第二十二話
凄まじく難産でした
正直自信ないです
今回は、前回より少し時間が遡って、皇女様の語り口調でお送りします
栄えある東大陸の覇者、偉大なる黄金郷、雄大にして壮麗なラルオウム帝国の第一皇女
それがわらわ、レイリア・ゴルダナス・ラルオウムである!
……やっぱり少し恥ずかしいわ…
皇族として、常に威風堂々たる態度であるべし!という家訓ゆえに、この様な仰々しい挨拶になってしまったけど、わらわはどうにもこういうのは性に合わないのよね
まあいいわ、気を取り直して…
おほん
皇族たる者、何時如何なる時も民の誇れる存在たれ、という志は共感出来るものであるしな
わらわが恥ずかしい思いをするくらい、如何程のことか
さて、長々と挨拶に時間を費やしてしもうたが、わらわの近況について説明しようと思う
先ずは、わらわが味わいし屈辱より話そう
あれは今より3月前の事であったか…
始まりは、我が国にある迷宮よりの収入が少なくなってきた、という報告が上がってきた事だった
世界には魔物、と呼ばれる化け物達が闊歩しておる
彼のもの等は、我らの生活にとってなくてはならない存在である事は、今更言うまでもないな
魔物を倒せば経験値が得られ、残った死骸からは様々な用途のある素材が採取できる
また、この世界の貨幣は、彼らより得られる貴金属で作られている
そのまま、高純度の鉱石が彼らより得られるのだ
国によって変わるが、一般には金貨と銀貨が世間には流通している
豊かな国になれば金貨の重量自体が変わる、それによって価値も変動するのは解ろうな
貧しい国だと、金貨に混ぜ物がしてあったり、金貨そのものが小さかったり薄かったりするが、当然のこと、その価値は下がる
さて、その金貨銀貨の素となる貴金属だが、これらは魔物より入手出来るのだが、こうして手に入れた貴金属の買取は、その迷宮を管理する国家が一手に引き受けておる
贋造貨幣対策でもあり、また、国家間で定めた金銀の買い取り価格の協定が存在する為でもある
国によって買い取り価格が違えば、当然貨幣の価値にも影響がある事が、その協定が存在する理由であるな
例えば、我が国で金ひと単位を金貨10枚で買い上げるとする
だが、別の国では金貨15枚での買取ならどうか、勿論この場合の金貨は一枚が同じ価値の物を使っておるぞ
この時点で買い取った金の価値が変わってしまっているな
つまり、この金を用いて造られる金貨の価値も変わる、という結論になるのである
因みに金の買い取り価格は金貨の量に換算して、同額を渡す事に決まっておる
故に、同じ量の金を含む金貨の価値は、世界中で共通のものとなる訳である
何故金貨の鋳造基準も協定に組み込まないのか、という疑問を抱いた者も居ろう
かく言うわらわも、その様に考えた口だからな
結論を言えば、各国は互いをそれほどには信用していなかった、というだけの話だ
協定で定められた基準で造った、と言ってもそれを信用できるか、何を以てそれを担保するのか
実は混ぜ物をしていました、じゃあ、洒落にもならないであろうが
その時に全ての貨幣を調べるなど、出来ようはずも無いのでな
では、貨幣は各国でそれぞれ造り、その貨幣に関しての信用は各国で担保しよう
そういう結論になったのよ、これがな
例えば、我が国の貨幣、これをラルオウム貨と呼ぶのだが、これに贋造貨幣が混じっていた場合、我が国の信用問題に繋がり、当たり前だが、ラルオウム貨の価値は下がる、暴落と言ってもいい
それだけならまだいいが、それによって、ラルオウム貨の流通する市場が大打撃を受ける事が問題なのだ
これに関しての説明は省くが、要するに迷宮から採れる産品は、国の経済にとって大事なものである、という事だ
で、我が国が黄金郷だなんだと言ったが、我が国の迷宮は金の産出量が多い事で有名なのだ
具体的には世界一の産出量を誇っているぞ
だが、その金の、というか迷宮の産品が減少してしまった、という報告が上がってきた訳だな
とは言え、これは別に前例がない出来事では無いのだ
迷宮には、我が国の国軍も定期的に入っておるが、当然一般の民衆も進入する
これは、レベル上げが目的の場合もあるが、迷宮産の素材や金属類は収入に繋がるので、ちょっとした小銭稼ぎや、本格的に生計を立てようとする者達が、続々と迷宮に入っていくのが、この世界では普通なのだ
この一般の民衆の中で、迷宮に入って生計を立てている者を”探索者”と呼び、この世界では特に人気の職業として有名である
そして、この探索者だが、当然その業界で有名な実力者というのは存在する
我が国にもそうした有力者は居て、そうした者は得てして派閥を形成するものだ
この派閥が曲者で、自らの利益を追求するあまり、迷宮で手に入れた品物を市場に流さず溜め込む事が稀にあるのだ
我らとて、何も利益の追求を止めよ、等と世迷言を言うつもりはない
寧ろ、そうした行為は時に経済を活性化させる事もある
だが、何事もやり過ぎてはいかんのだ、という事を理解出来ない者が、少ないながらも確実に存在する事が問題なのだ
さて、長く脇道に逸れてしもうたが、そうした事情から迷宮産の品が減少することはままある事態で、それほど焦ることはないのだが、この時はいささか事情が異なった
先ほど、国軍も迷宮に入る、と言ったが、当然彼らも迷宮産の品を持ち帰る事がある
というか、彼らの場合は、それが義務で仕事の一つでもあるのだから、逆に手に入れた品を着服などしようものなら、下手をすれば査問に掛けられ、厳重な処罰を下される事もある
誤解のない様に補足しておくが、彼らに収める義務があるのは金銀以外の各種素材のみで、金銀は協定設定価格で買い取る措置を取る
これもまた協定で定められた事であり、ひいては貨幣価値を保護するための施策な訳であるな
話を戻そう
つまり、彼ら国軍の持ち出す産品の量も減少した事が問題視された訳だ
こうした事例は、過去に無かった訳ではない
とはいえ、その前例は相当昔の事であったのだが
その時は、他国の軍が偽装して迷宮に入り込み、産品を掠め取っていたのだ
そうすることで、その迷宮のある国への経済攻撃に繋がるからだな
更には、自国は掠め取った品で市場が潤う、と
敵国に対してなら、かなり有効な戦略と言えるだろう
今回もそうした原因で斯様な事態が引き起こされたのかと、帝国皇帝たる我が父が憤慨していたのだ
そのお怒りも当然であろうな
この世界では、もうかなり長い間戦争と呼べる事態は起こっていなかった
まあ、西大陸には版図拡大の野心を持った痴れ者の治める国もあったが、彼の地は強大なる始まりの国が治めており、戦乱とは縁遠いので、ここでは省いて考えよう
勿論、だからといって、警戒は怠らなかった
具体的には、迷宮に入る者は国で登録しなければならず、その際には厳格な身元調査が行われる体制を、各国抜かりなく作り上げていたのだ
その為の国際的な組織作りにも着手していた
探索者組合と呼ばれる組織がそれに当たり、世界全ての人間の情報が集約されている、と言っても過言ではない
何故なら、迷宮はこの世界の人間なら必ず入ることになるからだ
一部例外は存在するが、迷宮に入らずに生きるには、この世界は窮屈に過ぎるだろう
下手をすれば生きていくことすら出来ないかもしれん
それほど、この世界にとって迷宮は重要であり、それを事実上管理下に置く探索者組合は、絶大な権力を持っているという構図となっているのだ
そうした組織に腐敗は付き物とはいえ、これほど事態が引き起こされる等、組合創設以降、一度も無かったのだ
だからこそ、普段は温厚な皇帝も強く憤られたのだろう
当然の帰結として、皇帝陛下は事の調査を命じられた
結果として、そうした組織の不正は一切確認出来なかった事が、この異常事態に混乱する帝国上層部に拍車をかけた
とはいえ、減少は一時的なもので、事態はすぐに終息していった
だからだろう、我らはそれで安心し、後に出来する事態への対処が遅れた……いや、全く対処出来なかったのだ
あの日は抜けるような晴れ空であった
雲一つ無く、空にはギラギラと太陽が大地を照らしていた…正直かなり暑かった
ラルオウム帝国は東大陸を手中に収めているが、当然初めから東大陸には、帝国一国しか存在しなかった訳ではない
今でこそ帝国は気象条件豊かな、広大な地を統べているが、その発祥の地は非常に暑く、その時分より帝都は遷っていないので、帝都近辺は年がら年中気温が高いのだ
まあ、湿度はそれほど高くはないので、日差しを避ければ割と過ごし易い
話が逸れたな
こうして心を落ち着けねば、見苦しく取り乱してしまいそうなのだ、見逃してくれ
そんなカンカン照りの日、陽炎で揺らめく地平線を、皇城の上階、皇族が暮らす区画にあるバルコニーより眺めていた
気温が高く、特に暑い日には、その様にして高い位置に昇り、吹き付ける風に身を曝して涼を得るのが、私の密かな楽しみなのだ
それ故に、恐らく私が一番にアレを発見しただろう
実際には、皇都を囲む城壁上で見張りをしている兵士が見つけていたのだろうが、彼らにはそれを報告することは叶わなかった
アレが何だったのかは、今でも判っていない
ただ、山のように大きく、そして地平線の彼方より光を放ち、皇都を半壊させた
本当にそれしか判らないのだ
具体的な姿形すら判別する事は出来なかったくらいなのだから
いずれにせよ、彼のものの所業によって皇都は文字通り、その半分が消し飛んだ
歴史ある皇都は、その瞬間に見るも無残な有り様を呈した、というわけだ
当然、その光に巻き込まれた者は誰一人助かりはしなかった
故に、城壁の見張り番は報告が叶わなかったのだ
わらわはしばらく呆然自失としていた、為政者としては情けない事であろうとは思うが、それも無理からぬ事であろうとも思う
何とか我を取り戻した、その時の気分は如何様だったか…判然とせぬ
怒りもあっただろう、恐怖もあったはずだ
だが、何よりも心を占めたのは、強い悲しみだった
皇都は非常に賑やかな街だ
世界第二位の大国であり、東大陸全土を支配する国の中心地だ、賑わいを見せるのは当然であろう
別に、我ら皇族は、臣民に圧政を強いている訳ではないのだから、もとより閑散としている筈もない
多くの迷宮を抱え、それらによって齎される品々で経済も潤っている
故に、皇都の城下街は常日頃から大変な賑わいを見せていた
それが一瞬にして灰に変わったのだ
そこに住まう民、彼らはわらわ達皇族が、慈しみ、守り導く存在
彼らの存在が、その繁栄こそが、我ら皇族の存在理由であるのだ
そこに在った街並み、それは数多の先人が築き上げた血と汗の結晶であり、我ら皇都に住まう者の誇り
自らの家が焼け落ちて、平静でいられる者など居よう筈もない
奪った者に対しての怒り、一瞬で消し去った謎の光への恐怖
そして、それらに抗えず、守るべきものが失われてしまった悲しみ
それら全ての感情が胸中で渦を巻き、無様にもわらわはその場を動く事が出来なかった
これが最初の屈辱
そして、わらわは皇都を一望できるバルコニーから、帝国の精兵が事態に対処するために出動してきた様子を、ただ見ていた
別に、わらわも供に向かわねばならぬ、向かいたい、などと身の程知らずな事を考えては居らんかったよ
故に、次なる屈辱はこの後にあるのだ
先ず、彼ら兵士達は、状況の把握に務めていた様だった
指揮官が有能なのであろう
闇雲に突撃して、兵士達の命を可惜無駄に散らすまい、と考えたのだと、わらわには見えた
当然、それほどに優秀な指揮官だ
いつまでも、無駄に手を拱いている様な真似はせず、直ぐに民衆の非難と救助に動き出した様子が、わらわからはよく見えた
実際、それらは順調に進み、被害区域周辺からは人っ子一人居なくなった
それ以外の住民達も、順調に皇城周辺の守りの堅い区画に避難が完了していた
その手腕には、わらわも脱帽するより他なかった
あれを差配した指揮官の事は、しっかりと調べて、皇帝陛下へご報告せねばな
そう思った矢先だ、地平線の彼方に、いまだ居座る巨影がまた光を放とうとしているのが、わらわから確認出来たのは
彼ら、街に出て活動していた兵士達も、それに気付いたのだろう
ここからでも、慌て戸惑う様子が見て取れた
それもほんの僅かの出来事であったがな
巨影は、またもや閃光を走らせ、皇都のもう半分も消し去らんとした
一撃で半分が消滅したのだ
次の一撃を受ければ、もう半分も消滅する、そう考えても何も不思議はなかろう
そして、その半分には壮麗なる皇城も含まれていた
そう考えていた
今にして思えば、それは願望であったのかもしれんな
どうせ消えるなら、愛した街と共に消えたい、愛した城ごと消えたい、と
だが、やつはそんなわらわの柔弱な願望を嘲笑うかのように、悍ましき事を成したのだよ
何を成したか、それはわらわがこうして生き残っていることから、想像出来よう
出来れば、それで察してもらいたいな
…そう、彼のものは、皇城には傷一つ付けなかった
消滅したのは、城下の街並み、そして愛おしき我らが臣民の命だけ
よりにもよって、皇城だけが残ってしまった、いや残されたのだ
どうだ、これ以上の屈辱はなかろうが
愛する民を救えず、その為に動くことも出来ず、ただそれを眺め、結果として生き残ったこと
最大級の屈辱だ…
これを払拭できるなら命すら要らぬと思える程のな
当然ながら、生き残った皇城の中の者らも、黙ってはいなかった
皇帝を筆頭に男衆が一丸となって、逆襲せんといきり立っておった
女達も同様だったな、寧ろ男より怒りは深かったかもしれん
まあ、同じ女としての贔屓目もあるかもしれんが
だが、彼らは皆一様に、子供たちの参戦だけは許してはくれなかった
そう、わらわも含めて、な
他の子らは安堵しておった、当然であろうな
誰が好き好んで死にに行きたいと思う?
大人達は、怒りのあまり忘れていたか、或いはあまりの状況に死にたがっていたのか…
それも、今となっては分からんが
だが、わらわは違う
わらわは子供らと、決定的に違った
わらわは、惨劇、と言ってよいか分からんが、あれを目の当たりにしているのだ
はっきり言って、大人達に負けず劣らず、わらわも怒っておったのだ
それ故に、わらわは、大人達の意見に真っ向から反発した
わらわも共に行く!
そう言って譲らなかったのだよ
大人達も困ったのであろうな、そういう顔をしておった
だが、あれを見てしまってはな…おめおめと生き恥を曝す事は堪えられんかった
まあ、実際にはこうして堪えておる訳であるが
それより先の事は、実は記憶にないのだよ
それは何故か
簡単な話、わらわの扱いに困った大人達は、わらわを気絶させたのだ
まあ、致し方無いであろうな
納得は出来んが、理解は出来る
あの時は、本当に先行きが不透明で、極端な話をすれば、口論の瞬間に全てが消えていてもおかしくなかったのだから
だから、彼らの行いを責める気はないのだよ
とにかく、気がついた時は皇都の裏手にある湖に、小舟に乗って浮いていたよ
たった一人でな
そうなった経緯は知らんし、他の子供らはどうなったのか、それも分からん
ただ、一つだけ分かった事がある
嫌でも分からせられたわ
何せ、わらわが見る景色には、ボロボロになり、黒煙を上げる皇城の姿があったのだから
間違いなく、皇都は、そして皇城は陥落したのだと
そして、信じられるか?
世界最高の魔法士と呼ばれ、一人で一軍に匹敵すると言われ、カエシウス国王と並んで、西の剣士王、東の魔法皇と称されたラルオウム皇帝が…それだけではない、世界第二の大国の名に相応しく、帝国上層部は一流の強者揃いだった
それが、悉く討ち死にしたのだ
その死を確認した訳ではないがな
だが、間違いないであろうよ
あの状況で、逃亡を選ぶ愚者は帝国には居らん
ならば、勝つか死ぬか、それしか道は無い
勿論、ただ玉砕を選んだわけではないぞ
彼らは生かすべき存在を生かす為にも、戦いに赴かねばならなかったのだ
願わくば、その戦列にわらわを加えて欲しかったがな
まあ、その後は、何とか東大陸の西端に向かい、船を手に入れて、事の次第をカエシウス王国に伝えに来たのだ
船を手に入れるのも、それほど難しくはなかった
帝国は広大だ、そして落ちたのは皇都だけ
実際には分からんが、帝国全土が焦土と化したなら、少なくともその事態に関する報告が皇城に届いていた筈だからな
だから、海岸沿いに大陸を歩き、港町にたどり着いた
幸いにも、それほど時間はかからなかった
皇都は海から近いからな
そして、そこで船を手に入れたわけだ
そこは、わらわも皇族だからな
皇都落ちたるといえ、その地は未だ帝国
船も、当然帝国の所有する船があったので、その内の一隻を正式に拝借したのだ
ただ、状況が状況だけにな
あまり事態を表に出したくなかったのだ
民に知らせるのは、救援を呼んでからでもいい
そう思った
結果として、その判断は大きな間違いだったのだがな
今や東大陸は完全に閉ざされ、何人も入ること叶わぬ魔境と化した
当然、民達がどうなったか、それを知ることは出来なくなってしまった
悔やんでも仕方ない
実際、あの時にそれを知らせても、誰も信じてはくれなかったであろう
こうして話しているわらわ自身、荒唐無稽な話だと思ってしまっているのだから
王国とて、もし救援を求めたのがわらわで無ければ、或いは実際に東大陸に近寄れない現状が無ければ、こんな話、到底信じてくれなかったであろう
そうであろう?
アイギナ第一王女殿
経済に関しては、昔取った杵柄、と申しますか、十年以上前の講義を思い出しながらの執筆ですので、全く自身がありません
あ、そういうもの
と、受け流していただければ幸いです
説明しろ、と言われても厳しいです
最後、アイギナ王女にバトンタッチしました通り、次回はこの続きをアイギナ王女の語りで行きたいと思います
投稿は、やはり一週間以内、とさせて頂きます
ところで、口調って難しいですね
そこでもかなり難儀しました




