職業・召喚士
――ハヤトは〈ベリーボアの肉〉を小型のアイテム収納袋に入れ、生活の拠点としている小規模の街〈キダン〉に帰投した。
街の中では主に知性を有する〈獣人属モンスター〉たちが生活を営んでいる。
昼時を少し過ぎた時間帯ということもあり、メインの大通りには露店がいくつも並び多くのモンスターでごった返していた。
武器屋を営み客との値段交渉にいそしむドワーフ、果物屋の前でりんごをかじりながら談笑している二匹のハーピィ、広場の片隅で弓を引いているエルフなどなど、モンスターのタイプは様々だ。
ハヤトも初めてその光景を目の当たりにした際は、ひどく衝撃を受けたものだが不思議とモンスターたちの言語を理解することができ、かつ言葉で意思疎通を図ることができたのは幸いなことであった。
生前、まだ病気がひどくならない時に家族旅行で諸外国に行き、不注意から家族と離れてしまった経験があるがあの時は怖かったと思い返した。
英語もままならなかったため、異国の地で言葉が通じないシチュエーションの恐怖と言ったらなかった。
その時よりは言葉が通じるだけまだマシだと思えたのである。
大通りを進み、よろず屋の前に着いた。
そうそう、ここに用がある。
「よう! ハヤトじゃないか」
モスグリーンの体色に、長く突き出た鼻、顔と同じくらい大きな耳が特徴的な見た目の〈ゴブリン〉の商人だ。
命そのものが博打のチップでありその日その日を精一杯楽しんで生きる。
そんな店主であるゴブリンが持つ特性を反映したかのように、売れる物なら何でも売るスタンスの店だ。
異世界にてハヤトが右も左もわからなかった時に「お、ここらじゃ見かけねぇ顔だなぁ」とはじめて気さくに声をかけてくれたのもこのゴブリンであった。
「おっちゃん、これこれ!」
左手でベリーボアの肉を掲げ、右手で指さしながら誇らしげに云った。
「お、ベリーボアの肉じゃねえか! こいつめ、今じゃすっかり腕の立つ狩人になっちまいやがって!」
「おっちゃんが売れるアイテムとかモンスターの出現場所とか、詳しく教えてくれたからだよ」
本当にゴブリンの店主には感謝している。
この世界での生き方を教えてくれた張本人だ。
取得したアイテムは基本的に何でも買い取ってくれた。
金銭があればこそ、飲食物を購入したり宿屋に泊まることもできている。
「ベリーボアの肉なら……っとこれぐらいでどうだ?」
ゴブリンは買値を渡してくれた。
キダンの宿屋に八回は宿泊できる金額だった。
稼ぎとしては十分であった。
「よおし、この値段で売ったぁ! 本当にいつもありがとう!」
「いいってことよ! 最初、お前さんを見かけた時は普通の旅人かと思ったが、今じゃ立派な〈召喚士〉だな」
「へへ、そう言われるとなんか照れちゃうなぁ」
カードの力を使い様々なモンスターを使役し、スペルカードにより魔法効果を自在に使用するハヤトはこの世界では職業・召喚士として扱われるのだ。
それにしても前世ではあれだけコミュニケーションを取ることに前向きになれなかったのに、異世界の異形とも云えるモンスターたちとの会話を楽しめている。
ハヤトはそんな自分自身が不思議に思えて仕方なかった。
異世界での生活は充実していた。
それが返って彼を不安にさせることもあった。
平和な時は一瞬で崩れ去ることをハヤトは骨身にしみて知っていたからだ。




