『ハヤト』としての人生
――高校生三年生になったばかりの中台隼人は動画サイトでおすすめにあがってきたカードゲーム『ドラゴニック・ローグ』の大会中継を見た。
世間でカードゲームが社会現象にもなっていることは知っていたけれども、実際にプロのカードゲームプレイヤーの手慣れたカードさばきや鋭いまなざしは隼人の目にとても魅力的に映った。
「面白そうだな……俺にもできるかな?」
その頃は特に趣味と言えるものもなかった。
生まれつき体が弱かったせいか、満足にスポーツも楽しむこともできず半ば塞ぎ込んでいたと言ってもいい。
翌日にはノスタルジーな雰囲気の残る商店街を抜けて最寄りの百貨店に自然と足が向いており、貯金をはたいてドラゴニック・ローグのスターターセットを買った。
高校のクラスメイトにもカードを持っている仲間はいるのかも知れないな。
「これをきっかけに、みんなと仲良くなれたりするのかな……」
百貨店でもカードゲームイベントを積極的に行っているようだ。
自分も動画で見たような〈カードゲームプレイヤー〉になれるのだろうか。
人付き合いを極力避けてきてしまったが、これをきっかけに自分は変わることができるのだろうか。
そんな期待に胸は高鳴っていた矢先……
隼人の病状が悪化し、居位青快病院に通い詰めの日々を強いられ、最終的には入院生活を余儀なくされた。
閉じ込められた箱の中としか彼には思えなかった。
「なんで……なんでこんな時に、俺にはやりたいことがあったのに――」
病室のベッドの中で何度泣いたことだろうか。
病弱なことに後ろめたさを感じてクラスメイトとの交流を極力避けてしまっていたためか、見舞いに来てくれる友人などひとりもいなかった。
「俺にもカード対戦、いつかできるのかなぁ。それともこのまま……」
毎日、ドラゴニック・ローグの関連動画と手持ちのデッキケースに入れたカードを眺めながら時間が過ぎていく日々。
苦々しい薬ももう飲みたくはなかった。
退屈でしかない病室の中、そのファンタジーな世界観のストーリーに想いを馳せていた。
もしも、気力・活力ともにあふれる体に生まれ変わって、このカードに描かれたモンスターたちと未知の世界を冒険できたなら――と物思いにふけった。
隼人は息を引き取った。
本来ならば高校を卒業するであろう時期に。
――目を覚ますとまず赤・青・緑・黄の色鮮やかなステンドグラスが目に飛び込んできた。
病院内にこんなカラフルな物がある場所なんてないはずだが、
「なんだ? どこだ、ここ?」
キョロキョロと周りを見渡してみたが、他には誰もいないようだ。
隼人はとある教会の並べられた長椅子、そのちょうど中央ら辺に腰掛けていた。
先ほどまで常に感じていた身体のけだるさは嘘のように引いていた。
身に着けた衣類は着用する機会のなかったスポーティーで軽快な夢にまで見たものだ。
立ち上がり腕や脚を動かせば、それらはエネルギーがみなぎり、まるで弾むように動いた。
さらに――きっと願いが通じたのだろう。
腰のベルトには愛用していたデッキケース、中を開けるとその中には変わらずカードが入っていた。
長椅子をテーブル代わりにして、並べてみた。
《アーマード・ファルコン》《ポラリス団の槍使い》《ステッキホビット》《ユナイト・ドラゴン》……
他にもスペルカードなどが一枚も漏れることなく所持していた。
途端に目頭が熱くなるのを感じた。
「最後に神様が見せてくれる夢なのかも知れないな……」
ハヤトはカードをしまってゆっくりと歩きだした。
教会の扉を開け、外に出た。
彼の中で中台隼人ではなく『ハヤト』としての人生が始まった瞬間だった。




