異世界での召喚
大丈夫。
今までも何度だって成功させてきた。
きっと今回も上手くいく!
「ひー、急げ急げ!」
ハヤトは山の緩やかな斜面で、野生属イノシシモンスター〈ベリーボア〉に追いかけられていた。
付かず離れずの距離を保ちながら追いかけさせているとも云えるだろう。
彼の外見は身長百七十センチメートル程の痩せ型であり、ショートヘアにヘアバンド、トップスはアンダーアーマーに半袖のTシャツを重ね、ボトムスはスポーツレギンスにショートパンツ、靴はスニーカー。色はどれも黒・グレー・ベージュと地味めではあるが、とても爽やかでスポーティーである。
そのイメージ通り、風を切るように山を駆け下り、ときおり行く手をはばかんとばかりに現れる岩を軽々と飛び越え、木立をかわしながらここまで走り抜けてきた。
ベリーボアはシュウゥゥと荒い鼻息を鳴らし、興奮状態のままハヤトを追跡する。
体長百メートルほどあるベリーボアの突進攻撃をくらえば、ひとたまりもないはずである。
しかし、ハヤトには口角を上げて笑いながら舌なめずりする余裕があった。
もうじき、平坦な草原エリアに入る。
そこに入って少し進んだ場所には、手製の落とし穴が仕掛けてある。
「こっちだ、ついてこいよ!」
草原に入った。
なおも走り続け――カモフラージュの意味でも被せた葉っぱや細木、その目印をダダッと飛び越えた。
「ここだ!」
目論見ではこれで獲物を自慢の罠で仕留められるはずなのだが……。
ベリーボアもハヤトに続くように|跳躍〈ちょうやく〉し、罠を飛び越えてしまっていた。
落とし穴に気づかれていたのである。
「うっそだろ、おい」
フウフウと唸るイノシシを尻目に、ハヤトは速度を落として回れ右をした。
むざむざとやられるつもりはないようだ。
「仕方ねえな、やっぱカードを使わなきゃか」
そう言って右腰のベルトに装着した〈デッキケース〉を開け、カードを一枚取り出し発声した。
「召喚! 《アーマード・ファルコン》」
カードから粒子の光と共に、一羽の機械属ハヤブサモンスターが宙に姿を現した。
その片翼、頭部と脚部の一部には機械改造と思われるガンメタリックの鎧をまとっている。
この世界ではモンスターに攻撃されるか明確な敵意を向けられると、その敵モンスターの〈名称〉〈環境的所属〉〈AP〉が身体の上部に表示される。
アーマード・ファルコンAP15 VS ベリーボアAP7
このようにモンスター同士の『戦闘』が始まるとそれぞれのAPを比べ合い、何かしらの特殊能力やスペルカードによる補助がなければAPの高いモンスターの勝利となる。
「攻撃だ! アーマード・ファルコン」
ハヤトの下した攻撃命令に呼応し、ファルコンは鳥類特有の勇ましくも甲高い声をあげ、ベリーボアに向かっていった。
数値を上回ったファルコンの翼で切りつける攻撃が炸裂しベリーボアは撃破された。
モンスターが敗北すると粒子データとして分解の処理が行われ、各々の確率で〈アイテム〉を落とすことがある。
この世界がデータで構築された『異世界』なのだということはとっくに気づいていた。
きらめく白い粒子の中から緑の箱のような物体が出現した。
中にはデータが詰まっている。
これが所謂、〈アイテム〉だ。
ハヤトは〈ベリーボアの肉〉を手に入れた。
「やりい、よくやったファルコン!」
役目を終えたアーマード・ファルコンはハヤトが手に持つカードの中に吸い込まれ回収された。
「森の果実を好物としているベリーボアの肉は美味くてそれなりの値段で売れるはずだからな」
北側には先ほど駆け抜けてきた山々、南側には生活の拠点としている〈キダン〉の街がある。
「俺もだいぶ様になってきたんじゃないかな? こう召喚! ってさ」
獲物を倒すことができて、アイテムも手に入れ気分が高揚していた。
時刻はまだ正午にもなっていないだろう。
澄んだ空気を鼻と口で感じながらハヤトは顔を上げた。
雄大に広がる大自然を見まわたすと、前世のことをふと思い出してしまった。
「この世界にきてからどれぐらい経ったのかなぁ」
ハヤトがこの異世界に転生し、はや五か月が過ぎようとしていた。




