第二十七話
申し訳ありません、前回後書きで、二週間以内と締め切りを設定しましたが、あれは誤りです
正確にはこの話の次回分投稿が二週間以内、という事になります
今回は長さは普通です
あの対談から三日経った
やはりというか、調べものは遅々として進まず、目ぼしい成果は何一つとして上げられなかった
そんな状態では気落ちもしようというもので、正直かなり落ち込んでいた所に、ある人物から声が掛かった
初日に色々と世話を焼いてもらって以降、一度も顔を見なかったこの国の元帥、ヘクターさんだ
「サトル、元気にしてたか?色々と頑張ってるみたいじゃないか」
今の状況では、そう言われても嫌味にしか聞こえないが、ヘクターさんには色々と手回しもしてもらったのだ
そんな彼の言葉を、俺は捻くれて受け取りはしないとも
「ありがとうございます、その節は色々とお世話になりました」
ヘクターさんと会うのは初日以来
その為今までちゃんとお礼も言えなかったのだ
折角の機会なので、今しっかりとお礼をしておこう
「礼はいい。俺も下心有ってした事だ」
そう言って、頭を上げる様に促している
どうやら照れているとかでは無い様だが、下心とは何だろうか
あれか?軍隊の様な男所帯に長年居ると、新しい世界への扉が開くっていう事を聞くが、まさか俺の身体を狙っているとかそういう事なのか!?
とまあ、冗談はここまでにして、真面目に問いかけよう
「下心、ですか…それは一体?」
この世界の価値観などはいまいち理解出来ていないので、下心と言われても思い当たる節は無い
だからきちんと問い質して、誤解無きようにしておきたいのだ
ヘクターさんに対しては、そうするだけの親しみを抱いているから
「ん?陛下から聞いてないか?お前を買っていると。あれ、俺もそうなんだよ」
意外な答えが返ってきた
国王のおっさんが俺を高く評価していると言っていたのは記憶に新しいところだが、まさかヘクターさんもそのように評価してくれていたとは思わなかった
「というか、ウチの重臣連中は一人残らずサトル、お前さんを評価してるぜ」
そう言われても、はっきり言って実感が湧かない
俺がこの世界、この国に来てからまだ10日経っていないのだ
その間に会った人など数が知れている
更には重臣など、会ったのは国王、元帥くらいだ
後はアイギナさんと皇女様か、重臣とは違うだろうが
そんな、会った事も無い人等が俺を評価していると言われても、実感など湧く筈がないではないか
俺のそんな心情が顔に表れていたのだろう
「なんで自分がそんなに評価されているか、理解出来ないって顔をしているな」
的確に今の心情を言い当てられてしまった
説明を求める心情もついでに読み取ってくれないかな
そんな事を考えていたら、どうやら伝わってくれたらしく
「そもそも、顔を合わせた事がない、とでも思っているのだろうが、それは少し事実と異なるな」
ヘクターさんは説明を始めてくれた様だ
だが、事実と異なるとはどういうことか
間違いなく会った事は無い筈なのだが…
「顔を付き合わせた事は無い、それは事実だが、一方的になら顔を見た事があるんだぞ。全員、あの時謁見の間に勢揃いしていたからな」
どうやら、俺の知らない間に値踏みされていた様だ
とはいえ、それは俺だけでなく異世界人全員、つまりクラスメイト全員に対して行われた事だろうが
「悪く思わないでくれ。俺達も興味が有ったんだ。女神様が呼び寄せた異世界人とはどれ程の者か…ってな」
それは当然のことだろう
ある意味自分等の命運を託す存在であるわけだしな
そうでなくとも、責任ある立場を任されている身なら、政治的にも重要な位置に立つであろう者達を確認せずには居られまい
「まあ、それに関しては仕方ないことだとは思いますよ。こちらが、あまり気分が良くないのも仕方ないと思いますけど」
仕方ないとは思っても、しっかりと釘も刺しておく
唯々諾々と受け入れるなどと思われては業腹だからな
「分かってる、これ以上は何もしないって。言っただろう?俺達はお前を高く買っているって。出来れば自分等の下で働いてもらいたいと思っている位なんだからな。そんな相手の機嫌を損ねる様な真似はしないさ」
「いや、逆に怪しいですよ。なんでそんな高評価を頂いているんですか、特に何かした覚えもないのに」
謁見の時に俺を見たというなら、尚更何か特別な事をした覚えはない
だからこそ、何も自身の価値を見せていない俺を気に入ったと言われて、それを以て手出しはしないと言われても容易に受け入れられるものではないのだ
「……本当にそう思ってそうだな…」
そう答えた俺をじっと見つめると、唐突に独白する様にそう口にする
「本当も何も、事実ですから」
「……そういうところはまだ子供なんだな」
すげなく返した俺に、何やら微笑ましいものを見たといった様子のヘクターさん
何やら小馬鹿にされている気がするが、これ以上は何を言っても無駄だろう
話を逸らす意味も含めて、話題を変えることにする
「それよりも、ヘクターさん。お願いがあるのですが」
「何だ?さっきも言ったが、俺はお前を気に入ってるからな、大抵の事は叶えてやるぞ」
俺が露骨に話題転換した事など、その内心を含めてお見通しだと言わんばかりに、ヘクターさんはからかい含みで確認してくる
とうに彼には敵わないと理解していた俺は、その内心で苦笑いした
「いえ、大したことではありません。もう既に聞き及んでいる事でしょうが、俺は近々迷宮に入ります。多分パーティは組めないでしょうから、一人で入ることになるでしょう」
そこまで言うと、ヘクターさんの纏う空気がピリピリしたものに変化するのが理解出来た
「サトル…もし、何とかなる、と考えているなら、その考えは今すぐにここで捨てろ。迷宮はお前が思っているほど易しくは無いぞ。毎年多くの死者を出す危険領域だ」
そう言って脅しを掛けてきたが、安く見られたものだ
「専業の探索者に、でしょう?自分の力量に合った階層で戦うなら、その限りではないという事は知っていますよ」
特に深く考えずにそう返したが、言った直後に失敗だったと悟る
「力量に合った階層なら、だ。解ってるじゃないか。なら、お前の力量が迷宮探索の最低基準に達していない事も理解しているな」
その失敗を攻められるかと思ったが、意外や意外、ヘクターさんの声音は明るさを感じさせるものだった
「……止めないのですか?国王様には、死ぬ気なら再起不能にするぞと脅されましたが…」
あの時は久々に恐怖を感じた
母さんや叔母さんに怒られた時も怖かった、特に叔母さんはトラウマになるほどの怖さを以て怒られたが、こと恐怖と言うならそれほどでは無かった
考えるに、母さんや叔母さんのそれは愛情からの行為であるのに対し、国王のそれはそうしたものを排した純粋な殺意からの行為であるからだと思われる
勿論、国王のそれに、こちらを慮るものが無い、などとは思わない
そういう切り替えが出来る人間だ、という事だろう
その証拠に、ヘクターさんは苦笑いしながらこう答えた
「まあ、陛下ならそう仰るだろうな。あの方は自身の評価を気になさらない。故に辛辣な発言も平気でなさるのだが、それでいて人一倍お優しい気質をなさっておいでだ。何より、この国で一番サトルを買っているのは陛下だからな。娘の婿になってくれないかな、とか呟いておられたな」
この世界に残るつもりは毛頭ないので、婿入りなど断固としてお断りなのだけど、わざわざ言う必要もないだろう
間違いなくジョークの類だろうから
「アイギナさんが良いと仰るなら、それもいいかもしれないですね」
社交辞令でお茶を濁しておく
何かフラグのような気がするが、気のせいだろう
「……まあ、それは置いといてだ。話を戻そう。お願いとは何だ?」
こちらの意図がちゃんと伝わったのか、ヘクターさんの方から話題を戻してくれた
それに便乗して、俺も本筋に話を戻すべく答えを返す事にする
「先程も言いましたが、大したことではありません。装備品の支給と、街の外に狩りに向かうので護衛を手配して欲しいのです。流石に、初めての事なので、出来るだけの準備はしておきたいと思いまして」
そう、迷宮に入ってレベル上げを行うのはいい、そうするしか道が無いのだから
だからといって、何の事前準備も無しに行けば、ただでさえ低い成功率が更に低下してしまう事だろう
無謀と思われているし、実際に無謀だろうとは思うが、何も自殺しに行く訳では無いのだから、生存率は可能な限り高めておきたい
本当ならパーティも組んでおきたかったが、クラスメイト達を除けば、本当に少年少女と呼ぶしかない年頃しか候補が居なかったのだ
遠隔地から人を連れてくれば、近隣の迷宮に挑んだ事のない高レベル者も居ただろうが、今の俺には時間が無い
この世界の人間は、基本的に近隣の迷宮には一通り進入するのが常識みたいで、こちらから向かうにせよ向こうから連れてくるにせよ、時間的に間に合う位置には該当する高レベル者が居なかった
というか、国内には一人も居なかったのだ
流石に修羅場になると分かっていて、或いは足手纏いになる事が確実である以上、幼い子供を供に連れていく事は出来ない、そんな恥知らずな事は初めから計算に入れていない
故に、せめて魔物との戦いだけは経験しておきたかった
護衛については…まあ、不安要素は可能な限り排除しておきたいって事で
「そんな事か。頼まれなくても、端からそうする手筈になってるさ。言っておくが、全員に装備の支給と騎士が付くことになっているからな」
そう言われて、それもそうか、と思ったのは内緒だ
碌な装備も買えない程度の金子を渡されて、一張羅で魔王退治を押し付けられる、なんて理不尽展開はゲームの中だけだろう
現実にそんな状況になったら、お前ら実は魔王倒してほしくないだろ、とか考えてしまいそうだ
せめて一般兵士程度の装備は寄越せよ、中古でもいいから
「では?」
「ああ、装備品を選別すれば、すぐにでも出立出来るぞ。そっちの準備が整えばな。あ、私物以外の旅支度もこちらで済ませておくから、他に持っていきたい物が無ければ、このまま騎士団詰所に案内するぞ、そこにサトル用の旅支度が整ってるから。装備に関しては合わせる必要もあるが、そんなのはすぐ済むからな」
なんともはや、至れり尽くせりだ
某RPGの王様にも見習ってほしいものである
持っていくべき物は、頭に詰め込んだ知識とこの身体一つ
それ以外を持って行こうにも、学校に持って来ていた私物の類は、全て教室のロッカーの中
今手元にあるのは制服と当日着けていたインナーくらいだ
そんなものはそもそも必要ないので、善は急げとばかりに今すぐ案内してもらう事にする
「ヘクターさんの都合がつく様でしたら案内をお願いできますか」
妙に謙った言い方なのは、日本人の性であろうか
単純に親の教育の賜物だろうな
「もしかしたら、そういう事になるんじゃないかと思ってな。だから声を掛けたんだよ。予定なら勿論空いている。じゃあ、付いて来い」
そう言って先導する様に歩き出すヘクターさん
その後を追いかけて、歩き出す
まだ準備段階でしかないし、そもそもその準備も十全とは言い難い、極めてお粗末なものだ
時間制限が掛けられた事で、どうしても焦りが生まれてしまう、その結果が何の打開策もない状態での死地突入だ
だが、何事も万全の体制を整えられる事の方が珍しいのだ
だから、これでいい
そう、自分に言い聞かせて、逆襲の第一歩を踏み出した
迷宮での寄生行為について、今回で可能性を一つ潰しました
また、前回後書きに追記で可能性潰しをしておきました
こういう細かい設定を考えるのが楽しいクチなのですが、細かくすればするほど矛盾も生まれやすくなるのが難儀です
さて、今回は、そもそも対象の迷宮に挑んだ事のない高レベル者はどこかに居るんじゃないの?という問題に対しての回答です
といっても、安全なレベルに達してから進入するのが常なので、そういう事は普通は行われません
が、今回に限って言えば、理は国家レベルで保護すべき異世界人で、上層部にも気に入られているという話なので、そうした部分を潰す必要が出てきました
その為に考え出したのが、時間制限によって応援を呼べない状況を作る、です
内容は作中で説明した通り、現在国内には理を迷宮内まで護衛可能な人材が存在しません
そして、パーティを組むにしても、理自身適正なステータスに到達していないので、パーティメンバーに多大な迷惑をかける可能性が高いです
そして、パーティを組める面子はクラスメイト達と十に満たない少年少女だけ
前者はプライドが、後者は良識が邪魔をしてパーティを組むことが出来ません
男の子だもんね、仕方ないね
次回投稿は、前書きで告知した通り二週間以内です
今回の件は、ひとえに私の構成の甘さが招いたことです
その旨、ここに報告し、謝罪します




