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第九十八話

グロ注意

続きです

「……この辺の雰囲気は、前に入った公園迷宮と大差ないな」


光る柱に入って、出たら景色が変わっていた

見た目の印象通り、テレポート機能のある移動装置だった様だ


その先の光景は、一言で言い表すなら”洞窟”だ

それも、俺が拠点にしている洞穴とは明らかに雰囲気が違う、本当の洞窟だ

ここに比べれば、あの洞穴はただの横穴か、子供が砂山に掘った穴ぼこに過ぎない


「見た感じただの岩壁だが……」


色々と常識を覆す出来事ばかりが起きている現状

今周囲を取り巻く環境が自分の知るそれと同じものかどうか、という不安が漠然と胸中に湧き上がる


その不安に背中を押され、見た目が岩の壁に手を触れる


「感触も岩っぽいな……」


ゴツゴツとして、微かに冷たいそれは、成程確かに一般的に無加工の岩石とされる感触に相違ない

これを粗く平坦に削れば、護岸壁や道路擁壁などの感触になるのかもしれない


「……じゃあ、これはどうだ?」


俺は徐に、握った拳を岩壁に叩き付ける

硬く頑丈な手甲ごとだ

過去の経験に則れば、多少なりとも岩壁を砕く事が出来る筈

それくらいの力加減で殴りつけたが


「……欠片すら出ないか」


多少なりとも砕けているなら、パラパラと岩片が割れ落ちるのが普通だろう

だが、微塵もそんな様子は見て取れない

つまり、僅かも岩壁を砕く事が出来なかったという事になる


「それほど密度の高そうな壁には見えないがな」


俺は再び岩壁に手を触れると、指先でコンコンと突いてみる

音や反発から、その物質がどれくらいの重さや硬さを有しているかは、大体は理解出来るものだ


「音が軽いし、返ってくる反発も軽い。やっぱり、そんなに硬そうには思えないな」


とすると、可能性は二つ


「別世界故の未知の物質で構成されている。それか、未知の法則で保護されている」


何せ魔法なんてものが在り、容積以上の水が湧き出る水筒が在る世界だ

なら、仮にガンジョー〇Xやらショクパン〇リフランスパンが在っても驚きはしない


もしかしたら、迷宮の壁は破壊不可能という法則があるのかもしれない

ここと公園迷宮のみだが、調べた上では迷宮と呼ぶに相応しい迷路を形成している迷宮も在るらしい

なら、不正なショートカットを防ぐ意味合いでも、こうした迷宮の壁は破壊不可能とされていても、何も不思議ではないだろう


「まあ、壁が壊れないと判れば、それはそれで使い道はあるか」


見たところ、凹凸の多い天然の岩壁とそう大差ない造りになっている

なら、俺の戦術ともかみ合うだろう

それが判っただけで、この行為は無駄では無かったと納得出来る


「ん?」


それから少し、本当のほんの少し進んだところで、明らかに異質な壁が出現した


「光ってる……」


通り道は真っ直ぐ一本道だが、その道途中の壁が、これ見よがしにピカピカと光り輝いて、強烈に自己主張している

目に痛い程の光量では無いものの、薄暗い自然洞窟の道に、突然一部が光り輝く壁が在ったら

それは、何とも言い表し難い気分になってしまうのではないだろうか

少なくとも、俺は今そんな気分になっている


「この洞窟の光源としては、位置が低いし光も弱い」


また、弱い光源なら複数を配置するのが常識だろう

だが、こいつは中途半端な位置にたった一つだけ


「……」


俺は無造作に、腰に下げた曲刀を鞘ごと手に取る

そして、抜かずに柄頭の石突きで、光る壁を強く突いた

その行為に出た理由は、これまた直感的なものだ


これは壊せる


その直感は正答への道を違わずに突き進む

結果、光る壁は脆くも崩れ、その光は潰えた


「そして、破片も残らない、と」


視覚も聴覚も

間違いなく壁が崩れ落ちた事を感知した

だが、その崩れ落ちた先の地面を見やれば、落ちているのは岩壁の破片では無く


「明らかに加工されていると解る石ころが二つ……」


拾い上げたそれは、破片と呼ぶには綺麗な断面と滑らかな角の、長方形の石だった

それが二つ


「そして、何故かこれが火打石だと理解出来る」


しかも、ただの火打石では無い

なんと、一回打ち合わせるだけで、確実に燃料に火を点ける事が出来るという

近代インフラ整備が進む以前の世のお母さん方に土下座行脚しろと言いたくなるような、魔法の様な火打石だ


「まあ、これも魔法道具なんだろうなぁ」


俺が知る火起こしの魔法道具は、もっと大きくて、それこそ厨房に置く様な代物だった

だが、もしかしたらそれは稀有な例で、一般のご家庭ではこれが用いられているのかもしれない


何事も、自分の知る知識だけで語ってはいけないという、これは戒めなのかもしれない


「と、そんなどうでもいい事は放っておいて」


火起こしの道具は、丁度欲しかったところだ

もうどんなご都合展開も受け流す覚悟を決めて、火打石を荷物の中に放り込む


更に奥へと歩を進めれば、それほど長くも無い道が途切れ、代わりに広大な空間が姿を表わす

いつも通りに、十分に周辺環境を観察するべきなのだが……


「そうもいかないみたいだな……」


少しばかり離れた場所に三つ、見覚えのある光の柱が発生した

かつての経験に基づくなら、それほど警戒する必要は、今の俺には無い筈

だが


「全く事前情報の無い、未知の迷宮だからな。警戒は必要だろう」


その警戒心を更に確固たるものにする理由は、光の柱の大きさにあった

明らかに、以前にゴブリン幼生体やコボルト幼生体を相手にした時より、光の柱が大きかったからだ

これが意味するものは一つ


「出てくるのは、あの時より大きな相手という事だ」


大きさとは、至極単純でそれでいて重要な戦力指標である

生物で例えれば、筋肉量や重量が変わる

機械兵器で例えれば、搭載火器の豊富さや強力さ、装甲量が変わる


小さいからと侮るのは愚かな事だが、大きいならば警戒は必至だ


「……コボルト成体か?」


以前に書庫で借りた本で見た挿絵の特徴が見て取れるその巨躯

人身獣面の獣人が、そこには居た


「大きすぎだろ……コボルトというよりワーウルフだな」


遠目ではあるが、その体躯は身長3メートル程はありそうだ

肩幅もメートル単位で表せるほど大きく、筋肉量も非常に豊富で、一目で強敵と解らせる見た目をしていた

だが、これがこの世界のコボルト成体の一般的な大きさだというのだから、驚きも呆れも通り越して、逆に冷静になれた


「森の前で遭遇したゴブリンよりは歯ごたえがありそうだが……」


そんな異形の巨人を前にしても、俺の心に焦りも弱気も在りはしない

在るのは、腕試しにもってこいの相手が現れた喜びのみ


光の柱が消える

唸り声も吠え声も無く、光の柱が消えると同時に襲い掛かって来るコボルト達

その動きは野性的とは言い難いが、同時に高い知性と攻撃性を感じさせるものだった


(速い!)


その巨躯から想像出来ないほど、極めて高い俊敏性を発揮するコボルト達は、瞬きすら許さずその丸木の様な腕の間合いの内へと俺を捉える

振るわれる豪腕は、込められた力を容易く想起させる様な鬼気を漲らせながら、颶風の如き激しさと速さで俺の……何処を狙っているかも解らない程広範囲を薙ぎ払う


巨大さと俊敏性

本来なら同居の難しい嫁と姑の様な両者を、見事に合一させたその一撃


既に分かり切っていた事だが、この攻撃で確信に至った

この相手に待ちの戦術は通用しない


あまりにも大きく速い攻撃は、受け流す事も真っ向から躱す事も容易では無いからだ

俺自身の技量や今の身体能力なら不可能ではないが、本来は避けるべき選択である

よって、俺の選択は必然的に


「なら、これで!」


脊椎動物にとって共通の急所である、脊椎を狙った一撃

それを、縮地を以て瞬時に背後を取った直後に、全力で拳を突き打つ


腹部の横幅だけで俺の肩幅が丸ごと収まりそうな大きさなだけに、筋肉量も脊椎の頑丈さも相当だと、返ってくる感触が伝えてくる

放った突きの勢いでは、それを貫き切れないと悟る


ならばもう一工夫、と技巧を凝らそうとしたところで、他の二体の横やりが入った

丁度挟み撃ちになる形で、上段からの振り下ろしと直線の突きが叩き込まれる

俺はそれに対して、理解はしていても回避行動も迎撃も出来ないでいた


技を出した直後、という訳では無かったが、即応出来ないのには理由があった


(クソッ!しくじった!!)


敵の守りを貫き切れない

そう直感した瞬間に離脱していればよかったが、欲を掻いてもう一工夫などと馬鹿な真似をしてしまった為に、身体がその方向へ力を傾けてしまい、咄嗟の反射行動へと力を向ける余裕が残っていなかったからだ


有り体に言って、ただの油断と慢心だが

その結果は甚大な被害をもたらす事になるだろう事は容易に想像できた


走馬燈の様に世界が鈍重に流れを遅くする

その中で、迫りくる二撃へと、目を向ける事も出来ず肌で感じ取る


このままなら、確実にその二撃は俺の身体を蹂躙しつくすだろう

今の俺の身体能力なら、と思ったところで思い出す事がある


コボルト成体の適性レベルは30以上


一概に当て嵌まりはしないが、概ねこの程度の強敵だという情報が、俺の見た本には書かれていた筈

そして、更に思い出す


対物力 1900


これが今の俺の防御面における身体能力値

レベル30なら概ねどの程度の数値になるのかは解らないが、こんなに低い数値ではあり得ないだろう

畢竟、俺の受けるダメージは相当量になると予想される

直ぐに死に直結しないだろうが、初戦からこれでは先が思いやられるというものだ


思考は思考

身体はそれとは別に、脊髄反射という独自の判断で行動を起こす


迫りくる二つの豪腕凶手を感覚が捉え、自らの慢心を自虐した直後

目に映る景色が一瞬だけ大きく流れ、制止した時には三体のコボルトを半ば鳥瞰する視点に移り変わっていた


突き出した拳は何時の間にか開かれ、その指先が前に居たコボルトの背中の中程に埋まり、粘着く水音を響かせている

肉は抉れ、歪に円を描こうとした様な傷痕がそこに在った


挟撃した二体のコボルトは、突如として消失した俺に未だ気付く事無く、その攻撃動作を継続している

だが、数瞬のちには気付く事だろう

その前に行動する必要がある


自らの行動を、戦術目標に沿って構築する

それは瞬きするよりも早く完了し、脳より体へと指令として放たれた


瞬間、俺が掴んでいたコボルトの身体があちこち弾ける

まるで点描でもしたかのように、巨躯に細かな穴を無数穿たれて、体毛と肉と血が飛び散った


事態の原因が不明でも、現実は何も変わる事無く襲ってくる

突如として全身を襲った痛みに、何が何やら解らず

しかし受けた損傷は、確かに彼の獣人に命の危険を報せ、悲鳴を上げさせた


他の二体も黙って突っ立っていた訳では無い

俺が何をしたのか、客観的な立場にあった彼らには理解出来た筈

その推測を証明する様に、彼らは一様に俺をその豪腕烈脚鋭牙で以て捉え、俺の命を抉り取ろうとした


だが、その何れも功を奏する事無く

虚しく空を切るか、或いは俺の蹴撃を以て迎撃されるに終始する


そんな、俺にとって目の回る様な

抉り刻まれるコボルトにとって拷問の様な

それを食い止めんとするコボルト達にとって骨折り損の様な

目まぐるしい時間は、やがて第二者が力尽き倒れ伏した事で終着を迎える


「よっと」


倒れる事を感じ取り、その体から血と肉に塗れた五指を抜き取り、大きく勢いの付いたままに飛び上がり、少し離れた場所へと着地する


位置関係が悪く、二体のコボルトは追撃する事が出来なかった

しかし、倒れる同胞には目もくれず、直ぐ様攻勢に打って出る


実に心地よい殺意だ

怒りも憎しみも悲しみも喜びも楽しみも超越した

いや、それらに派生する以前の剥き出しの感情

それを叩き付けられる様な感覚に、心が原初に還る


俺もまた原初の殺意を以て、二体のコボルトへ躍り掛かる

そこからは酷い泥仕合だ


ラッキーマンは聖書

ガモーノカーチャンノサイフノヒモの意味が昔は理解出来なかった事を思い出す


相変わらず戦闘描写は苦手です

次回もまた戦闘

そしてそのまた次も戦闘

戦闘が四話続きます


その後は遂に鍛錬開始です

そこは一気に投稿しますので、少し物語のペースが速まるか?


次回投稿は8月28日です

暑くて仕方ないですが、それも今年は短く済んだのでしょう

後は残暑を気にするのみです


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