第十三話
最近仕事に余裕が出てきました
どうせすぐに忙しくなるんですが…
今の内に可能な限り投稿していきたいと思います、ただの願望ですが
さっきは薄暗がりで、状況も状況だっただけにしっかりと観察出来なかったが、今こうして陽の光が差し込む城の廊下を歩いていると否応なく、先を行くアイギナ王女の後ろ姿が目に入る
特に目に付くのが、腰まで届くほどの長さで、歩くたびに合わせてゆらゆら揺れる青紫色の髪だ
俺達の世界では、まず天然ものではお目にかかれない髪色だ
そのせいなのか、それともこの異世界という非日常空間のせいか、その美しい青紫色の髪からどうしても目が離せない
枝毛など全く無さそうな、それでいてしっかりと纏まり、まるで優美な牝馬の尾っぽを想起させる
間違っても、ワックスやクリームで固めて幾房に別れたメデューサの様な髪ではない
少し艶に欠けるが、あんな小汚い部屋に居たのだ、それも致し方なかろうというものだ
どうしても聞いておきたい事もあったので、先を行くお姫様の横に並んで話し掛けてみる事にした
「なあ、王女様。大事な話を聞く前に、この世界について訊きたい事があるんだが、質問してもいいか?」
俺は先程のやり取りから、こうした物言いにも怒りを露わにすることはないと高を括って、敬語を使わず話しかけたが、やはり気分を害した様子は無く、穏やかに微笑みすら浮かべて返答してくれた
まあ、こちらの機嫌を損ねない様にと、取り繕っているだけかもしれないので、これだけで人間性を判断するのは早計だろう
「はい、サトル様…とお呼びしてもよろしいでしょうか?私で答えられる事なら何なりとお尋ねください」
いきなりの名前呼びに少し驚きながらも、俺も名前で呼んでいるんだし、特に断る理由も無いので了承しておく
「ああ、それで構わない。本当は呼び捨てで呼んで欲しいんだが、高貴な身分の様だしそれも難しいか」
そう言うと、アイギナ王女は苦笑して
「ええ…皆様は我が国の国賓でいらっしゃいますから…そんな方々を気安く呼び捨てには出来ません」
「大丈夫だ。その辺の事情を理解できない様な奴は俺らの中には居ないよ」
「ありがとうございます。それで、訊きたい事とは何なのでしょうか?」
おっと、余計な話で時間を潰してしまうところだった
目的地までどれほどの時間の猶予があるか分からないのだから、さっさと用件を済ましてしまおう
「じゃあ早速。まずこの世界の名前はなんていうんだ?」
これは軽いジャブだ
ここで嘘偽りを言うなら、この姫さんは信用するに足りない、と判断する一因となるだろう
少しだけこうした質問をさせてもらう
こちらとしても我が身と家族を、ついでにその友人を守らなければならないんだから
「私達はこの世界をオースベルと呼んでいます。この名前は世界を創造された女神様の御名をそのまま用いています」
まあ、ある意味では道理だろう、創造主の名に因むのは
道理だからと言って、不快にならないか、と言われれば、それとこれとは関係ない、と答えるだろう
まあ、その事は事前に知っていたので、そのまま次の質問に移る
ここからは、後で調べれば真偽が簡単に判る内容に絞っていく
「ここはカエシウス王国という国だと殿下は言っていたが、この世界の地理について教えてくれないか?」
これも、後で簡単に調べることが出来るだろう
逆に、この程度の事も開示しないなら、そうそう信用出来ないと言えるだろう
「この世界の地理…ですか……」
「ダメか?」
「いえ、ご教示することは問題ありません。何から話せばいいのかと考えていたのです」
それもそうだ
一概に地理と言っても、その言葉が示すものは多岐にわたる
中学の地理の授業で、その土地の特産品を習ったこともあった
また、その地の地形も地理の範疇だろう
「じゃあ、ここ以外に国はあるのか?あるのならその名前や、ここと比べて規模はどの程度なのか、とか」
「分かりました。まず他国についてですが、存在します。我が国が治めるのは、この世界にある三つの大陸の内、最大の大陸、我々は西大陸と呼んでいますが、そこの東側の半分程を統治しています」
「世界最大の大陸の半分…ではこの国は相当な大国家なんだな」
「はい、カエシウス王国は世界最大の国家です。支配領域も然ることながら、その歴史も他国の及ぶところではありません」
そう断言するアイギナ王女は、誇らしさを満面に浮かべた美しい表情をしていた
その表情があまりにも輝いて見えたせいか、少し意図を外れた質問をしてしまった
「歴史か…そんなに長い歴史があるんだな。どのくらいの歴史があるんだ?」
別にそこまで悪い質問ではない
答えの真偽で相手の誠意を測る、という意味なら全く問題は無いのだ
だが、今は良くない、とにかく時間が無いのだ
正確には制限時間が分からない
そんな状況で、答えが長くなりそうな質問はすべきではなかった
今更後悔しても遅い、自らの迂闊さを呪いながら返答を待つ
「ええと…お教えしたいのはやまやまなのですが、今向かっている謁見の間まであまり時間の余裕は無いのです」
自身の軽率さに内罰的な心境になっていた俺に、意外なところから助け舟が出された
正に俺もそう思っていたんだ
中々に聡い人なんだな、と俺の中での彼女の評価を少し上げておく
「いや、俺も質問してから、これはないなと思ったからな。気にする事はないよ」
俺の失策で王女様に引け目を感じさせるのは偲びない
そう思った俺は、すぐさまフォローする
「そう言って頂けて幸いです」
勿論、軽く釘を刺しておくことも忘れない
「一国の王女様が、異世界人とはいえいち庶民に随分と謙るんだな。やっぱり、俺達にしたいっていうお願いのせいかな?」
意地の悪い物言いだろう、実際に俺がされたら臍を噛む思いをするだろう
だが、ただ利用されてやるつもりも、見ず知らずの彼らの為に危険なことをするつもりもないのだ
何せ、今の俺は以前の力を失っている
家族を守るために必死で磨いた、それを理不尽に奪われた
はっきり言って、俺はあの女神に利する事など、何一つとしてしたくないとすら思っている
「それは……はい、仰る通りです。私達は自身の都合を貴方達に押し付けようとしています。それが叶うなら、私の身などどの様にしていただいても構わない。そう考えております」
「……繕わないんだな。言い訳のひとつ、泣き落としのひとつでも出てくるかと思ってたんだが……」
「その様な事をして何になりましょうか?そもそも、皆様に押し付けるであろう事に関して、皆様は一切の関わりも責任もございませんのに」
「あまり卑屈なのも、交渉事には良くないと思うが」
「私どもに交渉の余地などございません。事態はまだここまで飛び火しておりませんが、そうなってからでは遅い、そうした危殆すべき事だと私どもは考えています」
「その為なら俺達に阿るのも辞さない、と?」
「この身を捧げろ、と仰られても従う覚悟です」
ここまでの言葉はとても重たい表情で告げられたが、最後の言葉だけは強い覚悟が感じられた
俺はどうしても確認したい事が出来たので、思い切って訊いてみる事にした
「……何がアンタにそこまでさせるんだ?」
身を捧げる
この言葉から伝わる意味は二つある
一つは文字通り、身を、つまり命を捨てる、という意味だ
これだってただ事じゃないが、彼女は為政者だ
それを考えれば、まあそういう覚悟はあるだろう、と察する事も出来よう
だが、もう一つの意味は俺達一般的な日本人には容易に看過できないものだ
そう、彼女は俺達に抱かれても構わない、と言っているのだ
仮にも一国の王女が、希望に縋る為とはいえ、氏素性の知れない馬の骨と褥を共にすると言ったのだ
誰かの為に命を懸ける
これは日本人としては十分に理解の範疇だろう
かつての戦争でも、古くは侍の道でも、誰かの為に死ねと説いてきた民族だ
俺とて、大事な家族のためならエ〜ンヤコラってなもんだ
だが、抱かれる、と言うのはどうにも忌避感が拭えない
別に貞淑だの貞潔だのと言うつもりはない
ヤリたい奴は好きにヤレばいいと思う、他人に迷惑さえかけないのなら、何処かのクソ親父の様に
しかし、彼女は違う
ある種の交渉のカードとして、自身の貞操を持ち出しているのだ
それを悲しむ人はいるだろう、これほどの人格者だ、居ない訳が無い
実際、さっきの部屋では中心的な振る舞いをしていたし、少なくとも邪険にはされていない様に見えた
体を使う、というのは、ある意味で命を懸けることよりそうした慕う者達を悲しませる事に繋がる
少なくとも、俺は家族が俺の為に他所で抱かれている、なんて事になったら耐えられないだろう
独占欲とも違う、自身の為にが自身のせいでに変わり、自責の念に駆られてしまうだろうと言っているのだ
だからこそ聞いておきたい
何が彼女にそこまでさせるのか
たとえそれが、彼女の秘した心の中に土足で踏み入る行為だとしても、知りたかった
「……それは………」
彼女も相当に悩んでいる様だ
当然だろう、非常に繊細な話をしている
その自覚があるだけに、彼女に返答を催促する事は出来ない
話せない、と言っても彼女に対する評価は揺るぎはしないと断言できる
と、そこで彼女に変化があった
何やら安堵の表情を浮かべたのだ
俺はその意味が理解できず、少し困惑した表情をしてしまったらしく、彼女がその理由を答えてくれた
「申し訳ありませんが、お話はここまでの様です」
俺に対しそう告げると、今度は少し離れて付いてきていたクラスメイト達に向き直り
「皆様、ここに我らの国王が居られます。どうか王よりお話をお聞きくださいますようお願い申し上げます」
そう言って深々と頭を下げ、知らぬ間に目前に迫っていた巨大な鉄扉の両脇に控えた甲冑姿の人物に指示を出した
どうやら、この鉄扉の先が目的地らしく、そこに着いたことで話を打ち切れる事に安堵した様だ
いや、別にそこまで強制して聞き出そうってわけじゃないんだが、と考えてすぐに思い直した
(今の彼女は、こちらに対してあまり強く出れないんだったな)
なら、しょうがない
これに関しては、俺があまりにも不躾だった
まさしく逢って間もない人間が、安易に訊いていい事でもないし、親しくもない人間に話す様な内容でもないのだろう
とにかく今は時間が無い
謝罪は迅速に、すぐに謝れなければ何時まで経っても謝れなどしない
偉大な先人の薫陶には素直に従っておこう
「お姫様、さっきの質問だが……」
「はい?何でしょうか」
俺が蒸し返すと警戒したのか、表情に緊張を滲ませる王女様を見て、自身の過ちを痛感しながら
「いや、あまりに不躾な質問だった。どうしても気になってしまったのだが、気安く訊いていい話では無かったと思う。どうか許してほしい」
そう言い、しっかりと頭を下げる
我が家では挨拶が徹底されているが、謝罪もその内の一つだ
謝るんならしっかり頭を下げて、それが母さんの教えだ
至極もっともだと思う、故にこうして平身低頭、謝罪するのだ
(あ、ここって異世界だから、こうした習慣が違う可能は大いにあるよな。もし、この姿勢が盛大なファッ〇サインだったらどうしよう……)
そんな、今更どうしようもない事を考えながら返事を待つ
幸いにそんな面白展開になることもなく
「い、いえ!そんな!謝罪していただく様な事では!?あ、あの!?お、お顔を上げて下さい!!」
これはこれで面白いな、などと不謹慎な事を考えながら、言われた通り頭を上げる
「じゃあ、許してくれるのか?」
どうもこういう意地悪な物言いが好きらしい
そんな言い方を今したら、相手も許さざるを得ないだろうに
そう思うが、撤回はしない
「許すもなにも…私は別に怒ってなどおりませんし……」
確かにそれはそうだろう
だが、確実に気分は害した筈だ、それが怒りの方向では無かった、というだけの話
だが、これはこれで怪我の功名、とでも言おうか
彼女の人となりが知れた
彼女は気遣いの出来る人間だ
お気遣いの紳士ならぬ、お気遣いの淑女、と言ったところか
あと、地味なところだが、二重敬語にならなかったのも教養を感じさせて好感触だ
流石大国家の王族、ということなのだろう
俺がいつもの通りに多くの事を考えていると、鉄扉の向こうで準備が済んだのか、控える甲冑男が声を張り上げる
「開錠!!」
かいじょう?開場か?それとも開錠か?等とどうでもいい事に思考を走らせた俺を咎める様に、巨大な鉄扉は轟音を上げ開いていく
(さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……)
この扉が伏魔殿に続いていない事を切に願いながら、開く扉を眺めていた
今回は説明回になる、予定でした
どうも感情面に振ってしまうのが私の悪い癖
じ、次回は!次回は説明回に……ならないと思います、すいません
次回は、今回完全に空気化した百合ちゃん視点で、十三話の補完をしていきたいと考えています
投稿は一週間以内に




