未来予測
「罰してもだめ、抑制してもだめ……。ならどうすればいいっていうの!?」
「どうと言われてもな……」
閲覧機能を参照し終えた今回の来訪者は、彼らの末路と人間という種族の精神的未熟さにショックを隠せないようだった。
ならば諦めてさっさと帰ってほしいところなのだが、彼女は意地でも『自分』の管理世界を否定したいらしく、必死に打開策がないか考えに考えている。
「………ちょっと待って」
しばしの思考ののち、彼女はふと何かに気づいたように顔を上げる。
「そもそも貴方は、どうやって彼らが悪いことをするのかを察知しているの?」
『……君達の世界でわかりやすくいうならば、『未来視』というやつだ』
『自分』の目には、人間一人一人にこれから起こる未来が無数の糸のように伸びて見える。
そんないくつもの未来の中から最善を選び、思考誘導でその通りに動かすことで、その人間にとって最善の人生を歩ませている。
「いや待てよ……そうか!」
『自分』の説明を聞いた彼女はしばし考えこんだかと思えば、なにかを思いついたのか声をあげた。
「これから起こることが先読みできればいいんだ!」
名案だといわんばかりに目を輝かせる彼女に、言っている意味がわからないと自分は首を傾げる。
『なに?』
「これから起こることさえわかっていれば、危険なことを回避できるし犯罪を未然に防げる。これよ! これこそ私達が求めていた『完璧な世界』だわ!」
興奮気味に喋る彼女の案を要約すると、つまり全ての人間に未来視の能力を付与させるというものらしい。
それはまた大きく出たものだが……
『………本当にやるのか?』
「当たり前でしょう!? 貴方みたいな人でなしな神様が支配する世界よりも、素敵な世界にしてみせるんだから!!」
『いや、世界のほうではないのだが……』
ここに来る者達は総じて『自分』に対して敵意を抱いているため、ほとんどの場合は『自分』の話を聞くことはない。取り付く島がない彼女に、『自分』はただため息をつくしかなかった。
『どうなっても知らんぞ』
まずいつものようにコピー世界を作り、彼女をこの世界の管理者に設定しておく。
『………では接続するぞ』
続けて、彼女の脳にこの世界の未来を繋げていく。
「わあ……すごい! これが未来なんだ」
付与された未来視によって知覚できるようになった未来が、目の前を瞬く様に最初のほうこそ彼女はしばし興奮気味だったが………
「………へ?」
ここで、彼女の表情が固まる。
「うぎっ………ぎゃああああああああああああ!!!?」
突如頭を掻きむしって絶叫しだし、その場に倒れ込んだ彼女は身体をのたうち回らせて地面を引っ掻きだす。その際に爪が剥がれてしまった。
『やはりこうなったか』
「ヤはりっで………どウいうゴど!?」
顔中の穴という穴からあらゆる体液がドクドクと流れ、悶え苦しむ彼女に『自分』はその身に起こったことを説明していく。
そもそも『自分』と彼らは根本的に違う生き物で、必然的に能力の幅にも隔絶した差がある。
『自分』が知覚できるものの一つである『未来』は、人間一人でも膨大な未来の情報量が世界人口規模で氾濫している。『自分』が未来視を行い、なおかつ最善の未来につなげられるのは、偏に生まれつき持っていた処理能力の高さがあってこそだ。
それなのに、補助装置を併用することでせいぜい遠い彼方の惑星の過去の姿を見るぐらいしかできないであろう種族が、いきなりそんな膨大な情報を受信してしまっては、精神がパンクするのも当然である。
『理解できたのならもうやめろ』
どうせこのまま続けても苦しむだけだろうと中止を促してみるも、彼女は『自分』を睨みながら頑なに拒否する。
「ふざっ……けないで……!」
歯が砕けるほど食いしばり、懸命に耐えようとしている。
「私は………みんなに託されたのっ……! みんなが幸せに、なれる世界にっ………してみせるって!」
だから………
「私はっ、絶対諦めない………! 奇跡をっ、信じるぅ!!」
『………そうか』
ここに来る者達は、みな同じことを言う。
今回のは『自分』に直接戦いを挑むか、この情報量に耐えるかの違いでしかない。
そして彼女自身が停止を拒むならば、『自分』はそれを受け入れるほかになかった。
………時間にして5分は経った頃だろうか。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
獣の咆哮のような絶叫が彼女の喉から響いたかと思えば、ビクンと背中を大きくのけぞらせて手足を投げ出した。
顔を覗き込んでみればかっぴらいた目は絶望し、彼女の命が事切れてしまっていた。
どうやら彼女の精神は、世界を創る前に膨大な情報量に自我を殺されてしまったらしい。
もはや神になるどころではない。
『……次に同じことを考えるやつが来た時用に、専用の補助装置でも作っておくか』
とはいえせっかく思いついた法則がどんな世界を造るのかは気になったため、次のイレギュラーが現れる日に備えて『自分『』は一度世界の時を止めるのだった。
人間規模でも滅茶苦茶選択肢が多いなら、世界規模の選択肢なんて果たして人間一人に裁き切れるのかって話




