第五十四話
続きです
「…………」
少し気まずい
ちょっと容赦無さ過ぎたんじゃなかろうか
(そういえば居たな、アイギナさん。まるっきり意識の外だったわ)
つまり、俺の殺気が直撃した訳で
ということは、今まさに無様に地を這って逃げようとしている連中と、同じ状態になっているのではないか?
視界の端には、立ち姿のアイギナさんが映るが、判るのはただそれだけ
吐いているか?震えているか?脂汗を流しているか?そもそも気を失っていないだろうか
普通なら気を失っている
連中がそうならなかったのは、意識を飛ばす事を許さない様、強烈に威圧してやったからだ
だが、その矛先が向いていなかった傍観者であるアイギナさんはそうはいかない
(最悪立ったまま気絶して失禁してるかも……)
それは良くない
アイギナさんとは、これからも良好な関係を築いていきたいと思っているのだ
(威して気絶させて失禁させた奴と、良好な関係を築きたいと思う人なんか居ないだろうなぁ)
例えそれが、直接的なもので無くても
或いは、助けに入った末の悲劇であったとしても
普通は嫌がるだろう、そんな奴と仲良くするなんて
「しくじったか……」
思わず口にした言葉
「……何がですか?」
それに、思わぬ応答が在った
「っ!?アイギナさん!?」
この場には俺と、もう大分離れていった連中以外には、もう一人しか居ない
そして、連中は俺に声を掛ける余裕なんて……しまった
仕置きが中途半端に終わってしまった
後顧の憂いを断ち切るつもりが、これでは要らざる禍根を遺す事に……
(いや、今はそんなことはどうでもいいか)
失敗は失敗として、次の教訓にすればいい
幸いな事に、この世界で俺の弱みとなる存在には、頼もしいバックが付いている
百合は木野と、あのイングリットさんも付いている
アイギナさんは言わずもがなだ
ならば、自分の身だけ警戒していれば良い
今回のアイギナさんの件はおっさんに報告して……そうだ、アイギナさんだ
「……あ~、その。ええと……大丈夫、だったか?」
何と気の利かない言葉だろう
もっと言葉の選択はあったと思う
「答えて下さい。一体、貴方は何をしくじったと言うのですか?」
口調がキツイ
だが、俺自身もそれなりに平常心を取り戻す事が出来た
勿論、本当の事なんか口は出さない
失禁させちゃったかなぁ、拙いなぁ、なんて考えてたと知られたら、アイギナさんとの良好な人間関係のこれからに、大いに支障を来すからな
「いや、余計な手出しをしちゃったかなぁって」
という訳で、当たり障りのない話へと持って行く
友人関係然り、人間関係の維持の為に吐く誰も傷つけない嘘は、誰に恥じる事も無い方便だ
「?……どういう事ですか?」
さっきから口調がキツイ
怒らせてしまっただろうか
(まあ、当然か)
やってしまった事は取り消せない
ここから挽回しよう
「なあ、アイギナさん。アルベルトは何で居ないんだ?」
その為にも、先ずは会話の主導権を握る
相手と同等以上の心理的立ち位置に立たねば、対話が成り立つ事は無い
相手より下の立場からするのは交渉や懇願の類だ
別にそれでも構わないが、相手が隙を晒してくれているのだから、ここは少し踏み込んでおこう
「え?」
観察眼を働かせずとも直ぐに理解出来た
動揺している
つまり、この点を突くのは正解だという事だ
「アルベルトだよ、近衛の……よく一緒に居るでしょう?彼は何処ですか?」
だが、出来るだけ穏やかに
恫喝している様に、糾弾している様に
そんな風には聞こえない、感じない様、注意を払って訊ねる
(アイツの態度や言動を鑑みれば、理由無く職務を離れたりはしない筈)
そう迷い無く言い切れる程に、アイツはアイギナさんに傾倒していた
そもそも、アイツが付いていれば、俺が出しゃばる必要は無かったかもしれないし、こんなに徹底して相手を潰す必要も、多分無かっただろう
(つまり、今の俺の窮状はアイツの職務怠慢にあると言っても良い)
だが、アイツがこの場に居ない理由が正当なものであったり、アイツの責任外の事なら話は別だ
そう、俺はアイギナさんの側に何かしらの理由が有ると考えている
それも、真面ではない理由が
そこを突けば、話を有利に持っていける筈
「アッシュなら今日は非番ですが……それがどうしたのですか?」
「………いえ」
正当な理由が有りました
どうしよう
(どうするどうする!?……そうだ!)
「では、他の護衛はどうしたんですか?一国の王女殿下がお1人で歩き回るのは、あまり良くない事だと思いますが」
口調が厳しくなる
今、アイギナさんは糾弾されている気分だろう
自分で客観的に聞いても、同じように感じるだろうから
(すまない!だが、これも不埒な想像を悟られない為!)
一国の王女の……女性が失禁したかを案じていたなんて知られたら……
絶対に隠し通さなくては……!
「それは……今は関係ないでしょう?」
良い感じに動揺している
攻め時だ!
「友人として心配しているんですよ。……とはいえ、僭越だった様です。とにかく、この場に留まるのは良くない。今日の仕事はまだ終わってませんよね?確か、財務関係の書類を昼前に大量に届けた筈ですから……流石に、あの量をもう処理した、なんて事は無いですよね?」
一気に攻め立てる
とは言っても、糾弾している訳では無いし、そのつもりも無い
故に、攻める方向性は自ずから、行動の誘導に終始する
とにかく場を離れて空気を変え、安全な場所に移って貰いたい
「あ、いえ。あの、そうでは……そんなつもりで言ったのでは…………はい……」
一気に捲し立て、更にその一つ一つに律義に答えを返そうとした為、言葉が途切れ途切れで意味を成さなくなる
だが、最後の「はい……」だけは、その意味するところを理解した
「では、執務室まで送りますよ。……護衛は居ないと受け取りますよ」
護衛が居るなら、そいつは真に無能だ
出来ないだけならまだ良い
出来るのにやらない奴が一番質が悪い
だが、そんな無能がこの国の近衛に居るとは思えない
そんな事を、おっさんもヘクターも認めないだろう
(これだけ経っても、誰も出て来ない)
それは、つまり護衛はこの場に居ない
それがどういった事情によるものかは、俺の知るところでは無い
アイギナさんも知らせたいとは思ってない様だ
ならば訊きはしない
「さあ、行きましょう」
だから、今は俺の言葉に従ってくれ
この場に居て欲しくない
そういう思いで居る事に気づく
だが、それは当然だ
恩人を、こんな酸っぱい臭いのする汚物が撒き散らされた場所に留めたいとは、誰だって思わない
(あ……そうだ)
そこで問題点に行き当たる
俺の履いている靴
必要だったとはいえ、その汚らしいものを躊躇無く踏みつけ、盛大に塗れてしまっていた
ザッ、ザリッ、ズリュッ
よく自分の足音に耳を澄ませば、三つの音が聴こえてくる
普通に土を踏んだ音
纏わりついた汚物泥が、土や小石と引っ掻き合う音
塗れた汚物によって、踏み込む足が軽く滑る音
こんな靴で城内を歩いて良いのか?
それ以前にアイギナさんと、こんな状態で連れだって良いのか?
(いいや、良くない)
ならどうするか
実に良い解決策がある
俺は、先を進むアイギナさんの三歩後ろを歩きながら、少しずつ踵を靴から引き抜く
中は靴下だが、ひとまず気にせず、つま先立ちで歩く
そして、中庭から城内へ入る所で、そのまま足を靴から抜き去った
その時、出来るだけ静かに穏やかに行うことを心掛ける
派手に蹴飛ばしたら、音でばれるかもしれないし、勢いで汚物が撒き散らされる可能性が高い
幸いにして、アイギナさんは他人の足元を覗こうなどと考える、不躾な人物ではない
なので、裸足で同道しても気付かれる憂いは限りなく小さい
後は靴下を脱ぎ去るのみ
それも、直ぐに済ませる事が出来た
両者の位置関係なら、気付かれずに事を終えるなど容易い
こうして俺は、汚れた靴を排除し、靴下を過剰に汚す事も予防した
自分で洗う訳では無いのだ、この程度は気遣いの内に入らない
(…………脱いだ靴下はどうしよう…………)
流石に手で持ち運ぶわけにはいかない
しかし、ポケットに入れておくのも問題だ
(不衛生だよな……痒くなりそう)
今の俺の服装は、至って単純だ
上は普通のTシャツにベスト
材料は不明だが肌触りは悪くない
下も普通の長ズボン
少しゆったりとしていて、こちらも材質不明だが引っ掛かりを覚えず快適だ
靴下と言うと小物と感じるが、実際にポケットに詰め込むとその存在感は侮れない
まず間違いなくポケットが膨れ上がり、隠した物の代わりにその存在を主張するだろう
(だけど、ここに放り出す訳にはいかない)
洗濯してくれる人への気遣いのつもりで脱いだのに、こんなところに放り出すなんて、汚す以前の問題だ
靴を履いて歩く場所で裸足で居る時点で相当に非常識だが、流石に誰かに迷惑を掛けるつもりはない
(片方ずつ分けて、畳んでポケットに入れとこう……)
多分ポケットの辺りの肌が痒くなるが、我慢するしかない
(後先考えないとこうなるって、いい教訓にしよう)
「マイシマさん……」
そんな下らない問題に頭を捻りながら、だが片時も意識も視線も切らさずに見ていた眼前のアイギナさんが、突然立ち止まり、こちらを一瞥する事無く声を上げた
ここに来るまで、一切の会話も無く、直前の空気の悪さから、まさか声を掛けられるとは考えていなかった
そんな、ある意味想定外の事態に、僅かに生まれた動揺を押し隠し
「どうしたんです?アイギナさん」
端的な言葉だけ返した
最近になって気付いたが、動揺した時に言葉が少なくなるのは、俺の悪癖だ
気付けただけ良しとしよう
「この後、少しお時間はありますか?」
意図の読めない問いだ
ならば、額面通りに受け取ろう
「空いてますよ」
勿論嘘だが、今のアイギナさんを無責任に放置する事は出来ない
おっさんには後で謝罪するとしよう
「……嘘ですね」
折角の方便を、容易く切り捨てるんじゃない
とはいえ、バレたものは仕方ない
「確かに嘘ですが、俺だって優先順位をつけるくらいの脳ミソはあるつもりですよ」
元々、城中での仕事を得たのは、おっさんやヘクター、アイギナさんへの恩返しのつもりだった
今でもその目的は変わっていないが、だからこそ、アイギナさんを放っておく事は出来ないのだ
それでは本末転倒だから
おっさんも分かってくれるだろう……と思う、多分
「……仕事より私の方が優先ですか?」
肩越しにこちらに視線が向く
「それは当然でしょう」
俺としては、何も引け目に思う事は無い
自身の立ち位置の特異性は理解しているつもりだ
故に、ある程度はそれに沿った振る舞いをしても、責められる謂れは無い
責めるくらいなら、初めから俺を使わなければいいだけだ
(我ながら凄い開き直りだな)
本当に、おっさんには後で平謝りしよう
「ではお言葉に甘えて、少し昔話に付き合ってください」
自己正当化を早々に済ませると、アイギナさんがそう言って先を進む
付いて来いという暗黙の意思表示を受け取り、その後に続く
距離は、変わらず三歩後ろだ
なんなら、影を踏まない様に気を付けようか
(助走を利かせて空中殺法、なんてのも面白いかもしれないな)
流石にしないが、妄想するだけなら自由だ
「ここがいいでしょう……」
ちょくちょく人とすれ違いながら、アイギナさんの様子が常と違うことを察知したのか、皆軽く会釈するのみで、特に声を掛けてはこない
そして、俺たちの間にも会話がないので、至って静かなまま、何やらどこかに辿り着いたらしい
「マイシマさん、こちらへ」
そう言って先導されるままに立ち入ったのは、その存在価値の理解出来ないバルコニー
城中を縦横に走る長い廊下の途中に散在していて、人の四、五人くらいなら詰めれば入れるくらいの広さがある
戦略的に見れば、敵の侵入経路になりそうで、正直前から気になっていたところだ
(これって、城に必要な代物なんだろうか?)
そう思うが、口には出さない
三歩先を行って、俺の到着を待ち侘びている様にこちらを見ているアイギナさんの纏う雰囲気が、余計な差し出口を封じているからだ
余程大事な話をするのだろう
(昔話か……)
昔話と聞いて、更に何やら重い話の気配を感じれば、思うところがある
俺だって軽々しく口にしたくない過去なら持っている
それを俺に話してくれるというのなら、それは俺に対する信頼の証として、厳正に受け止めよう
「まず、先程はありがとうございました」
そう言って、横に並んだ俺に頭を下げる
「どういたしまして。ひとつ訊いても良いかな?」
今は私的な時間だと判断して、口調は崩す
さっきも言ったが、彼女は友人だ
友人には友人に対するに相応しい態度がある
「……何でしょうか?」
少し顔を引きつらせるのが判った
訊かれる事が予想出来、それに踏み込まれたくないと考えているのだろう
だが、先程の答えもまだ聞いていない
少し突っ込ませてもらうが、悪く思わないでほしい
「アイツらは何だ?」
言葉は端的だが、この意味するところは大きく重い
「……彼らは貴族です。マイシマさんは父の直属として働いているのですから、その存在はご存知のはず」
返る答えは想像通り
俺がおっさんの直属かどうかは知らないが
「アイツらが貴族だとして、やはり解らない。アイギナさんはこの国の頂点である国王の第一子。あんな無礼千万な態度を取り、押し囲んで恫喝するなんて」
許されるのか、そう言おうとして、瞬間言葉に詰まる
バルコニーの手摺に手を付き外の景色を見つめていたその目が、窺知し難い感情を浮かべてこちらを見つめていたからだ
そして、言葉に詰まった俺を見て、またも感情を窺い知り難い笑みを浮かべ
「それについて、私に判る事は多くありません。ただ、どうしても抵抗しようという気にならないのです。何故でしょうね?」
そう、冗談めかして言った
何の解答にもなっていない事に対する苛立ちなど覚えなかった
ただ、湧き上がる疑念と怒りに、俺の思考は占拠されていた
「……昔話ってなんだ?」
これ以上問い詰めるのは気が引ける
そちらも良からぬ気配に満ちているが、行きどまりの地獄と先の見えない地獄なら、後者を選んで進もう
どうせ、いずれは対決しないといけない問題の様だしな
(この辺りに、恩返しの方法があるかもな……)
全く喜ばしくない発見だが、無視して進むのは義理に反する
今はこの事は記憶の片隅に置いておこう
「そうでしたね……と言っても、大した話ではないんですよ?」
謙遜じみて聞こえる言葉だが、そこに込められている感情は躊躇だ
アイギナさんは、この期に及んでも話したくないと思っている
それも当然だと思う
誰だって、知られたくない過去、明かしたくない記憶は有る
(だけど、それでも話したいと思ったんだ)
その心の断片が、しかし確かに存在する以上は、俺としても退く事はしない
言葉での催促はしない、逆効果になる可能性が高いからだ
俺は首だけでこちらを向いているアイギナさんに、体ごと向き直り、その目をただじっと見つめた
少しでも俺の誠心が伝わるようにと思って
「物好きですね……」
そう呟かれた言葉に、僅かな衝撃を受ける
(初めてじゃないか?アイギナさんに悪し様な言葉を掛けられるのは……)
勿論、そこに込められた感情に悪意は感じない
単に揶揄っているだけ、照れ隠しとしても稚拙だろう
だが、それでも心を許してくれたように感じた
(ここまで嬉しいと感じるなんてな)
よく思い返せば初めてかもしれない
父親が居なくなってから、俺を悪く言う人は居なかったように思う
少なくとも、痛烈に面罵された経験は無い
「そうかもな……」
一つ、俺に異常事態が発生した
(……笑っている)
自分でも驚いたが、あの日以降、これほど自然に微笑みを浮かべられた事は無い
その理由は何なのか
それを今知る必要は無いが、心はその理由を求めていた
「なんですか、それ」
耳に届くアイギナさんの声が心地よく、胸の内に響く
その声は、おかし気に笑っている様に聞こえる
それに釣られて、俺の声も楽し気に弾む
「さあ?アイギナが言ったんじゃないか」
揶揄う声に心が乗る
ごくごく自然に、アイギナさんの名前を呼び捨てにする
(……不思議な感覚だ)
その事を申し訳なく思う気持ちと、嬉しく思う気持ちが鬩ぎ合うが、しかしどういう訳か互いを貶める事無く同居している
(俺は、呼び捨てにした事を申し訳なく思う事すら嬉しく思っているのか?)
今はそうとしか結論付けられない
解決できない問題は、一旦置いておくのが良い
俺は思考を切り替える
今すべき事は、真摯にアイギナさんの話を聴き、それと向き合う事だ
「…………」
そう思い、アイギナさん……アイギナの方へ身体ごと向き直る
すると
「………………あ、あぅ」
身体は手摺に、しかし顔だけこちらに向けたアイギナは、その顔を、おそらく驚愕に染めていた
瞼は大きく開かれ、青紫色の瞳をいつも以上に露わにしている
唇もごく僅かに開かれ、その隙間から少量飛び込んだ光の白色と血色のいい舌の赤色が入り混じった暗赤色の口内を幽かに窺わせていた
(というか、ここまで細かく観察するって、変態かよ)
アイギナの驚く理由が気になったのも瞬間、その驚く顔を具に観察した事実に、自身の変態性を疑い心中で愕然とする
全く別の理由で驚きに心を失する両者
だが、復帰は俺の方が早かった
「アイギナ?どうしたんだ、そんなに目を見開いて」
二回目もごく自然に
多分、心情自体に変化があったからだろう
「あぇっ!!?い、いいいいいいぇぇ…………な、何でもありません……」
「何でもないって事は無いだろう?明らかに様子がおかしいが」
そこまで言って、やっと答えに気付く
そして、自らの愚かしさに、臍を噛みたい気持ちでいっぱいになった
(……~~~~っ!そうだ!俺は馬鹿か!?馬鹿だよ、畜生が!!)
これから繊細な話をしようと言う時に、こんな不真面目な態度でおちゃらけた受け答えをするなんて、蒙昧極まる愚見愚行
(だが、まだ挽回は可能なはず)
そうでなければ、アイギナがこの場に未だ留まってくれている理由に説明がつかない
怒ってはいない、失望もされていない…………きっと
(よしよし。まだ大丈夫まだ大丈夫)
幸いな事に、アイギナはまだ復帰していない
ならば、ここを橋頭保として改めて進行する
可能なはずだ、今ならやり直せる
とりあえず、アイギナにもこちらに復帰してもらおう
このままだと、話が出来そうにない
俺はアイギナの両肩に手を置いて、顔を正面から見つめて、丁寧に言い聞かせる様に声を掛ける
「アイギナ」
こういう時、言葉を多く用いるのは逆効果になる可能性が高い
相手の意識を一つに絞り、混乱で支離滅裂になった思考を一本化させる方法が最適だ
その為、相手の行動を制限し、触覚を集中させ、視界を覆う
その上で、聴覚を一時的に占有すれば、後は仕上げを御覧じろ
「……はい」
成功だ
呆けた感じが少し心配だが、混乱は収まった
「俺は、こう見えても結構重たい人生を歩んできていてね?」
次にするのは、彼女の抱える不安を軽くする事
人が何かを告白する時、最も恐れるのは、相手が受け入れてくれるかどうか
この一事に尽きる
その不安を軽減する手段は色々とあるが、最も容易く効果も大きいのは、自身も相手の同類であると打ち明ける事だ
逆に、既にこれをしていて、なお相手が不安を覚えるなら、それは相手の事情がこちらの想像を超える可能性があると判断する材料と出来る
「だから、というのはおかしいかもしれないが、まあ多少は人より打たれ強いつもりだ」
更に、暗にこういう事だと示し、明言しない事も忘れてはならない
もし筋違いな懸念を抱いていても、多少はごまかせるし、相手の内で都合よく解釈も出来る
寧ろ、都合よく解釈してほしいくらいだ
「………解りました」
彼女なら理解してくれると確信していた為、特に反応を示さず、改めて向き合う事で続きを促す
俺の方の覚悟は既に決まっている
(……一応、多少の想像ならついているしな)
未来を確かに想像する事は難しいが、過去は現在からある程度推測可能だ
そして、俺は彼女や彼女の父親と、それなりに心を交えたつもりでいる
後はその"つもり"が思い込みや妄想の類で無い事を祈るのみである
あまりにも内容が散乱していて、理解が困難になってきている
理一人の視点だから、仕方ないんだけど
キリのいいところでアイギナ+おっさんの視点での、その時彼は!?みたいな話を書く予定
そこである程度補完するので、気長に待っててください
そんなに先では無いですから
次回投稿は10月31日です
予約超便利




