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ゲーマーが往く、異世界チート発見!  作者: ヤタガミ
第二部 喪失と挫折
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第二十一話

落語では、噺の始まりをマクラ 終わりをオチ というらしいですね

今回もまた、夢オチならぬ夢マクラです

明晰夢と言うものを知っているだろうか

今自分が、夢を見ている、そう理解できる事を指してそういうのだそうな


であるのならば、今俺は明晰夢を見ているのだろう


俺は家路をご機嫌に歩いていた

小学校からの帰り道だ

ただ、見慣れたいつもの通りではない

俺が小学五年まで通っていた通学路だ


天気は曇り、今にも雨が降り出しそうな空模様だ

俺は理解していた

これはあの日の夢だと

俺が力を求めるきっかけとなった、あの日の夢を見ているのだと


夢の中の幼い俺は、非常にご機嫌な様子だ

この頃は小学二年、学校での友人付き合いも上手くいっていたし、何よりこのくらいの年齢だと、大抵の事が刺激的で楽しいのだろう

元気も有り余っている様で、学校を出てからずっと駆け足だ

鍛えている今の俺なら、それこそ一時間や二時間でも駆け足していられるが、この頃は特に何もしていない

にも関わらず、徒歩二十五分の距離をずっと駆け足するなど、これを若さと言わずに何と言おう


話が逸れたが、この日、これほどまでに急いで帰ったのには理由がある

と言っても、大した理由ではない

単純に雨に振られるのが嫌だから、それだけのことだ


そして、急いで帰ったからこそ、俺は決定的な現場に出くわす事が出来た


異変は家の門扉の前に立った時に始まった、いやそれ以前から既に始まっていたのだろう

パリーン!という如何にもな、ガラスや陶器の割れる音が家の中から響いてきたのだ

子供心に母親の心配をして、中に駆け込んだのを覚えている


そこで見た光景を、俺は二度と忘れることはないだろう


駆け込んだ家の中、リビングには父と母が居た

それだけなら何も思う事はない

家族の住まう自宅に、家族が居るのは当たり前のことだからだ

だが、その日は明らかに異常な事態が繰り広げられていた


母は床に座り込んでいる

いつもは綺麗に整った外見も、この日は乱れきってボロボロになっていた

父はその母の傍らに立っていた

いつもはこんな早い時間には帰ってきていないのだが、この日は早く帰ってきたようだ


それだけならまだ、母を心配し、父を訝しむだけで済んだ

だが、父がその手にしているのが、俺の怒りを爆発させた

父は右手にあろうことか母の髪を掴んでいた

恐らく、髪を掴んで引き倒したのだろう

状況から推測して、それ以外にも暴力を振るわれたのだろう

更に、左手に持った物が問題だった

包丁を握りしめていたのだ、この父は


包丁を片手に、他人の髪を掴んで引き倒している

小二のガキにも理解出来る異常事態だ

だからこそ、俺の行動も速かった


それほど複雑な行動は取っていないし、取る暇も無かった

ただ真っ直ぐに駆け寄り、そのままの勢いで父の脚に真横から突進しただけだ

そう、ただそれだけだ


だが、その結果は甚大なものとなった

小二が起こした事態にしては、だが

結論を言えば、父の右脚は圧し折れ、所謂開放骨折という状態になった


当時は必死にだったから具体的には覚えていないが、母さんから聞いた話では、真っ直ぐ父に飛び掛かり、地面と平行に飛びながら右脚に体当たりを決めたそうだ

この頃から才能の片鱗を見せていた俺は、同級生の中でもトップクラスに運動神経が良かった

体育の授業ではヒーローだった


だからなのかもしれないが、小学二年生の体当たり如きで重篤な怪我を負わせてしまった

もっとも、俺自身、この事に関しては全く反省もしていないし、それどころか父の自業自得だと確信している


とにかく、この出来事は幼い俺の心に大きな変革をもたらしたのは事実だ

家族は守る、その為にはどうすればいいか

そう考えるようになったのはこの時からだ

そしてもう一つ

この時の相手が父だったのが原因だろうが、俺は父を家族と思えなくなった

それどころか、完全に家族を害する敵として認識を改めていた


それは後に、例え血縁があっても家族足り得ない者もいる、逆に血縁者でなくとも家族となり得るのだ

そういう考えに変わっていった

だからこそ、叔父さん一家を家族と認識し、守るべき存在として遇しているのだ

まあ、叔父さん一家とは血縁があるんだけど、叔父さん以外


思えばあれからだったな

父の様子が変わり、家でも碌に顔も合わせなくなったのは

もしかしたら、父が家を出て行ったのはこの時の事が原因の一つかもしれない

まあ、どうでもいい話だが


ただ一つ心残りがあるとすれば、それらの父の様子に心を痛めていたらしい事だけだ



そこで身体が目覚めるのが理解出来た

正直不思議な気持ちだ、普段意識しない目覚めを意識するというのは


目を開くと部屋の扉が見えた、割と豪華な造りだ

実用性だけでなく、見た目も楽しませてくれる、正に匠の一品と言えるだろう


寝覚めはいい方で、割とすぐに体を起こす

日課の柔軟体操を軽くして、ベッドを抜け出す

ここではシーツを整えたり、掛け布団を畳んだりする必要がない

寧ろしないで欲しいと言われている


どうせ纏めて洗濯するのだし、変な折り癖がつくのも困るのだと言っていた

プロの仕事に物申すつもりはない

素直にお言葉に従い、ベッドはそのままにして部屋に備え付けられた机に向かう


椅子に腰かけ、机の上に積まれた本を手に取って読み耽る

これがここに来て以来、俺がずっとしている事だ

起きて、机に向かい、本を読み、読む本が無くなれば新しい本を取りに行く


幸いな事に、この国は大国で、ここはその大国の中心である王都の王城である

城内の人間が扱う為に、書籍はそれこそ山のように所蔵されていた

所謂、図書館という物は無く、書庫とそこを管理する役人に断り本を持ち出す、という形を採っている様だ

勿論、借り出した本はしっかりと返却しなければならない

そうしなければ、最悪捕まる事もあるというから、その辺はちゃんとしている


当然、本を傷つけたり汚したりもしない

元からそうだが、ゲームなんかも、何かを飲み食いしながらは絶対にしない

百合が、ポテトチップスを食べた手でコントローラーを触ろうとした時は、しっかりと叱ったくらいにその辺は神経質だ


実際、食事もこの部屋で摂っているが、食卓は別に用意して貰っている

食事も部屋に持ってきてくれるし、食器も下げに来てくれる

本当に至れり尽くせりだ


庇護を受けない、自由にさせてもらう、等と偉そうな事を言った俺の面倒を、この国の人はちゃんと見てくれている

そして情けない事に、俺はそれに甘えてしまっている


そうまでして、俺は本を読んでいる訳だが、別に娯楽小説を読み耽っている訳ではない

では何をしているのか


端的に言えば調べものをしている

ただ、具体的に何を調べている、とかの明確な目標は無い

どうしても諦められず、何か抜け道が無いかを調べている、というだけだ

そういう意味では、目標は無くとも目的は有るのだろう


もう一度強くなる


正直に言って、今の生活は苦痛でしかない

今こうしている間も、百合達は危険と隣り合わせの戦いを繰り広げているのかと思えば、その苦痛も当然のことだろう

その中に自分が居ない

いや、その最前線に自分が居ない

その事が、こんなにも心身を苛んでいる

衣食完全保証で働かなくてもいい寝床を与えられているなんて、世の労働者諸氏からは羨望を通り越して憎悪すら向けられそうだ


だが、俺にはそれが苦痛なのだ

だから、必死で昼夜を問わず調べものをしている

初めは本の貸し借りも人がやってくれる、という話があったのだが、それは流石に断った


単純に甘え過ぎで罪悪感があった、というのもある

だがそれ以上に、一歩も部屋から出ないのはあまりに不健康すぎる

身体が不健康なら、心も不健康になる

ただでさえ、状況は最悪、精神はボロボロだ

そんな状態で部屋に閉じ籠ったら、下手をすれば自殺してしまいそうになる

それに、自分で本を探したい、という思いもあった


いずれにしても、自分の為にしていることなのだ

少なくとも、それに関することは自分でするべきだろう


一冊読み終え、流れ作業の様に机の左側に積み上げる

そして、机の右側に手を遣り、そこに何の感触も無い事に気付き目を向ける

どうやら借りてきた本を読み切った様だ


もうすぐ朝ご飯を持って来てくれる時間だが、ちょっとの待ち時間も惜しい今の俺は、部屋に書置きを残し、本を抱えて部屋を出た

目的地は当然、城の書庫だ


初めに案内された部屋は、クラスメイト達と同じ一画にあったのだが、そこから書庫へは幾つかの区画を横切らねばならず、往復にとても時間を費やしていた

そもそも、この城は大国の中心に相応しく、非常に巨大で広大だった

その為、一つの区画、例えば軍部の区画などには、修練場や大きな会議室、軍所有の装備品の倉庫、兵員の宿舎等で、俺達の世界で言えば東京ドーム幾つ分で表すレベルの広さを持っていた


そんな区画を幾つか横切らねばならないのだから、移動に費やす時間は分ではなく時間で表すべき、それほどに時間が掛かっていたのだ

朝ご飯が届けられる僅かな時間を待てない俺が、そんな無駄時間を許容出来る筈もなく、城生活二日目にはお世話をしてくれる使用人さんに相談して、書庫のある区画に一室用意してもらったのだ


その書庫のある区画、どうやら文官やらの政務関係の区画らしく、書庫へ向かう途中、廊下をパタパタと書類を抱えて走りまわる文官らしき人を多く見掛けた

俺達を担当してくれた財務さんと遭遇した時は、お互いになんだか居た堪れなかったのは、寧ろ正常な反応といえるだろう


そんな、朝も早くから人通りが多い廊下を行くと、変わった人と出会う事もある

ちょうど、この角を曲がるとよく遭遇するのだ


「サトル!待っていたわ!!」


そう、こんな風にね?

どうやら俺を待っていたらしいが、この事を突っ込むと顔を真っ赤にして、怒って否定するもんだから、早々に学習した俺は、スルー一択だ


「皇女様?今日は如何なご用向きですか?」


少し言葉に棘があるのは仕方ない事と思う

こちとら、少しの時間も惜しいっていうのに、この皇女様は何かにつけて俺に絡んでくるのだ

今も、朝飯前にご苦労な事だ、と俺に絡んで来なければ、そう傍観していられた事だろう

だが、今は俺が当事者だ、巻き込まれているだけだが


「そなたが昨日、昼は都合が悪いと言っていたので、ならば!と朝早くに会いに来たのよ!」


どうでもいいが、いちいちエクスクラメーションマークを付けないと話せないのか

正直五月蝿い、高田の様なキンキン声ではないが、ただただ声量が大きいのだ

あれか?東の帝国とやらでは、皇族は声が大きいのが常識なのか?教養なのか?

演説とかに有利そうだな


何か、髪と瞳の色が金色で眩しいし

髪は良いとして、瞳が金色ってなんやねん

闇夜に見掛けたら肉食動物でも居るのか!?と身構えてしまいそうだ


色々と理解出来ないが、取りあえず受け答えはきっちりしよう

個人的心証はあまり良くないが、これでも大国の支配者一族、更にはこの国の国賓だ

失礼のない様に…


「で?サトル!今日こそ、そなたの世界の話を聞かせてもらうわよ!」


…はぁ……


「皇女殿下?」


我ながら堪え性のない事だ、と呆れてしまうが、今は本当にキツイ状況なのだ

ここを乗り越えられるかで、俺という人間の人生が決まると言っても過言ではない

その為に日夜調べものに没頭している

その事はこの皇女様にもお話した筈なのだ

筈なのに、この皇女様は懲りずに連日、時間を変え何かしら理由を付けて押しかけてくる


年の程は同じくらいに見えるし、今はその趨勢も分からない帝国とは言え皇族なのだから、俺の迂遠な断り文句も理解してくれるだろう、とやんわりと接していたのが間違いだった


普段なら、これほど短気ではないのだ

実際、波原に絡まれても逃げこそすれ、強い口調で叱りつけた事等一度しかなかった

それだって他の原因で苛ついていた事があるから、俺はこういうタイプを嫌厭してはいないのだろう

……そう考えると、ただの八つ当たりで、最低だな…と思いはするが、それは冷静であったならばだ


今はとても冷静ではいられない

俺の腸は今この瞬間も、ぐつぐつと煮え滾り、その熱を血液に載せて脳髄を燃やしているのだから


「今まではっきり申し上げなかった私にも責はあります。が、皇女殿下も立派な皇族。私の言葉や声色、表情や仕草から、私がどう思っているか、推測する事は出来た筈でしょう?」


知り合ってまだ日は浅いが、皇女様に俺の怒りの一部は確と伝わった様だ

少し顔が強張っている皇女様に、俺は最後通牒を突きつける


「私は今、とても大事な仕事を抱えています。これが済むまでは何人であろうとも時間を割く事はありません。これを聞き入れて頂けないなら、私は今後一切皇女殿下に関わる事はしないでしょう」


冷静に、そう、冷静に考えれば、ただ話を聞かせてほしいと、話がしたいと言ってきただけの女子に対して言う言葉では、断じて無いのだが、この時は冷静さなどとうの昔に投棄してしまっていたので、この言葉も割とスラスラと口から滑り出た


その言葉を聞いた皇女様は、ビクッと震えると悲しげに顔を伏せた

流石に罪悪感が湧き出て止まらないが、俺には彼女に関わる心の余裕は無いのだ

だから、そんな俺の事情を斟酌出来ない彼女が悪い、と馬鹿としか思えない結論付けをして、彼女の返答を待った


「あ、その…わ、わらわは…その……」


そういえば皇女様の一人称はわらわだったな、流石異世界

等と事態の焦点をずらしてしまうくらいには、俺の良心もまだ息をしていたのだろう


いや、流石に女の子を泣かせてしまうとね

健全な男の子は狼狽えてしまう訳で

あれだね、女の子の涙は男の子を強制的に冷静にさせて、更に狼狽えさせる力があるね、いやこれは寧ろ本能だろうか


金色の眼に涙をたっぷりと溜め込み、今にも溢れ出しそうな様子に、流石にこれはまずいと何とか宥めなければと考えたところで、このところよく会う頻度で、皇女様と並ぶ女性が声を掛けてきた


「マイシマさん。また書庫へ行かれるのですか?」


声を掛けてきたのは、何を隠そうアイギナ王女その人だ

青紫色の髪が眼に優しい、この国の第一王女様


今この状況では、俺にとって正に救世主か!?とも思えるお方の登場だった


その認識はただの願望で、実際には魔王様の降臨だったのだが

ちょっぱや(死語)で仕事を済ませて、全力でなんとか年内に書き上げました

校正が甘いですが、取りあえず年内アップを優先


皇女様のお名前は次回出てきます

理にとっては、まだ名前で呼ぶ様な関係性じゃないから、自然に出せませんでした

ご勘弁を


次回は三が日を過ぎると思います

締め切りには余裕を持たせているので、早くなる可能性はありますが、大体それくらいと見ていてください


書き置きをしたと表現がありますが、当然ながらオースベルでは独自の言語体系が存在します

少なくとも日本語は使っていません

これについて興味のない方は、以下を読み飛ばして下さい、話には関係しないと思いますし、関係するならその時に説明します





結論から言えば、日本人はオースベルの言語、文字が日本語に。オースベル人は日本語、日本の文字がオースベルの言語に自動で翻訳されている、という設定です

翻訳は女神の不思議パワーです、ステータスをイジイジされた時に一緒に弄られたんですね

では、そのことについて、何故作中で言及しないのか

それは、オースベルには一つしか言語がなく(地方訛りとかは存在するでしょうが)、日本人が自分たちの言語を用いても疑問を抱かなかった為です

また、日本人達もそのような些事を気に掛けている余裕はありませんでした

結果、双方が疑念を抱かなかったので、作中で言及しなかった、という次第です

無理やり疑問を持たせても良かったのですが、出来るだけそうした感情の動きに関しては自然である様に努めよう、と考えていますので、その旨ご了承いただければ幸いです

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