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「異世界グランダリア生活記(3)~甲冑の女性は私を覗いて全てを見通し、そして発光しながら下着をさらした……/前編~」

 私は森の中で目覚め、そしてまた意識を失った。


 何がおきたのかなど解らず、ただ眠ったのであろう私が次に目を覚ました時、そこは――――。



「うっ……むむ? ここは一体……どこだ?」


 目を覚ました私はそのように平凡な一言を発したのだと思う。


 森の中であかい光を見たかと思うと、私は次の瞬間にぼやけた視界の中にあった。


 ぼやけていたが明らかに森の中ではなかった。少し暗いが……窓から射し込んでいた陽射ひざしで光は十分。だからそこに天井や壁があって、また棚にもなにやら並んでいて植物がれ下がっていることも理解できた。


 手の感触からやわらかなソファのようなものに自分が横たわっているのだとも解る。そうしてしだいに自分がさきほどていた“夢”のことを思い出し、「ああ、ここは家か……やっと目が覚めたか」などとも思った。


 しかし、私の家には植物がない。たなもなくってカラーボックスがいくつか重なっているだけだ。あとはメタルラックもあって、そこには昔のゲーム機や漫画、人形フィギュアなどが並んでいるはず。“得体のしれない容器や器具”ではない。


 そして壁はもっとこう……白い壁紙なので、“茶色い木のぬくもり”などない無機質な感じであるはずだ。


 ぼやけていた視界が鮮明になっていく。そうして鮮明となるごとに「あれ、俺んこんなだったか?」などと時計を探しながら思う。探すまでもなく枕元にあるはずの置時計が見当たらないことに戸惑とまどいはあった。携帯が見当たらないことに寒気を覚えるのは職業病であろうか?


 そして何より……私の部屋には【甲冑かっちゅう】などない。それも重厚なものでヨーロッパの騎士とかが着ているようなものなど、断じてない。買った覚えがない。


 だからテーブル越しに存在している甲冑なんぞ知らない……。窓から射し込む太陽の光でにぶ青銀せいぎんの輝きを放つそんなものなどあるわけがないのだ。


 だが、それは確かにそこにあった。完全に鮮明となった視界に……携帯を必死に探していた私がテーブル越しに見たそこにしっかり・ハッキリと“甲冑”が存在している。


 その時にあった光景は最初、信じられなかった。自分は元の現実に目覚めたのだと信じたかった。


 かぶとまでちゃんと装備されているその甲冑。ご丁寧ていねいに、大きなお人形かのように椅子に座っているそれが現実だなどと思いたくなかった。せっかく目が覚めたのにまだ夢みたいな光景が続くのかと……幻覚症状が出たのかと自分をうたがった。


「ふむ……目覚めたようだな。どうだい、痛みなどはないか?」


 どうやら疑うべきは視覚だけではないらしい。幻聴までしょうじたかと、“甲冑からこぼれた声”を聞いた私は自分の聴覚も疑い始めた。


「ふむ……なるほどね。どうやら解らない……“ここはどこだ?”と、そんな具合ということか。フフ、無理もないわ……」


 続けて甲冑から声が零れ聞こえてくる。確かに「ここはどこだ?自分の部屋ではないのか?」という現実も覚えつつあったが……その時はそんなことより「これは何者?」という気持ちでいっぱいだった。


 幻覚から幻聴が発せられている……そのようなことを考えていた私は思わず自分のほほれた。


 ざらざらとして、ここしばらく続いた残業で疲れたはだを感じる。間違いない、これは自分の肌だ……認めたくない現実に違いない。


 では、だとすれば……“コイツ”は、この場所は……どういうことだ??


 でていた頬をつねってみたらちゃんと痛かった。涙がにじんで、甲冑の姿も滲む。


 そうして私が困惑していることを甲冑の……甲冑を着た“彼女”はその時、理解したようだ。


 甲冑の兜越しに聞こえるくぐもった声。鉄板をとおして伝わる声は若干低くなっていたが……それはよく聞くと女性のものだった。もっとも、しばらく私はそのことに気がつく余裕などない。


 甲冑の人は少し身体を前かがみにして言葉を発した。


「フっフフフ!! はたしてこれは夢か、まぼろしか――――なんてね♪ 安心なさい、大丈夫よ。これはちゃんと現実ではあるから……恐がらないでちょうだい?」


 そのように言う甲冑の人。声色こわいろ随分ずいぶんと明るいものとなったが……やはり兜越しにくぐもって零れ聞こえるので不気味さはある。私は兜越しに声を聞くことになどれていなかったのだから当たり前である。今だって別に慣れてなどいない。


 ……と。そうした私の不安というか不満というか……いぶかしんで怪しむ心境を彼女は察したのであろう。というか“て”解っていたのだ。


 甲冑の人は「しょうがないわねぇ~」などと言いながら兜をごそごそとしはじめた。見るからに“外そうと”しているというのは解ったが、ちょくちょくと聞こえる「あっ、痛い!?」とか「待ってね、ちょっとひっかかって……ああッ、痛い!?」などという声が私の不安を加速させる。


 この段階にきてようやく、私はどうにも目の前にある人が女性なのだと理解し始めた。理解し始めた頃……甲冑の兜は外されてその下があらわとなる。


 背後に窓があったので逆光ではあった。しかし……。


 そもそも私は異国の人をあまり見たことがない。たまに見かけると「めずらしい」などと思ってチラリと見てしまう。これは日本という国における地方都市住み特有の現象であろうか。


 逆光にあっても解るほど白い肌。外れた兜によって一瞬浮かび上がり、ゆらいで毛先が降りるほどにしなやかな金色の頭髪。


 ふわりとただよってきた香りに私が「ドキッ!」としてしまうのも無理はないだろう。そして“彼女”がそのひとみを開くと……そこにある銀色の瞳孔どうこうを見てさらに私は「ドキッ!」とする。


 断言するが、私はその時見とれていた。目の前に現れた甲冑の素顔に……その時“は”みとれた。


 ゆっくりとした時間の流れだった。シンプルに“美しい”と感じた私の眼前で甲冑の彼女は兜をテーブルに置き、そして顔を上げて視線を私に合わせる。


 清純とすら思えるほどにき通った印象を与える甲冑の女性。それはしっとりと穏やかなる表情で微笑ほほえみながら――


「ウフフ…………この兜、すっごく中がくさいわ。本当は私、ずっと我慢がまんしていたのよ? あなたが目を覚ますこの時までずっとね……」


 ――と、感情を噛みしめるように言った。


 私はその時みとれていたので発言の内容をあまり気にはしていなかった。だが、思えばこの時すでに……のちにみられる彼女の“変人”たる片鱗へんりんは零れ見えていたのだろう。早々にボロは出ていたということだ。


 微笑む彼女は「ダメよね、ちゃんと洗濯しなくっちゃ……中古品だし。でも、兜の洗濯なんてどうすればよいのかしら、ねぇ?」などと続けて言っている。


 こちらに意見を求めている様子はあったが……私はその時彼女にみとれていて内容を理解できてなかったし、そもそも兜の洗濯方法など知るわけがない。


 そうして呆然とする私。テーブル越しに座る甲冑の彼女は兜を改めてのぞきこみ、臭いをいで「かぁ~~ッ!!よぉくこんなの2時間も我慢していたわ……すごいわよね、私!?」などと目を丸くしたようにして驚き、自分を賞賛しょうさんしている。


 まるで対応できずに呆然としている私。その様子にようやく気がついた彼女は「オホン」とせき払いをすると、再び微笑んでこちらをた。


 いまだに現実と夢の判別がついていない私だったが……呆然としつつ甲冑の彼女と視線を合わせていたらあることに気がついた。


 彼女の銀色である瞳孔はよくみると輝いているようであり、だからこそ逆光でもはっきり見えるのだと解る。そして引き込まれるようにその瞳を見ていると、それはうずを巻いているかのように流動しており……。


「オオキ・コウタ……いえ、コウタ=オオキかしら?」


「――――えっ?」


「ほほぅ、構造は同じなのね? だとするとたぶん名前がコウタだから……そうね♪

 ではでは―――――初めまして、コウタさん? 私はリリアンナ=プランジェット。どうぞお気軽にリリーとかリリちゃんとかリリお嬢さんとか……とにかくしたしみやすく呼んじゃってくださいな?」


 甲冑の女性はそのように自己紹介をしてくれた。


 【リリアンナ】……つまり“リリーさん”はその時、実にほがらかな様子で口調もやわらかく話してくれていた。というより後にも常にそのような感じなので、最初からあるがままに接していたというのが本当のところであろう。


 甲冑の女性――リリアンナと名乗ったその人を私はしばらく呆然ぼうぜんと見続けた。むしろ目を覚ましてからずっと“呆然”としている私だが……それは呆然とだってするだろうというもの。


 何せ、その時の私には全ての出来事に「現実」として接するか「幻想ゆめ」として接するかが判断できていなかったのだから。


 そして、それも全て彼女はえていた。だから私が疑問を抱いて質問をするより先に“答え”を言ってくれたのである。


「ごめんなさいね。私にはちょっとした技術があって……あなたの名前は視させてもらったわ。でも、きっとこうして“不思議”だとか“幻想ゆめ”だなんてものを見てもらったほうが受け入れやすくなるだろうから……許してね♪」


 銀色の瞳を片方閉じて“ウインク”を飛ばす彼女。のちに得意技というかくせなのだと知るそれを初めてくらった私はまた「ドキッ!」とはしたものの……。


 彼女が話している内容を理解できず、困惑は継続した。呆然とした気持ちは解消かいしょうされることがなく、次に彼女が言う“明確な答え”を聞くまで意識は整わなかった。


 甲冑のリリアンナは「そうね……ここからも落ち着いて聞いてほしいかな?」と微笑んで優しい表情をこちらに向けている。


 そうして発せられる言葉。それに対して私は――


「あなたは数時間前……いえ、“ついさっき”に不思議なものを見たわね? あり得ない光景だとも思ったわね?

 それはそうよ……まだあどけない少女が“おりんぴっく?”の人達より鋭く跳び回り、そして大きな熊を倒して逃亡させたのだから……それはそれは不思議な光景よね?」


「不思議……大きな、熊……少女! …………そういえば?」


「そして、それらを“幻想”だと思う……それは仕方がないことよ。だって、あなたのこれまでの人生からしてまず、あり得ないことだから。

 もちろん、“現実としては”あり得ないけど……空想の産物としてなら似たような光景を沢山たくさん“観て”はいるのね。今度、そういうのも色々教えてほしいかな~?」


「……あの、あなたは……リリアンナ、さん? さきほどから何を言って……というかここはどこ――」


「――“ここ”はあなたの知る世界ではないのだから、当然なのよ。あなたがこれまで住んでいた世界ではないのだから……別の世界、【異世界】なのだからそれらを現実だと納得できるわけがないわ。ねぇ、そうでしょう?」


 吸い込まれるように彼女の瞳を見ていると、そこにある銀の輝きが増しているように感じられた。そして、自分もその輝きの中にあるかのような……。


 テーブル越しの彼女。座った姿勢で両手を兜に乗せているリリアンナさんが……彼女の手がまるで私の頭にれ、透き通って頭の中にある部分を直接触っているかのような違和感があった。でも、不快だとは不思議と思わない。


 そして、こうして目を合わせている限り逃れられないと“解り”つつ……目をそむけることができず、むしろさらに引き込まれていく。


 そうした感覚と彼女が語る内容。それらをしだいに知覚して理解していくうちに……私は自分の鼓動がはやまっていることを感じていた。


「いせかい……別の、世界……異なる…………“異、世界”??」


「続けて、落ち着いて聞いてほしいかな?? ――そう、異世界よ。あなたがこれまで過ごしてきた世界とは別……国が違うとかそういう次元の話ではないわ。

 うん、次元……それはどうかしらね? そこは解らないけど……ともかくあなたは“本来”、言語から何からまったく別であるこの世界へと移ってきた……不思議なこともあるわよね?」


「なんだ、それ。異世界って……私は……俺はどうなってんだ? だって俺は会社に……明日は会議が……なのに森の中で……“言葉”?? 言葉が違うって、でもこうして……そういえば確かにさっきは最初――」


「大丈夫よ、落ち着いて? だけどそうね……これは言わないとダメよね。だから……その前にあなたは確実に、ここに“存在している”。だからまず安心して? 大丈夫だから、あなたは確かにここに“る”から――いいわね?」


「言葉……なんでいきなり解ったんだ? そういや目が覚める前……俺は……工事の看板……柴公しばこうえて……看板、当たって…………“かたむいた”??」


「待って、大丈夫よ。ほら、安心だから……この世界だって恐くない。大丈夫、あなたは間違いなくここに存在して、安全なこの場所で目を覚まして……大丈夫、“私も”確かにここにるからね?」


「あ、ああ…………頭?? 俺の頭……“ぶつけた”?? 傾いて、落ちて……だれかがさけんで……頭、頭……俺の――――俺の骨???」


 私は……私はその時、思い出そうとしていた。いや、意図的ではなくともいずれ思い出すことになっていたはずだ。それはきっと、彼女のせいでもない。


 いずれ必ず、なんらかの切っ掛け……もしくは時間の経過によって思い出していたのだろう。だから彼女は“自分が視ているうちに”と、私に切っ掛けを与えてくれたのだと思う。



――――そうだ、私は……森の中で目を覚ます前。



 柴犬と目を合わせてから工事の看板を見た。



 それからいきなりえた柴犬を見上げ、そして――――



「あぁ、あぁ…………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!? 俺は、俺はぁぁあああ!!? 俺は落ちてッ、ぶつけてッ、頭ッ割れッて……俺の……俺の俺の…………頭蓋ずがい骨ゥゥゥゥ!!?」


「こらっ、ダメよ!! ちゃんと見て――――私を“視なさい”、コウタッ!!!」


 記憶が思い出された瞬間。その時にあった衝撃までもが鮮明としてよみがえり、“痛み”がはしる。


 手を当てた。自分の側頭部に触れて、確かめる。


 付着はしなかった。触れた手は赤く染まることがなかった……けど。



 “その時”は最期さいご……確かに赤く染まっていた。



 まだらとなって欠けたような明滅めいめつする視界。せまい空を見上げて、そこにかざした私の手は確かに血液によって赤黒く染まっていた。


 そして“現実”を理解したと同時に私は……私の意識……“命”は……?


「――――死んだ、のか。俺、俺は……俺はし、死んだ……?? 寒くって、痛くって……何も見えなくなって……音も聞こえなくなって…………そして、死んじゃった……のか?? ……ウゲェッ!?!?」


 銀色の輝きに引き込まれていた私は突き返されたように……いや、突き放したようにった。そしてソファの背もたれに跳ね返ると、今度はうずくまるようにして嗚咽おえつした。


 急激に襲ってきた怖気おぞけき気。あふれてくるよだれなみだ、鼻水……そうして体液でぐちゃぐちゃになった私の顔。


 しゃ物すらあふれかねないその顔面を甲冑の彼女は――“リリーさん”は身体ごとテーブルに乗り出して手を伸ばし、そして支え上げた。


 彼女の冷たい指(鋼)が優しく私の目元をでる。涙が一時的にはらわれた私の視界。


 そこに視たのは……“あかい光”……。


 紅の眼光が輝いた。それを直視した私の身体には短い痙攣けいれんがあり、脳までしびれたかのように意識が朦朧もうろうとしたあと、ぐったりとソファの背もたれに身をあずける。


 その時は呆然としていた。その日はもう、呆然とする出来事ばかりだったと記憶している。


 天井を見上げてしばらく呼吸を荒くしていた私だが……数分もそうしていると気分が落ち着いて呼吸も正常に戻った。


 見上げていた顔を正面にする。そこではテーブルに手を着いて身を乗り出し、じっと私を見ながら優しく微笑む女性の姿があった。


 瞳孔は深いブラウン、暗い茶色の色合いに変化している。これまでに比べればいくらも現実的なものだった。


 正気となって呆然となる私。その姿を確認するようにしばらくながめたあと、リリーさんは「大丈夫?」と首を傾げながら聞いてくれた。


 私は口を半開きにしながらも「はぁ、大丈夫っす……」とつぶやくように応える。その顔は涎とか涙まみれなのでなんとも間抜けなものだったのだろうと思う。


 そんな私を眼前にして甲冑の彼女は「よしよし」と言い、テーブルにあった布を1枚手渡してくれた。


 私がその布を受け取ると彼女は顔をくジェスチャーをしてくれる。それを見た私は「いいんですか?」などと気を遣う余裕もなく、渡された布で顔を拭いた。今にして思えばとてもありがたい厚意こういであったが……疑惑としてその布が“雑巾ぞうきん”だったのではとも思う。まぁ、彼女も内心は結構あせっていたらしいから仕方がない。


 ともかく顔を拭く私を見たリリーさんは満足したように身を引き、椅子へと腰掛けた。


 そしてあらためて私の疑問を先回りするように答えてくれる。


「そうね、あなたは……コウタさんは元の世界で……“命を落とした”。そう、その身が工事中の穴へと落ちたように……」


「・・・・・。」


「…………オホンっ! まぁしかし、あなたは確かに“ここ”で存在している。つまり、命がこちらに移った……移転……“転生”? ともかくとして、あなたはあなたにとって異世界であるここにやってきて、森の中で目を覚ましたの。

 不思議なこともあるものねぇ……でも今現在、確かにあなたは“生きている”わ。それはこうして生きている私が保障してあげる!」


「はぁ。生きているって……それはまぁ、そうなんでしょうけど……いや、そうなのか? しかし、この感覚は……夢なんかじゃぁないっすよね?」


 少しかがんでテーブルを軽くたたいてみる。「コン・コン」と硬い木の感触は“間違いない”。手の甲に感じた痛みも“間違いない”、と確かめるように私は自身の手をながめた。


 テーブル越しにかおるこの甘い感じも“間違いない”だろう。座るソファのやわらかさも確かに“間違いではない”。


 だから“ここ”は“現実”なのだと……私はその時ようやくに納得した。


「いやまぁ、解りませんけどね? 何が現実で幻想かだなんて……それこそ幻想だなんて抱いている事実ってこともありますし? されど、ともかく……生きていてよかったわね、コウタさん♪」


「はぁ。そりゃいいっすけど……生きていたっつぅか、死んで生き返った? いや、死にそうになっただけなんか?」


「いえ、ちゃんと死んだみたいよ。死んでからこっちに“どうしてか”移ってきたみたい。それも身体ごと……パックリ割れた頭も戻っているわね?」


「あ~~、そうっすね。頭は傷も痛みもないし? 確かあん時、骨に触れた気がしたんだけど……って、うわぁまた震えてきた……!」


「あらら、いけないわ! ほら、私を視て――」


「いやいや、いいっす、いいっすよ!? 大丈夫ですから、落ち着いてますから……っつか、あなたの……さっきの子も? なんなんですか、その“紅い目”??」


「ウフフ♪ そこまで一気に説明したら大変よ? そのうち話してあげますから……今は自分の状況を確認することが大切でしょう?」


「はぁ、まぁ……それはそうっすね。えと……ありがとう、ございます。リリアンナ……さん?」


「イヤよ、リリーかリリちゃん!! どっちかで呼んでくださいッ!!!」


「えっ……じゃ、じゃぁリリーさんで……」


「ほがぁっ!? 選択肢にない答えできたぁぁあ!?!? リリーさんショック!!!」


「・・・・・。」


 彼女はそのように言って仰け反っていた。実はさきほどからずっと、彼女が動くたびにガチャガチャと甲冑がうるさいのだが……そんな苦情は言えなかった。


 仰け反った甲冑の彼女は「確かにまだちゃんづけするには早いわよね、私達☆」などと言っていた。私としては「“ちゃん”って感じではないよな……」と彼女の印象というか大人おとなびた雰囲気からそのように思っただけである。後に思えば別に「ちゃん」づけでも良かったなとも思う。



 薄暗い室内。窓から射し込む太陽の光を頼りに対面する2人。


 一般社会人男性である私と、甲冑の女性。


 ソファに座って黙り込む男と、ウインクを放った表情のまま停止している女――。


 そうした2人の間になんとはなしに静寂が流れた頃。



 不意に部屋のとびらが開かれ、“何者か”が居室へと入ってきた……。






つづく






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