第三十九話
少し場面が移りまして、百合ちゃん美樹ちゃんお付きのイングリットさんの視点です
最後に視点切り替えがあります
「以上で、マイシマ ユリ、キノ ミキ 両名の迷宮進入に関する報告を終了します」
私の目の前には、元帥閣下
そして、国王陛下が居並び、報告に耳を傾けている
「……無事なのか?」
「はい。三名とも、既に起き上がれる程度に回復しております」
国王陛下の御下問に答える
実はこの答えは、正確ではない
そもそもが、酷く傷ついたのはたった一人だけ
他の二人はほぼ無傷での帰還だったので、先の質問は
「マイシマ サトルは、無事なのか?」
と実質的にはそう仰られた訳だ
だが、彼のことだけ報告するのも三人纏めて報告するのも、どちらもそう大差ないだろう
ならば、マイシマ ユリ、キノ ミキ両名に対する私の監督責任上、わざわざその二人を除いて報告する事が憚られたというだけのこと
そもそもが、マイシマ サトルの監督責任者であるアルベルトが、ちゃんと仕事をしていればこんな手間は取られなかった
あの馬鹿は、マイシマ サトルが迷宮入りしていた日、アイギナ王女様の側に侍っていたというのだから、呆れるより他無い
(と、不満を言ってみても、何かが変わった訳ではないと思うけど)
私達は、彼らの迷宮入りに同行する事は出来ない
進入制限に引っ掛かるから、という理由もある
だが、それ以上に、同行を禁止するという命令が下されているから
だから、アルベルトが仕事をしていても、結果は変わらなかったかもしれない
(でもさ、報告書も提出しないって、どうなのよ)
付いていっていない以上は、報告する事なんで出来はしないだろうけど、最低限、聴き取り調査くらいはしろよと言いたい
結局、マイシマ サトル本人の迷宮内に於ける動向については、その詳細はまだ判っていない
本来率先して動くべき人物が、王女様の側を離れないから
「イングリット特務兵」
「っは、はいっ!」
内心の愚痴に没頭していたせいで、元帥閣下からの突然の指名につい驚きが先に立ってしまった
とんでもない恥である
この辱めの恨みは、あとでアルベルトで晴らさせてもらう事を心に誓う
「どうした、御前だぞ。シャキッとせんか」
「はっ!申し訳ありません!!」
お叱りを受けてしまった
我ながら、とんだ失態を演じてしまった
「まあいい。それで、この報告書についてだが……」
そう言いながら、私が提出した報告書を、穴が開くほど集中して読む元帥閣下
正直恥ずかしいのだが、こればかりはどうしようもないので、我慢する
「何か、不備が在りましたでしょうか?」
自分の仕事には自信があるが、一応謙虚なところも見せておかないといけないので、軽く謙ってみる
……まあ、徹夜仕事で作成したので、何かしら不備は在るかもしれないが
「いや、問題はないな。でだ、ここに、マイシマ ユリ、キノ ミキからの聴取内容が記載されているのだが……」
そう言って、資料を指差す元帥閣下
(ここと言って指差しても、資料はそっち向いているんだから、判りませんよ)
そう、内心で揶揄いながらも、その様な事はおくびにも出さず、無言で言葉の続きを待つ
これぞ、軍人のあるべき姿と言えよう
「彼女らは揃って、迷宮内の敵に苦戦する様な事は無かったと言っているな。これは本当か?」
「事実です。それに関しましては、詳しく聴取しましたが、説明は納得のいくものでした」
「説明?どの様な?」
元帥閣下との会話に国王陛下が興味を抱かれたのか、質問を割り込ませて来た
不躾とは思わない、彼こそがこの部屋の中で最も自由に振る舞える存在なのだから
(そういえば、そこのところは省略したんだったわね)
自分の仕事に自信と言っておきながら、これだ
まあ、ここまで掘り下げて訊かれるとは思わなかったと、自分に言い訳しておく
「ご説明いたします」
極めて簡素な内容だ
公園迷宮に挑むのは、ほぼ子供だけ
仮に子供と同じ身体能力値の大人が居たとしても、精神の成熟具合や身体の使い方が違う
更に単純な話をすれば、身体の大きさが違う
という事は、間合いの広さが違うという事
それだけ違えば、それは戦い易さも変わるだろうとは理解出来る
だが、大人は誰もここに挑む事が無かった為、今まで判明しなかった様だ
まあ、これからも無いだろうから、あまり意味は無いと思うけど
「いや、確かに納得がいった。そうか、そう言われればその通りだな」
陛下にもご納得頂けた様だ
しかし、その事に安堵するよりも、抱いた疑問が前に出る
「オルブライト元帥閣下、質問があるのですが、尋ねてもよろしいでしょうか?」
軍隊というものは、厳格極まる縦社会だ
上意下達に手間は無いが、下意上達は難儀するのが常
質問ひとつとっても、~なの?と直截に尋ねる事は許されない
憚られるのではなく、許されないのだ
仮に仕出かしたら、それは厳しい叱責を受ける
相手との階級が離れていればいる程、その叱責は厳しくなり、厳罰すら課せられるのだから、軍人は自然とそうした作法を身に付けるものだ
そして、繰り返すが、上意下達は手間が掛からない
「何だ?」
ほらね
こっちが回りくどい言い回ししてるのに、その応答が三文字だよ
まあ、慣れっこだけど
「はっ!有り難う御座います!」
こういう修飾も無いと、受けが悪い場合があるので注意が必要
昔、私が下に着いた上官なんか、物凄く言葉遣いにうるさくて、少しでも省略しようものなら、キッツイお叱りを受けたものだ
それに比べれば、随分と優しい部類に入る
中には、部下に意見される事すら認められない人も居るからね
今の私に、そういう連中が意見する事は出来ないけど
仮にも、近衛隊に務める近衛兵に、一士官が直接面通す機会すらないのだ
さて、話が大幅に逸れてしまったが、話の続きに戻ろう
「先程小官が申し上げました、迷宮の難易度についての報告ですが、他の異世界人からは、同様の報告は無いのでしょうか?」
それがいやに気になった
気付けなかった身で言うのは、とても気恥ずかしいのだが、これほど簡単な事に誰も気付いてないという事に、強い違和感を感じたのだ
ユリとミキの言葉では、異世界人達は現地に於いてかなり優秀で、その将来を嘱望されている者達なのだとか
そんな彼らが、こんな単純な事に気付けないのか?
もしや、当事者達の言葉を監督者達が握りつぶしているのでは、等という荒唐無稽な懸念すら抱いてしまう
いや、無いと思うけど
信頼できる同僚たちなのだから
「その事か。確かに、同様の報告は上がってきていないな」
元帥閣下の言葉に、不安は高まる
我ら近衛隊に、一般的な倫理観は適用されない
近衛隊の絶対意義は、王族の守護
それが果たせるなら、どの様な犯罪行為にも手を染めるのが、近衛の務めというもの
故に、不正は許さない、等という綺麗事は言わない
言わないが、それはあくまでも王族の守護という前提あってこそだ
もしも、異世界人達の言葉を故意に伝えていないとしたら、良くない事態に発展するかもしれない
とはいっても、出来る事など無いに等しい
まさか、近衛隊に不正ありや、と上申する訳にもいかない
証拠が一切無いのだ、逆心ありと受け取られたら……
とにかく、今は、大した理由でない事を祈ろう
そう、実は異世界人達の誰も気付かなかったとか
わざわざ報告するまでもないと、同僚達が考えたとか
(自分で言ってて有り得ると思う辺り、楽観的というべきか、自身の日頃の行いを省みるべきというべきか)
よく、真面目だとか、細かいとか言われることを思い浮かべ、内心で自虐的に苦笑する
「それがどうかしたか?」
元帥閣下の反問に、何でもないと返答する
勿論、実際に口にした言葉は、十分に飾り立てた物だ
「さて、報告御苦労。なかなか興味深い話も聞けた」
「はっ!光栄であります‼」
陛下の労いの言葉に、感激の意を返す
この際、恐縮です、と返すと、心証を悪くする場合がある
素直に、嬉しい、という気持ちを表すのが無難だ
さて、素直に返したはずなのだが、何やら陛下のお顔が厳しい
素直過ぎたか?加減が難しい
「イングリット特務兵。君に指令を与える。心して聴け」
私は特務兵
特務とは、近衛隊より更に選抜された、王の手足を指す
今回、異世界人達の監督者に選ばれた者は、ただ一人の例外を除いて、全てこの特務兵で構成されている
一人の例外とは、前に述べたアルベルトの事だ
他ならない、アイギナ王女殿下の肝煎りで……まあ、ごり押しした結果、マイシマ サトルに付けられた監督者だ
元々の選抜基準が、一定の実力者、ということだったので、そのごり押しも通ったのだが
(当人は、いたく不満みたいね)
その不満が今回の怠慢に、そして今の事態の遠因となっているのだが、アイツは理解しているのだろうか
自分の行いが、アイギナ様の信頼を裏切る行為だという事を
(その事は、今は置いておこう)
後で、アルベルトには文句を言うつもりなのだから、その時に教えてやろう
アイギナ様に心酔しているアイツには、丁度いい罰になるだろう
「マイシマ サトルを挫く。奴は、無為に失うにはあまりに惜しい人材だ。この機に手中に収める」
今は陛下の指令に傾注する時
アルベルトの事は完全に放り投げて、陛下の言葉に 傾聴する
「奴の性格は、ある程度理解している。ならばこそ、この機は逃せん。一気に挫かねばならん」
口は挟まない
疑問が浮かぶが、問うのは後でも出来る
「それで、私は一体どうすればいいのでしょうか?」
嘘です
よく知らない、いや間接的にはよく知ってるけど
ユリさんったら、いつもマイシマ サトル様の話しかしないもので
ミキさんも結構マイシマ サトル様の話するし
とまあ、そんな人物について、性格がどうのと、得難い人材だのと
そこまで興味ないですって
ですので、申し訳なくも、本題を催促させて頂きます
「イングリット特務!不敬であるぞ!」
元帥閣下がお怒りになるが、言った事は取り消せない
もともと、こういう堅い場は好きじゃないのです、はい
ですので、国王陛下の御仁慈を賜りたく
というか、陛下は気に為さらないでしょうね、この程度の差し出口は
「構わん。特務と言えば、中々に忙しい身だ。今は特に忙しい事だろう」
仰る通りです
現に、王都に居ない特務隊の面々なんて、国内あちこちで情報収集に明け暮れているのですから
王都に居る私達も、そうして集められた情報を纏めるのに大忙し
更には、慣れない子守りの任も追加されて、正直目が回る思いですよ、陛下
(まあ、私は気の合う友人達と知り合えたから、幸運だと思ってるけど)
ユリさんとミキさんは、気の良い人達だ
こちらが打ち解けようと努力している事を見通して、積極的に交流してくれた
正直、あれが一番嬉しかったよ
本当に、この仕事を言い渡された時は、文字通り忙殺されるかと思ったから
ああ、仕事を減らしてくれるなんて、なんて良い人達なんだ、などと思ったものよ
我ながら安易に過ぎるとは思うが、勿論それだけでは無い
一定の友誼を得られればそれでよかったのだが、そこから先に踏み込ませたのは、間違いなく彼女らの人柄に因るだろう
(何だかんだと言ったけど、結論としては、彼女達の事が好きなんだよね)
結局はそこに至る
だからだろう、正直この指令は気が進まない
彼女らが、マイシマ サトル様を特別に想っているのは、もう十分すぎるほどに理解した
というか、させられた
ユリさんは、適当に話題を振れば、必ずと言っていいほどマイシマ サトル様の話に移行する
今日の朝食の話をしていたのに、知らぬうちにマイシマ サトル様……もうサトル様でいいよね
サトル様との野営の思い出話になるなんて、誰が予想できると思うか?
兎に角、ユリさんはサトル様の事が大好きみたい
そんな友人の好きな人を貶めろと言われて、喜べるわけがない
が、これもお仕事と割り切るしかない
こういうのを、ユリさんミキさんのお国の言葉で、げにすまじきものは宮仕え、というらしい
仕事の事を愚痴ったら、そう言われた
国に仕えるのは辛い事が多いからしない方がいい、という意味だそうだ
ああ、正にその通り!と思わず大声を出したのは、まあ、笑い話だ
という訳で、この決心が鈍らない内に早くお願いします
「今回の件、サトルは守るべき対象である二人に命を救われているな。そこを突く」
はい、それで?
「具体的には……」
つまり、斯斯然々と言う事だって
ミキさんに聞いたけど、実に便利な言葉だね
「指令、確かに承りました!では、イングリット特務兵。これにて御前を失礼致します!」
ビシッと最敬礼し、退室する
非常に重く絡まった心持ちは、狭い部屋を出ても解ける事は無かった
「よろしかったので?」
残された者達の会話は続く
「何がだ?」
「サトルの事です。流石に、強引に過ぎると思いますが」
話題は、最近目を付けた少年の処遇
「これで折れるなら、それはそれでいい。サトルを手元に欲しいのは本当なのだからな」
「では、折れなければ?」
少年を案じる男と、試す男
「俺は言ったな?サトルが気に入っていると」
「はい。私も、財務卿、政務卿も同様ですね。特に政務卿は大絶賛でしたよ」
「ああ、サトルってそっち向いてそうだもんな。リチャードも喜ぶはずだ。普段から、まともな人手が少ないと嘆いていたからな」
「それなら、財務もそうでしょう。圧倒的に、渉外に向いた人材が少ないと嘆いていましたから」
「エドガーも大変だよなぁ。俺、あいつがあちこち駆け回るの見て、いつも悪いなぁって思ってたもんな」
「陛下、話が逸れてきました。戻しましょう。サトルを気に入っていると仰いましたね。それがどうしたのですか?」
「おお…そんなにグイグイ来るなよ。ちょっと焦るだろ。で、ああ、そうそう。つまりだ」
「はい」
「そんな奴の躍進が、嬉しくないわけないだろ?」
結局は、二人ともしてサトルの為に行動しているのだった
今回である程度情報の出た人物について解説を
イングリット
近衛隊から選抜された特務兵
特務は、王族の手足耳目となって動く者達の事
諜報活動から、おつかいまで
とにかく色々やらされてます
エドガー
家名はまだ考えてません
財務大臣、財務卿とか呼ばれる人
王国の重鎮「三大臣」の一人
財務の業務上、外部との折衝は欠かせませんが、それらの大部分を受け持っている
動くタイプの偉いさん、執務室とかには殆どいない
自分の仕事を軽くしてくれる人材を切望している
リチャード
政務卿、政務大臣
家名はまだない
政務は専門知識の幅が広く機密も多い
そのせいで、指示を出せる人材が万年不足状態
財務とは逆に、執務室から離れられない
自分の代わりを務められる人材を切望している
こんな感じですね
家名は必要になったら考えます
一応候補はありますし、設定にも記してありますが
斯斯然々はかくかくしかじかと読みます
流石に説明できないので、指令の具体的な内容は省きました
ですが、しっかりと理くんの心を圧し折ってくれる事と確信しております
ここからは、いつも通り私事です
要らんわ!ボケ!!という方は、飛ばしてください
次回更新は、やはり未定です
が、理くんに一つの試練の時が来る、とだけ言っておきましょう
さて、私事ですが、少し間が開いた言い訳をば
まあ、ドラクエしてたからですね
丁度、前回更新日の翌日に、物語の折り返しに到達しまして
まあ、そこからの展開が楽しいのなんの
そんな調子で、ドラクエ三昧でした
まだ全クリしてませんが、後はラスボス倒すだけですんで
寄り道は大分残してますが




