表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/9

第2部『裏切りの革命』②

***


 そこからは、あっという間だった。


 あの綺麗な庭園は炎で焼け落ち、宮廷内の色んなものが破壊され、城内に雪崩(なだ)れ込んだ群衆はありとあらゆるものを略奪していく。


 これが……革命? これが……民主主義?


 これが…………正義!?


 あの白く美しいガゼボも焼き尽くされ、瓦礫と化している。


「…………」


 そうだ……フーギリス様は!? 陛下は……どこに!?


 気がつくと走り出していた。


 頼む、間に合ってくれ!!


『王はここにいます!』

『ガイウス様の指示にて我らが、王を監視していたのよ! さあ、捕らえなさい』


“ここにいやがったのか”

“アタイ達の敵、クロノクル王! 絶対に許さない”


 くそッ。人が多過ぎて近づけない。


 何とか、密集する人混みの中からチラッと見れたのは……。


 数人から床に押さえつけられているフーギリス様。取り押さえている者の中には、あの侍女達の姿も。

 アイツら……アイツら、陛下を! よくも……よくも!!


 ——いや、僕だって彼女らのことを責めることが出来るのか?


 ああ……そうだ。この革命を計画した、僕が。


 気がついた瞬間、フッと身体から(ちから)が抜けていた。

 群衆の波に弾き出され、そして……。


***


 一夜が明けた。

 本当なら二日目のオフィエル祭で市民達が熱狂するはずの日。

 だが、今の人々は別の意味で熱を帯びて、中心街の時計塔の前にある大広場に集まっていた。

 壇上、縄で後ろ手にくくられ群衆の前に(さら)されているのは——フーギリス・クロノクル陛下。


「ここにいる市民の皆よ。皆の力でクロノクル市は世界初の市民革命を成し遂げた!」



 ワアアァァーーーッ



 (かたわら)のグスタフの声に民衆が大歓声を上げて応えていた。

 グスタフの更に隣に佇むのは……宰相ガイウス!


「ここにいるエルネスト・ガイウス様も同じクロノクル市民として立ち上がって頂けた。我らは同志だ。これが、民主主義だ!」



 オオーッ



 再び、その場が震えるような人々の高揚する声が上がる。


「さあ……我々市民が、自分たちで初めて町のことを決めて行こう。——そう、『市民投票』だ!」


 『市民投票』、だと? 僕はそんな話は聞いていない。

 だが、そんな僕の動揺も関係なく、事態は進んでいく。


「その最初のテーマは——全ての圧政の根源、フーギリス・クロノクル王の処刑だ!」



 ワーーッ



 群衆の歓声が波のように押し寄せる。僕一人の抗議の声など消し去って。

 ダメだ! 何とか、この勢いを止めないと。

 でなければ……陛下は……フーギリス様は——8歳の……城の外に……外の世界の景色に憧れている、ただそれだけの子なんだ!

 人々の群れの中、何とか身を(よじ)って少しでも壇上に近づく。



「これより、『市民投票』を行う! 民主主義の敵、フーギリス・クロノクル王の死刑に賛成するものは拍手を」



 パチパチパチパチ……。



 満場から割れんばかりの拍手の嵐。


 その『民主主義の敵』という言葉が聞こえた瞬間、壇上のフーギリス様は少し驚いたように目を丸くされ……そして、フッと口元を緩ませた。


“民が(あるじ)になるのならば、王は民の(しもべ)となるのか?”


 陛下が『民主制』に質問をなされた時、陛下自身が思われていたもの。

 あの時、僕は言葉のアヤで誤魔化してしまった。だが、それは……彼の“知りたい”という思い、真実への探究に対する裏切りではなかったのか!?

 陛下は、今、それを知ってしまった……このような最悪の形で。


「市民の皆さんの投票結果、フーギリス・クロノクルを圧政犯罪人として死刑とする!」


 歓喜する人々の声。

 これは……………………もう止められない。無理、だ……。


 処刑人が壇上の断頭台(ギロチン)に陛下の頭を(つか)み、固定する。

 その瞬間、陛下が顔を上げ……僕と視線が合う。


 そう、一瞬。


 違う、違うんだ、陛下!

 思わず、顔を(そむ)けようとした、その時——


“……………………”


 陛下の口が動き、そして僕を見て、微笑む。


 あの、口の動きは……。




『ありがとう、外の世界を教えてくれて』




 何故だ!? 何故、陛下は……。



 ダンッ



 重い音が響いた。

 何かが地面を転がる音、湧き立つ観衆の叫び声、熱狂。


 生涯、その光景を忘れることはないだろう。いや、忘れてなるものか。




 こうして、クロノクル王家は滅亡した。そしてクロノクル市国として生まれ変わる。世界で初の民主国家として。

 腐敗政治の温床、肝心のガイウス一族を“革命の協力者”として(たた)えたまま。


 “民意”とは何だったのだ?

 正義は、教育や法では届かない。人々の心は獣のように恐れと憎しみに支配される。

 そこに言葉など届かない。届きやしない。

 獣にしか過ぎない人々に“自由”など与えるから、愚かな選択をするのか。


 衆愚。


 僕は忘れない。この想いを。——彼を。

 誤った思い込みで彼を処刑した愚かしい民を!


⭐︎⭐︎⭐︎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ