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第五十九話

続きです

はじめてのたいじんせん


…………うーーん

どうにも考えが纏まらない

昔の事を思い起こしてみても、統一感なく再生されるのみで、余計に何をすべきか判らなくなってきた


「……ん?」


気付けば随分と時間が経過していた

おっさんと別れたのが昼前頃だったはず

朝一番で押し掛けた事を考えると、おっさんとは結構な長話をしていた事になるが、それから追憶に費やした時間は更に長い


「もう夜か……」


考え事に没頭していた為、自分が今何処に居るのか、そもそもどうやってここまで来たのかも判然とせず、ごく僅か途方に暮れた


……チンッ……ガチッ……


「何だ?」


途方に暮れる境遇というものに浸っていると、耳に不快な金属音が届いてきた

以前にもあった状況だ

あの時は、没落貴族のガキ共が喚き散らす声だった

だが、今度はそれより数段剣呑な音だ


「これって剣戟じゃないか?」


夜の城中で聞くには些か不穏当に過ぎる


「この辺って軍部の領域だったっけ?」


こんな時に、自分の居場所の情報が無いのは痛い

だが、今判断材料が無いなら、それを得に行けばいい

その精神に則って、音の発生源へ向かう事に決める


「問題ないなら、取り越し苦労の骨折り損で良かったで済むからな」


本当に緊急事態かどうか遠巻きに確認して、もしそうならこっそり抜け出して近場の人に知らせればいい

とにかく、状況確認が最優先だ


「こっちか……近いな」


音の間隔や音量が、その発生源との距離を教えてくれる

そろそろ状況を窺い知れる状況だと思うが


「クソッ、身を隠せそうな場所が無いぞ……」


場所は開けた中庭

城内に幾つも在る中庭の中でも、特に大きく開けていて、そして最も閑静な場所だ

人の動線から完全に外れてしまっていて、ここに人が来る事は殆ど無いと聞いている


「なんでこんな場所で……!」


などと愚痴ってみるも、だからこそ良からぬ事に使われるのだという事は、元の世界でもそう大差は無いのだと気付く

ただ、目論見が外された苛立ちを紛らわせる為に愚痴っただけ

故に、その事は早々に思考の外へ永久に追いやった

今考える事は一つだけでいい


(このまま確かめるべきか、それともここで退くべきか)


普通に我が身可愛さを優先させるなら、選ぶべきは後者だ

だが、曲がりなりにもこの城の食客の様な身分の俺は、こういう時に体を張ってみるのも報恩ってものではないか?と思ってしまう

それになにより


「……流石に、放ってはおけんよなぁ……」


俺がこの城に留まる個人的な理由は、世話になった人達への恩返しだ

ならば、ここは前に出るべき

そう結論付けた俺は、恐らく最後の遮蔽物であろう渡り廊下の欄干みたいな場所から飛び出し、現場となっている中庭に足を踏み入れた


「……流石に広いな……何かしているのは判るが、具体的に何をしているか、まるで判らんぞ」


夜の暗闇に加えて、人が豆粒程度にしか見えない程距離が開いていて、音はある程度聞き取れても、何をしているのかまでは判別出来なかった

ただ、一人を中心にして、複数の人影の様なものが飛び回り、それを妨害している一人が居る事だけは、辛うじて理解出来た


「それだけで十分過ぎる情報だろ?」


明らかに襲撃だ

それも、響く剣戟の音声は、間違いなく殺意を孕んでいる

つまり、何者かが集団で一人を殺しに掛かり、それをもう一人が防いでいる、という状況だ


そして、俺の思考に引っかかる一事


「似た様な状況……狙われている一人……それを護る一人……今日の話、昨日の出来事」


これだけ条件が揃えば、それを想定するな、という方が無理な話だろう

気配を消して近付いていたが、一転決意を持って突っ走る

足音はさせていないが、勘のいい奴なら気配で気付くだろう


そう、今この瞬間に、この場に近づくもう一隊の存在に俺が気付いた様に


「アイギナ!」


俺は、わざと大声でアイギナの名を呼び、自らの存在を知らしめる

別に襲われているのがアイギナで無くても問題は無い、気が引ければそれでいい

案の定、全員が大なり小なり何らかの反応を示し、若干の隙を晒す

その隙を突くべく、昨日と同じ戦法を以て敵対者を殲滅に掛かった


同じく特別な身体操作で、高速で相手の懐に潜り込む

俗に縮地と呼ばれる技法を、自分なりに再現したものだ

2、3メートルを一息に詰められる、俺は5メートル、本物の達人なら10メートルくらい余裕らしい

意表を突き、相手を制圧するにはもってこいの技法で、重宝している

日常生活では、もうすぐで信号が赤に変わる、という時に便利だぞ

ただし、人込みで使うとエライ事になるから注意が必要だ

時には諦めも肝心という事だな


「ぉらあっ!!」


気合一声

速度を可能な限り殺さずに上方への勢いに変換し、そのまま相手の顎を掌底でかち上げる

これだけで決められたと思うのは素人の考えだ

しっかりと鍛えられた奴なら、首周りの筋肉で衝撃を殺してくるし、不意を打っても舌を噛んだりしない

ただ、体勢は間違いなく崩れるので、そこを突いて、足を大きく払う

顎をかち上げられて、後ろに反ったところの足払い

相手はどうしようもなく、そのまま後頭部を思い切り地面に打ち付けた

下手をしなくても、現代日本でこれをやれば、アスファルトやコンクリートに後頭部を打ち付け死んでしまう事間違いなしだが、ここは別世界のお城の中庭

地面は柔らかい土だ、死にはすまい

死んだら死んだで、運が悪かったと諦めてもらおう


無力化した相手を一瞬だけ軽く見る

その手に握られていた中程度の両刃剣を目にし、苛烈に制圧する事を改めて採択する

情け容赦一切無用

殺人者は、自らも殺される覚悟を持って然るべきである


「死にたい奴から掛かって」


来い、と言い切る前に行動を開始する

ちょうど、襲撃者達を挟んで、対岸に位置していたアイギナと、連中の間に移動する

そのついでに、もう一人刈り取る事も出来たが、優位な位置の確保を優先した

虚を突かれ、驚きに固まっている相手を見て、その練度の低さを嘲笑する

戦闘に於いて、相手の拍子を外すのは常套手段だ

それに対応出来ない愚図は、地に伏し、土を舐めるのがお似合いだ


そう、今まさに地に倒れ引き攣けを起こす黒ずくめの奴の様に


暗闇に目が慣れ、相手の服装容姿を視認可能になってきた

背丈はバラバラ、体格にも統一性が無い

だが、その装備は見事に統一されている

上下黒一色

頭も頭巾と覆面で覆う念の入れ様だ

同じく黒の外套は、闇夜に紛れる時に、僅かに肌が露出しているところを隠す為に使うのだろう


そんな統一感は、間違いなく相手が組織立った行動を取っている事を示している

何せ、手に持っている剣も同じ規格の代物なのだ


「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」


目に見える敵は残り十一

だが、感じる気配は増援が間も無く到着する事を示していた

その猶予は、凡そ10秒前後


(それまでにこいつらを殲滅、然る後迎撃………不可能だ)


こうしている間にも増援到着は間近に迫っている

決断しなければ!


「……イシマさん!マイシマさん!」


最初の奇襲で背後に庇ったアイギナが、俺を強く呼び付ける声が聞こえるが、それに応える余裕は一切無い

この場で重要なのはアイギナではなく……


「アルベルト!もう一隊近づいている!数は不明だが、こいつら以上、練度も上と仮定して行動する!」


今だ数人と切り結んでいるアルベルトへ、連携を持ち掛ける

一人で切り抜けられるか、状況があまりに不透明に過ぎる

だからといって、諦めるなど論外

なら、嫌われているだろう相手にも、協力を要請する

恥やら解決後の確執なんかは、今は考えない


「返事は必要無い!お前はこいつらの相手をしろ!俺はこいつらの相手をしながら、到着する増援の相手をする!」


だが、アルベルトの実力も知らない上に、咄嗟の事態では、碌な戦術など思いつく訳が無い

おおまかな行動指針のみ一方的に指示し、しかし相手の了承は得ない

そんな手間を掛ける必要も無い程度の作戦だ


「アイギナ!お前はそこを動くな!」


可哀想だとも、申し訳ないとも思うが、キツく命令する

下手に動かれれば、その度にこちらの行動を調整しなければならず、そこに隙が生まれる

ただでさえ即興に次ぐ即興なんだ、不測の事態は可能な限り排除したい


「え!?ちょっと、マイシマさん!?」


「貴様!アイギナ様になんて無礼な!おい!聞いているのか!?」


二人が何やら文句があるようだが、そんなものを聞いてやる暇は無い

この間、既に7秒経過している

息継ぎ無しで言ったとはいえ、流石に時間を取られ過ぎた

予測した到着予定まであと3秒弱


「いいから動け!動くな!」


前者はアルベルトに、後者はアイギナに

混乱を呼ぶかもしれないが、それも想定して行動する


「クソッ!お前!後で話があるからな!」


アルベルトの捨て台詞が聞こえた


(おお、有り難いね!俺が生き残れると思ってくれてるとは!)


そんな切り返しも、今は心の中に留めて、表向きは無視する

どうせ、応える余裕など無い


「マイシマさん!ダメ、逃げてください!」


こちらは何やら世迷言を言っている

逃げられる状況だと思うのか!と言いはしない

ただ、面倒な事になるかな、とだけ考えて、意識の一部をアイギナの動向へ割くに留めた


(ちぇっ、立ち竦んで動けなくなる様な人だと楽なんだがなぁ)


だが、彼女がそういう女性なら、俺は恐らくこれほどの修羅場に飛び込もうとは思わなかっただろう

故に、責めるなら自分の趣味嗜好だ、と割り切って行動を開始する


あと3秒

敵増援は、既に視認可能な位置に居た……まだ芥子粒程度だが、かなりの移動速度だ

投擲武器への警戒が必要になるだろう

魔法攻撃への対処もしなければ


「ああもう!やる事山積みだな、おい!」


こちらを見ている敵は、十一人の内六人

半数もアルベルトに押し付けられなかった事を悔やむ


「とりあえず、死んどけや!」


敵手先頭の一人を睨み付け、大音声で叫びつける

反応し、僅かに怯む様を見せる

だが


「甘いよお前ら」


真の狙いは、その更に後ろ

3人ばかりがひと塊になっていた辺りだ

先頭の一人が居竦むのと対照的に、他の連中が弛緩したのを確認した為だ

これが狙いでもあったが、見事に大当たりである


またも縮地で距離を縮める

距離が大きく開いていたので、2連続の使用で相手集団の中心へ躍り出る

そして、一言言葉を掛けると同時に全員へ足払い

3人を一挙に転ばし、そのまま落ちてくる頭を狙いアクロバティックに蹴撃を打ち込む

俺の脚は二本、よって落ちてくる相手二人の後頭部から首筋辺り強烈に蹴り上げ、その延髄を痛打し破壊する

敵の体重と重力を利用した急所への攻撃だ、加えて俺の体のバネも存分に利かせてある

良くて意識喪失、悪くて死亡


だが、そんな事を気に掛ける暇は無い

勢いに任せて体を直立させる

そして、残る一人が地に後頭部を打ち付けた瞬間に、上から顔面へ踏み付けを見舞う

ちょうど、地面と俺の足裏でサンドイッチにする形だ

転ばされた勢いと踏み付けの衝撃を逃がせず、これもまた下手すれば死亡……いや、この場合は上手くいけば、かな


勿論、そんな事に気を取られはしない

この間凡そ1秒

増援連中には、既に俺が何をしているのかが視認出来る事だろう

妨害を警戒しながらも、即座に動き出し、更なる排撃に臨む


(意外とやれるもんだな)


僅かな思考の余裕に、そんなどうでもいい事を考える

それも直ぐに押し流され、戦闘行動に思考領域を占有させる


流石にまた一挙両得な作戦を立てる余裕は与えてくれなさそうなので、改めて先頭の一人へ狙いを付ける

とはいえ、もう隙は無い

萎縮も無い以上は速攻は難しいだろう


ここまで更に1秒

あと残り1秒


とりあえず正面に立つ

距離は極めて近い

一歩も無く相手の間合いに入る


あと0.5秒


にじり寄り、既に間合いに入った

縮地により背後を取られる可能性は警戒しているだろう

ならば


そのまま懐へ入り込む

過剰な警戒が、逆に懐への意識を疎かにしている事に、相手は気付けなかった

その隙を突き、剣を握る右手を左手で、相手の首を右手で掴む

右手で首を押し上げ、重心が左へ流れる

重心のずれた相手の右足を刈り取る

大外刈りだ

首に掛けた手はそのままに、転ぶ勢いを、手で押し込む事で加速させる

そのまま相手の頭頂部を地面に押し込んだ

頭部が僅かに突き刺さるが、如何に柔らかい土でも、全ての衝撃を受け止める程優しくは無い

恐らく、押し固められた土で頭部には甚大なダメージを受けただろうが、それを確認する暇は,最早無い


そして、その時は予測通りに訪れる


アルベルト君が何やら情けないですが、ちゃんと理由があります

いつもこれ言ってる気がするな……次回からは控えます

アルベルト君は次回も活躍はありません、悪しからず


次回投稿は12月5日………父の誕生日だわ

何か美味いもんでも用意するか

親孝行 したい時には 親は無し と言いますからね


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