にその懐へ潜り込む

こうなれば後は容易い

ラリアットの要領で相手の首に前から腕を掛ける

突撃体勢で若干前のめりだった相手を、その勢いを利用して大きく浮かせる

更にその勢いを極力減衰させず、自身を軸に横回転

地に叩き付けられる事無く、首に掛かられた俺の腕に振り回される相手を、若干遅れて突っ込んできたもう一人に叩き付ける

数人を一手で無力化出来る、俺の得意戦術だ

大いに致死性に欠けるが、人間一人を振り回した勢いで人間一人分の体重を叩き付けられれば、当然ただでは済まない

特に今回の様に、相手がこちらへ突撃してきたところへぶつければ、交叉法的に破壊力は増大する


「……」


だが、成功の喜びに浸る余裕は無い

明らかに、増援五人の様子がおかしい

お互い無言で睨み合う


「おい。なんで今もさっきも手を出さなかった?」


隙は山ほど在った筈だ

意識的に晒した隙だけでも、十は下らない

なのに何の援護も無いのは、呆れを通り越して異常とすら感じた


「邪魔だから……」


「あ?」


五人の中の一人が返事をする

だが、誰が言ったのか判らない

意図的に声の発生源を悟らせない様にしているのだろう


「……まあいい。あっちは優勢だ」


そう言って、アルベルトが交戦している場所を、見ずに指差す

目を離す隙も無い相手だ

警戒を更に増しておく


「俺としては、お前らがそうして何もしないで、ボーっとしてくれるなら有り難い限りなんだが……どうする?」


何やら連続した剣戟の音が届くが、その数や間隔は減っていってる

無力化も近いだろう

そうなれば、こちらへアルベルトが応援に来られるし、なんならこの場からアイギナを連れて離脱してくれてもいい

どちらにせよ、俺としては万々歳な展開だが……


「なに、お前を。」「見ていた。」「のだよ。」「噂の女。」「神の使徒。」「なるほ。」「ど、確かに。」「明らか。」「に異質。」


誰が話しているか判らないと言ったが、それは間違いだった

こいつらは、全員で一つの言葉を、分担して口にしている

そうして相手を撹乱するのが、こいつらの手口の一端なのだろう


「へぇ……で?そんな異質な化け物相手にするのは御免だからって、逃げてくれるのかな?」


これも挑発

だが、ほぼ間違いなく効果は無いだろう

恐らくだが、こいつらが本命戦力

自己判断なのか、何処かに指揮者が居るのかは不明だが、こいつらが投入された時点で、戦闘は避けられない

問題は、こいつらの実力の程だ


「愚考」


先程からこいつらの発言は端的すぎる

言動から思考を読まれない為の工作だろうが、鬱陶しいとしか思えない

それも狙いの一つかと気付き、会話は止める

時間を稼げば有利になるのはこちらだけとは限らないのだ、脅威は早々に取り除くに限る


「そうか」


その一言と同時に、意識を完全に戦闘状態へ移行させる


そして、相手も同時に散開する 

直ぐに取り囲まれるも、焦りは一瞬

早々に冷静さを取り戻す


(どうやら、数で俺を抑え込んだ上で標的を狙うという訳ではないみたいだな)


もしそうなら、妨害する間も無く取り囲まれた時に、既にされているだろう


(尤も、そうする感じを受けなかったからこそ、取り囲まれるのを見過ごしたんだが)


仮にアイギナを直接狙いに行っていたら、あらゆる手段で妨害工作を施していた


(さてと、ここからどう出るか……)


自分が取り囲まれている状況では、こちらから動くのは愚策だ

俺の行動に、全員が八方から注視している以上、どんな小細工も確実に看破されるだろう

更に、俺は既に縮地を相手に見られている

未熟故に、あれには僅かな予兆がある

見抜かれていると踏まえて行動する必要がある


(……相手のアクションが無いな……千日手か?)


俺も待ち、相手も待ち

これでは状況が動く筈も無い

先程も言ったが、時間稼ぎは状況の不透明性が増すだけで利は無い

千日手と判断した以上、待ちの一手は愚策

ただでさえ数的不利を抱えているのだ、心身の消耗速度はこちらが圧倒的に上

そう考え、即座に行動へ移す


(大胆に打ってみるか……)


少しだけの状況の遷移では、直ぐに戻されてしまう可能性がある

ならば、大胆に動かしてみるのも、また一興というもの


俺は、やや変則的な体捌きで縮地を使う事で、可能な限り予兆を悟られない様に工夫した上で、囲みの後ろ、最もアイギナに近い位置に居る敵へ向けて、その背後を取るべく動く


直後、振り向きざまに振るわれる剣が耳元を通り過ぎる音が轟く


「っとぉ……流石に、もう見切られてるか!?」


急ぎだったとはいえ、何度も見せ過ぎた

縮地そのものには対応できていないが、奇襲自体に対応する事で縮地の脅威性を殆ど潰されている


尤も、その程度の対策しか出来ないのなら、それ相応に動けばいいだけなのだが


(そこまでする必要があるか……或いは、それに俺自身が対応出来るか……)


高度な戦術を実行するには、相応に高度な能力が要求される

今の俺にそれが有るのか

動く事自体は出来ているが、やはり過日のそれとは比較にならない程劣化している


(物は試しで動ける状況じゃないか)


危地を乗り切るには博打も必要だが、今はまだそこまで追い込まれていない

堅実に攻めるべきだろう


とはいえ、現実としては、敵の包囲は一発で抜け出せた

この事実は大きい意味を持つ

俺にも、そして敵にとっても


(なら、次の敵の動きは……)


想定して迎え撃つ

または、それを潰す動きで先手を取る


俺は後者を選択する

包囲が意味を成さないと判った以上、敵の狙いがアイギナ優先に移行しないとは言えないからだ

その前に、敵の思惑を潰す必要がある


(俺を無視など出来ないのだと、思い知らせなければならない)


包囲の手際、縮地への暫定的な対応、絶妙な連携力

全てを総合的に判断して、相当の実力者とみなす

全ての戦術は、その上で組み立てる


(包囲が意味を成さない以上、次の一手は)


敵の意識が俺から僅かに逸れるのを感じる

その意識はどこへ逸れたか


(決まっている)


俺の後ろに居るアイギナだ

まだ多少の距離は開いているが、俺も相手も一瞬で詰める事が出来る程度に過ぎない

そう来るとは思っていた

故に、格好の隙となる


(それは悪手だぞ?)


例え僅かとはいえ、眼前の脅威から意識を逸らす事の意味を教示してやらねばならない

その隙に小細工なしの縮地で一気に距離を詰める

今度は対応しきれず、完全に潜り込む事に成功する


狙いは直近の二人

包囲を破った事で散開する意味が無くなり、その相互距離を密にしていた事が災いし、両者ともに俺の手の届く範囲に居た

二人の中間位置を取った俺は、即座に二人の顎を横から掴む

腕は伸び切り力が入り難いが、お構いなしに二人を引き付けた


(おっと、流石に対応してくるか!?)


だが、即座に対応した二人は、引き付けられまいと力を入れ抵抗を示す

実に甘いと言わざるを得ない

そんな反射的な抵抗などで、このレベルの戦いを制する事は敵わない


引き付けられる事に対する反射的な抵抗とは、引き付けられる方向に対して逆方向へ逃れようとする動作に他ならない

ならば、それを利用させて貰うだけ

俺は早々に掴む手を放し、そのまましゃがみ込んで敵の足を取る

反射的な動作故に、その動きは全身に及び、足は踏ん張る為にこちら側に突き出されていた為、取るのは容易だった


(これに反応出来るかな?)


既に踏ん張るという反射動作を行っている為に、更なる反射行動を実行は出来ない

それが出来る相手かどうかを確かめる意味も込めて、取った足を思い切り引き上げた

するとどうなるか

取られたのは片足だけにも拘らず、到底踏ん張り切れず、盛大に側転してすっ転んだ

当然これだけでは済まさない

更なる無力化の為に、側転して頭から地面に突っ込んだ敵の、その脇腹へ向けて後ろ回し蹴りを叩き込む

完全に無防備な急所に、大威力の後ろ回し蹴りが直撃する

そのダメージたるや、想像を遠く離れる事は無い


もう片方には単純な回し蹴りを、しかし明確に爪先を腹に抉り込む様に突き刺す

狙いは肝臓だ

レバーブローでも悶絶必至なのに、それが回し蹴りとなれば、本当に肝臓が破れるかもしれない

勿論、そんな事情は斟酌しない

寧ろ破れろと言わんばかりの意思を込めて、しっかりと蹴り抜く


死んだかどうかの確認はしない

これだけの隙を晒したのだ、相手は当然その隙を突いてくる

片足立ちになり、動きが不自由な俺の胴体を狙い剣を突き出してくる

交差する様に二人だ

一人がしくじっても、もう一人がそれをカバーする

だが、やはり狙いが甘い

いや、これはこれで問題無い戦法ではあるのだが……

俺には通じないというだけ


右足を振り抜き、敵に対して半身を晒した片足立ち

上体も連動して思い切り蹴ったので、完全に体勢は崩れている

ここから即立て直しての逆撃は不可能だ


ならば、立て直さなければいい

今の俺は、右足に大きな運動エネルギーが集中した状態

それを、全身で支え姿勢を維持している

なので、それを止め、右足の赴くままに思い切り跳躍する


全力の回し蹴りの勢いは凄まじく、そのまま数メートル地面を転がり、そのまま勢いを利用して体勢を立て直す

だが、仕切り直し、とはいかない様だ


追撃の手は止まず、突撃してきた二人に加えて、残る一人も参加し、三方向から絶妙に避け難い斬撃が襲い掛かってくるのが見えた


俺は、若干平衡感覚への異常を覚えながらも、何とか一撃目を回避する

直ぐ様反撃を、と考えるも直後に視界の端に迫る白刃を察知し、またも回避する

その後も、熟練の連携により反撃の機会を見出せず、回避一辺倒に専念させられる


(反撃出来ない……これは拙いな)


また別の千日手に陥った事を悟る

とはいえ、そこまで長続きはしないだろうが

どちらかの疲労で勝負は傾く


(その場合、圧倒的に俺が不利なんだが……)


さて、どうするか


斬撃自体は脅威ではない

寧ろ、剣という明確過ぎる凶器の存在は、攻撃そのものを単調にしている

連携精度も、反撃の糸口が見えない程度で、回避そのものに支障は無い

これは偏に、敵の練度が俺に劣っている事を示していた


(なら、相手の疲労を待ってみるのも一つの手かな?)


敵の攻撃手順に慣れてきた俺は、その余裕を敵の状態観察に振り分ける

そうして見えてくるのは、以上の推測と敵の疲労度

明らかに疲労が現れてきている

恐らくあと数分保たないだろう


翻って、俺はと言えば、あと数十分は余裕で継続可能だ

だが、それは相手も理解している筈だ

ならばどうする?

こんな場合、相手はどう出る?


(……囮)


そう囮だ

どうあっても勝てない

しかし、相手も勝たせない状況を作る、その理由


(だが……誰が……)


既に膠着状態に陥って数十秒経過している

他の増援があるなら、とっくに参戦している筈

それが無い以上、懸念していた更なる増援の可能性は杞憂だったと判断出来る

つまり、既に出揃った敵手札の中に、切り札が残されている事になる


(考えろ……誰かが居る……俺が見逃がしている誰かが……)


アルベルトが相手をしている連中?違う

確かにこの場に居る連中の中で、目の前のこいつらに次いで元気な奴らだが、そもそもアルベルトを振り切ってこちらへ来れる様には見えなかった


こいつらが何らかの手段で、ここからアイギナを狙う?違う

そもそもそれが出来るなら、ここまで粘る必要は全くない筈

膠着状態に陥ってから

最悪でも、その状態に陥ってから脱する事が出来ないと確信出来た時に実行すべきだ

それが無い以上、もしかしたら飛び道具の類自体を所持していない可能性が高い


無力化した連中が起き上がって、俺の意表を突く?……うん、これだな

だが、全員が全員共、尽く人体急所を全力以上で打ち抜いている

重力を利用したり、回転の勢いを付加したり、地面とサンドイッチにしたり

非力ステータスの俺が、とにかく有効打を加える為に思いつく限り最大の方法で痛めつけた

これがダメなら、無力化なんて……


(いや、実際に倒れ伏しているのだから、有効な筈だ)


だが、これ以外の可能性は考え付かない

行き詰まりを覚えて、焦りに視界が狭まり始める


(ん?)


そんな狭窄視野の端に、一瞬だけ引っ掛かった、倒れ込む黒尽くめに違和感を覚えた

身動ぎしたとかそういう明確なものではない

だが、俺にとっては何より耳慣れたもの


(…ぇ……絶…に許……ぇ…………ぶ……して…る)


それは声

俺だけに聞こえる声が、敵意と殺意を叫んでいる

つまり、相手は……無力化して倒れている筈の敵は、その実、戦意を失っておらず……


「クソがっ!!」


その言葉は、相手にではなく自分に向けたもの

自分の手際の拙さに、つい悪態が口を突いて出てしまった


そんな猶予など無いのに


最早、俺の意識を占有する程にその存在感を増した敵の本命は、脇腹を駆ける痛みと苦しみに、息を喘がせながら、体を震わせ立ち上がろうとしていた


そう、敵の本命は、俺が側転させその勢いを加えた後ろ回し蹴りで脇腹を蹴り抜いた奴

理由は判らないが、俺を抑え込んでいる奴らは、アイツがまだ動ける事に気付いたのだろう

そして、同時に自分たちでは俺を殺せない事も

ならば、と賭けに出たのかもしれない

自分達が潰れるのが先か、アイツが起き上がるのが先か


実に狡猾

だが、同時に俺の愚かしさこそが原因だと思い知り、その不手際に吐き気すら催した

ただ脇腹を狙うのではなく、腎臓辺りを蹴り抜いておくんだった


今更後悔しても遅い

勝敗は既に決している

今この瞬間に、俺を抑え込む三人を無力化して、そのまま縮地で飛び込めば十分に間に合うが……


(こいつらっ……もう相当に疲労してる筈なのに……!)


全く隙が見出せない

寧ろ、連携の精度が増している

焦りによる錯覚を疑うまでも無く、明らかに細かな隙間が無くなっていた


敵も勝負に出たという事だ


俺は殺されないだろうが、アイギナは死ぬ


(それは……!!)


それは認められない

断じて許さない


俺は自ら忌避していた手段を実行に移す決断をした

全ては守る為に


某エロゲで、声が聴こえるというエンディングテーマが在ったのを思い出した

オープニングが神曲だったが、エンディングも良かったんだよなぁ


関係ないですね

では本題を


次回、理くんがその隠した力の一端を見せます

また、一部過去の事情も垣間見えるでしょう


投稿は12月12日です

1212、何かの日かな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。