↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/34

第29話 まだ生きている

数日後。


ユリウスについて。


中央局の記録が正式に修正された。



北門の撤退。


補給路の変更。


負傷者の移送。



少なくとも。


ユリウスが担当したと確認できたものには。


その名前が戻った。



「これでいい」


レオンは修正された記録を見て言った。



新聞では相変わらず。



『名誉を手放した英雄』


だの。



『知られざる英雄ユリウス』


だの。



好き勝手に書かれている。



でも。



「記事まで全部直そうとしたら、一生終わらねえ」


レオンはもう諦めたらしい。



「記録だけは間違えないでくれ。それでいい」



俺も。


それが一番ましだと思った。



ユリウス本人は戻らない。



美談にされたユリウスも。


本当の本人ではない。



それでも。



誰が何をしたのか。



残せるものは残す。



俺たちにできるのは。


たぶん、そこまでだ。



レオンが帰り際。


俺の肩を軽く叩いた。



「じゃあな、拾遺師」


「もう会わないみたいに言わないでください」


「会うだろ。そのうち」



そう言って。


存在値12,611の英雄は出ていった。



扉が閉まる。



これで。


ユリウスの件は一区切り。



そう思った。



「アルトさん」



セインが呼んだ。



中央局の職員と話している。



その手には。



新しい依頼書があった。



「次の案件です」



「もう?」



拾遺師。


思ったより忙しい。



俺は依頼書を受け取った。



名前。



エリオット。



三十三歳。



王都水利局勤務。



存在値。



十八。



「18なら低いけど、ミラほどじゃ――」



そこで。



下の数字に気づいた。



三週間前。



62。



十日前。



41。



四日前。



27。



昨日。



18。



「……落ちるの早くない?」



セインがうなずいた。



「異常です」



「何があったんです?」



退職。



家族との絶縁。



大きな失敗。



そういうものを想像した。



でも。



中央局の職員は首を振った。



「何もありません」



「何も?」


「今も同じ職場で働いています」



俺は依頼書を見る。



王都の水路整備を担当する技師。



この数年。



いくつも改善を行っている。



仕事もある。



役割もある。



本人も。



まだ生きている。



「じゃあ、なんで18まで?」



「それを調べてほしいんです」



職員がもう一枚。


資料を置いた。



エリオットが設計したという。



新しい水路管理方式。



最近。



王都ではかなり評価されているらしい。



でも。



紹介記事のどこにも。



エリオットの名前がなかった。



書かれているのは。



『王都水利局が開発』



それだけ。



俺は。



ユリウスを思い出した。



人が消えたあと。



仕事だけが残った。



でも。



今回は違う。



「本人は?」



俺が聞く。



職員が。



隣の扉を見る。



「来ています」



その瞬間。



扉が開いた。



三十代くらいの男が入ってくる。



普通に歩いて。



普通に俺たちを見る。



そして。



少し苛立った声で言った。



「俺、まだここにいるんです」



誰も答えない。



男は続けた。



「なのに最近」



握っていた資料を。



机に置いた。



「俺がやった仕事から」


「俺の名前だけ、なくなっていくんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。