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第8話 いつもの仕事

昨日のことが気になっていた。



ロク。



記録は残っているのに。


ガルドは覚えていない。



だから翌朝。



南門へ行ってすぐ、俺は言った。



「存在値、測って」


「嫌だ」


「なんで」


「昨日2だっただろ」


「ロクの話聞いたから気になるんだよ」



ガルドが嫌そうな顔をする。



でも。



少しだけ考えてから。


門の脇にある測定盤へ手を置いた。



光る。



『1』



「……下がってる」



昨日は2。



今日は1。



俺と同じ数字。



「いつ下がったの?」


「知らん」


「大丈夫?」


「何が」


「1だよ?」


「見れば分かる」



そういう話じゃない。



「測定所行った方がいいんじゃない?」


「行ってどうすんだ」


「それは……」


「知らんのだろ」


「知らないけど」



ガルドは手を離した。



気にしていないように見える。



でも。



測定盤から離す手が。


ほんの少しだけ早かった。



「仕事するぞ」


「俺は門番じゃないけど」


「じゃあ帰れ」



追い出されそうになったので。


黙って見ていることにした。



その日は。


いつもより南門が混んでいた。



「人多くない?」


「南の街道が昨日まで止まってた」


「なんで?」


「雨だ」


「それで今日まとめて来てる?」


「そういうことだ」



荷車が列になっている。



商人。


旅人。


馬。



門番たちも忙しそうだった。



その時。



ガンッ。



大きな音がした。



一台の荷車が急に傾いた。



馬が暴れる。



「うわっ!」



人が一斉に逃げようとする。



でも後ろにも人がいる。



さらにその後ろには荷車。



まずい。



そう思った瞬間。



「動くな!」



ガルドの声が響いた。



いつもの爺さんとは。


声が違った。



「後ろはそのまま!」


「左側を空けろ!」


「子供を壁際へ!」


「その荷車は動かすな!」



門番たちが一斉に動く。



ガルドは。



暴れる馬。



傾いた荷車。



逃げようとする人。



全部を見ている。



「アルト!」


「え?」


「縄!」


「どれ!?」


「壁のやつだ!」



太い縄が掛かっている。



取る。



走って渡す。



ガルドたちが馬を押さえる。



その時。



荷車から木箱が一つ落ちた。



ガルドが避ける。



でも。



箱を固定していた金具が腕を大きくかすめた。



「っ!」



制服が裂ける。



血が出た。



「ガルド!」



「後だ!」



怒鳴られた。



そのまま。


ガルドは指示を続けた。



馬を落ち着かせる。



人を逃がす。



倒れかけた荷車を固定する。



少しして。



やっと門が静かになった。



大きな怪我をした人はいない。



ガルド以外は。



「見せて」


「平気だ」


「血出てるだろ」



治療のできる人が呼ばれた。



傷を洗う。



顔をしかめる。



「深くはありません」


「ほらな」


「ただ、かなり汚れています。今日は休んでください」


「この程度で」


「熱が出たらすぐ医者を呼ぶこと」


「分かった分かった」



絶対分かってない。



治療が終わる。



俺はガルドを見る。



存在値1。



この爺さんがいなかったら。



もっと大きな事故になっていたかもしれない。



何人もの人を動かした。



何人もの人を助けた。



それでも。



1。



昨日まで俺は。



存在値を上げる方法ばかり考えていた。



でも今は。



別のことが気になっている。



「なあ」


「何だ」


「なんで爺さんが1なんだろうな」



ガルドは少し黙った。



それから。



傷のない方の手で剣を持ち直した。



「さあな」



そして。



また門を見る。



まるで。



今日のことも。



いつもの仕事だったみたいに。

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