第2部『裏切りの革命』②
***
そこからは、あっという間だった。
あの綺麗な庭園は炎で焼け落ち、宮廷内の色んなものが破壊され、城内に雪崩れ込んだ群衆はありとあらゆるものを略奪していく。
これが……革命? これが……民主主義?
これが…………正義!?
あの白く美しいガゼボも焼き尽くされ、瓦礫と化している。
「…………」
そうだ……フーギリス様は!? 陛下は……どこに!?
気がつくと走り出していた。
頼む、間に合ってくれ!!
『王はここにいます!』
『ガイウス様の指示にて我らが、王を監視していたのよ! さあ、捕らえなさい』
“ここにいやがったのか”
“アタイ達の敵、クロノクル王! 絶対に許さない”
くそッ。人が多過ぎて近づけない。
何とか、密集する人混みの中からチラッと見れたのは……。
数人から床に押さえつけられているフーギリス様。取り押さえている者の中には、あの侍女達の姿も。
アイツら……アイツら、陛下を! よくも……よくも!!
——いや、僕だって彼女らのことを責めることが出来るのか?
ああ……そうだ。この革命を計画した、僕が。
気がついた瞬間、フッと身体から力が抜けていた。
群衆の波に弾き出され、そして……。
***
一夜が明けた。
本当なら二日目のオフィエル祭で市民達が熱狂するはずの日。
だが、今の人々は別の意味で熱を帯びて、中心街の時計塔の前にある大広場に集まっていた。
壇上、縄で後ろ手にくくられ群衆の前に晒されているのは——フーギリス・クロノクル陛下。
「ここにいる市民の皆よ。皆の力でクロノクル市は世界初の市民革命を成し遂げた!」
ワアアァァーーーッ
傍のグスタフの声に民衆が大歓声を上げて応えていた。
グスタフの更に隣に佇むのは……宰相ガイウス!
「ここにいるエルネスト・ガイウス様も同じクロノクル市民として立ち上がって頂けた。我らは同志だ。これが、民主主義だ!」
オオーッ
再び、その場が震えるような人々の高揚する声が上がる。
「さあ……我々市民が、自分たちで初めて町のことを決めて行こう。——そう、『市民投票』だ!」
『市民投票』、だと? 僕はそんな話は聞いていない。
だが、そんな僕の動揺も関係なく、事態は進んでいく。
「その最初のテーマは——全ての圧政の根源、フーギリス・クロノクル王の処刑だ!」
ワーーッ
群衆の歓声が波のように押し寄せる。僕一人の抗議の声など消し去って。
ダメだ! 何とか、この勢いを止めないと。
でなければ……陛下は……フーギリス様は——8歳の……城の外に……外の世界の景色に憧れている、ただそれだけの子なんだ!
人々の群れの中、何とか身を捩って少しでも壇上に近づく。
「これより、『市民投票』を行う! 民主主義の敵、フーギリス・クロノクル王の死刑に賛成するものは拍手を」
パチパチパチパチ……。
満場から割れんばかりの拍手の嵐。
その『民主主義の敵』という言葉が聞こえた瞬間、壇上のフーギリス様は少し驚いたように目を丸くされ……そして、フッと口元を緩ませた。
“民が主になるのならば、王は民の僕となるのか?”
陛下が『民主制』に質問をなされた時、陛下自身が思われていたもの。
あの時、僕は言葉のアヤで誤魔化してしまった。だが、それは……彼の“知りたい”という思い、真実への探究に対する裏切りではなかったのか!?
陛下は、今、それを知ってしまった……このような最悪の形で。
「市民の皆さんの投票結果、フーギリス・クロノクルを圧政犯罪人として死刑とする!」
歓喜する人々の声。
これは……………………もう止められない。無理、だ……。
処刑人が壇上の断頭台に陛下の頭を掴み、固定する。
その瞬間、陛下が顔を上げ……僕と視線が合う。
そう、一瞬。
違う、違うんだ、陛下!
思わず、顔を背けようとした、その時——
“……………………”
陛下の口が動き、そして僕を見て、微笑む。
あの、口の動きは……。
『ありがとう、外の世界を教えてくれて』
何故だ!? 何故、陛下は……。
ダンッ
重い音が響いた。
何かが地面を転がる音、湧き立つ観衆の叫び声、熱狂。
生涯、その光景を忘れることはないだろう。いや、忘れてなるものか。
こうして、クロノクル王家は滅亡した。そしてクロノクル市国として生まれ変わる。世界で初の民主国家として。
腐敗政治の温床、肝心のガイウス一族を“革命の協力者”として讃えたまま。
“民意”とは何だったのだ?
正義は、教育や法では届かない。人々の心は獣のように恐れと憎しみに支配される。
そこに言葉など届かない。届きやしない。
獣にしか過ぎない人々に“自由”など与えるから、愚かな選択をするのか。
衆愚。
僕は忘れない。この想いを。——彼を。
誤った思い込みで彼を処刑した愚かしい民を!
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