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キダン崩壊

目に飛び込んできた暗雲モンスターのAPは35という絶望的に強力な数値。


ゴゴガガアァ


幾度目(いくどめ)かわからない稲妻の矢が街に突き刺さる。

衝撃でハヤトは再度、宙を飛んだ。


バフッ


幸いなことに崩れた露店のテントがクッションになってくれた。


「ち、ちくしょう……」


同じく吹き飛ばされた鳥人モンスターの〈ハーピィ〉が街の外壁に激突した。

そのまま倒れこみピクリとも動かない、即死だったのだろう。


 またしても暗雲内で光が発生するのが見えた。


もういいだろう……

とハヤトは目を伏せた。


 悲鳴は鳴り止まない。

ハヤトは死を覚悟していた。

否応にも異世界での生活が思い起こされた。

走馬灯(そうまとう)とはこのことなのか。


『カードからモンスターを実際に召喚する』


そんな前世ではありえない体験をこの世界で生業(なりわい)とすることができた。

もちろん危険なこともありはしたが金銭を得て生活できていたのだから、カードゲーマーにとっては夢のような話であっただろう。


しかし、ハヤトはときおり物寂しさを感じていた。

人間が恋しくなったと云うよりは、前世で『カード対戦が一度もできなかったこと』が気残りだった。


召喚士になることはできても、大会動画で見たあの光景。

共通の好きなことを持つ観衆の前でプレイする。

そして、勝利を手にし喝采(かっさい)を浴びる。

そんな『憧れのカードゲームプレイヤー』にはなれなかった。

目指すことすら叶わなかった。


「ぐぐっ」


体中が打ち身、打撲で痛みをこらえきれないというのに……人生二度目の『死』がそこまで迫ってきているというのに……何のんきなことを考えているのかと思った。


「え?」


顔を上げた時、『それ』は極限の中で見えた〈幻〉に感じられた。


突如、人影が空に現れて単身で暗雲モンスターに向かっていくのだ。

獣人モンスターなのか? いつ、どこから現れた?


その後ろ姿は白いボロボロのマントをまとい、身長は高め、直感で成人男性を連想した。

さらに右手にはなんと〈カード〉を持っている。


「カード? カードだよな、あれ――」


激痛で意識が遠のいていく。

目を開けているだけでもやっとだった。

一向に状況を掴めずにいる中、不思議なことは続いた。


 暗雲に飛び込んでいくその人型は体を小刻みに震わせたかと思うと、羽をはばたかせ黒い鳥の姿に変化していったのだ。

つまるところ、その男は鳥人モンスターに変身したのである。


「……カラス?」


空を切りつけんばかりに翻(ひるがえ)された黒き翼は、ハヤトに鴉(からす)を連想させた。



――ハヤトの記憶はそこで終わっていた。


いまだテントに横たわった状態で目を覚ました。

気を失っていたのであろう。


暗雲は去ったのか。

空は赤みを帯びていた。


まだ夕方であるならそんなに時間は経ってはいないはずだ。


「命は……助かったのか」


それを幸福と呼べるのか、それとも眼前に広がる地獄絵図は……やはり不幸に違いないのか。


 キダンの街は誰がどう見ても壊滅状態にあった。

なにかしらの焦げたにおいで充満している。


苦痛に泣きわめいている。

崩れた家屋の前で放心状態でいる。

倒れこんだまま微動だにしない。

あれは、


「お……おっちゃん!」


ズキズキと痛みが走る体をなんとか動かし、ゴブリンの商人に近づいた。

すでに息をなかった――。


「うそだろ? 目を開けてくれよ頼むから……」


異世界に来てはじめてだと思う、頬を涙がつたった。


あの明るく優しかったゴブリンとの思い出が、ハヤトの頭の中を駆け巡った。



 

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