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ゲーマーが往く、異世界チート発見!  作者: ヤタガミ
第二部 喪失と挫折
43/130

第四十二話

神は言っている

この辺で投稿した方がいいと


というわけで、前回後書きとは少し違って、最後はイングリットさん視点で切ってます

…………何かが頬に触れている…………


………叩かれている………?


……そもそも、俺はどうなっている?……


…とにかく、先ずは身体を動かさないと…



「………達、コイ……女…い?」


誰かの声が聞こえる……発生源へ目を向けようとして、自分が目を瞑っている事に気が付く

何故?と自答するより早く答えは導き出される


(俺は……眠っていた……?)


自分の状態には即座に答えを出せても、何故そうなっているのかが判らない


「な………早い。……ツの身体……う…全だ…。連……帰っ…くれ」


(くれ?何をくれって言うんだ?というか、誰かも判らないのに、いきなり物乞いされる謂れはないぞ)


逃避気味に思考が逸れるも、気にせず外界に意識を向け続ける

そうでもしないと目覚められないくらいに、今自分を蝕む睡魔は手強く意識に絡みついている


「…う言ってるだ………で、連れ…帰ってく………かい?……ないの…い?」


少しずつだが、言葉が鮮明になってくるのが自覚出来た

しかし、声の主が誰かまでは判らない


(誰だ……?口調の感じから、気の強そうな女性っぽいが)


そう、例えるなら肝っ玉母さん

商店街辺りに出没して長話している、所謂典型的なおばちゃんタイプ


(よし、大分思考が明瞭になってきた。後少しで完全に目を覚ませるだろう)


そうこうしている内にも会話は進んでいく


「ねぇ……、連れて帰って………の?おば…ん」


(百合!?)


聴き慣れた百合の声で一気に思考の靄が晴れる

目覚めるのももうすぐだ、という実感が湧く


(ところで……)


思考がはっきりとして、やっと自身の状況に気が向く様になった

うっすらと開いた瞼から覗いた視界には、何故かそっぽを向いている白衣の女の人が映る


(……うーん、ナイスバディ)


薄ぼやけた視界にも、はっきりと映るワガママボディに、俺の中の男が歓声を上げるのが解る

だが油断するなかれ、顔はあさってを向いているので判らない


(弩級のボンキュッボン!でも、顔はおかめおたふく、なんて事も珍しくないからな)


女性が聞いたら激怒しそうな事を考えながら、ばれなきゃいいんだよ、と自己弁護しつつ、なかなか開かない瞼を煩わしく思う


「え?ご存知なのですか?」


「当たり前だろうが。私は治療師だよ?アンタたちの面倒を見る様に、陛下から仰せつかっているに決まってるだろう」


ついに全ての単語を聞き取る事が出来るまでに復調した

そして、気にしないようにしていた事に、意識を向けざるを得なくなった


(この人、俺のこと叩いてるよな?)


白衣の女性(ワガママボディ)は、顔だけそっぽを向けながらも、器用に俺の頬をパチンパチンと連続的に叩き続けているのだ

あまりに予想外の展開に、寝起きの思考ははっきりと停止を余儀なくされる


前述の様な、一目瞭然の疑問など、本来なら抱く余地はないのだが、思考が停止してしまい、そこまで判断力が働かないのだ


「……おぃ………」


自分の発した声とは思えないほど、擦れ切った音が発せられた

これではとても聞き取れまいと思い、今度は唾を飲み込んで喉を湿らせてから……

と、しようとしたところ、こちらに視線が集まっているのに気が付く


「理……?」「舞島くん?」「なんだい?やっと起きたのかい?」「………」


百合、木野、白衣の女性、あとの一人は判らない

何故か、辛そうな顔をしているのが気に掛かった


「さと、ふぐぅ!」


百合が駆け寄ってきたが、白衣の女性がその頬を叩いて押し止めた

一切の躊躇が無かったが、やはり肝っ玉母さん系の女性なのだろうか


「百合!?」「ユリさん!?」


木野と謎の女性の叫び声が耳に障る

正直、寝起きに女のキンキン声はキツイです


「静かにおしよ。今から診察するんだからね、邪魔するんじゃないよ」


邪魔するんやったら出てって~

と、おふざけは大概にして……


「診察?」


思わず口にしたが、診察……俺に?

何故に?


「何が何だか解らないって顔してるねぇ……ここは治療院で、アンタは酷い怪我をしてここに運び込まれた、そんなアンタをアタシが治療した、解ったかい?解ったら、アタシの質問に答えな」


早い、早いよ展開が

もう少しゆっくりと、じっくりと展開していってもいいでしょうに

この人は肝っ玉母さんでせっかちな人だと認識を改めた


「怪我……ですか」


そう、怪我だ

その一言を切っ掛けに、今の自身の境遇を急速に把握していく


「俺は……」


そこから先は口に出来ない

したくない、という思いもあるが、それ以上に


「そんな感傷はどうでもいいから、アタシの質問に答えるのか答えないのか、はっきりしな!」


目の前で凄む女傑の恫喝に屈したからだ


(こんなのに逆らえる奴居るのかよ……)


敵対しているならともかく、平時では最強格の実力者だと思う

叔母さんと同じタイプの人だな、と心の備忘録に、逆らってはいけない人物として記載する


「あ、はい」


それだけしか言えない俺を、どうか見ないでくれ、百合と木野と謎の女性よ


「じゃあ、最初の質問だ」


……いくつかの問いに答えたところで、満足気に女傑が微笑む

怒涛の展開に意識が持っていかれていたが、この女傑さん、とても美人です

こういう歳の取り方したいよねー、って思う感じにナイスミドル


(どことなく、アイギナさんに似ている様な……)


そう、いやに美人に感じるのも、そこに起因している

アイギナさんが歳を取ったらこうなるんじゃないかなー、とか


「アンタ、ウチの娘と仲良いんだってね」


そんな不埒な事を考えていたら、唐突に訳の解らない事を言い出してきた

本当に理解出来ないのだが、一体どういう事なのか


「アンタ、今アタシの顔を見てたろ。で、娘の事を思い出したんじゃないかい?」


え?どういう事?


「察しが悪い坊やだねぇ。アイギナはアタシが生まれて初めて産んだ子さね」


「はい?」「え?」「それって……」


頭から、俺、百合、木野のそれぞれが思わず発してしまった言葉

謎の女性は、特段動揺していない様で、何やら呆れた様な表情をしている


「あのー……それって、もしかして、国王様の奥さんって事……ですか?」


百合の質問は、俺達三人の総意だ

肝っ玉母さんだと思っていたが、ホントに母さんで、しかも国母?

そりゃあ肝も太くなるわけだ

というか……王妃様?


「そう言ってるだろ?察しが悪いのは、異世界人の特徴なのかい?」


………………………………………………………………………………………………


「「「ええええええええええーーーーーーーーーーーーー!!!!!??????」」」






目の前で、私の友人達とその想い人?の男性が、王妃様に叱られている

この王妃様、とても曲者で食わせ者

そもそもからして、今の格好をしている時は王妃とは思うなという厳命を下すくらいには変人である


そう、王妃様改め先生は、国内でも有数の回復魔法の使い手であり、その立場と能力で、治療院の最高責任者の地位に就いている

このお方、自分の仕事に非常に誇りを持っており、その職域を、絶対的な権威で以て管理統制しているのだ


そこで騒ぎを起こせば、この様にお叱りを受ける事になる

国王陛下であっても、それは例外ではない


(前に、強制労働させられてたのは、今でも記憶に残ってるよ)


もっとも、夫婦という関係なら、それほど珍しくもおかしくもないのかもしれないけど

とはいえ、このままでは話が進められない

決意が萎えてしまう


「先生、お話はそれくらいで。診察為されるのではなかったのですか?」


嫌味っぽく聞こえるかもしれないが、こちらも少なからず苛つきを覚えている

それが隠しきれずに滲み出してきたのだろう


「ああ、そうだね。さっさと済ませて、迷惑な客人にはとっとと出て行ってもらうのが手っ取り早いか」


とても口が悪いが、別に怒っている訳では無い

嫌悪を抱いている訳でも無く、単純に自らの職域を厳正に管理しているだけ

寧ろ、この方ほど寛容な人も珍しいと思う


「先生、申し訳ないのですが、出来るだけ急いで頂けますでしょうか。この後の予定も詰まっていまして」


「ああ?なんだい、はっきりしないね。もっとシャキッとしな!」


貴女がはっきりしゃっきりし過ぎなのです、と反論したい

そもそも、偉い人と話す時はこんな感じが普通なんだけど、この人には通じない

端的且つ明瞭な会話を好む性質なのだ


「陛下より、マイシマ サトル様の聴取とその記録の作成を命じられています」


はっきり言いました

でも、これってホントはアルベルトの役目なんだよね

当のアルベルトが、アイギナ様にべったりで、役目放棄しているから

その上、マイシマ様に対して悪感情を抱いている様で、それを懸念した元帥が、彼に近しい二人、ユリさんとミキさんの担当である私にお役目を命じた次第で


(ホント、アルベルトの奴は、後で痛い目みせる)


忙しいんだって、こちとらホントに仕事山積みなんだから

言い方は悪いが、一介の近衛とは格も仕事量も違うんだよ


「ふーん」


ふーんって

相も変わらず、仕事外の事には興味が薄いなぁ


「ま、アタシもさっさと済ませたいしね。じゃあ、質問だよ」


話が続かないけど、いつも通りなので気になりません

もう慣れましたよ


その後、幾つかの質疑応答が滞りなく行われ、「じゃあ、さっさと用事済ませて出てっとくれ」という有り難いお言葉を残して、先生は退室していった


「ユリさん、ミキさん。申し訳ないのですが、少し込み入った話になると思いますので、お二人は退室して頂けますか?」


これからする話だが、二人に聴かせる事は出来ない、というかしたくない

一時しのぎにしかならないが、それでも彼女達の怒りを買うにしろ、嫌悪を向けられるにしろ、少しでもs先延ばしにしたいというのが、私の偽らざる感情なのだ


「え?私達、居ちゃダメなの?」「……」


ユリさんは、常と変わらずおっとりした反応だが、やはりミキさんは警戒しているみたいで、感情を窺えない瞳でこちらを見つめている


「ユリさん、出来れば退室してください。迷宮内での行動などを詳しく知りたいのですが、その……あまり、聴いていて気分の良くない話になると思いますので」


これは本当の事で、ユリさんミキさんからの聴取時の様子からしても、やはり快いものではないだろうから

それを、本音に覆い被せて巧妙に隠し通す

伊達や酔狂で務まるほど、特務とは容易くは無いのだ


「ミキさんも、そういう理由ですので、退室して頂けますか?」


「……ええ、解ったわ。百合、行きましょう?」


「……うん。理、また来るからね」


いえ、ユリさん

またここに来ても、その時はもうマイシマ様は居ませんが……

酷く緊張していた心が、ユリさんのちょっと抜けた言葉で弛緩していく


(こういうところが、ユリさんのいいところなんだろうな)


少し微笑ましい心持ちになった私に、不意打ちを仕掛ける様にミキさんの声が掛かる


「イングリット。さっきの話、忘れないでね」


胃の縮こまる思いがした

背筋を冷たい汗が流れ落ちる

喉が引き攣り、上手く返答できない


「え、ええ。勿論、解っていますよ」


正直、かなり擦れて響いたと思う

不意の警句に引き攣れた喉では、そんな声しか出せなかった


「……そうよね。ごめんなさい。要らないお節介だったみたいね」


どこか空々しく見える笑みを浮かべて、退室していくミキさんを、煩く鼓動を刻む心臓の音を幻聴で聴きながら見送った


「……フゥー…………」


心を落ち着かせようと、深く息を吐き出す


(どうせ逃げられないんだから……これは、後で味わう分を今味わっているだけ)


今からする事は、友人達からすれば、到底許容出来ない事だろう

ならば、今の様な牽制ではなく、もっと強い罵倒を浴びせられるのだろうと、心の中で自らを叱咤する

こんな程度は序の口ですらない


「……イングリットさん……で、よろしかったですか?」


不意に掛かる呼び声に、しかし、先程のミキさんのそれと比べれば、いくらも心に響かない

驚くほどに凪いだ心に、逆に戸惑いながらも、即座に返答する


「はい、マイシマ様……とお呼びしますが、マイシマ様の御友人二人。マイシマ ユリ様とキノ ミキ様の担当を務めていたおります、近衛のイングリットと申します」


特務云々は秘匿事項なので、表向きは近衛隊の所属だと自己紹介する

ちなみに、今後もよろしく、とは続けない

よろしく出来るとは、到底思えないから

私なりの、友人達との決別の意思表示でもある


「やはりそうでしたか。あの二人と付き合うのは大変でしょうが、これからもよろしくお願いします」


……痛烈な皮肉かと思ってしまった

その願いは聞けそうにありません、主に貴方の関係で

などと詰れればどれほど気が楽か


「……ええ、お二人とは良い友人関係を築けています。これからもそうありたいと思っていますよ」


それも、これで終わりだけど


「その様ですね。百合なんかは、特に親しい人以外には、あのように気安く振る舞う事はしないので、初めはとても驚きましたよ。ですが、丁度良かった。こちらで心を許せる人が出来たなら、私としても安心できます」


そう言って、笑みを浮かべるマイシマ様は、どこか儚げで、幽かに消え去りそうに思えた

これがあの日、謁見の間で国王陛下と渡り合った男の姿か?


あの日見たその姿は、聳え立つ城塞を思わせた

過不足無い確かな自信に裏付けされた鋼の意思を感じさせるものだった

勝てないと、そう思った者は、あの場の近衛隊には何人も居たのだ


なのに、今の姿はどうだ

所々にひび割れが走り、それを無理に繕おうとしたせいか、逆に頼りなさを感じさせている

触れれば折れてしまいそうに思えるのだ


「……そ、それでいいのですか?貴方は」


そんな致命の一触となると解っていても、それでも訊ねずには居れなかった


(傍から見ていても理解できる。彼にとっての最後の拠り所だって事が)


私は今からそれを、その弱い所を突く

戦術的には正しい、でも……


(……恨みますよ、陛下)


今更ながら、本当に心底から理解した

すまじきものは宮仕え

正にその通りだった


(辞めてやろうかしら)


無理だと解っていても、つい思考の端を掠める誘惑に屈してしまいたくなる

特務は国家の中枢たる王家直属だ

である以上は、その存在は非常に強固に管理される

私達は、許可が無ければ王都から出ることも許されない

ならば、「辞めさせてもらいます」の一言で辞職出来る訳も無い


(それでも、こんな酷い役をやらされるくらいなら辞めたい)


そんな妄想をするが、実行する度胸は無い

今の安定した生活を捨てる覚悟など、到底出来ないのだ


(なんて柔弱で薄情なのか)


友情を選ぶことも出来ず、しかし友情を振り払う事も出来ない

自分の性根が嫌になりながらも、それに自棄になる事もない


「……良いも悪いも……そんな大層な話ではないですよ?」


自責の連鎖に嵌まり込んでいた私の意識を、目の前の少年の声が引き戻す


「……失礼しました。マイシマ様も病み上がりで、本調子では無いでしょう」


さっさと済ませよう、という意思表示に、マイシマ様も理解を示してくれる

疲れているかは別として、面白くない事は手早く済ませるに限るというのは、世界を跨いでも共通している様だ


「ではまず……」


そこからは、本当に形式的な質疑応答のみに終始した


ここはどうだったか?こうこうこの様だった

そこではどうしたか?ああしてこうしてそうした

あれをどう思ったか?これこれこう思った

どうしてそうしたか?あれをこうする為にそうした


(凄いな……)


そうして、全ての聴き取りを終えた後の感想がそれだった

彼の迷宮内での行動を聴き、その異質さに驚嘆した

はっきり言って、素人のそれではない

間違いなく玄人のものだ


(私でも、同じ状態同じ状況で、同じ様に動けるかどうか)


いや、動くだけなら可能だ、それくらいには習熟しているという自信がある

だが、そこに思考が伴うか?と問われれば、間違いなく返答に詰まる

初戦にて、不測の事態に見舞われていた様だが、苦戦らしい苦戦はそれだけで、後は難なく切り抜けている

唯一の敗戦が信じられないくらいに、その戦いの内容は安定感に満ちていた


「あの、話が済んだのでしたら、退出してもいいでしょうか?」


(おっと、いけない。驚いている場合じゃない)


「あ、申し訳ないのですが、少しお話に…個人的な話に付き合って頂けませんか?」


度胸も勇気もない私は、自らに課された仕事を忠実に実行する

これ以上行けば戻れない?戻る勇気も無いのに、そんな考えだけが浮かぶ


「話ですか?ええ、構いませんが……」


あからさまに警戒心を発しているマイシマ様が、ベッドの上に腰を落ち着けるのを見届けてから話を切り出す


「先程、私をユリさんの友人だと、そう仰ってくださいましたね」


「ええ、百合があれだけ側に居る事を不快に思わないなんて、相当ですからね。イングリットさん……あー、イングリットさんとお呼びしても良かったですか?先に尋ねておくべきでしたね」


そう言えば、さっき普通に呼ばれたな

名前の確認程度だったから、特に気にもしていなかった

別に、名前をさん付けで呼ばれたくらいで不快に思いはしないけども


「ええ。私も、マイシマ様とお呼びしてもよろしかったでしょうか?」


「そんな堅苦しい呼び方をしなくても、百合達を呼ぶのと同じように呼んでくれて構いませんよ?」


話が逸れてきた

そう自覚した私は、即座に軌道修正を図る


「……それは、これからの話次第ですね」


言葉に混じる不穏当な気配を、彼は敏感に感じ取った様子で、眼の奥に先鋭な輝きを宿し、こちらを見据えてきた


「……お話というのは、穏やかならざるものの様ですね」


口調こそ丁寧至極ではあるが、声音から、放つ気配までが重みを増して、私の五感を圧迫する

さっきまでの幽かな佇まいは何処かへ消え去り、底を窺えない深淵を思わせる威圧感を無遠慮に叩きつけてきた


「……っ!ええ、正直私は貴方に、ユリさんの友人云々と言われた時、激昂しそうになりましてね」


勿論、嘘である

感じたのが、今この瞬間への忌避感と罪悪感だったが、それを明かす訳にはいかない


「……それは何故?」


心当たりがありません、という態の彼に、それはそうだろう、と思うも、それはひた隠しにして、意図的に怒気を放って言い募る


「何故、ですか……フフフ……いえ、失礼。そうですね。言わずとも伝わるなど、そんな気安い関係ではありませんでした。これは私の失態です、お許しくださいませ」


意図して、神経を逆撫でするような言い回しを選んで口にする

正直なところ、そうして彼の怒りを買いでもしないと、私も一貫した姿勢を貫けそうにない、という打算があった


「それで?言わなければ理解出来ないと仰るのですから、勿論口に出して教えてくださるのですよね?」


心なしか気の抜けた様な、張り合いの無い感じの彼に、私の心胆は挫けそうになるも、必死に奮い立たせる

ここまで来たら、もう退けないのだ


「そうですね。でははっきりと申しましょう。マイシマ様、貴方は今、ユリさんミキさんを危険に曝している自覚はありますか?」


さあ、行け

正に今、剣は鞘を走り、抜き放たれたその切っ先は相手の喉元に突き付けられた

後は、ただ突き進むのみ


「聞き捨てなりませんね。俺が、百合と木野を危険に曝している?」


まるで理解出来ないと言わんばかりに、吐き捨てる彼に、私は更なる言葉を突き付ける


「はい。貴方は、危険を押して迷宮に向かった。それは、自身の弱さを認められず、必死に足掻いた結果。これは理解していますね?」


ユリさんミキさんは、マイシマ様が本当はとても強いのだと言っていたが、それは飽くまでも彼女らの視点に依るもので、この世界でも通用するかは解らない

だから、彼の強さに関しては、その振る舞い佇まいから推測するしかないが、確かに彼は只者ではない

だが、それだけだ

実際の戦闘で、そんな曖昧な要素は、一考するにも値しない

実戦に於いては、結果こそが全て

彼の戦闘内容が、それに伴う思考が、明らかに非凡である事は、私も認めよう

しかし、負けては何の意味も無い、価値も無い、誉れも無いのだ


ならば、私は私の価値観で以て、彼 マイシマ サトルを弱者と断じよう

それが誤りだとしても、今この時は有意に働く筈だから


「確かにその通りです。ですが、それと百合達と、一体何の関わりがあると言うのですか?」


口調に苛立ちが混じってきた

弱者と呼ばれた事に憤ったのか、それとも、結論を言わない私の態度に不満を感じたか


「そして、その結末は惨めな敗走。いえ、敗走も出来なかったんでしたね」


「っ!」


彼の顔色が変わるのが解る

怒りを覚えて軽く紅潮していた顔は、今僅かに蒼褪めている

理解したのか、だとしても手を緩める事はしない


「先程、貴方の行動について聞き取り調査を行いましたが、お二人にも同様に、聴き取りを行ったのですよ」


その結果は、あまり喜ばしくない内容だった


「彼女達は、貴方を救出する事に専念し、殆どの戦闘を回避。結果、こちらが想定していた段階を踏む事が出来ませんでした。これは、あまりよろしくない事態です」


「…………」


蒼褪めた顔色は、次第に土気色へと変わり、表情からは怒りが抜け落ちて、噛み締めた歯が軋る音が聞こえてきた

屈辱に耐えているのか、それとも失敗を嘆いているのか

彼の為人を知らない私には、想像する事しか出来ないが、追い込む事には成功していると判断する


「彼女達は、十分な力量を得られないままに、次の段階に歩を進めることになってしまいました。ここまで言えば、もう解りますよね?」


口調は変わらず挑発めいて

だが、それとは裏腹に、心は来たる破局を想起して悲鳴を上げていた

何故私がこんな役目をしなければならないのか、と嘆く資格も私にはない


「っ!!!」


顎関節が浮き出る程に強く噛み締める、マイシマ様の表情を見れば、そんな感傷に耽溺することも許されないと、どれほど愚鈍でも気付くだろう

それほどに、今の彼は自責していた

もしかしたら、このまま自傷行為に走るかもしれない

だが、私はもう退けない、止めの言葉を突き付けなければならない


「貴方は、一体何がしたかったのですか?」


その言葉を聞いた彼の心情は、付き合いの浅い私にも、はっきりと推測することが出来た

絶望、或いは自身への失望だろう

はい、イングリットさん頑張りました

別に、イングリットさん悪くないよね、と思いつつも、当人からすればこう思うだろうなぁ、と想像しながら書きました


さて、次回ですが、理くん挫折回となります

今回に入れ込む予定でしたが、思ったより長くなったので、一端ぶった切りました

ここまで、それなりに丁寧に積み重ねてきたつもりですので、出来れば綺麗に終わらせたいですね

あ、第二部の事ですよ、話はまだまだ続きます


では、次回を乞うご期待、と締め括り、筆を置かせて頂きます

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