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第五十八話

続きです

少し国王のおっさんとアイギナの過去へ踏み込みます


「で、どこまで話したか……ああ、そうだ。アイギナが生まれた前後の時期は、とにかく忙しかったって話だったな」


脱線に次ぐ脱線で、帰る着地点を見失いそうになったが、無事に話題は元の路線への帰還を果たす


「そんな状態だ。俺はアイギナを完全に放置した」


「……」


驚きは無い

これも元の世界ではしばしば見られること

怒りはあるが、それをぶつけても仕方ない


「暗に、あんな出来損ないに構っている暇は無い、という風に考えた事も、その一因なんだろ(ガチンッ)」


そう、言い訳して抑え込んだ怒りが、その言葉で一気に噴き出した

そして、言い切る前にその顎を斜めから突き上げる様に拳を叩き込んだ

舌を噛もうがそんな事はどうでもいいと、躊躇なく全力で、持てる技術で最適に

そんな全霊の一撃も、僅かに歯を咬み合わせただけに終わる


「……お前が憤るのも当然だろう。だが、今は俺の話を聴く時じゃないのか?」


傲慢さを感じさせる様な物言いだ

だが、そんな言い様でも、俺の激憤が鎮まっていくのが解った

その表情は傲慢とは程遠く、哀切に満ちている様に思えたからだ


「すまん。続けてくれ」


己の罪を自覚している者を相手に、その罪を切々と言い聞かせる事程愚かな事もそうは無い

馬の耳に念仏とはいうが、この場合は、釈迦に説法という方が正しいだろう


「……言い訳になるが、本当に当時はやる事が山積みでな。それを苦痛とは思わなかった。このどうしようもない国を、俺が変えてやるという意気込みに燃えていた……その使命感の前には、子供の事など後回しで良いと、そう思っていた。

それだけじゃなくて、当時かなりキツイ事もあってな、本当に産まれたばかりのアイギナの事は、完全に忘れていたんだ」


「……その、キツイ事っていうのは?」


責める気持ちはあるが、無為に話の流れを断つだけだと自重し、気になった点に質問するに留める


「……すまん、この事は直接関係しないんだ。忘れてくれ」


言いたくないという事だろう

直接関係しないと言うなら、突っ込んで訊くのは憚られる

不興を買って、話は止めると言い出されるのも困る


「そうか。いや、こっちこそすまない。続けてくれ」


質問の撤回と、話の続きを促す

元より、おっさんが言いたくない事まで突っ込む気も無いのだ


「……俺の妻、ロベリアの事は知っているな?話して、どんな風に感じた?」


「ん?おっさんの嫁さんって事は……王妃様か。ああ、俺を治療してくれたんだってな。そういえば、ちゃんとお礼を言ってない気がする。ええと、で?話してどう思ったかって?」


王妃様の名前を初めて知った

割と知らない事が多い事実に、少し情けない思いをしながら、質問の答えに思いを馳せる


「どうって言われてもな……質問が漠然として過ぎていて、答えを絞り切れんぞ」


相手の望む返答の範囲すら判らない質問の仕方に、軽く苦情を申し立てる


「確かにそうだな。……人柄についてはどうだ?」


「人柄ねぇ……」


一度会ったきりの相手の人柄なんぞ、正直言って殆ど記憶に残っていないのだが、そうはっきりとは言えん雰囲気だ

目を閉じ、黙考する態を示して、暗に少し待てと主張する


(………)


出来るだけ正確に、主観を交えず記録映画を見ているつもりで、状況を思い出す

等と言っても、やはり主観と客観は混在する

それは、それだけ相手の存在の主張が強かった事の現れでもある

関心を抱かなかった人物事物に対して、感情の込められた記憶などしようが無いからだ


「……せっかちな人だったな」


あと、豪胆な人だった

そう、そうだ

あの反論を許さない、というより、ただ相手の答えを聴いていない感じ

息継ぎしないで一気に用件を話す、その話術(?)

さばさばした姐さん口調

一度その記憶に焦点が合うと、一気に色々な記憶が数珠つなぎの様に引きずり出される


「うん、実に強烈な人だった。ああいう女性を女傑って言うんだろうな」


自分で言って、なんて的を射た表現だと思った

女傑

あの女性を表す言葉は、これ以外にはあるまい


「ああ……うん、まあ、やっぱりそういう印象だよな。俺もそうだったもんな」


いい年こいたおっさんが、もん、とか言うなよ、気色悪い

だが、やはりおっさんもそういう印象なんだな


「良いのか?自分の嫁さんにそんな印象抱いて」


率直に、しかし揶揄する意味も込めて、意地悪な質問を投げ駆ける


「ん?そんな事でリアは怒ったりはせんよ」


「やだ、聴きました?リア、ですって。リ・ア♪奥さんの事をそんな風に呼んでらっしゃるんですねぇ、旦那さん。いやぁ、お熱いわぁ」


揶揄いは止まらない

叔父さん叔母さん夫婦の仲睦まじい様子を常に見ている俺だが、やはりこの甘い感じには慣れない

恋人的な甘ったるさとは違い、甘さ控えめなのだが、その分重さを感じると言おうか

正直、ラブラブいちゃいちゃと、所構わず破廉恥な事をする恋人達より、熟年夫婦の重積積層した愛情の方が遥かに胸焼けする

前者を人工甘味料的な甘さとするなら、後者は濃厚なチョコレートの様な甘さだと言えばいいだろうか

このおっさんは、断然後者寄りだ

揶揄ってでもいないと、恥ずかしさと照れで赤面してしまう事請け合いだろう


「揶揄うな、全く……ほれ、カップが空だぞ」


対するおっさんは、照れも恥も無い

大人の余裕でさらりと流して、軽く窘めて、俺のカップに茶を注ぐ

普通のガキなら、その余裕ぶりに苛立ちを感じてしまうだろう

だが、この俺は残念ながら些か異常なガキなので、そんな事はサッと躱して、話の続きに戻すべく声を上げる


「で?王妃様の人柄がどうしたって?」


そこから脱線した

おっさんの意図が理解出来ないが、だからこそ続きを強請る


「……リアは、まあ、お前も知っての通りの性格だ。それこそ、俺と婚約した時には既にああだった」


「ああ、そうなのか。まあ、三つ子の魂百までって言うしな。別に驚かんよ。それで?」


躊躇いは感じている

やはり、話し難い事なのだろう

話の流れから察するに、嫁さんを貶める様な内容なのだと思う

俺はこのおっさんとアイギナ以外は碌に知らないが、二人とも自己犠牲精神の強い奴らだ

だからこそ、自分以外の人間を貶める発言はしたくないのかもしれない


「その言葉はよく解らんが……とにかくだ、ああいう性格だからな、産まれた子供に対しても、割と淡白だったんだ」


「ああ……そういう事」


概ね理解した

淡白、などと濁した言い方をしているが、実際は殆ど無関心だったのではないだろうか?

恐らくだが、相手がアイギナでなくてもそうなっていた可能性が高い

というか、研究者なんて連中の気質は大体そんなものだ

他者を粗略に扱う訳ではないが、逆に粗略にすら扱わない、という事がままあるのが研究者という連中だ

だが、この場合は状況が悪すぎた、という事なのかもしれない


「とまあ、そういう訳でな。アイギナが産まれたばかりの時、俺達夫婦はあの子を蔑ろにしていたという事だ」


蔑ろ、とまでは言えんが、自分達は関わらなかったという事だろう

流石に世話をする人間は


「まさか……」


閃くままに言葉を発する

俺の中で、色々な出来事が繋がった


「そのジジイがアイギナを虐待していたのか?」


確証は無いが、疑念と確信は相半ばだ

アイギナの言っていた「記憶に残る、出来損ないと囁く何者か」

新生児期か乳幼児期のアイギナを、両親は放置していたと告白したおっさん

アイギナを自身の政治目的に利用しようとして、そお周囲を固めていたジジイ

アイギナの低成長率


全てを繋ぎ、導かれる答えはそれしかない

反証としては、今のアイギナは間違いなく両親に愛されているだろう、という事だけ

母親に関しては確信には至らないが、気に掛けている様子ではあったし、少なくとも善良な人柄だと思えた

弟も、アイギナの窮状を救うくらいには良感情を抱いているだろう

妹も居るらしいが、会った事も無ければ名前も知らないので、この人に関しては何も言うことが無い


「そこまで酷い待遇では無かったよ……ただ、あのクソジジイは、ずっとアイギナの傍を離れず、役立たず、無能、王の子ではない、と囁き続けたらしい。それ以外は、食事や排泄の処理、自身や周囲も清潔に保たれていたし、概ねの世話は十分にされていた。俺とリアが事態を知って駆け付けた時、実際にこの手でアイギナを抱き上げたが、不快な感触や臭いもしなかったし、顔色や肉付きも悪くなかった。だから、その点は間違いないよ」


告白される内容は、やはり想像の範疇は超えない

だから、憤りは感じても怒りは覚えなかった

恐らくだが、報復も済んでいるだろうし、その辺を今更蒸し返すのは憚られた


「それは、隠蔽した結果という事は無いのか?事前に察知されていれば、体裁を整えるくらいは可能だろう?食事に関しては、死に直結するから虐待から外されていたという可能性もある。身体の傷や服は、回復魔法で覆い隠せるんじゃないか?」


だが、通り一遍の疑問は差し挿ませてもらう

これは単純に話を円滑に進めるためでもあり、ただ単に気が済まないからでもある

もし、この程度の可能性にも考えが及ばないなら、少しキツく物申しておく必要がある


「尤もな疑問だ。だが、その可能性は無い。まず、当時の世話役全員への聞き取り調査は厳正に執り行った。俺やリアも、怒りを露わにして問い詰めたから、偽りは無いだろう。消費された食糧や衣類の洗濯環境なども調査したが、そこから推測される状況ならそれなりに良い環境だったと言えるだろう。出入りの業者の調査もしたが、問題は無かった」


「回復魔法の方はどうなんだ?」


「赤子に回復魔法を使った前例が無いが、大人でもキツイんだ。それはお前も経験しただろう?赤子が耐えられるとは思えないというのが、リアの結論だ。また、当時の王城所属の回復魔法士は、全員がリアの監督下にあった。今もそうだが、リアは結婚当初から回復魔法の研究を行うための組織作りに精を出していたからな。国内の回復魔法士を王城で雇用したり、各町に派遣したりと、色々していたのさ。だから、そっちの線は無いと断定した」


流石に、俺の様な若造の懸念など、疾うに思い至って調べていたか

そうでなければ、俺としてもお仕えする甲斐が無い


「つまり、無能ジジイの愚痴以外は、問題のある環境では無かったのか……」


だが、それが今のアイギナを縛っているなら、捨て置けない問題だ


概ね訊きたい事は聞き出せた

最後にこれだけは訊いておこう、と決めていた事を訊ねて、この場はお開きとしよう


「おっさん、最後に一つだけ訊かせてくれ」


「何だ?隠す理由など何も無い。どんな事でも訊いてくれ」


諦念、或いは解放感とも取れる苦笑を浮かべて、安請け合いするおっさんに、俺は安心を抱ける様に笑い掛ける


「ああ、そんな大層な話じゃない。昨日、今のお前じゃあアイギナを任せられないって言ってたろ?あれってどういう意味だったんだ?」


実はそれがずっと気になっていた

答えが出ない疑問というのは、とても据わりの悪いものだ

男の子的な表現をするなら、逸物の位置条件が常に絶妙に悪い様に思える感覚か

どれだけ鼻をかんでも鼻詰まりが僅かも解消されない気分とでも言えばいいか


だが、おっさん的には予想外の質問だったようだ

明らかに拍子を外されたという表情をしている

これは意図的に見せている表情じゃないな、地金が出てしまっている

王様としては失点だな


「なんだ、その馬鹿面は。そんな変な事訊いてないだろ」


とりあえず、お仕えする上司がそんな調子では困るので、揶揄い気味に指摘する

どうでもいいが、大分失礼な態度だな、俺って


「いや、アイギナの事を訊かれると思ってたんだよ。大体想像もついてたから、返答も用意して、さあ来い!って心構えだったのに……全く別の質問されれば、そりゃあ馬鹿面の一つも晒すさ」


まあ、そんなところだと思ったけどな

そして、その想像していた質問も、大体判っている

確かにそれを訊こうと、この話を始める前は思っていたよ

だが、とりあえず、今は質問の答えを聞くのが先だ


「で?俺の質問には答えてくれるのか?くれないのか?」


「ああ、いや……ええと……」


しどろもどろしている様は、実に気分が言い

昨日やきもきさせられた分、俺の心が癒される思いがする


「はっきりしろって。どんな事でも訊いてくれって言ったろ?」


まだ舌の根の乾かぬ内に、その安請け合いを指摘する

白紙手形は切ってはいけないと、改めて心に刻んでほしい

恥辱をセットにすれば、記憶にも残るだろう


「いや……その、お前はその、俺が言った事に対して答えは出たのか?」


「質問に質問で返すなよ。まあいいが……答えが出てたら訊かないよ、そんな意地悪じゃないつもりだ」


今この場に第三者が居れば、どの口が言うのかと思うだろうが、俺は胸を張って反論しよう

俺は正当な事しか言っていないだろう?と


「それで?もう一度訊くが、答えてくれるのか?」


断じて恫喝ではない

が、どうしても恫喝に聞こえてしまう不思議


「……いや、だってさ。そういう関係でもない野郎に、気絶した愛娘の身柄を預ける親って居ると思うか?」


「…………」


居ないね

ああ、そんな親は居ないね

そんな理由かよ!?と思ったのも束の間

即座に強く納得する


「ああ、確かにその通りだな……」


だが、何だろうか

この圧倒的な脱力感は

もっと大層な理由かと思った


「もっと大層な理由かと思った……」


「大層だろうが。大事な娘の事だぞ!?大事大事!超大事!」


「あ、本音言っちゃってた?というか、超とか言うな。いい年したおっさんが……もうちょっと威厳をだな……」


うっかり本音が漏れていたらしい

その本音が、おっさんの幼稚スイッチを押しでもしたのか、聴くも情けない口調で抗議の声を上げだした

国王の威厳って一体何なんだろうか……


「うっさい!前も言ったが、気安い相手にくらい好きに話させろ!そう!これは俺なりの親愛の証なんだよ!やったね、国王のお友達認定だぞ、喜べ喜べ!」


などと囃し立てる様は、とても他の人には見せられない

これってどれくらいの人が知ってるんだろうか……

ヘクターは知ってる、一緒にやいのやいの騒いでやがったから

エドガーさんは……堅物そうなあの人が、こんなの見過ごすとは思えないが……だからこそ、という事もある

リチャードは、こんな有り様でも強く指摘出来そうに無いから、知っていてもおかしくは無い

王妃様はどうだろう……自分の妻に良いカッコしたいと思ってるなら、地金を晒していない可能性も否定出来ないが……


王妃様も大概変人だからな、奇人変人夫婦で案外気が合うのかもしれん

アイギナは知ってそうだな、前ここに来た時、おっさんに掴み掛かってたし


しかし、あまり嬉しくないお友達認定だな


「おい、何微妙な表情してんだよ。お友達お友達、美味しいお茶も飲めるぞ、旨いもんも食えるぞ」


「ガキか、食いモンで釣ろうとすんな。いや、アイギナの苦労が偲ばれると思っただけだよ」


そう言って、アイギナの労苦を思う

だが、元凶のおっさんは、何故かニヤニヤしだして、妙な事をし始めた


徐にポットをトレイからテーブルに移動させると、そのトレイを手に取り、それで顔を隠したかと思えば、端から覗き込


む様に顔を出し、また顔を隠して、逆側の端から顔を出しと、それを何回も繰り返す……ニヤけ面で

出ては隠れるニヤけ面が、実に神経を逆撫でする

きっと、このおっさんと友人付き合いすると、こういうのが日常化するのだろう


「なぁなぁ!お前、何時からアイギナを呼び捨てにする様になったんだよ!ええ?何時からだよ!」


中学生か?


「おっさん、アンタ幾つだよ?俺と同じくらいの娘が居る歳じゃないのかよ?」


疑問の形を取ってはいるが、断定であり非難でもある

別に、俺だっておっさんの事が嫌いな訳では無い、寧ろ好人物とさえ思っている

だが、おっさんにはもう少ししゃっきりしてほしいとも思ってしまう


「いや、父親としては、やっぱり娘のそういう周辺事情は気になるんだよなぁ。ウチは嫡男継承が基本だから、跡目は長男のカリドが継ぐけどさ。なら、アイギナの将来はどうなるのよ?って考えるのさ、親としてはな?まあ、この辺の親心っていうのは、まだお前には理解出来んかもしれんな」


「まあ、まだ子供の俺が親心に共感出来たら、そっちの方が異常だろ」


加えて、俺の父親はとんでもないクズだし

長らく父親という存在を欠いている家なのだ

父親らしさの実例に乏しい以上、知識不足はどうしても否めないものとなる


「でさ、アイギナに良い男でも居ないもんかね、って考えるんだけど、その辺はやっぱり難しくてさ」


「あ?何でだよ。才色兼備で気立ても良い、加えて最高権力者の娘。そうそう見ない優良物件だと思うがな」


これは間違いなく本音だ

あれほどの逸材なら、それこそ引っ張りだこでもおかしくない

だが、実情は異なる様だ

この国の男連中の目は、揃って節穴なのか?


「……本気で言ってるんだろうなぁ……いやお前さ、さっきまでの話聞いてて、アイギナがまともな婚姻を結べると思うか?」


ああ、そういう事か

どうやら、この辺に糸口が有りそうだな


「いや、失言だったな。確かに……なあ、一つ解決してない問題が残ってる事を思い出したんだが」


そうだ、結局解決してない、というよりは、そもそもそこに深く言及していなかった


「何だ?何かあったのか?」


呑気に言葉を促してくるおっさん

恐らく、現状最も急を要する問題を放置している事に気付いていない


「おい、そんな呑気に言ってて良いのか?昨日、アイギナが貴族連中に絡まれてたって報告しただろ!その時、護衛が居


なくてアイギナは一人だったって!」


「確かに聞いたが……それが問題なのか?」


先程までのバカげたゆるい空気など、その一言で軽く吹き飛んだ


「問題か、だと!娘が大勢に囲まれて罵詈雑言を投げ掛けられているのに、それが問題でなくて何が問題なんだ!?おい!」


俺に娘の身柄を預けられないとか言っておいて、その口でそんな事を抜かす

その矛盾は、容易く俺の堪忍袋の緒を引き千切った


「落ち着け。確かに問題は認識している。だが、そもそもお前も知っての通り、これが初めてじゃ無いんだ」


「ああ?どういう事だ?」


「冷静になってよく考えてみろ。俺が、それに対して何の対応もしていないと思うか?」


「思う」


即答だ

どうにもこのおっさんは、欠点が多い

いや、少ない欠点がよく目立つというべきか


「……いや、流石にそんな訳無いだろう。対処はした、いや、しようとしたが正しいな」


「どういう事だ?はっきり言ってくれ」


曖昧模糊とした言葉に苛立つが、何とか自制して詰問に努める


「アイギナが止めたんだよ。俺が連中を抑えようとするのをな」


「?」


何を言ってるのかは理解出来たし、その言葉が意味するところも理解出来たが、その理由が、その意思が理解出来ない

理解出来ない事を納得するのは難しく、当然の帰結として、その行為に納得する事は出来なかった


「何故?」


納得出来ない事柄に対して、俺が採った行動は端的に問う事のみ

それ以外は、どうにも意気が湧かなかった

怒る気力も無い

ただただ理解不能だ

不承不承という態を成す事も出来ない


「解らん」


返ってきた答えもまた、実に端的で

しかし、俺と同じく心底から理解不能だ、という意思がひしひしと感じられ、反駁する事も出来なかった


「…………」


「…………」


しばし黙って見つめ合った後、どうにも消化不良のまま、今回の対談は終わった







(あ、仕事サボった件の謝罪が出来てないな)


執務室を退室して、ある意味思考停止したままの帰路

その道中で用件の一つが未達成である事に気付いたが、今から戻って……という気力も湧かなかった


「アイギナ……どうにも理解出来んもんだな……」


少しでもアイギナの助けになろうと思って、おっさんの時間を頂戴したのだが、結局のところ、より謎は深まっただけ


(どうすれば、アンタをそこから救い出せる?)


放っておく気は全く無い

だが、その糸口が見えたと思えば、別の謎が、そこに在るだろう彼女の思惑が

俺に二の足を踏ませる、どうにも決断が出来ない


「俺の時はどうだったかな……」


ふと、過去への郷愁に駆られ、思考は幼い小学生の頃へと流れていった



こんな終わり方ですが、別に次回過去篇とかではありません


また、彼らの過去はこれが全てという訳でもありません

まだ幾らか残っています

それが核心………のつもりです


次回投稿は11月28日です

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