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ゲーマーが往く、異世界チート発見!  作者: ヤタガミ
第二部 喪失と挫折
41/130

第四十話

全体通して、百合視点です

やや長め(当方比)

分割しようかと悩んだが、そのままで

……分割点が見つけられなかった訳では無いです、ハイ

コンコンコン……と控えめなノックが廊下に響く


「起きて……ない?」


「起きてないみたいね」


「起きてないみたいですね」


続いて囁く様な小声で、三人の女性が何やら確認し合う

その様子を、無感情に横目で見る甲冑姿の男二人


ここは城中の一画

城門からほど近い位置に設けられた医療施設

ここには、様々な設備を内包しているが、彼女らが今居るのは、医師による監督が必要な傷病人を収容している区画

平たく言えば、入院施設だ

その様な場所に健全な様子の彼女らが、雁首揃えて何の用事か

決まっている、お見舞いだ




あれからもう三日経った

必死の思いで迷宮を脱出した私達は、直ぐさま理を連れ出そうとした

何度か怪我をした際に、城の中で治療を受けた事があったので、理をそこへ連れて行こうとしたのだ

だけど、直ぐに組合員達に止められてしまった

抵抗しようとした私を、美樹とイングリットさんが止めた

理由は直ぐにイングリットさんから説明される

組合の施設、この場合は公園迷宮の入り口、には簡易医療設備が整っていて、医療知識の有る人間が居るそうなのだ

そう説明されて、如何に自分が逸っていたかを思い知らされた


仮に、この場に専門家が居ないのだとしても、怪我人を長距離抱えていくなんて、ちょっと常識的に考えれば思い至ったはず

この場合の最善は、組合員さん達に任せる事だったのに、気持ちだけが先走ってしまった


私は何時もこうなのだ

どうしても短絡的に行動してしまう

理やお母さんは、直感が優れている、なんて言って言葉を濁すけど、きっと呆れているに違いない


それから、組合員さんとイングリットさんの間で話し合いが為されて、あれよあれよという間に理の入院が決まった

ついでに私達もお医者さんに診てもらう事になった

別に怪我なんてしてないんだけど、そう言っても聞き入れてはもらえなかった

正直な話、病院は好きじゃない

物静かな雰囲気が、どうにも好きになれないのだ

生活感が無いからだろうか、とにかく不気味さが先に立つ


そんな病院、こっちでは医療部施設と呼ぶらしい、にやって来たのは、他でもない

理のお見舞いの為


聞いた話では、理は相当に危険な状態だったらしい

長時間魔法に曝されて、相当に生命力を消耗していたんだとか

それに加えて、炎を浴びた腕は酷い火傷を負っていて、後少し治療が遅れていたら死んでいたと聞いた


正直、私はこれまで、理が死ぬとは欠片も思っていなかった

自分の死は簡単に思い浮かぶのに、理の死ぬ場面だけは、どうしても思い浮かばない

だからだろうか、私は相当な恐慌状態に陥った様で、かなり暴れたと聞かされた

お医者さんに掴みかかったと言うのだから、相当に衝撃的だったのだろう

美樹とイングリットさん必死で止めに入り、その場は事なきを得たらしいが、その時に気絶させられたせいか、全く直前の記憶が無い


兎に角、理は何とか助かった

でも、それだけの治療を行った反動で、相当に消耗しているらしく、三日経った今でも、昏々と眠り続けている

事後処理等、色々と付き合わなければならない事もあったけど、それ以外の時間はここに来て、ずっと理が目覚めるのを待っている


流石に、四六時中貼り付いている訳では無いけど、本当に出来る限りは傍に付いていたいのだ


「目覚めた時に、独りぼっちじゃあ寂しいもんね……」


思わず溢した独り言

それに、傍に居た美樹が反応を示した


「そうね」


ただ一言、だけど、私には解る

そこには万感の思いが込められている

私にとっても美樹にとっても、理が重傷で寝込んでいるという状態は、色々と思うところがあるのだ


「取り敢えず、入りましょう。許可は得ていますので」


イングリットさんはそう言って、入り口に控えている警護の兵士さんに断りを入れる

どうでもいいけど、何で理の病室にだけ、警護が付いているんだろうか

他の病室にはそんなの付いてないのに


「百合?どうしたの、入るわよ?」


少しだけ考えに耽っていたら、イングリットさんは既に入室して、美樹は敷居を跨いだ状態でこちらを見ていた

敷居を踏まない辺りが、美樹の行儀の良さを表している

美樹はこういう事を外さない、心憎い淑女っぷりをしているのだ

私はよくそれで怒られたので、何だかもやっとした心持ちになる


「あ、今行く!」


でも、口にはしない

それ以上に、美樹にはいい所があるし、何より自分に出来ない事を出来る人は、それだけで尊敬に値するから

と、関係ない考え事はここまで

今も昔もこれからも

最優先されるのは、何時だって理の事だ


「おじゃましまーす……」


ついつい小声になってしまうのはご愛敬という事で

理は寝ているのに、誰に断っているのかというツッコミも無しで


部屋の中は、実に殺風景で、飾りの一つも在りはしない

全体的に落ち着いた色合いで統一されていて、異世界に来ても病室ってそんなに変わらないものなんだと、気の抜けた感想を抱かせた


「理?さーとるくーん……起きてますかー……」


部屋に入って直ぐに、理が眠るベッドが目に入った

寝返りも打たずに眠り続ける様子は、それだけ消耗したのだとを感じさせて胸が痛んだ


足音静かに近づき、ひそひそと声を掛け、つんつんと指で突っ突く

昔、まだ私達が小学生の頃、早起きした方が相手を起こしに行っていた時の癖だ

結局1年もしない内に無くなってしまった習慣だが、意外と体は覚えているらしい


「……ユリさん、尋ねたいのですが。何時もしているそれは、一体何なのですか?」


どうやら、イングリットさんの目には異質に映った様で、何やらおかしな人を見る目で尋ねられた

そちらを振り向くと、美樹も何やら呆れた様な顔をしていた、何でよ?


「いや、そんな変なもの見付けちゃった様な目で見ないでよ。美樹も!何よ、もぉ……」


そのまま説明しても良かったのだけど、何だか忸怩たる思いが在った私は、取りあえず軽く拗ねてみる事にした

我ながら容姿には自信がある

どうよ!?拗ねた美少女の破壊力!

チラッと視線を向けると、二人とも白けた表情で、同じく白けた視線を向けていた

誰に?勿論私にだ

むむむ……


「むむむじゃないわよ。美少女だなんだと、全部顔に出てたからね?それは白けるわよ」


毎度思うが、そこまで詳細に読み取れる表情ってどんなの?

実は、表情なんか読んでなくて、読心術でも使えるんじゃないの?

と思うが、口にはしない

だって訊いても答えてくれないから


「むぅ……いいわよ、別に。初めから通用するとは思ってないし」


「なら無駄なことしてないで、さっさと説明なさい。まどろっこしい」


聞いて?理

親友がスゴイ辛辣です

どこで育て方を間違えたのか……ヨヨヨ


「イタッ!!?」


叩かれました、許せないね

許せないけど、怖いので逆らえません

何故ならとても怖いので「ひぃっ!」


スッゴイ形相で睨まれました、理助けて

取りあえず、これ以上ふざけるのは拙いので、イングリットさんの質問に答える事にする


「ええと……私が理につんつんする理由だったっけ?ええとね、それは……」


軽く昔の事を説明する

10才の頃、理に出会った事

それから一年も無い間、朝起こし合いっこした事

その時の癖が、未だ残っていた事


全部聞いたイングリットさんは、何故だか神妙な顔をしていた

美樹も訝しく思った様で、


「どうしたの?イングリット。何かおかしなことがあったかしら?」


心配そうに尋ねる


「いえ、何でもないのです。ただ……」


何でもないと、口にした言葉をそのまま信じるには、その表情からは隠しきれない悲痛を垣間見た

何だか様子がおかしいと、尋ねようとした声は遮られる


「ねぇ、イングリ「あの!」ットさ……何?」


他でもない、イングリットさん自身の、鋭い一声で

出鼻を挫かれて、思わず譲ってしまったが、やはり様子がおかしい

何か困り事があるなら、相談してほしいと思う

譲るべきではなかったかと、そう考えるが後の祭り


「あ、いえ、その………お二人がとても気に掛けているマイシマ様の事が、少し気になりまして」


何ですって?

理が気になる?What’s(どうい) happen(うこと)?


いやいや、落ち着け、落ち着け私

そう、そういう意味とは限らない

もしかしたら、理に、そう”理に”嫉妬したのかもしれないし

ああ、そういえば、イングリットさんの前でも、何時もの調子で理の話ばかりしてた気がするなぁ

そうかぁ、イングリットさん、それで理に嫉妬しちゃったのかなぁ


「痛い痛い痛いーー!!」


美樹よ、美樹よ、美樹さんよ

いきなりほっぺた抓られると、菩薩さまの如き寛容さを持つ私でも、流石に怒るんだよ?


「下らない事考えてないで、ちゃんと他人の話を聞きなさい」


お叱りを受けてしまいました

そんな子供じゃないんだから……それくらい解ってますよ


「……もう一度いっとく?」


美樹の目が剣呑な輝きを宿し、掲げられたその右手が、何かを抓む形をしてクイッと捻られる

端的に言ってスゴイ怖いです

理はもっと優しく諭してくれるんだけど、美樹はホントに容赦がない

まるでお母さんに怒られてるみたいで、正直逆らえる気がしない


「いえ、ちゃんとします」


ええと、何だっけ?

確かイングリットさんが、理のことが気になるって言ったんだったっけ?


「ごめん、イングリットさん。それで、どうしたの?」


英語にすると、what's up?

気軽な挨拶でも使えるから、さあ皆もlet's「what's up!」

美樹の目が不気味な光で輝きながらこちらに向いてきたので、おふざけはここまで

ここからは真面目な百合です、ハイ


「あ、その……マイシマ様とはどんな方なのかと……お二人とはどんな経緯で親しくなったのか、と」


他意は無い

うん、それは判るんだよ

純粋に疑問というか、好奇心で尋ねているのは判る

でもね?言い方が良くない

私達の関係に嫉妬してますって、どうしても聞こえてしまう

私も仲間に入れて欲しいって言ってる様に聞こえる


有り体に言って、スゴイ可愛らしく見えます

嫉妬って、好ましく思っている相手からされるなら、寧ろご褒美だね

いや、完全に思い違いだって解ってるけど、やっぱりね?

とと、今は真面目に真面目に


「それはつまり、私達がどうしてこんなに理が好きか知りたいって事かな?」


臆面もなく恥ずかしい事を言うが、私にとっては日常の、世間話と変わらない気軽さだ

こんな段階で躓く様な柔さは、遥か昔に過ぎ去ったわ

でも、イングリットさんにとっては違う様で、途端に顔を真っ赤にして悶え始めた


「え!?ああのそのぅ……いや、えと……」


かわええのう……

愛い奴じゃ、愛い奴じゃあ

身悶えるイングリットさんを、生暖かい眼差しで見つめていると、同種の視線の気配を感じて、辺りを見回し確認する

発信源は、傍らに立つ美樹だ

当たり前だが、この部屋には私と美樹とイングリットさんしか居ない

だから、発信源など、この状況では美樹しか居ないのだが、その事を失念していたようだ

だが、それも仕方なしと言えよう

目の前で悶える、年長者の女性が、明らかに可愛らしいのが悪いのだから


だが、何時までも身悶えていられても話が勧められない

なので、無粋と知りながら、掣肘させて頂きます、スマン


「イングリットさん、落ち着いて。私達の昔話が聞きたいんだよね?」


肩にポンと手を置いて、その瞳を覗きこむ様に語りかける

大体の人は、これで気を落ち着かせることが出来る

異世界でも通じるかは判らないけど、そこまで精神性に違いはないし、大丈夫だろうと高を括った

やはり問題無かった様で、イングリットさんも落ち着いてくれた様だ


「あ、すみません。ええと、はいその通りです」


若干片言なのは、この際目を瞑ろう


「勿論良いよ。でも、私が話せるのは私の事だけだけど、それでいい?」


当然と言えば当然だが、美樹の事情まで私が語る事は出来ない

それは、美樹の大事な思い出だから

聞きたいなら、美樹からどうぞ!


「構いません」


何か、妙に真剣な表情をするなぁ、イングリットさん

そんなに気になるの?

と、茶化す事も躊躇う空気が漂っている気がする


「……何かあった?」


訊かずに居られない

たとえ打ち明けてくれなくても、その事に躊躇して何も訊かないなんて、私はしない


「……いえ、何も」


明らかに嘘だと判る、そんな返答

でも、それ以上踏み込むことはしない

それが、私達の身の安全に関わる事なら、包み隠さずに教えてくれる筈だ

そのくらいには信頼を重ねてきたと思う


だから、今話してくれないなら、それは私達に関係ない事か、仕事上の機密とかなんだろう

なら、強く聞き出す事は出来ない


「……そう。困ったことがあったら、何でも相談してね」


それだけは確りと伝えておく

友人となったからには、相応の覚悟はある積もりだ

出来る事なら何にでも巻き込まれてやりますよ


「ええ……その時はお願いしますね」


ここは感動するなり、照れるなりするところだと思ったのだけど、イングリットさんの返した反応はそうじゃなかった

悲しんでいる様な、苦しんでいる様な

もしかして、私の独りよがりだったかな?

自分の浅はかさには、ほとほと呆れるが、吐いた唾は呑めない

前言撤回も格好がつかないので、切り上げて話を進めることにする


「じゃあ、どこから話そうかな……」




私の意識は、遥か昔へ飛ぶ

と言っても、せいぜい四年位前の話なのだけど


あの日は気持ちのいい晴天で、加えて真夏日だった

総じて言えば、非常に暑くて過ごしにくかった


でも、当時小学六年生だった私には、そんな事は関係無かった

子供は風の子なんて言うけど、私は正にそれ

暑かろうが寒かろうが、とにかく表に出て駆け回る

そんな、元気溢れるお子様だったのだ


その日も、私は外を駆け回っていた

理と妹の牡丹を連れて


今思えば、随分と大人に苦労掛けてたんだなって思う

私の家系は、世界有数の資産家だ

舞島家と言えば、その道の人間だけでなく、一般にまで広く名が知られているくらい

そんな家系だと、色んな所で恨みを買っていたり、私利私欲から、身柄や命を狙われる事が多々あるのだ

だから、出掛ける時は常に陰に日向にと、警護している人達が居たみたい

と言っても、その日まで私はそんなことを知りもしなかったのだけど


公園でボール遊びしていたんだっけ

ははは、その辺少し記憶が曖昧なんだよね

兎に角、近所の公園で、理と妹と遊んでたんだよ

で、まあ、狙われちゃったんだね

普段は警護の人が、見えない所に居るんだけど、その日は少し特別で、そういう手配が間に合わなかったみたい


え?何が特別だったかって?


うーんとね、理って小学六年生になって直ぐに、長い休みを取ってどこか行ってたんだよ

理から直接聞いた訳じゃないけど、その間に色々鍛えてたらしいね

その辺は今は置いとこう、直接の関係は無いから


それでね、丁度その前日に、理が帰ってきたんだよ

もう、私嬉しくってね

絶対に明日一緒に遊ぶんだって、張り切っちゃって

いつもは9時に寝てたのに、その日はなんと11時まで起きてたの

それでいて、いつも通りの時間に起きられたんだから、どれだけはしゃいでいたのかって話だよね

でも、それだけ嬉しかったんだよ

その当時は、まだ理の事が好きだった訳じゃないけど、それでも家族だったからね

しかも、私の家って姉妹だけなんだよ?

男兄弟って結構憧れがあったから、余計にね

出会ってから数か月だけだったけど、毎日一緒に遊んでたんだから


話を戻すね

如何にもサラリーマンです、って感じのスーツ姿のおじさんだったっけ

その人が、遊んでる私達に近づいてきたんだよ

でも、子供なんてそんなの大して気にしないんだよね

で、大分近づかれちゃって

一番近かったのが私だったから、いの一番に狙われてね

あれは、確実に殺しに来てたなぁ

おっきいナイフで切りかかってきたの

私、凄く怖くて

何も出来なかった


その時に助けてくれたのが、理だったんだよね

気づいたら理が割り込んでて、相手が地面に沈んでた

今思い返しても、ホントに何したのか全然解らない


でも、これだけは解ったんだ

理の背中が凄くカッコよかったって


え?もっと思うことがあるだろうって?

そうなんだけど、気が動転してたんだろうね

一番印象に残ってるのが、頼りになる背中と肩越しに見えた理の横顔なんだから、我ながらどうしようもないよね

そう、多分この時に、理の事が好きになったんだと思う

我ながら単純だけど、仕方ないよね

自覚したのはもっと後だったけどね




「その後はもう大変だったんだから。私は気を失うし、気づいたら牡丹が泣きついてるし、理はカッコイイし、犯人は死んだって聞かされるし」


もう散々だったよ

知らない事とは言っても、親に断りもせずに出掛けるなんてって、お母さんにすっごい怒られたし

警護の人の手配も間に合わなくて、少し違えば大事件だったって


「もう、その時のお母さんが怖くて怖くて。今でもトラウマだよ」


そこまで話を終えると、何だかイングリットさんの表情が優れないのに気が付く

さっきとは違った感じだが、おかしなことでも言ってしまっただろうか


「……あの、犯人は何故死んでしまったのでしょうか?」


あ、そこ

確かに、人死には気持ちのいい話じゃないよね

いや、失敗失敗


「なんかね、理の反撃の打ち所が悪かったらしいよ」


詳しくは知らないけど、かつての理を想像すれば、相当の逆撃を貰ってしまったのだろうと、容易に想像がつく

子供を襲った犯人は、その子供に逆襲されて死んでしまったと

文章に表せば、ただの変態の自業自得だ


私自身、理の行為を責めるつもりはない

守られた私が責めるなんて、筋違いにも程があるだろう

どうしても責めたいと言うなら、自殺でもして遺言状に文句を書き連ねればいいんじゃないかな?

私はしないけど


「……マイシマ様が殺したのですか。当時12才の少年が」


何だかイングリットさんの様子が、本当におかしくなってきた


「ねえ?本当に様子がおかしいよ?どうしたの?」


さっきまでの深刻さが見える様子とは違い、何だか険悪な空気を醸し出している

そんなに怒るような話だったかな?


「イングリット。貴女が憤っているのはどちらに?」


美樹が、何やら見通しているのだろうか、そんな問いをイングリットさんへ投げ掛ける

続く言葉に、私は耳を疑った


「百合達を襲った犯人に?それとも人を殺した舞島くんに?」


「えっ?」


理に怒ってるの?人を殺したから?

でも、それは相手が人殺しだったからで


「確かに、やり過ぎと言えばやり過ぎよね。彼の実力なら、無力化出来た筈だし」


いや、確かにそうなんだけど

というか美樹!あんた、誰の味方よ!?


「でもね、彼の行いは、既にこちらで解決した話なの。それを今更ほじくり返して、責められたんじゃあ、私達も黙ってはいられないのよ?」


あ、ちゃんといい感じに締めたね

焦らせないで欲しいよ、全く


でも、イングリットさん

理に悪印象抱いちゃったかな、それが心配


「……お二人の世界ではどうかは判りませんが、この世界においては、殺人は絶対禁忌なのです。私達の誰もが、人を殺してはならないと、幼少期より教え込まれます」


そうなのか

いや、それほど珍しくないんじゃないかな、とは思うけど

人殺しは大罪だと

そんなことは、小学生でも知っているだろう

何故?と問われると、こうした理由だ、と確と答えられる人は少ないだろうけど

それが常識ってものだと思う


でも、何だかイングリットさんの様子はそんな雰囲気じゃない気がする

それが何なのか、と訊かれると、答えられないけど


「そうね。でもね、イングリット。今更言うまでもない事だけど、私達は生まれた世界が違うわ」


「……」


美樹が苛立ってる

冷めた感じがする美樹だけど、その実とても身内を大事にする

そして、大事な身内を悪し様にされると、直ぐ様反撃するくらいの熱情の持ち主なのだ


そんな美樹の神経を、無意識的に撫でてしまったイングリットさんに、内心で同情的になりながらも、庇う事はしない


「そして、彼が殺人を犯してたのは、この世界でじゃない。私達が生まれた世界での出来事よ」


何となく、美樹の論法が解ってきた

生まれた世界が違えば、常識もまた違うのが当たり前だ

生まれた国が違うだけで、常識の差異が生まれるのだから


「……それは、解りますが……」


「別に私達は、生まれた世界の常識を押し付ける気はないの。勿論、押し通す気もね」


だからと言って、こっちの常識完全無視で、私達の常識だけに則って行動する、なんて事はしない

それは、理もそうだろう


「でもね。そちらが、常識を押し付ける気なら、私達は即座に、今回の件から手を引くわ」


え?あ、そういう話?

もっとやんわりとした交渉になるかと思ってたけど、随分と強気ですね、美樹さん


そんなに怒ってたのか、と他人事の様に見ていたら、美樹の目がこちらに向いた


「百合」


掛かる声に、思わず身構える私

ビビってません、ビビってませんよ


「貴女も、それでいいわね?」


「ア、ハイ」


モチロンです、と

それ以外に、どう返せるのか

いや、本心だけどね


「……!?!」


イングリットさん、物凄く動揺している

そりゃあ、そうだよね

言い方は悪いけど、イングリッドさんの職務からして、私達の離脱を招いたら、かなりまずそうだし

その原因がイングリッドさん自身にあるなら、尚更だろう


実は、これについては、事前に美樹と相談して決めていた事でもある

私達の進退に関しては、かなり有効な交渉材料になるはず

だけど、余程の事が無ければそうと匂わせてもいけない、と


だから、今まで一度だって、話の端にも登らせた事は無かった

それを持ち出したということは、美樹は相当に怒ってる


本当なら、私も怒る場面なんだけど、妙な間を挟んだせいで出遅れてしまった

その後も、美樹が主導していたからか、怒りを自覚する間が掴めないまま、立ち消えちゃったみたい


「……そ、それは!?今受けている支援の一切を失っても構わないと、そういう事ですか……」


あ、イングリッドさんが反撃したね

でもね、それを言っちゃあダメなんだよ?


「あら?国王は、私達に戦いを強制しないと言っていたと、記憶しているのだけど?」


はい、言ってました

初めの日、謁見の間で

流石に無職で養ってはくれないけど、戦う事を強制もしないって

幸いにして、食うに困らない程度には、この世界に於いての私達は才能に恵まれている

最悪、離脱しても困らない訳だ


「……っ!!そ、それは……っ…………」


どうでもいいけど、さっきから「それは」しか言ってないね、イングリットさん

いや、もうね

美樹がこれだけ強硬に動いている以上、私に出来る事って、あんまり無いのよね

話を向けられたら「ア、ハイ」って言うだけ、ホントそれだけ


「安心しなさいな、イングリット。こう言ってみたものの、本気で手を引こうという訳では無いわ?」


おお、何か状況変えたかぁー?

美樹の駆け引きが凄いねー

イングリットさん、良い様に動かされちゃってるよ


「どういう事ですか?」


流石に不審に思ったね

そう思う事自体が美樹の誘導なんだけど


「取り消して、謝罪なさい」


イングリットさんの疑問に答えたのか答えてないのか

それは定かではないけど、とにかく、美樹の要求は初めから一つ

理への非礼の謝罪

全ては、心の底から理解させ、納得させ、誠心誠意謝罪させる事


美樹の理崇拝は、最早狂信の域じゃないかな?

美樹は義理堅いからね

だからこそ、理を侮る者、嘲る者を、決して見逃さない

まあ、暴力は振るわないから、別にいいと思うけど


さて、イングリットさんの反応や如何に?


「……一つ聞かせてください」


「何かしら?友人として、誠意を以て答えさせて頂くわ」


美樹が苛立っている

これ言うの二度目だよ?

冷静さが売りの美樹を、ここまで苛つかせるなんて、イングリットさんは凄いね

皮肉だけど


「…っ!どうにも理解出来ないのですが、彼には、貴女がそこまでする程の価値があるのですか?」


その言葉の直後に部屋を襲った異変

唐突に部屋の気温が上がる

汗が肌に服をはり付ける

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ああーーっ!!?」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが、それも仕方ない

今日持ってきたお菓子は、氷魔法を使える人に頼んで、十分に冷やしてもらった特製の冷製菓子

その名も貴き「ところてん(黒蜜)」

キンキンに冷やしたところてんを、温度を保つ魔法道具を借りて持ち運んでいたのだ

それが今無残にも、上昇した室温に冒され、器に貼り付いた結露は失せ、心なしか蜜もとろみを失っている


「ああぁぁぁ……」


室内に張りつめていた緊張感は、既にその残滓を感じさせない程に消え失せた

代わって現れたのは、落胆している百合、呆れている美樹、安堵しているイングリット

三者三様なれど、そこには悪しき空気は微塵も残されていなかった



百合視点は書いてて楽しいです

地の文ですが、可能な限り会話の延長となるように心がけています

寧ろ実況?

ゴールゴールゴールゴールゴールゴールゴールゴールゴルゴルゴルゴルゴルゴルゴルゴルゴルゴルゴーーーーーール!!!!!とか言ってる、あれ

ごほんっ

ですので、他の話とは大分趣が異なっている事でしょうが、そういうものだと思ってください

基本的に、百合ちゃんには明るく和ませてほしいと考えていますので

あと、百合ちゃんはバカでは無いです

一般教養はありますので、難しい単語も普通に用います


さて、結局、理くんの心ポッキリ計画は始動まで至りませんでした

これも偏に、百合ちゃんが暴走しすぎたせいです、そう百合が全部悪い(責任転嫁)


と、冗談はさておき

イングリットさんの悲嘆や苦痛を色濃くする為に、事前にハートフルな現場を描写しようと思って、こうなった次第です

ハートフルボッコなシーンもありましたが、それはそれ

友人達(百合、美樹)にとって、理がどれだけ大事な存在か、というのを、イングリットさんは知ったことでしょう


ここからは、設定、みたいなものを軽くさわりだけ片足を突っ込む程度に解説します

長いので、読み飛ばして構いません


イングリットさんが、今話後半にて、「人殺しはメッ♪」と言っていましたが、これについて少し解説

我々の常識に当て嵌めても、当然人殺しはいけない事ですね?

ここからは、個人的見解になりますが、殺人がNGである事、その根源は、人材の喪失を防ぐ事だと思う訳です

遥か古代では、そもそも出生率、そして新生児の生存率が、現代とは比べ様もない程に低かった

だから、ちゃんと大きく育って、いっちょまえの労働力として使える人材は、大事に費やさなければならなかった訳ですね

そういう大事な人材を、徒に浪費されたら堪らない

なので、殺しちゃメーよ?ってなったし、そういう風に教え込んできた


大分端折りましたが、あくまで、これは個人的な見解です

感情論もあるでしょうし、宗教論もあるでしょう

ですが、人間という生き物は、それほど博愛主義でもなければ、敬虔でもないと思います

根底にあるのは、やはり打算に満ちているものなのでしょう


が、これらは異世界オースベルでは全く関係ありません

経済的、産業的な理由でも無ければ、感情論的な理由でも、ましてや宗教的な理由でもありません

これ以上話すと、この物語のネタバレになってしまうので省きますが、オースベルに於いては、殺人は我々のそれとは比べられないくらいに強固で絶対的な禁忌です

カトリック全盛の時代に、正教会を非難するくらいの禁忌です

イスラム教の偶像崇拝くらいの禁忌です

近い(みやこ)と書いて近畿です

寒い冗談はさておいて、違法殺人者は即座に国から追手が差し向けられて、絶対に殺されるくらいの禁忌です

なんか矛盾してる気がしますが、それを言っちゃあ死刑そのものが成立しませんので

あ、死刑はあります、適用は違法殺人者限定ですが

合法殺人者も居ます、処刑人がそうですね

山田〇衛門ですね


解説というか、妙な演説みたいになりましたが、この殺人行為に関しては、理強化フラグでもあるので、そういうのもあるんだ、程度に覚えといてくださいませ


という訳℃、次回の理くんはぁー?


イングリットです

上司に無茶ぶりされた今日この頃

友人達は相も変わらず、マイシマ様贔屓が凄いです

さて、次回は…

イングリット、謝罪イベント

理、目覚める

イングリット、理と対談する


の三本です

次回投稿は未定です

じゃんけんぽん!うふふふふふ♪



オースベルにじゃんけんはあるのでしょうかね

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