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「グランダリア回顧録 ーWOGDー」  作者: ありなぐま
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「グランダリア回顧録(4)~第二章、甲冑を着た魔術師/後編~」

「師匠、ただいま戻りました――って、何してんですか? というか……起きたのか、“変質者”!」


 扉を開けて入ってきたのは【黒いローブの女性】。そしてそれがまだ幼い少女なのだと私は知っている。なぜならさきほど……実は数時間前らしいが……その時に彼女の素顔を見たからだ。


 紙袋を抱えて入ってきた黒いローブの少女。目つきの鋭い……むしろ恐い感じがあるその子供。


 フードをとってセミロングの黒髪をあらわとした少女が紙袋をテーブルに置く。するとリリーさんが嬉しそうに飛びついて紙袋をあさり始めた。


「あらぁ! おかえりなさい、“サマちゃん”♪

 ウへへ、さぁて待ってましたよぉ……楽しみだったんだから~~♪

 でも早いわね、やっぱりあなたって本当に優秀でーーーー」


 そう言いかけてリリーさんはまた停止した。


 甲冑の女性は紙袋の中身を眺めて硬直している。そして口元をゆがませて眉毛まゆげを下げ、顔をゆっくりと左右に振りながら黒いローブの少女をせつなそうに見上げた。


「本当にあなたって、あなたって人は……一体、どうしてなの!?」


「はい、なにがでしょうか? いえ、解ってますけど……」


 今にも泣きじゃくりそうな甲冑の女性。それをチラリとも見ず、少女は黒いローブを脱いで壁の突起とっきに引っかけた。


 今にも……というか涙をすでに流しながらリリーさんはうったえる。


「どうして“クロワッサン”が入ってないのよ?! マシュリーパン工房ご自慢なクロワッサン……!! 1日で20個しか作られないあのクロワッサンが一体ッ、どうしてぇッ!?」


「1日20個だからじゃないですか? ……というか泣くほど食べたかったならもっと早く使いに出してくださいよ。こんな昼過ぎに向かわせて……」


「だってだって、急に食べたくなったんだもの!! あなたが見知らぬ男性を引きずってきて、そしてそこに放り置いたときに“ハッ!?”と思いついたの!

 そうだ、マシュリーのクロワッサンが食べたい……ってね?」


「何を切っ掛けに思ってんですか? ……まぁ、無かったものは仕方がないでしょう。あきらめてください」


 少女が黒くゆったりとしたローブを脱ぐとその身体はやはり細身であり、いかにも動きやすそうなフィットした黒いインナー(肌着)がそれを強調している。


 細身の少女がめた視線を甲冑の女性に向けている。


 そこから発せられた氷のように冷めた言葉をされた間違いない成人女性はテーブルへと突っ伏し、号泣ごうきゅうし始めた。


「うぉぉぉぉんんん!!! あんまりよ、こんなのってないわ!? サマちゃんのおバカさん!!!」


 テーブルに拳を落としてくやしがるリリーさん。


 大人おとなの女性がいきなり目の前で泣き叫び始めたので私は驚いた。というか、“異”世界などというわりには「クロワッサンがあるんだな……」とそれにも驚いてはいた。


 泣き叫ぶ大人な女性の姿。それを黒髪の少女は変わらずの冷めた視線で一瞥いちべつすると、紙袋からパンの1つを取り出す。


 クロワッサンではないそれを手にして少女は言う。


「というかですね……そんなんなるくらいなら“て”からつかわせばいいでしょう? 最初っから無いと解っていればそうして落ち込んで無様ぶざまに泣くことも――」


「視ちゃったら“あったのね、やったぁー!”という感動が無いじゃない!? 結果が解らないからワクワクして喜びを享受きょうじゅできるのよ!! 私はその喜び、感動を楽しみたいの!! ダメよ、そんなことも解らないの、サマちゃん!!」


「はい、そうですか。だったらダメだった時の“リスク”ってものも享受しましょうね。自分で選んだ道です、どうか近所迷惑にならない程度になげいてください」


 驚いた。どうにも聞く限りにこの2人は師匠と弟子……つまりは上下関係にあるようだ。それなのにこの少女ときたら、なんときもわったであろうか。


「そ、それは……それはそうだけど。でも……それでもッ、うぉぉおおおんんん!!! サマちゃんの意地悪ッ!! もうちょっと優しく、同情して親身に寄りってようわぁあああんんん!!!」


「イヤです、自業自得だもの。私をあなたの我がままに巻き込まないでください……まったく、面倒くさいなぁ」


「ひぇっ!? め、めめめ面倒くさい!? ひぃぃぃぃんんん!? ひどいわッ、あんまりよぉ!! ねぇねぇ、あなたもそう思うでしょう!?!?」


 驚いた。2人の会話を無関係だと傍観ぼうかんしていた私に、突然としてリリーさんは同意を――助けを求めてきたのである。


 ともあれすでに“おん”のようなものを感じていた私はリリーさんをなんとかフォローしようとした。


「そう……ですねぇ。聞くところによりますとお2人は師匠とお弟子さんということですし。ここはお師匠さんをたてる意味でも、お嬢さんが寄り添ってあげるというのが正道せいどうであるかと……」


「ああ゛!? なんだよ、あなたはいきなり話に入ってこないでよ……この不審者め!!」


「ヒィッ!? ごめんなさい、もう割り込みません!! どうかあとはお2人でよろしくお願いします……」


 にらまれた。その時は知らなかったが……彼女はこの時12才である。


 社会人として頑張ってきた私だが、その時に見た少女の気迫というか圧力にはあらがえなかった。本能が「100%勝てない」と理解していたのであろう、逆らうことはすぐにやめた。


 そうなることも解っていたのであろうか。リリーさんはとくに私を責めることもなく……そして変わらず泣きじゃくった。実際正直、私も本心を言えばどう考えても理屈的に黒髪の少女が正しいと思う。


 リリーさんが号泣し、私は押し黙る。そうした状況。


 数秒ほどそれらを静観していた少女は「ところで……」とたん々として口を開く。


「師匠、どうしてよろいを着ているのですか。というかいつの間にそんなものを購入してましたか……」


「おぅおぅ、うおぇぇえええ・・・・・えんっ?? あぁ、これはほら、だって……だって見知らぬ男性ですよ?? もし、万が一にもこの方が凶暴なウルフでしたら……そう思って用心のために装備していたのです。そして買ったのは見かけてカッコよかったから衝動的にです!」


「はぁ、そうですか……で、大丈夫そうなの?」


「うん?? そうですね…………大丈夫ですッ!! この人は狼ではありません、だから心配ないです!! ――――ねっ☆」


 甲冑のリリーさんは立ち上がった。そして私を指さして「大丈夫」だと言う。


 どうにも会話の内容からして……おそらく私は「変なことをする男性」ではないかと警戒されていたらしい。つまりはいやらしいことをしないかと警戒されていた。


 いや、そういった警戒は当然であろう。むしろ見知らぬ男をこうして家に入れて介抱かいほうしてくれたことが親切すぎる。例え森から引きずられたとしても……だ。


 「ねっ☆」と同意を求められたので私は「はい、何もしませんよ」と答えた。


 リリーさんはうなずいてすっかり警戒していないようだが……変わらず少女は私に冷めた視線を向けてくる。


 彼女から敵意を向けられていると子供とは思えない威圧感があって……それは現在でもそうなると変わらない。


 そして冷めた表情の少女は師匠に向けて言う。「だったら、もう鎧なんて着てなくていいでしょう?」ーーと。


 それを聞いた師匠は答えた。「ほんとうだ、確かにそうね!」ーーと。


 リリーさんはついさっきまで号泣していたはずなのに随分ずいぶんと落ち着いていた。のちに解ったが……こうした“ウソ泣き”もまた彼女の得意技らしい。


 弟子の発言に納得を得たリリーさんは立ち上がる。そして毅然きぜんとして胸を張ってから深く呼吸を行った。


「本当はね、ずっと窮屈きゅうくつだったの。動くたびにガチャガチャうるさいし……さっさと脱ぎたかったのよ、実はね?」


 リリーさんは両手を胸の前で交差クロスさせた。


 甲冑の厚みが邪魔であんまり上手く交差できてないが……ともかく彼女は瞳を閉じ、そして「グっ」と拳を両手に形作る。


「これでやっと解放されるわ……ハァアアアアアアッ……!!」


 リリーさんが気合を込める。すると彼女の身体から……甲冑の隙間すきまから光があふれだした。


 しだいに光は強さを増し、まばゆいほどになる。


 その輝きに私は目を細めて「何事だ!?」とソファから腰を浮かせた。逃げようと、隠れようと本能的に思ったのであろう。


 だが、その動作より早く――


「見よ、これぞ七色魔眼ななしきまがんが秘奥義……“装甲アーマー解放パージ”ッッッ!!!」


 ――圧倒的に輝いた。光線のような強い輝きが無数と甲冑の隙間からしょうじ、部屋を照らしあげる。


 まともに目も開けないほどの輝きを浴びた私は悲鳴を上げ、腕で目をおおうように顔をせた。



 目を閉じる直前。刹那せつなに見た景色。



 それは彼女のまとっていた甲冑全体が光と同化したかのように輝き、そして霧散むさんするというものだった。


 とてつもない光が一瞬、周囲を照らした。その輝きが最大限に至るとそれまでが幻想まぼろしだったかのように部屋は薄暗くなった。


 私は恐る恐るに目を開き、顔を上げる。


 そこで私が見たものは窓から射し込む太陽の光。そして逆光を背にして立つ――


「……っふぅ! これですっきりしたわ。この身軽な感じ……これこそ本来の私なのよ!!」


「うわぁ師匠・・・マズいですって。本来の姿といいますか……あの、むしろ“脱げちゃって”ますよ??」


「ん、なによサマちゃん? 脱ぐって……それは装甲・解放なのだから鎧なんか脱げるわよ。そういう技よ?」


「いえ、そうじゃなくって……いや、っていうか……ていうかあの、師匠…………まぁいいや。面倒くさいからとにかく自分の身体を見てください」


「へぇぇ、からだ?? なによ私の身体スタイルになにか問題でも・・・・・ん???」


 言われるままにリリーさんは自分の姿を確認した。彼女は視線を下げたので、そこにはきっと彼女の胸元があったことであろう。


 そう、彼女は“脱いでしまっていた”。今にして思えば――――本当に、その時は助かった。


 いや、もしも彼女が身に着ける全てを解放パージしてしまっていたら私はどうなっていたのであろう? だから私は助かったと思っている。


 薄暗い居室の中。


 その時、逆光を背にして立っていたのはーー【下着姿の女性】だった。


 私はそれを直視していたわけだが……これはまぁ本能もある。そのいいわけはしない。だが、そんなことより“驚いていた”という事実だけはここにハッキリとべておきたい。


 だっていきなりに光り輝いて下着一枚になった人が目の前にあったら……そんなもの凝視してしまうに決まっているだろう。よってそれは不可抗力だった。


 ともかくとして。数秒間、自分の胸元を見ていたリリーさんだが……。


 “現実”を理解すると彼女は口を開いて顔を真っ赤にした。そして、叫ぶ。


「――――ッいやぁああああ!!!? どうしてこうなったの!? ……ッああっ、男の人が見ている!!?

 やめてぇぇぇええ!!! 見ないで、あっち向いて、私に何をしたのぉぉおおお!?!?」


 彼女は狼狽うろたえ始めた。


 正直、リリーさんは普通ではない。それは希少で不思議な力の持ち主だということもあるが……加えて言動とかも普通ではないのである。


 それはともかくとして、何故なぜか私にあらぬ疑惑がかけられていた。彼女が勝手に解放パージしたというのに……。


「わぁっ!? す、すみませんごめんなさい!! 大丈夫、見てません……きっと見えてませんから!!」


 私はそのように言ってソファに倒れ込むようにしてせた。真面目な私は「チラリ」とすることもなく、誠実にそのまま目を閉じて視界をふうじる。


 私の気休めな発言など意味はなかったのだろう。リリーさんはその後も狼狽えていたようで、音だけでもその様子がうかがえた。「絶対見えたぁ、助けてサマちゃん!!」などと叫ぶ声も聞こえてくる。


 そうしてまるで落ち着きがなくなったリリーさん。


 その様子を見て……たぶん、彼女は“あきれていた”のだと思う。見えはしなかったが、今ならきっとそうだったのだろうなぁと予想できる。


 冷たい目線の少女――【サマちゃん】と先ほどから呼ばれている彼女は「まったく世話の焼ける……」と溜息ためいきじりに言葉を発した。


 そうしてソファにうずくまっている私に声をかけてくる。


「オイ、あんた。こっちを見なよ……やれやれ、本当に仕方がない人だこと……」


「・・・えっ。見るって……わたくしがですか?? で、でも顔を上げてしまうと、その……」


「――チィッ、いいから!! 面倒くさいなぁ……こっち見ろって言ったらみなさいよ!! 首根っこつかんで顔上げさせようか!?」

 

「ヒヒィッ!? 乱暴しないでごめんなさいすいません!!! わわ、わかりました顔上げます……あの、でも、その……見ちゃダメなので、どうすれば……」


 強い口調で言われた私はえられず、謝罪しながら顔を上げた。


 しかし顔を上げたものの目を開くことはできない。私は手探りでソファの背もたれを掴み、身を震わせた。


 そうして私がおびえてこまっていると……強い言葉の少女、“サマちゃん”はいきなりに私のあごを掴んだ。


 そうしてだいたい100度くらい首の角度を変えられたので私は思わず目を開く。


 するとそこに――“紅い光”が私の視界を待ち受けていた。


「どうするもこうするも……簡単でしょう? “私だけ”を“視れ”ば、問題ないのよ」


 開いた私の視界には彼女の目元しかない。その紅い輝きが間近まぢかとしてあった。



 そう、私は――――また意識を失う。


 その日私は2度……いや、元の世界を含めれば3度か。


 ともかく意識を失って、その時も気絶した。






つづく





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