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第4部『運命は輪廻する』①

***


 その知らせは正に急だった。

 僕がジーク君の指導で裁判所に居ない間、判事長自身が行った裁判の結果。それを知らせる裁定書。

 それを手に僕は足早に駆け出した。


「これはどう言うことなんだ! グスタフ!!」

「アポもなく急に駆け込んできてどうしたというのだ? クリフトン副判事長」


 そう答えるグスタフはニヤッと口の端を歪めた。

 僕が来ることを想定していたのだろう。

 周りの護衛が、駆け寄る僕を押しとどめようとするのを手を上げて止める。


「この昨日の裁判のことだ!」

「ああ。文部省長官と高級ブティックの女主人が共謀して居もしない子供達をでっちあげて不正請求を繰り返していた犯罪だな。税金を不正に流用するなど、市民への裏切りそのものだ」

「……だから、死刑だと!?」

「悪質過ぎるからな。市民、ひいては革命への裏切りだよ。そんな輩は粛清すべきだ」


 グスタフ……貴様!

 激昂した僕がヤツに詰め寄ろうとした時だった。


「珍しいな、クリフトン君。君が財務省にいるとは」

「閣下自らおいでとは。言って頂ければ迎えの者を寄越したものを」

「構わん構わん。楽にすると良い」


 現れたのは近衛兵を伴うエルネストだった。

 何故、ここに市長が?

 疑問が浮かぶ中、市長はグスタフに伝える。


「つつがなく先ほど刑は執行された。予定通りな」

「ハハーッ。閣下の捜査指示という英断のお陰で財務省としてもこれ以上の被害を食い止められました。有難きことです」


 そうか……そういうことか。

 遅まきながら、ようやく僕は全てのシナリオ(筋書き)に気がついた。


「どうした、クリフトン副判事長。君も閣下に礼を述べないのかね。あの二人は我ら財務省の金をくすねるだけではなく、君にまで罪をなすりつけようとしていたのだぞ。それを未然に防いで頂いたのが閣下の指示だ」


 クッ。

 その場で膝をつき、臣下の礼を取る。

 全ては、遅かったのだ。

 グスタフ、この男は財務省長官でありながらあの二人と結託して、居もしない子供への保護費として不正送金、それを裏金として三人で山分けにしていた。

 それを暗に示唆して、穏便に自首を促したのだが……。

 市長の耳にも入れ、無かった事にできなくさせ、僕に罪もなすりつけれない状況に陥らせた筈が。

 あのままだと一蓮托生で自分も罪に問われることを知ったグスタフは、エルネスト市長に直談判して、二人を切り捨てることで生き延びようとしたのだ。

 エルネストもその裏を知ったうえで……元革命派の権力を押さえ、ガイウス派の権力を強めるために敢えてグスタフを残したのだ。

 自身の手駒とする為に。

 いつでもその首を切れる証拠を持ったまま。


「クリフトン副判事長、君のアドバイスが実に役に立った。これからも宜しく頼むよ。息子の家庭教師としても」


 エルネストの粘ついた視線の笑みだけが、やけに記憶に残った。

 これが……革命の残した結果。




 僕は何をしていたのか。

 何を目指していたのか。


 “民による民のための民が行う政治”


 それが民主主義であり、それこそが貴族政治の腐敗を打倒する、“正義”と信じていた。

 だが、結局はそれでも腐敗はなくならない。

 貴族が、ガイウスが“悪”なのではない。

 “人”の愚かしさが“悪”なのだ。


 いや、“正義”とは何なのだ?


 ヤツらが、誰もが、掲げるのは“正義”、“善”。

 そんなものは何の中身も無い。

 何も変わらない。何も…………。


***


「先生……大丈夫ですか? お顔がすぐれないようですが」


 ジーク君と約束の土曜の早朝。年の暮れが迫るため早朝といえど辺りは暗い。

 護衛なしで、僕と二人一緒に町を歩ける事を喜んでいたジーク君だが、言葉少ない僕の体調に心配の声をあげる。

 ……8歳の少年に心配させるなど。折角の休日なのに。


「いや、大丈夫だよ。ありがとう、ジーク君。それより、この道で良いのかい? この先は時計塔だと思うが」

「無理しないで下さいね。先生のお身体は大事なんですから。……そうなんです。時計塔が目的の場所なんです」


 中心街の大広場の北、町の最も高い建物である時計塔。

 その文字盤は今日も時を示している。


 06:20


 早朝過ぎて流石の観光地も人はほとんどいない。こんな町一番の観光スポットが彼のお気に入りなんだろうか。

 時計塔の正面にある天使像へと回ろうとすると彼が引き止める。


「こっちなんです。先生」


 裏側? そちらには何も無かった筈だが。


「人目が無い時にしないといけないので」


 どういう事なのだろう?


 時計塔の裏側、北面。

 その壁の割れ目に、ジーク君は懐から取り出した鍵を差し込む。


 ガチャン——ギィィィ……


 軋む音を立てて、何も無かった壁面から隠し扉が開けられた。

 これは……一体!?

 その奥には地下へとくだる螺旋階段。


 そう、まさに運命の分かれ道が目の前で開かれたことを。

 この時の僕は知る由もなかった。


⭐︎⭐︎⭐︎

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